世情に合わせてスポーツカーの世界でも小排気量化と気筒数の減少は避けられなくなりつつある。しかし、だからといってスポーツカーがなくなったり、走る楽しさを味わえなくなったわけではないことを、 3台の4気筒スポーツカーが600km以上のロングドライブとサーキット走行を通じて実証している。今回はそのサーキット編だ。(Motor Magazine2023年10月号より)
4WDの2台は確かに速い。だがしかし・・・
最後のステージはショートサーキットのスパ西浦。ここでは、一般道で体感できない領域でのスポーツ度をチェックした。ただし、タイヤやブレーキを労って走るよう指示があったため、フルアタックのような走りは控えた。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
まずはゴルフRでコースイン。ドライブモードは「レース」を選択。サスペンションのストローク感はあるが、コーナーでのロールは少なく姿勢や挙動が非常に安定している。ブレーキペダルのタッチはソフトだが効きもコントロール性も良い。そして、ブレーキのコントロールによって旋回姿勢を作れ、弱オーバーステアで気持ちよくコーナリングできる。ヘアピンのような深いコーナーでも、わずかにブレーキを残して待っているとキューッと巻き込むように旋回していくのが気持ち良い。
そして、立ち上がりのトラクション性能がさすが4モーションといった感じで、ハイパワーではないが、確実にトラクションを路面に伝える。4モーションと電子制御のシンクロが絶妙で、ドライバーとしてはたまにESPの介入を感じるが、それも極めて自然で、一切不安を感じさせない高い安定性でスポーツドライビングを楽しめた。
続いてC43。ドライブモードは「S+」。まず印象的だったのは、ストレートでの加速フィールで、メチャクチャ速い。そして「エレクトリックエグゾーストガスターボチャージャー」のおかげだろう、低速域からターボラグなく滑らかに、力強くスピードに乗っていく。ストッピングパワーは十分だし、シフトダウンも速くて気持ち良い。
ただしブレーキは、タッチが軽くソフト過ぎて心許ない。またペダルストロークが少なく、ターンイン時のブレーキコントロールがしにくい。コーナーではロールが大きく、アンダーステアも強い。ハンドリングはワインディングロードの領域の方が気持ち良く、サーキットではパワフルな加速を楽しめる、そんなキャラクターだ。
ちなみに前後重量配分は、ゴルフRが61対39、C43が54対46と、ゴルフRの方がフロントヘビーだが、ゴルフRの方がコーナリング性能が高い。ホイールベースやサスペンションチューニングなどさまざまな要素があるが、ゴルフRは、ワインディングロードで感じた独特なモーメントでもわかるように、トルクベクタリングなどのソフトウェアを積極的に使い、ドライバーに違和感を抱かせずに旋回性能を高めている。
最大の魅力はストレートの速さではなく、コーナリングだ
最後にA110 Sを試す。ドライブモードはスポーツモードを選択。アクセルペダルを踏み込んだ瞬間から、エンジンサウンドが気持ち良い。
そして圧倒的な軽さがあり、スペックから受けるイメージよりもはるかに速い。トランスミッションは7速DCTで、パドルによるマニュアル操作もできる。コーナー手前でシフトダウン操作をすると、適正速度まで落ちた時にダウンする、シフト予約ができる賢さに驚いた。だが、クルマまかせのATモードでも十分楽しい。
ストレートエンド到達時の速度は、ゴルフRに対してC43、A110 Sの順に約10km/hずつ高いイメージだ。ゴルフR、C43は4WDなのでトラクション性能は良い。A110 Sも悪くないが、いかに軽さが速さに効いているかがおわかりいただけるだろう。
もっとも、A110 Sの最大の魅力はストレートの速さではなく、コーナリングだ。ブレンボ製ブレーキの効きも抜群だった。多くのクルマはABSが介入すると、ハンドルを切り込んでもアンダーステア傾向となる。
だがA110 Sは、ちゃんと止まりつつ曲がってくれるのだ。そして、とにかくハンドリングが気持ち良い。旋回性能が高いからコーナー進入時にそれほどブレーキを残す必要もないが、ブレーキから旋回の繋がりが難しい。そして頑張り過ぎるとブレーキでもアクセルでもオーバーステアになる。
とにかく楽しいが、速く走ろうと思うとそれなりにスキルは必要で、簡単ではないから飽きない。スパ西浦は、サーキットとしては路面ミューが低いから、タイヤのグリップに頼るような走りは通用しないので、なおさら面白いけど難しい。でも、サーキットでとくに魅力が炸裂していたのはA110 Sだった。
過剰ではなく。それでいて走りも十分に楽しめる
さまざまなシチュエーションで走った気筒モデル。ゴルフは、「R」がついてもやはり優等生。そしてコスパの高さが抜群。実用性もあり、あらゆるシチュエーションでスポーティな走りを楽しめて、677.2万円はさすが。
C43は、プレミアムセダンとしての快適性や実用性を損なうことなく、日常シーンやワインディングロードでスポーティな走りを楽しめるチューニングとなっている。サーキットをガンガン攻めたいのなら、他の選択肢がいくらでもあるので、いいところを突いている。
そして、A110 Sは生粋のスポーツカーであり、日常シーンでの快適性も担保されており、居住性や実用性は他の2台に敵わないが、それらを犠牲にしても余りある“楽しさ”がある。どんな楽しさを取るか、何を優先するかによって選択もさまざまなのだ。
3台の試乗を通して感じたのは、2ペダルでも十分に楽しめること。スポーティモデルでもけっして快適性は犠牲にしていないこと。そして、4気筒モデルは6気筒ほどパワフルでない分、ちょうど良い感じで気負わず楽しめるところが良い。
代替燃料が安く手に入るようにより、4気筒エンジン車がこれからも元気に走れるようになれば・・・と切に願う。(文:佐藤久実/写真:永元秀和、井上雅行、根本貴正)
アルピーヌ A110 S主要諸元
●全長×全幅×全高:4205×1800×1250mm
●ホイールベース:2420mm
●車両重量:1110kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1798cc
●最高出力:221kW(300ps)/6300rpm
●最大トルク:340Nm/2400rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:MR
●燃料・タンク容量:プレミアム・45L
●WLTCモード燃費:14.7km/L
●タイヤサイズ:前215/40R18、後245/40R18
●車両価格(税込):975万円
フォルクスワーゲン ゴルフR主要諸元
●全長×全幅×全高:4295×1790×1460mm
●ホイールベース:2620mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1964cc
●最高出力:235kW(320ps)/5350−6500rpm
●最大トルク:420Nm/2100ー5350rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・56L
●WLTCモード燃費:12.3km/L
●タイヤサイズ:前225/40R18、後225/40R18
●車両価格(税込):677万2000円
メルセデスAMG C43 4マティック セダン主要諸元
●全長×全幅×全高:4785×1825×1450mm
●ホイールベース:2865mm
●車両重量:1830kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1991cc
●最高出力:300kW(408ps)/6750rpm
●最大トルク:500Nm/5000rpm
●モーター最高出力:10kW(13.6ps)
●モーター最大トルク:58Nm
●トランスミッション:9速AT機
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・66L
●WLTCモード燃費:11.1km/L
●タイヤサイズ:前245/40R19、後265/35R19
●車両価格(税込):1171万円
[ アルバム : 【後編】ミッドシップと横置きと縦置きの「4気筒エンジン車」、アルピーヌ A110 S/フォルクスワーゲン ゴルフR/メルセデスAMG C 43 4マティックの一般道だけでは知り得ない奥深きドライビング はオリジナルサイトでご覧ください ]
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ゴルフはバリアントなら使い勝手よさそう
メルセデスは・・・長距離用か