吠える1.6リッター直列3気筒ターボの野太いエンジン音、ガッチリした手応えのステアリング、4WDの強力なトラクション、小型車ならではの軽快な動き。こいつは楽しい!
2019年12月16日(月)、富士スピードウェイで、トヨタの新しいホットハッチ、「GRヤリス」(プロトタイプ)の取材会が開かれた。コネクテッドだ、自動運転だ、シェアリングだ、電動化だ、とかの時代に、モータースポーツ直系のホットハッチが発売となる。それも、アフォーダブル(入手可能)な価格で!!
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GRヤリスは、GRスープラに続く、TOYOTA GAZOO Racingが展開するスポーツカーシリーズ「GR」のグローバルモデル第2弾。GRスープラに続く、GRシリーズ第2弾になるGRヤリスは、「セリカGT-FOUR」以来、20年ぶりにトヨタが放つ、WRCゆかりのホモロゲーション・モデルである。詳細は、2020年1月10日(金)から3日間、幕張メッセで開催される東京オートサロンでの世界初公開を待たねばならないけれど、大まかな成り立ちについては、開発責任者の齋藤尚彦氏から試乗前に説明があった。
それによると、GRヤリスは「ラリー王国TOYOTA」というイメージを勝ち取るための戦略車として構想された。WRCの降臨モデルで、素の状態でローカル・ラリーに勝てるポテンシャルを持つ。それでいて、誰にでも、ちょっと無理をすれば手が届く価格。この3つを前提にプロジェクトはスタートした。
ボディ形状は3ドア・ハッチバックのみ。4WDシステムの開発は大きな問題だった。最後の自社開発スポーツカー、セリカGT-FOURが1999年に生産終了となって20年。スポーツ4WDをつくれる技術者が社内からいなくなっていたからだ。レポートはあったけれど、読んでも理解できなかった。試作車はつくったももの、プロのラリー・ドライバーでも制御できなかったという。
スポーツ4WD技術を伝承してきた会社に追いつき追い越すべく、開発チームはモータースポーツの技術と競合車に学び、レーシング・ドライバー、ラリー・ドライバーに積極的に評価してもらうことでまた学んだ。
「数年前、GRのプロモーション・ビデオでモリゾー(豊田章男社長の別名)がスバルの4WDに乗るシーンがでてきた。他社のクルマだったことが、エンジニアとして悔しかった。社長にわれわれがつくったクルマで練習して欲しかった」と、齋藤さんは語った。
GRヤリスの詳細は、2020年1月10日(金)から12日(日)の3日間*1、幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催される「東京オートサロン2020」で発表される予定。GRヤリスは、モータースポーツ(の技術)からクルマをつくることと同時に、少量生産へのチャレンジでもあった。大量生産が得意なトヨタは、少量生産が不得手なメーカーだった。「原価をしっかりつくりこんで、スポーツカーをやめない会社にしたい」と、齋藤さん。
目指すは、往年のセリカGT-FOURや、近年のフォルクスワーゲン「ポロR WRC」のような、WRCで勝つための市販スポーツカーである。そのために開発の初期段階から、WRCのトヨタのパートナーであるトミ・マキネン・レーシングの技術者に来日してもらって意見交換した。ヤリス(ヴィッツ)WRCはルーフが高すぎて、リアのスポイラーに空気がしっかり当たっていなかった。これを改善すべく、専用の3ドア・ボディのルーフはギリギリまで低くすることになった。
CFRPを各所に使用筆者の見るところ、ホイールベースは新型ヤリス5ドアとおなじだ。もしおなじだとすると、2590mmということになる。ちなみに、セリカGT-FOURのホイールベースは2525mmで、全幅は1690mmしかない。ヤリス5ドアは欧州仕様で1745mm。リアのトレッドは左右タイヤ1本分以上広げられ、それを包むためにリア・フェンダーが大きく膨らんでいる。後ろから見ると、リア・タイヤは本来のボディの外側に付いているから、全幅は1800mmほどになっているに違いない。モダン・スポーツカーにふさわしいプロポーションなのだ。
ルーフにはCFRP(カーボンファイバー)、ドア、エンジン・フード、リア・ドア等の開口部にはアルミを採用することで、大幅な質量低減を実現している。CFRPは高価なことで知られる素材だけれど、GRヤリスのそれはコスト低減のため、SMCという、プリウスPHVのリアゲートにも使われているタイプのCFRPが選ばれている。
エンジンは1.6リッターの直列3気筒ターボ。詳細なスペックは不明。トランスミッションは6MT。エンジンは冒頭に記したように、1.6リッターの直列3気筒ターボで、6500rpmまで一気呵成にまわる。このユニット、同クラスで、世界最小・最軽量を誇るという。トルキーでストロングな印象だけれど、今回の特設コースでの試乗では2速までしか使っていないので、これ以上は申し上げられない。そのホントの実力がわかるのは、正式発売以後になる。プロレスラー内藤哲也のことばを借りれば、「トランキーロ! あっせんなよ」である。
ゼロから学んだスポーツ4WDシステムは、リア・ディファレンシャルの前に電子制御のカップリングを配置し、前後のトルク配分を自在にコントロールする。ノーマル、スポーツ、トラックの3つのモードがあらかじめ設定されており、センター・コンソールに設けられたダイヤル・スイッチで切り替えができる。ノーマルは60:40、スポーツは30:70、トラックは50:50、という割合で配分される。
前後トルク配分はドライバーによって好みが異なり、たとえばマキネンとラトラバはト50:50、2019年WRCドライバーズ・チャンピオンであるオィット・タナックは30:70が好きで、一番速かったという。
インテリアはGR専用パーツが多数装着される。タコメーターのレッドゾーンは7000rpmから。試乗車はディスプレイ・オーディオが備わっていた。スピーカー・システムはJBL製。お尻がスライドしたときの快感ときたら、ああ、快感。取材会では、グラベルで先代ヴィッツにGRヤリスのパワートレインを移植したプロトタイプに、ターマックでその左ハンドル版と、GRヤリスのプロトタイプに、それぞれ10分ずつ、試乗することができた。
グラベル用の車両には、前後LSDとダート用ダンパー、205/65R15のダート用タイヤ、それに剛性感たっぷりのバケット・シート等、ユーザーが競技で使うであろうパーツが組み込まれている。
6MTは1、3速とファイナルが落とされてもいる。別媒体で参加していたラリー・ドライバーが見事なドリフト定常円旋回を披露していたけれど、へたれの筆者だとアンダーステアばかり出てしまって、いやはや、いやはやである。
筆者に申しあげられるのは、コンパクトなボディにターボラグのないパワフルでトルキーなエンジン、それに4WDの組み合わせはやっぱり楽しい~、ということである。それと、お尻がスライドしたときの快感ときたら、ああ、快感。
散水装置でウェットにしたターマックでは、パイロンの並べ方が違っていたことはあるにせよ、現行ヴィッツ・ボディのプロトタイプは新型GRヤリス・プロトタイプにくらべて曲がりにくかった。いや、新型GRヤリスは曲がりやすかった。
タイヤは225/40ZR18のミシュラン・パイロット・スポーツ4Sと、ダートとは一変、太くて薄い。新型プロトタイプは大幅なダイエットも効いているのだろう。
袖ヶ浦で試乗したフツウのヤリスのプロトタイプとは異なり、大仰なロールはしない。競技を念頭に置いているだけあって、スモールだけれどストロング、というのが筆者の印象である。
タイヤはミシュラン社製。走行モード切り替えスウィッチはダイヤル式。ペダル類はアルミ製。リアシートはふたりがけ。リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。バッテリーはラゲッジルームのフロア下にある。フロントシートはヘッドレスト一体型のスポーツタイプ。開発責任者の齋藤さんも、GRヤリスを「Strong Sport Car。すべては勝つために生まれたスポーツカー」と総括していた。
なお、生産は、元町工場のレクサスLFAのラインで行う。WRCのホモロゲーションを得るには1年間で2万5000台つくらなければならない。けっこうな台数である。それゆえ、「誰にでも手が届く価格」に期待が高まる。豊田章男社長の「もっといいクルマづくり」「トヨタのファン、クルマ好きを育てる」という意志がいよいよ具体化してきた。モータースポーツを通じて、クルマとひとを鍛える、という章男社長=GAZOO Racingの理念は、自動車メーカーの王道中の王道である。
トヨタはもっとも正しい道を歩んでいる。と筆者は思う。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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TOYOTAの本気を感じる。
兎に角、久々に本気で欲しいと思える車の登場です。