’70~’80年代に改造車文化を二分した街道レーサー&ゼロヨン族
昭和50年代は激動であり、不良文化が盛り上がった不思議な時代でもあります。西暦に直すと1970年代の後半から1980年代は、若者にとってクルマは憧れの存在であり、16歳でバイクの免許を取り、18歳になるとクルマへとステップアップするのがお約束でした。現在のようにスマホもなければパソコンなどの無い時代、クルマは仲間と遊ぶツールであり自分を主張するアイデンティティでもあったのです。
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そんな時代、若者たち(一部ではありますが)の間で盛り上がっていたムーブメントが「改造車」であり、時代を追うごとに過激さを増していきました。チンスポイラーから始まったエアロスタイルは、竹やり出歯と呼ばれるチバラギ(正確にはチバラキ)仕様へと辿りつき、廃車覚悟で屋根を切り落とした自作のオープンカーまで登場したのです。
そんな時代、スタイルの過激さを求める街道レーサー系と袂を分けたのが「ゼロヨン族」と呼ばれた若者であり、スタートラインから400mまでのタイムを競うために、エンジンに手を加え始めたのです。もちろん現在のようにYouTubeなどが無かった時代ですから、見聞きした情報を基に仲間たちが集まって試行錯誤をしながらチューニングという世界を作り上げていったのです。
東京では木場や13号地に集まってバトルを繰り返していましたが、そのムーブメントは大阪や名古屋などにも飛び火し、各地方で最速マシンの伝説が生まれたといわれています。のちに、その伝説を作り上げた人たちがチューニングショップを立ち上げ、現在のチューンドカー界の中心になっていったことは有名なお話です。
昭和のカスタム用語01:魔法の呪文?「ソレ・タコ・デュアル」
街道レーサー系とゼロヨン系では袂を分けたとはいいながらも共通する部分も多く、エンジンチューニングを目指した街道レーサーも混在していました。そんな共通項を表現するメニューのひとつが、ドラクエの呪文のような「ソレ・タコ・デュアル」。正確にはソレックスのキャブレター、タコ足(エキゾーストマニホールド)、デュアルマフラーの略で、吸排気系チューニングのスタイルを表現しているのです。
ソレックスはフランスのメーカーで、固定ベンチュリー式を採用したキャブレターは高回転域で性能を発揮し、ジェット類の交換が簡単に行えるのでセッティングを出しやすいのが大きな特徴。タコ足は排気効率を上げるようにパイプの長さや形状などを設計したエキゾーストマニホールドのこと。その後部に続くデュアルマフラーはその名前の通り、2本のエキゾーストパイプで構成されたマフラーを組み合わせることで、排気でのパワーロスを防ぐことを目的としていました。
しかし、当時の若者に「吸排気効率」などはあまり関係なく、エンジンルームを開けたときに「おー!」と言ってほしいがために取り付け、アクセルを煽ったときに発生する「グァボッ、グァボッ」と吠えるソレックスの吸気音が重要でした。また、デュアルマフラーは日産のL型6発(直列6気筒L型エンジン)に多く、トヨタの2T-Gや18R-Gなどの4気筒DOHCにはストレートと呼ばれるシングルの排気管を装着するのが定番。
ちなみに当時のトヨタ系のDOHCエンジンには、ソレックスのOEMとして日本の三國(ミクニ)工業が生産した「ミクニソレックス」が装着され、ソレックスの吸気音に憧れて2T-Gや18R-Gを積んだダルマ(初代セリカ)やLB(セリカ・リフトバック)、TE27と呼ばれるカローラ・レビン/スプリンター・トレノを買った人も多いといわれています。
昭和のカスタム用語02:ボアアップ、エンジン載せ替え
当時のチューニングメニューとして定番だったのがエンジンの乗せ換え。とくに日産系のモデルは、一般的な5ナンバーモデルにはL20型と呼ばれる2リッターの直列6気エンジンが搭載されていましたが、その上にはブタケツローレルに積まれていた2.6リッターのL26型、330型セド/グロの高級モデルに積まれていた2.8リッターのL28型が存在。ボアアップを図るよりも安価に排気量アップが行える、エンジンの積み替えがスタンダードな存在になっていました。
また、それ以上のパワーアップを求める本格派たちは「L28改」と呼ばれるL28型エンジンをベースに3リッターや3.2リッターまで排気量を拡大することもありました。さらに上を目指すためハイカムへの変更やポート研磨、シリンダーヘッド面研、ビッグバルブ化を行い、ターボチャージャーなどの過給器が一般的ではなかった時代にも関わらず、メカチューンで300ps近い馬力を実現したのです。
昭和のカスタム用語03:ダンドラ、ペリ、サイドポート加工
トヨタの直列4気筒DOHCエンジンである2T-Gや18R-G、日産の直列6気筒SOHCのL型エンジンが話の中心でしたが、その双璧というべきライバルがマツダの10A、12A、13Bロータリーエンジン。三角形のローターを回転させるという独自のスタイルを貫いてきたマツダを代表するパワーユニットは、一般的なレシプロエンジンとは異なる独自のチューニングが施されていました。キャブレターの交換も直列エンジンとは違い、独自の形状を持つインテークマニホールが必要となり、装着するとキャブレターが上を向くダンドラ(ダウンドラフト)が個性的な雰囲気を醸し出したのです。
エンジンのチューニングでは、一般的なエンジンのようにピストンとコンロッドを使って縦方向に運動を行うのではなく、ローターの偏心による回転運動で圧縮を行うロータリーエンジンにはサイドポート加工やペリ加工(ペリフェラルポート加工)を施すことでパワーアップが図られました。サイドポート加工はその名の通りサイドハウジングにポートを設けるチューニング手法で、低中速域のパワーを出すことができ、ペリ加工はローターのハウジングに吸気ポートを追加することで効率上げて、高回転域でパワーを発揮させるというもの。
しかし、ペリ加工は高回転域を常用するレーシングエンジン向けに開発されたもので、ペリ加工を施してスタートでエンストする人も多発したという都市伝説も残っています。また、ロータリーエンジンにポート加工を施すと独特のエンジン音へと変わり、アイドリングでは「べッ、べッ、ベッ」、加速していくと「ブベエェェェーーー」と甲高い音が響き渡り、遠くからでもチューニングを施したロータリーエンジン車が走って来るのが分かりました。
【まとめ】遠い記憶が蘇る昭和のチューニング
この記事を読んで「まったく理解できない」という世代の方も多いと思います。現在のようにモノが溢れ、何をするにも手軽に情報が入る時代とは異なり、雑誌や口コミの情報を基にトライ&エラーが当たり前だった昭和50年代。当時の若者は還暦を迎え、当時の記憶さえ薄れ始めている今日このごろ。時代を懐かしむオッサンの戯言として、軽い気持ちで読み流してもらえると嬉しい限りでございます。
電子制御やコンピュータでの解析技術などは存在せず、某エアロメーカーの御大は雨の日にサーキットを走るクルマを見て、跳ね上がる水しぶきで空力を試行錯誤したといいます。アナログな時代ではあったものの、そこにはクルマに情熱を注ぐ「楽しさ」と「苦しさ」が混在し、パワーを出すための技術と知恵が磨かれたことは間違いありません。
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みんなのコメント
でも、タコ足、デュアルだけでも痺れるような音だった気がする。
思い出が美化されるのかな。
色々変えて何馬力出ていたかはわからない。
今は何処に行ったか分からない。
慣れない人がフルで踏み込むとどこに行くかもわからない。