The Cal(ザ・カル)とは?
フェラーリなど高性能車のタイヤで知られるイタリアのピレリ。じつはアートの分野でも、ピレリの名はよく知られている。それが「The Cal(ザ・カル)」と呼ばれるカレンダー。1964年版に、ザ・ビートルズのジャケット写真でも知られるロバート・フリーマンを起用したのが最初。2024年版まで、途中、不況などによる中断はあったものの50回にわたって、アートブックとまで呼ばれるカレンダーを発行してきた。24年版は、23年11月末にロンドンで発表された。今回起用されたのは、プリンス・ジャスィ。ガーナ出身のビジュアルアーティストだ。ビビッドな色づかいでアフリカ系のひとの美しさを表現する作品は、22年の京都国際写真祭でも紹介されて話題を呼んだ。
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ピレリが、英国のクリエイティブオフィスを使って制作するThe Cal。つねに話題になってきたのは、フリーマンやプリンス・ジャスィの例でわかるように、すぐれた写真家を起用し、独自の世界観で作品を作ってきたところにある。当初は、自動車整備工場の壁にかけるための、美しい写真が採用されていたが、近年は、持ち運ぶのもひと苦労というぐらい大判で、13ページなどはるかに超える。日付など入っていないのも特徴だ。なので、非売品なのだけれど、なにかのきっかけで書店に入ったときは、アート本のコーナーに置かれる。タッシェンやフェードンといった大型美術本が出回っている欧米ではとくに評価が高いようだ。
作品のテーマは「タイムレス」
ビジュアルとともに、コンセプトにも注目すべき点がある。とくに、2010年代になってからは、性や人種などを越えようとする表現が多くなってきた。プリンス・ジャスィも同様。今回のThe Calのテーマに「タイムレス」を選び、被写体には「(1995年生まれの)自分にとって、子どものときから今にいたるまでアイコン的だったひと」を選んだと、ロンドンでのインタビューで話してくれた。そこでなかには、マルセル・ドゥセイのようなガーナ出身の元一流サッカー選手もいれば、ウィーンを拠点にアフリカ系のひとを主題とした作品を発表する、やはりガーナ出身のアモアコ・ボアフォも含まれている。同時に、英出身のモデル、ナオミ・キャンベルや、バイデン大統領就任式に自作の詩を読んだ米の詩人、アマンダ・ゴーマンも、鮮烈な色彩のなか、美しい衣装とともに、活き活きとした表情を見せてくれている。
「私がもうひとつ、ここで見せたかったのは、自分のやりたいことを信じて、その道を進んできて成功したひとたちの存在です」プリンス・ジャスィは、さまざまな分野で国際的な活躍するひとたちも同時に被写体として選び、若いひとたちに、がんばればつねに人生にはチャンスがあると伝えたい、としている。実際、プリンス・ジャスィは、作品を作るのと並行して、ガーナにおける「Boxed Kids」という子どもたちへの支援活動を支持している。社会や状況のなかに閉じ込められた(Boxed)子どもたちにチャンスを与えようという活動だ。「アフリカはタイヤにとっても、これから伸びていく市場だし、The Calを通じて、さまざまな面で交流を深めていきたいですね」ピレリのマルコ・トロンケッティ・プロベラ取締役副会長は、発表会に先立ち、そう答えてくれた。今後もどんな世界観を見せてくれるだろうか。楽しみである。
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