現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > マツダ3のリヤサス、TBA(トーションビームアクスル)を考える──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第30弾

ここから本文です

マツダ3のリヤサス、TBA(トーションビームアクスル)を考える──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第30弾

掲載 更新
マツダ3のリヤサス、TBA(トーションビームアクスル)を考える──安藤眞の『テクノロジーのすべて』第30弾

世界初の量産予混合圧縮着火エンジン“SKYACTIV X”にばかり注目の集まるMAZDA3だが、シャシーマニアにとって非常に興味深いのが、リヤサスに採用されたトーションビーム式アクスル(TBA)だ。従来までのMAZDA3(日本ではアクセラ)には、E型マルチリンクという形式が採用されていたのだから、自動車工学の常識から言えば、コストと軽量化を優先した性能後退に見える。しかしそこには、スカイアクティブ思想に立脚した確たる哲学があったのだ。 TEXT:安藤 眞(Ando Makoto)

 ポルシェが’77年に「バイザッハアクスル(トーコントロール機能を付加したセミトレーリングリンク式サスペンション)」を発明して以来、後輪のトー制御による操縦安定性向上技術が急速に発展。入力形態に応じて最適制御できるようにしようとした結果、マルチリンク式サスペンションが生まれたというのが、自動車工学の歴史である。

シボレー・コルベット 強大トルクを受け止めるアルミ+樹脂パネルの先鋭ボディを見る

 一方、トーションビーム式は、74年にフォルクスワーゲンが初代ゴルフで量産化した形式。構造が簡素でバネ下が軽く、占有スペースが小さいためキャビンが広く取れるなどの長所を持つ一方、入力点と支持点の位置関係上、横力が入るとトーがアウト方向に変位するため、コーナリングフォースの立ち上がりが遅いという欠点がある(ブッシュの傾斜配置で「トーをインに向ける」と説明しているものを見かけるが、力の釣り合いを考えれば、トーアウトの補正にはなっても絶対値でトーインが付くことはない)。

 しかもTBAは、ロール時には「ビームの捩り中心とブッシュの中心を結んだ軸で揺動するセミトレ式」と同じ動きになるから、設計自由度もセミトレと同様。ロールステアでトーインを得たければ、ブッシュ位置は低くしたほうが良いが、そうするとアンチスクォート性は悪くなるし、ロールセンターは高くなるなど、相反する要素が少なからずある。なにしろそれを補おうとしたのが、バイザッハアクスルなのだから。

 ところが、である。横力トーインは、確かに自動車工学的には「正義」だが、ドライバーの動的感性にとっても「正義」かと言うと、違うのではないかとマツダは考えた。

 ドライバーがハンドルを切ってクルマが向きを変え始めると、後輪にも横力が生じる。このとき、ブッシュの弾性バランスを利用してトーをインに向ければ、後輪のコーナリングフォースは素早く立ち上がる。ドライバーはそれを感じ取り、操舵を収束させようとするが、トーがインを向いた分、車両姿勢は進行方向より外側を向くから、視覚的にはアンダーステアが出ているように感じてしまい、修正しようとする。ところが、それは本来、必要のないことだから、再修正が必要となり、「なんとなく操舵が一発で決まらない」という違和感を覚えることになる。

 それよりむしろ、トーを動かさずにシンプルな応答を返したほうが、ドライバーには自然に感じられるはずで、それなら重量とコストを増やしてまでマルチリンク化する必要はなく、TBAでもできるはず。TBAが横力でトーアウトに向く要因の一つが、トレーリングアーム部のたわみだから、これを抑え込むことで、トーアウト量は減らせる。足りない分はイニシャルでトーインを付けておけば、十分、補える。そう考えてできあがったのが、MAZDA3のリヤサスである。


 トレーリングアームの横剛性を高めるには、ビームとの結合部を強化すれば良いのだが、重量効率が高いのは、結合面を拡大すること。しかし、現代のビームは、丸パイプを潰して成形するクラッシュドパイプ方式であるため、素材管の直径が限界を決めてしまう。素材管の太さはビームの捩り剛性=ロール剛性に直結するため、やたらと太くするわけにもいかない。

 そこで考案されたのが、MAZDA3に採用された新工法。まず鋼板を蝶ネクタイ型に打ち抜き、それをU字型に曲げる。これをさらにO型に曲げ、合わせ目をレーザー溶接すれば、ラッパ状の閉断面ができあがる。

 ところが、きれいにラッパ状にするには、三次元で曲げる必要があり、通常の曲げ成形では、レーザー溶接に供せられるだけの隙間精度(おおむね0.1mm 以下)を出すのが難しい。そこでU曲げとO曲げの間に、鍛造技術を応用して曲面外側に引張荷重が作用しないように曲げる全圧縮の予曲げ工程を挟み、隙間精度の均一性を確保した。

 O断面に成形した後は、クラッシュドパイプ工法同様、断面をV字に潰すわけだが、これも完全にV字にするのは中央部だけで、両端はO断面を維持。これによってトレーリングアームとの溶接周長を拡大し、結合部近傍の剛性を150%向上。これがトー剛性の確保につながり、ドライバーの動的感性に合った操舵応答性を作り出すことができたのだ。

 マツダは今後、CX-5以上のモデルを縦置きエンジン化すると見られており、現在はCX-5系プラットフォームを使用しているMAZDA3は、袂を分かつことになると思われる。今回のTBA採用は、そうした流れを視野に入れたものではないか、というのは考えすぎだろうか。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
メルセデスAMGが待望のWEC&ル・マン参入! アイアン・リンクスと提携、2025年LMGT3に2台をエントリーへ
AUTOSPORT web
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
TCD、モータースポーツ事業を承継する新会社『TGR-D』を2024年12月に設立へ
AUTOSPORT web
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
ウイリアムズとアメリカの電池メーカー『デュラセル』がパートナーシップを複数年延長
AUTOSPORT web
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
“650馬力”の爆速「コンパクトカー」がスゴイ! 全長4.2mボディに「W12ツインターボ」搭載! ド派手“ワイドボディ”がカッコいい史上最強の「ゴルフ」とは?
くるまのニュース
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
フェラーリ育成のシュワルツマンが陣営を離脱。2025年はプレマからインディカーに挑戦
AUTOSPORT web
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
スバルBRZに新たな命を吹き込む 退役軍人のセカンドキャリアを支援する英国慈善団体
AUTOCAR JAPAN
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
オープンカー世界最速はブガッティ!「ヴェイロン」より45キロも速い「453.91km/h」を樹立した「W16ミストラル ワールドレコードカー」とは?
Auto Messe Web
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
リバティ・メディアCEOマッフェイの退任、背景にあるのはアンドレッティとのトラブルか
AUTOSPORT web
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
『ローラT92/10(1992年)』“賃貸住宅ニュース”で強いインパクトを残した新規定グループCカー【忘れがたき銘車たち】
AUTOSPORT web
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
約10年ぶりに“メイド・イン・イングランド”に!? 新型「ミニ・コンバーチブル」が“ミニの聖地”で生産開始
VAGUE
【クルマら部】「ポルシェ911」クルマ愛クイズ!全4問・解答編
【クルマら部】「ポルシェ911」クルマ愛クイズ!全4問・解答編
レスポンス
昭和の香り残す街に130台のクラシックカー…青梅宿懐古自動車同窓会2024
昭和の香り残す街に130台のクラシックカー…青梅宿懐古自動車同窓会2024
レスポンス
三菱「新型SUVミニバン」公開! 全長4.5m級ボディדジムニー超え”最低地上高採用! タフ仕様の「エクスパンダークロス アウトドアE」比国に登場
三菱「新型SUVミニバン」公開! 全長4.5m級ボディדジムニー超え”最低地上高採用! タフ仕様の「エクスパンダークロス アウトドアE」比国に登場
くるまのニュース
新型フォルクスワーゲン・ティグアン発売。7年ぶり全面刷新、2Lディーゼルと1.5Lハイブリッドを展開
新型フォルクスワーゲン・ティグアン発売。7年ぶり全面刷新、2Lディーゼルと1.5Lハイブリッドを展開
AUTOSPORT web
【第2回】サイトウサトシのタイヤノハナシ:スタッドレスタイヤはなぜ効く?
【第2回】サイトウサトシのタイヤノハナシ:スタッドレスタイヤはなぜ効く?
AUTOCAR JAPAN
巨大GTウイングに赤黒の「トミカスカイライン」カラー! リバティウォークはトラック相手でも容赦なしの圧巻カスタム!!
巨大GTウイングに赤黒の「トミカスカイライン」カラー! リバティウォークはトラック相手でも容赦なしの圧巻カスタム!!
WEB CARTOP
ガスリー、ご近所さんになった角田裕毅とカラオケ熱唱「声枯れるほど歌った。楽しい夜だった」思い出アデルの曲も再び
ガスリー、ご近所さんになった角田裕毅とカラオケ熱唱「声枯れるほど歌った。楽しい夜だった」思い出アデルの曲も再び
motorsport.com 日本版
Jujuが人気ドライバー部門首位「暖かい声援が何よりも活力に」。2024年のSFgoアワードはTGMが“2冠”
Jujuが人気ドライバー部門首位「暖かい声援が何よりも活力に」。2024年のSFgoアワードはTGMが“2冠”
AUTOSPORT web

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

291.0422.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

39.8405.3万円

中古車を検索
CX-5の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

291.0422.5万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

39.8405.3万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村