77年に雑誌モト・ライダー誌の企画から誕生したビッグシングルスポーツバイク、ロードボンバーをトコトン走らせた男「山田 純」が綴る、開発者「島 英彦」さんとの出会い。ロードボンバーと出会うよりも前のお話。若い頃にさかのぼり、島さんとのご縁について思いを巡らす。ロードレース参戦のキッカケを与えてくれた島さんは、後に単身渡米して腕を磨いた「山田純」のライディングテクニックと走りのセンスを高く評価していた。やがてそれが、ロードボンバーでの鈴鹿耐久レース参戦へと繋がっていく。まずは序章の始まりである。テキスト●山田 純(YAMADA Jun) 編集●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
制作者の島さんとは不思議なご縁、若い僕をレースの世界へ導いてくれた。
創設から8年連続で「インディアデザインマーク(I Mark)」を受賞 インドのモーターサイクル「YZF-R15」は2度目【ヤマハ】
ロードボンバーを作った長島さん、ペンネームは島さんだったけど、僕らは皆チョウ(長)さんと呼んでいた。その長さんがいる東京近郊の武蔵小金井に行くようになったのは、モト・ライダー誌に出入りするようになる7年も前。僕が19歳の頃だ。
それには、不遜な理由があった。僕が気になっていた女子大生たちがよく来るスナックがあるという情報を得たからだ。その名は「ペトロール」。そうガソリンだ。
いつものようにスナックで時間を潰していると、裏口から入ってきた小柄な人物に釘付けになった。なんと、僕が愛読していたバイク雑誌「モーターサイクリスト誌」、元メインテスターの島さんだったからだ。
えっ、なんでここに島さんがいるんだろう? 聞けば、ここで働いている、という。スナックで? 「いやいや、すぐ裏のガレージだよ」とのこと。植木鉢などが並ぶ大きな母屋の裏にあるその場に行くと、なんとフォーミュラマシンやレーシングカーが置いてある。
ここは二・四輪のモータースポーツ、レース関係で知らない人はいない、「O」さんの家だった。そして、スナックには、毎日のように業界の有名人が遊びにきていた。例えば、高橋国光さん、北野 元さん、田中健二郎さん、長谷見昌弘さんなど日産系のドライバー、監督といった錚々たるメンバーで、いつも楽しそうに飲んでいた。
そんな時、島さんが友人から購入してそのガレージに保管していたホンダの市販レーシングマシンCR110(それも8速ミッション)に乗ってもいいよ、と許可してくれた。
ただし、そこには条件があった。その条件とは、ステップに足を置いて、顎から上半身が110の長いフューエルタンクにピタリと沿って伏せられることだった。胸とタンクの間に隙間があってはダメとのこと。
私は、毎日のようにガレージでピタッと伏せる練習を重ねた。足のつま先が開いてもダメだし、ハンドルグリップを持つにも、可能な限り内側を握ることを注意される。
そして、何回伏せる練習をしたか忘れた頃、ガレージでCR110に跨って伏せる練習をしていた僕に島さんが「純ちゃん、それぐらい伏せられるようになったら、走らせてもいいよ!」と最高に嬉しい言葉を掛けてくれた。
僕は大急ぎで競技ライセンス(ノービス)を取得、茨城・筑波サーキットのオープニングレースにエントリー。そしてなんと、そのレースでは最終ラップの最終コーナーまでトップ。しかし、シフトダウンでミス(何しろ8速だから忙しない)してオーバーレブさせて、エンジンを壊してしまう。そのまま惰性でチェッカーフラッグを受けるが、3位に落ちていた。
その頃、島さんはあるメーカーの依頼を受けて、少しずつ市販バイク用パーツの改良などを手がけるようになっていた。何をやっているのかは機密事項だから、僕は教えてもらえなかったが、誰かと一緒にガレージで何か小さなものを削ったり、溶接したりしていた。
その彼らこそ、ロードボンバーのフレームを製作したメカニックの「K」さん。タンクやシートなどのFRP製品を作った「O」さんの工房だった。
(続く)
■以下、当時の記事から抜粋(1977年5月号)
ロード・ボンバーの最大のねらいは、軽く、コンパクトにすることにあった。今回は、イメージ・スケッチから設計上のねらい、主要な仕様の設定までをおとどけする。
XT500のオンロードモデルを造るという、鈴木編集長の意志は固かった。
このマルチ全盛の時に、モトの見なおしを図ろうというわけか…とその方針を判断した私は、さしあたってイメージ作りをするために、ヤマハ広報車両のXT500を早速借り出してもらった。
XT500は乗ってみると、パワーフィーリングはドゥカティ・デスモ450より明らかに良いこと、昔のビッグ・シングルとは異なり、クランク回りのマスがえらく小さいことを感じとった。
そしてブレーキ容量は、公道走行を目的として造ったとしても、絶対的に容量不足であることもわかった。だがエンジンそのものは、XTの車重が139kgと軽いことから、30ps/5800rpmのままで十分であり、レシオの関係もあるが、80km/hまでは500や750のマルチと比較しても十分な加速、パンチ力があることもわかってきた。
全体をコンパクトに仕上げる努力をすれば、その出力からは信じられないほどの走りが期待できたのだ。
ヤマハSR500/400の発売へ貢献したのは疑いようのない事実である。その背景には鈴木脩巳編集長の英断と、島 英彦さんの冷静かつ熱き情熱の存在が見逃せない。
⚫️著者プロフィール
山田 純(ヤマダ ジュン)
東京都在住
1950年1月生まれ 69歳
20歳の時単身渡米 AMAロードレースに参戦。
帰国後MCFAJジュニア350チャンピオン獲得。
その後バイク雑誌の編集、編集長歴任後、フリー。
現在BMW Japn公認ライダートレーニング・インストラクター 兼ツーリングライダー
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