スポーツカーというマーケットだからこそ、現代においては社会的な要求をしっかりと乗り越えたうえでの、さらなる高性能をどう実現させるのかという戦略が重要となる。 2023年はそれらの具体的なモデルが続々と日本へ上陸したことが特筆できる。(Motor Magazine2024年2月号より)
時代の流れも功を奏してランボのフラッグシップ登場
ある種の実用性を犠牲にする代わりに、運転する喜びをユーザー(=クルマ好き)へと提供する。それがスポーツカーというものだろう。それゆえ、運転する喜びの表現手法の違いがブランドの個性ということになる。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
クルマに対して、これまでとは次元の異なった社会的要求の厳しさが増す中、スポーツカーをメインとするブランドの未来を見据えた戦略の舵取りが難しくなるのは当然だった。
スポーツカーとて合法的かつ社会的に一般道を走る乗用車であることに違いはなく、その目指すところは実用車と何ら変わらない。電動化や自動化、そして環境施作への適合といった大きな流れに背くわけにはいかないのだ。趣味のカテゴリーであるからこそ、実はなおさら「言い訳無用」でもある。
一方で、そもそも付加価値が売りのカテゴリーゆえ、万人におもねる必要はなく、大きな目で見ればプロダクトアウトであればいい(小さく実際の購入層に関して見ればマーケットインでもあるが)。
その結果、大胆な転換もまた可能であるというわけで、ブランドの現在地によって実にさまざまな未来戦略が実際の商品として立ち現れた年が2023年だった。
電動化に関してのスケジュールがもっとも遅かったイタリアの雄ランボルギーニにとって、コロナ禍は比較的「悪くない」タイミングで起きており、明けてちょうど創立60周年を迎えた今となって次世代戦略の要となるフラッグシップモデルが現れる、という暁光に恵まれている。レヴエルトだ。
大ヒット作アヴェンタドールの後を受け、デザイン、エンジンからボディ骨格、シャシまで、エンブレム以外のすべてを再び刷新した。宣言されてきたとおり大きめのバッテリーを積んだPHEVとなったスーパースターは、今後すべての闘牛をプラグイン化するブランドの狼煙(のろし)でもある。
バッテリーの重量増を全体として抑えるべく高剛性化と軽量化にも取り組んだ結果、その動力性能のレベルもまた新たな次元へと到達した。スポーツカーブランドというものは社会的要求に応えることを性能レベルの停滞の言い訳にできない。むしろ性能アップのきっかけにしなければならない。ランボルギーニの戦略はそのことを如実に物語っている。
もちろんコロナ禍によって多少のスケジュール遅延はあったことだろう。代わりにウラカンテクニカや同ステラートといった歴史に残るモデルの登場も見たし、一方でフル電動のランザドールのような「未来」を少し早めに目撃することもできた。
フェラーリもPHEVに活路を見出す
いち早く電動化への道のりを歩んでいたマラネッロ。ここ数年来の勢いを保ったまま23年もモデルラッシュとなった。
今やメインモデルとして人気を博すPHEVの296シリーズにはスパイダーモデルのGTSが加わり、またブランドへの入門モデル(現実には認定中古車がその通行手形になっているが)として重要な役割を担うFRのV8シリーズもまたスパイダーモデルの登場によってローマへと集約されることとなった。
今後はプロサングエの非12気筒化=電動化にも注目したいが、それはおそらく24年春にも登場する812後継モデルの生産開始を待ってということになるだろう。
マラネッロのモデルラッシュはカテゴリーをも増やした。1000psオーバーのPHEV、SF90シリーズをベースにXXという新たな高性能シリーズを捻り出したのだ。こちらもまた電動化に必要な技術をそのパフォーマンスアップに直結させ、そのうえサーキットイメージを合法的に公道へと降臨せしめた。
VIC(最重要顧客)の気分を味わえるシリーズというわけで、これもまた電動化によって莫大なパワーを手に入れ、それを徹頭徹尾制御するというテクノロジーを駆使することによって新たなビジネスチャンスを創造したと言っていい。
三羽烏のメインモデルがプラグインで揃う時代
スーパーカー三羽烏の最後、マクラーレンはどうだったか。マラネッロから迎えた新社長の元、メイン車種となったPHEVのアルトゥーラがようやく順調に生産されるようになった。
電動化への取り組みを実は創業時から始めていたブランドで、カーボンモノコックボディの採用は単なる軽量化のためではなく、今の時代を見越してのことである。ゆえにアルトゥーラはPHEVにもかかわらず車重1.4トンに収めてきた。軽さこそ、このブランドの正義である。
こちらもブランド創立60周年を迎えた年だったが、目立ったニュースはスーパーシリーズを750Sへと進化(マイナーチェンジ)させたこと、23年の瀬も押し迫ってからGTのテコ入れ高性能版というべきGTSが登場したことで、ニューモデルの登場という意味では比較的静かな年になった。
ランボルギーニがウラカン後継モデルをPHEVとすることは決まっている。三羽烏のメインモデルがプラグインで揃う時代がいよいよやってくるというわけだ。フル電動モデルが新興ブランドにしか見受けられないのは、これまた趣味領域であるがゆえの保守性に理由を求めることもできよう。
ポルシェもまたアニバーサリーに沸いた一年だった。ブランド設立75周年を迎えてカイエンやパナメーラといった収益モデルの新作発表が相次いだ結果、スポーツカー周辺は911のデビュー60周年、さらにはRSの50周年という記念行事に忙しかったようだ。
マイナーチェンジを24年春に控えた911に、ダカールやカレラT、そしてS/Tといった派生モデルが次々と登場し、シリーズの魅力をいっそう極めた。
60年にわたって連綿と基本コンセプトを変えずに進化したスポーツカーシリーズなど、世界を見渡しても他にない。次世代モデルの電動化がどのように行われるのか、その興味もまた尽きないが、広がったモデルレンジが911の未来を明るく照らしたことだけは間違いない。
最新のスポーツモデルもICE仕様で楽しめる幸運
英国の老舗ブランドによるスポーツモデルは次世代への移行がまだ始まっていない。現行モデル世代の大トリとして超破格の限定モデル、アストンマーティンのヴァラーやベントレー バトゥールを発表したかと思えば、ジャガーのようにエンジンモデルの最終版を宣言するブランドもあった。
すでにフル電動への転換を決めているロータスも、最後のエンジンスポーツカーとなるエミーラを日本市場へと投入した。電動化そのものへの懐疑的な見解も深まるなか、五月雨式に次世代へと突入するであろう英国ブランドの行く末には大いに注目していきたい。
フランスのアルピーヌもまた、Rやその派生モデル、さらに過激な性能を与えた限定モデルなどで、エンジン付きA110シリーズの最終章を飾ろうとしている。
またイタリアのマセラティは、次世代への取り組みに意欲的だ。グラントゥーリズモをフルモデルチェンジし、フル電動と新開発エンジン(V6ネットゥーノ)という2本立てのパワートレーンを同じシャシに搭載。趣味領域ゆえICEかBEVかという二者択一が常識となりつつある今、マセラティのケースは珍しい。今後、ミッドシップスーパーカーのMC20もそのまま電動化するはずだ。
趣味領域はできるだけエンジンで引っ張ろう。そういう戦略がはっきりと見えているのがドイツ勢やアメリカ勢である。とくに実用領域のモデルをたくさん抱えているメルセデスやBMWはスポーツモデルの電動化には消極的に見える。他にやることがあるからだ。
結果的にメルセデスAMG SLやBMW M2、シボレーコルベットZ06といった、伝統的なエンジン付きスポーツカーを最新のテクノロジーとともに23年もまだ変わらず楽しむことができた。クルマ運転好きにとってはなんと嬉しい「時代遅れ」であったことか。(文:西川 淳)
[ アルバム : 2023−2024第6章「スポーツカー市場の動きと展開」 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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