新車時からポルシェでフラッハバウ仕様として製作された1台
2024年1月31日、RMサザビーズがフランス・パリで開催したオークションにおいてポルシェ「911ターボ フラッハバウ」が出品されました。同車について振り返りながらお伝えします。
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ポルシェ935に憧れるファンに応えたキットだった
ポルシェ911ファンの間でも人気の高い、2代目911ターボ(タイプ930)をベースとした「フラッハバウ(Flachbau)」。フラットノーズとも、スラントノーズとも呼ばれるこのモデルの始まりは、ドイツのレーシング・コンストラクター、「クレーマー・レーシング」が、1981年にあの有名なレーシングカー、935のようなフロントボディワークを含む、911ターボ用のコンバージョンキットを製作。それを935に憧れる熱狂的なファンに提供し始めたことに始まる。
それを知ったタグ・ホイヤーの共同オーナーであったマンスール・オジェは、ポルシェに935レーシングカーの公道走行可能なバージョンの製作を依頼した。ポルシェにとってそれはもちろん簡単に行える作業ではなかったが、結局彼らは911のボディシェルを使用し、そこに935のボディパネルを組み込んでいくことで製作した。
サスペンションやブレーキも935と共用している。そのほかにもポルシェがブリリアント・レッドと呼ぶ特別塗装やBBS製のホイール、やはりレーシングカーの934から移植された3.3Lの水平対向6気筒ターボエンジンなどが与えられ、その存在もまたエンスージアストを大いに刺激した。
同様のチューニングを望んだカスタマーの声に応えて、ポルシェは「Sonderwunsch programm(特別注文プログラム)」部門を設立。それによってポルシェのクオリティを損なうことなくフラットノーズを希望するカスタマーのもとへ送り届ける体制を整えた。同部門によるフラッハバウ・モデルは、フロントフェンダーをハンドメイドで改造することで生み出されていった。
オプションのスポーツシートも装着している
ノーマルの911が持つフロントエンドは美しいスラントノーズに変化を遂げ、それはもちろん935のイメージをダイレクトに感じさせてくれるスタイルそのものだった。ヘッドランプは通常はそのスラントノーズにぴったりとフィットするカバーで隠される一般的なリトラクタブル形式だが、そのオプション・パッケージは車両価格の60%にも相当する、非常に高価なモデルだった。
もちろん例の特別注文プログラムで、さらに多くのオプションや特別な装備を選択すれば、その価格は比例してより高くなったのはいうまでもない。
それだけに911ターボ フラットノーズの販売台数は、トータルで948台と限られたものだった。そのうちアメリカ市場には160台がデリバリーされ、残りはヨーロッパやほかのグローバル市場でオーナーのもとに納車された。ちなみにヨーロッパ仕様の911ターボ・フラットノーズ(オプション・コードではM506、アメリカ向けの同コードはM505となる)には、330psの最高出力を誇るWLSパフォーマンスキットが同時に装着された例がほとんどで、これはエンジンのアップグレードキットを意味するもの。
大型化されたK27型ターボやウェイストゲート、フロントマウントのオイルクーラー、また制御系では点火時期や燃料マップがリニューアルされている。最高速は278km/h、0−96km/h加速は4.85秒と、その運動性能も当時としては空力性能が貢献した、じつに魅力的なものだった。
今回のパリ・オークションに出品された911ターボ フラットノーズは、1986年式のモデル。新車時からポルシェでフラッハバウ仕様として製作された1台である。ボディとインテリアも、グランプリホワイトとブリリアン・レッドという工場出荷時のままの状態。オプションではスポーツシートとリミテッドスリップデフが装備されていることが確認されている。
新車でスウェーデンにデリバリーされた後、現在まですべての時間をスカンジナビアで過ごしたとされるこのモデルの走行距離は16万9695kmに達しているが、その間のサービスやメンテナンスがきちんと行われていることは、添付されるサービスブックがこれを証明している。
RMサザビースでは予想落札価格で17万~22万ユーロ(邦貨換算約2720万円~3520万円)を提示したが、結局オークション当日に落札者は現れず、同車は現在17万ユーロで販売が継続されている状態だ。
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