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若者よ、もっと運転を楽しめ──ジェンソン・バトンが語るクルマ“愛”

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若者よ、もっと運転を楽しめ──ジェンソン・バトンが語るクルマ“愛”

ジェンソン・バトン(JB)といえば、2009年にF1の世界チャンピオンに輝いたスーパースター。いまさらその経歴を詳しく紹介する必要はないかもしれない。けれどもインタビューを楽しく読んでいただくためには、そのキャリアを簡単に振り返っておいた方がいいだろう。

2000年に20歳でF1にデビューしたJBは、2003年からの6シーズンをB・A・Rまたはホンダのドライバーとして、ホンダのエンジンで戦う。15年、16年もマクラーレン・ホンダのドライバーとしてホンダのエンジンを回した。18年シーズンは日本を主戦場とし、チームクニミツからSUPER GTのGT500クラスにフル参戦。ホンダNSX-GTを走らせ、全8戦中6戦が終わった9月中旬の時点で、トップに躍り出た。

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これから迎えるシーズン終盤、年間チャンピオンの座をかけてSUPER GTを戦うJBに、レースだけではなくクルマ趣味全般について訊いた。

GQ:子どもの頃に憧れたクルマを教えてください。

JB:一番のお気に入りはフェラーリF40だったな。おもちゃもあったし、自分の部屋に写真も飾ったよ。1980年代の終わりだね。ランボルギーニ・カウンタックにも憧れたね。ラリークロス(註:未舗装路のラリーとサーキットを組み合わせたレース)をやっていた父がポルシェ 911 ターボに乗っていて、僕は父と2人でポルシェに乗るのが大好きだったんだ。ターボが利いた瞬間の加速は、いま思い出しても最高の体験だった。

GQ:子どもの頃の憧れのクルマで、大人になってから手に入れたものはありますか?

JB:フェラーリF40は持っているよ。ポルシェも、父の911 ターボもう少し新しい、964型のターボを手に入れた。

GQ:今まで所有したクルマの中で、特に思い出深いものは何でしょう?

JB:それは最初に買ったスーパーカー、フェラーリF355だね。黄色いGTSで、今も持ってるよ。オドメーターの距離が1万6000kmだから、あまり乗ってないんだ。あとは父から譲り受けた1957年型のコルベット、とても美しいクルマだよ。同じく父のものだったフェラーリ550マラネロも、父との思い出が詰まった特別なクルマ。僕はただ欲しいからってクルマを買うことはあまりなくて、レースで勝った時のご褒美とか、買ってもいいと思える理由がある時に好きなクルマを買うんだ。たとえば2004年のF1で、ホンダのエンジンで10回表彰台に上がった時には、メルセデス・ベンツのCLK DTM AMGを買った。世界限定100台のモデルで、今でも乗っているよ。

GQ:ホンダのクルマじゃないんですね。

JB:NSXはすでに持っていたから、ホンダには買うべきクルマがなかったんだ(笑)。

GQ:最近はどんなクルマを買いましたか?

JB:アメリカに引っ越してから、1970年型のフォード・マスタングとか、あとは戦前のクルマとか、古いモデルを何台か。クラシックカーは美しいから好きなんだけど、運転していると常に故障の不安があるから、普段乗るならもう少し新しい方がいいかな。

GQ:いつか絶対に手に入れたい、夢のクルマはありますか?

JB:長い間、ずっと探しているクルマがあって、それは初代ホンダNSXのタイプR。普通のNSXならアメリカにもヨーロッパにもたくさんあるんだけど、タイプRは日本にしかないから。そうそう、アメリカではアキュラのブランドでNSXが売られたんだけど、オートマが多いんだ。でもオートマのスポーツカーなんてありえないね! マニュアルじゃないとダメ(笑)。問題は最近のスーパーカーが速くなりすぎて、みんなパドルシフトになっちゃってることだね。実際、いまのスピードのF1を、昔ながらのマニュアルトランスミッションで走らせるのは難しいんだけど……。

GQ:やっぱりマニュアルじゃないとダメですか?

JB:世代のせいかもしれないけれど、マニュアルだとクルマとダイレクトにつながっている感じがするんだ。オートマだとそれが感じられない。日本でドライブしていると、15年前のシビック・タイプRやインテグラのタイプRを見かけて、とっても楽しい気持ちになるよ。そうそう、タイプRチャレンジ(註:ホンダ・シビック・タイプRで欧州の5つのサーキットでタイムアタックを行う試み)で、3週間前にシビック・タイプRをハンガロリンク・サーキット(ハンガリー)で走らせて、FF(前輪駆動)世界最速のラップを出したんだ。あれは本当に楽しかった。

GQ:サーキット以外でもドライブはしますか?

JB:もちろん、僕は運転が好きだから、どこかに行く時は電車や飛行機よりクルマを選ぶ。クルマに乗っていると、自分の家にいるみたいにアットホームで落ち着いた気分になれるからね。ひとりでドライブすると考え事もできるし、レースとは違う意味で、クルマに乗るのはとにかく好き。

GQ:好きなドライブコースは?

JB:いま住んでいるカリフォルニアなら海岸線。日本だと、名前は覚えていないんだけれど、湖から富士スピードウェイに向かう道。スイッチバックがたくさんある、きれいで楽しい道だった。ドリフトのタイヤの跡がたくさんついていたね(編集部註:山中湖から富士スピードウェイに抜ける三国峠か)。

GQ:レースが終わった直後で疲れていても、自分で運転するんですか?

JB:他人が運転するクルマに乗るのは嫌いだから、世界中どこのレースでも自分でハンドルを握って往復するよ、運転が禁止されている中国以外はね。この人が運転するクルマなら乗ってもいい、と思える人は世界で数人かな(笑)。

GQ:日本の若者について、クルマ離れということが言われているんですが、欧米にもそういうムードはあるのでしょうか。

JB:こんな答は聞きたくないだろうけれど、もし日本の若者がクルマへの興味を失っているのだとしたら、それは日本のクルマが面白くないからだと思うよ。シビック・タイプRはいいけど、スーパーカーはNSXだけ。日本車の中で、街で見かけて「ワオ!」となるのはNSXだけだと思う。日本のミニバンは便利だし効率がいいのもわかるんだけど、若者が興奮するようなクルマじゃないよね。リチャード・バーンズ(註:元世界ラリー選手権チャンピオン)が乗っていた、大きなウィングのスバル・インプレッサ22Bみたいにエキサイティングなクルマがなくなったことが理由だと思う。

GQ:欧米の若者はクルマに興味を持っていますか。

JB:すごく持っているよ。モナコにスーパーカーが停まっていると、ティーンエイジャーが20人も群がって、スマホで写真を撮ってインスタにアップしている。で、彼らのフォロワーが100万人もいるっていうんだから、ヨーロッパではまだまだスーパーカーは人気だと思う。だからメルセデス・ベンツもアストンマーティンも、みんな新しいスーパーカーを発表している。で、スーパーカーと同時に、若い人が買えるスポーツカーも出さないとダメだよね。こないだカリフォルニアをサイクリングしていたら、ホンダのS2000が50台くらいオーナーズクラブのミーティングで集まっていたんだ。僕も持っているけど、すごくいいクルマだよね。ああいうクルマが日本にないから、みんなポルシェ・ボクスターとかアウディTTを買うんだよ、きっと。だからS2000をもう一度作るようにみんなでホンダにプッシュしよう! NSXとS660の間のスポーツカーを作ってくれって、八郷(隆弘社長)さんに!

GQ:ジェンソンが開発に関わったら、みんなが憧れるスポーツカーになると思います。

JB:いいね! 僕が開発に加わって、デザインもするよ。ホンダJB2000だ!

GQ:スーパーカーもレーシングマシンも、モーターを積んだハイブリッド車に移行しつつあります。電動化の流れをどう考えますか?

JB:クリーンエネルギーは環境に良いし、地球にとって必要なことでしょう。いずれ価格が下がれば、みんなが乗れるようになって、素晴らしいことだと思う。実用面ではね。問題は、EVはセクシーじゃないってことなんだ(笑)。子どもたちは音が聴きたいんだよ。だから良い音がするように太いマフラーを付けるし、ターボやスーパーチャージャーの音に興奮する。SUPER GTのマシンを見ると、子どもはみんな「ワオ!」って言う。GT500もGT300もカッコ良くて音に迫力があるから。ま、欧米では2040年までに内燃機関車がなくなるとアナウンスされているので、メーカーがEVに力を入れるのはわかるんだけど……。

GQ:ではジェンソンは、2040年に自分がどんなクルマに乗っていると思いますか?

JB:僕はまだガソリン車に乗っているだろうね(笑)。早くNSXのタイプRを見つけなきゃね。ホンダのスタッフからタイプSでよければあるって言われるけど、僕はタイプRが欲しいんだよ(笑)。でも、たとえタイプRを買ったとしても、日本から持ち出さないように頼まれているんだ。だから日本に移住するか、こっそり船に積んで密輸するか(笑)。面白いことに、最近は1980年代から90年代のクルマがすごい人気だよね。値段もとんでもなく高くなっている。やっぱり、最近のハイブリッド車みたいなクルマにはない魅力をみんなが感じているんじゃないかな。

GQ:電動化についての意見はわかりました。では、自動化については?

JB:最低(笑)。それなら電車に乗ればいい。とくに日本では自動運転は必要ないと思う。アメリカのだだっ広くて退屈な道路ならあってもいいかもしれないけれど、日本の道路は楽しいからね。

GQ:周りのクルマが自動運転になっても、ジェンソンは自分で運転するんですね。

JB:そうだね、あんなの信用できないから。

GQ:レースの話を聞きたいのですが、日本のSUPER GTはいかがでしょう?

JB:エキサイティングだよ。GT500のカテゴリーには15台が参戦していて、だれもが勝つ可能性があるんだから信じられない。GT300クラスと混走するのも面白いし、いろいろなタイプのサーキットがある多様性も気に入っている。

GQ:ヘイキ(・コバライネン)、(中嶋)一貴、(小林)可夢偉と、元F1ドライバーにジェンソンが加わって、日本のファンも喜んでいます。

JB:本当にレベルの高いドライバーが集まっている。ロニー(・クインタレッリ)も97年にカートのヨーロッパ選手権や世界選手権で一緒に走ったライバルで、あれから20年経って再び日本で戦えるのは嬉しいよ。SUPER GTの開幕戦で表彰台に立った時には特別な気持ちになったし、ぜひ日本でチャンピオンを獲りたいね。

GQ:やはりクルマとレースが好きなんですね。

JB:レーシングマシンのエンジン音を聞くとアドレナリンが出て、生きていると感じるんだ。バイザーを閉じて、ギアを入れて、ピットレーンを出て行くと、周りがどんなにうるさくても静かで平穏な気持ちになる。

GQ:レースで怖いと思ったことは?

JB:スピードが怖いと思ったことはないけれど、危険がつきまとうことは認識している。ただ、レーシングマシンをドライブすることは僕にとってごく普通のことなんだ。スティーブ・マックイーンも言ってたね。「レースの前も後も、ただの待ち時間にすぎない。レースこそが人生だ」と。

GQ:最後に、ジェンソンにとってクルマとは?

JB:人生そのもの。クルマとレースは、僕の人生そのもの、すべてだね。

Jenson Button
ジェンソン・バトン

1980年、イギリス南西部のサマセット州に生まれる。物心ついた時からクルマが好きで、「4歳の時にこっそり父のクルマのサイドブレーキを戻してぶつけた(笑)」とか。8歳でカートを始め、20歳でF1デビュー。2009年には王座に輝く。


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