石油情報センターのデータによると、2021年11月22日におけるレギュラーガソリンの平均価格は、1L当たり168.7円とされる。軽油は148.5円だ。価格が高騰する理由はさまざまだが、新型コロナウイルスの終息で経済活動を活発化する地域がある一方、産油国は生産量を絞っている。需給バランスの不均衡により、燃料価格が高まった。
コロナ禍前の2019年は、レギュラーガソリン価格が1L当たり147円前後、軽油は127円前後で販売されていた。それが今は15~17%値上げされている。ガソリンや軽油は生活必需品だから、値上げはユーザーの生活を困窮させてしまう。そこで話題になっているのが「トリガー条項」だ。
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文/渡辺陽一郎、写真/編集部、Adobe stock
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■ガソリンが約25円安くなる「トリガー条項」とは?
2021年10~11月の全国平均ガソリン小売価格の推移(石油情報センター 公表値より)。レギュラーで160円以上の高値が10月から続いている
トリガー条項とは、ガソリン価格が高騰した時にユーザーの負担を軽くする制度で、2010年に当時の民主党政権が導入した。レギュラーガソリン価格が3か月連続で1L当たり160円以上になった場合、4か月目からは価格に含まれる税金のうち、25.1円の課税を停止するものだ。
1L当たり160円の価格水準が続いてトリガー条項が実施されると、25.1円が差し引かれ、単純にいえば1L当たり135円まで下がる。その後、価格の高騰が収まって3か月連続して130円を下まわると、25.1円の課税を再開して価格を戻す。
このトリガー条項は、今まで実施されたことがない。2010年に導入された後、2011年には東日本大震災の発生でガソリン価格が1L当たり150円を上まわったが、この条項は凍結された。トリガー条項が実施されると税収が下がり、復興の妨げになると考えられたからだ。ガソリン価格が下がると需要が増えて、ガソリンが品薄になることも懸念された。
そして今は前述のとおり、レギュラーガソリン価格が1L当たり170円に近づいている。160円以上の高値も10月から続いており、すでに1か月半を経過した。トリガー条項は凍結されているが、ガソリン価格の高騰を考えると、実施すべき状態が近付いている。
■なぜトリガー条項凍結を解除しない? 経産省の回答は?
それでも萩生田光一経済産業大臣は「トリガー条項の凍結解除は適切ではない」という考えを示している。その理由は、トリガー条項の凍結を解除して実施すれば、実施前の買い控えと実施中の需要増加が発生するなど市場の混乱を招くからだという。
この根拠は、2008年4月に行われたガソリン価格の値下げだ。この時は当時のガソリン税などの暫定税率を延長できず、いわば時間切れにより、2008年4月1日から30日まで燃料価格が一時的に値下げされた。
2008年3月31日のレギュラーガソリン価格は、全国平均が1L当たり152.9円だったが、4月には130.6円まで下がった。5月に入ると再び159.6円に値上げされている。
軽油価格も同様で、2008年3月末は1L当たり132.3円だったが、4月は118円台に下がり、5月は再び139円に戻った。
経済産業省によると「この時には3月に買い控えが発生して、4月に入ると値下げによって需要が急増した。燃料の流通について混乱を招いた」という。
ただし、民主党政権は、この2008年の経験がありながら、トリガー条項を2010年に導入している。これを今の政府は、2008年の市場混乱を理由に否定した。当時と今では政権を担う与党は異なるが、ユーザーの立場でいえば、一度決められたことを否定して形骸化されるのは困る。
そこで直近では、経済産業省がガソリン価格の高騰を抑えるため、石油元売り会社に補助金を交付する方針を打ち出した。石油元売り会社は、この補助金を原資に、ガソリン価格の高騰を抑えるという。
なぜトリガー条項を実施せず、石油元売り会社に補助金を交付するのか。この点を経済産業省に尋ねると、以下のように返答された。
「2008年時点で燃料の価格を値下げしたら、買い控えなどの混乱が生じた。従ってトリガー条項は実施しない。その代わり補助金を交付する。補助金はあくまでも値上げを抑える目的だから、ガソリン価格の値下げはしない。レギュラーガソリン価格が1L当たり170円になった段階で、補助金が交付され、170円を超える値上げは行わないようにする」
「つまり補助金の交付であれば、トリガー条項と違って燃料価格の値下げや実施後の値上げは行われないため、買い控えなど市場の混乱を招く心配もない」
最近の燃料価格の推移を振り返ると、2010年以降のレギュラーガソリン価格は、1L当たり115~150円で推移してきた。ユーザーの立場でいえば、140円に達した段階で減税や補助金の交付を行い、141円以上にならないように価格を制御すべきだった。「値下げをすると直前の買い控えで市場が混乱する」なら、それ以前の段階で、値上げが生じないように制御すべきだ。
■続く「二重課税」 ガソリン価格を値下げすべき理由とは?
経済産業省はガソリン価格の高騰を抑えるため、石油元売り会社に補助金を交付する方針を打ち出した。なぜトリガー条項を実施しないのか...(photo/mikitea-Stock.Adobe.com)
そこまで踏み込める理由は、燃料の価格には、本来納める必要のないガソリン税が含まれているからだ。
ガソリン税は、もともと道路建設などに充てられる道路特定財源として設けられた。道路の恩恵を受けるのは自動車ユーザーという考え方に基づき、道路特定財源のガソリン税をガソリン価格に上乗せして徴収していた。
ところが道路特定財源制度は、2009年に廃止されている。この時点でガソリン税も課税根拠を失ったが、今でも徴収は続き、一般財源(普通の税金)として使われている。つまりクルマのユーザーは、多額の税金を不当に徴収されているわけだ。
元・道路特定財源はほかにもあり、自動車重量税も徴収が続く。自動車取得税も元・道路特定財源で、消費税率が10%になったら廃止することになっていた。確かに廃止されたが、その代わりに、自動車取得税に似た環境性能割という新しい税金が導入されている。自動車取得税は、名称を変えて今でも存続しているわけだ。
しかも燃料の価格に含まれる税金は高額だ。ガソリン価格が1L当たり160円とすれば、ガソリン本体の価格は88.85円に過ぎず、残りはガソリン税が53.8円、石油税は2.8円、消費税は14.55円になり、160円のうち、71.15円が税金で占められる。
しかも消費税の10%は、ガソリン本体+ガソリン税+石油税の合計額に課税されるから14.55円に達する。完全な二重課税だ。
レギュラーガソリン価格が1L当たり160円でも、本体価格は88.85円だから、本来なら10%の消費税を加算した97.74円で販売すべきだ。ガソリン価格が高騰している今でも、マトモな課税であれば、1L当たり100円に収まる。
また、ガソリン税の53.8円と石油税の2.8円は、常に同じ税額を徴収する。従って以前のレギュラーガソリン価格が1L当たり120円の時は、本体価格はわずか43.4円であった。120円の時にはユーザーから苦情は生じないが、この時にはガソリン価格の64%を税金が占めていた。これも問題だ。
以上のように燃料の価格には、課税根拠を失った多額の税金が含まれている。トリガー条項を実施するとか、補助金を交付する以前の話として、燃料価格に含まれる不当な税金を排除すべきだ。
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