馬の代わりにバイクで戦車を引くトンデモ競技「モーターサイクルチャリオットレース」
乗り物に乗って速さを競う競技は昔からあるものです。F1世界選手権やル・マン24時間レースなど世界的な権威と知名度をもつものから、本来乗用ではない芝刈り機に乗って行うものや、事務用の椅子(もはや乗り物かどうか分かりませんが……)を足で漕いで競うものなど、目を疑うような「B級」「ゲテモノ」レースまで日々様々なレースが開催されています。
そんな中でもひときわ衝撃的な競技風景を繰り広げていたのが、1920年代から1930年代にかけて人気があったという「モーターサイクルチャリオットレース」です。
【画像】どうやって複数のバイクをひとりで制御していた? 衝撃の競技風景
「チャリオット」は古代に戦争で用いられた戦闘用馬車で、主に戦士の乗った台車を馬で引いて動かしていました。現代でも「戦車」を意味する言葉として使われることがあります。そんな「チャリオット」を馬ではなくバイクに引かせてしまおうというのが「モーターサイクルチャリオットレース」の出発点です。
1920年代にはバイクにも台車にも人が乗っていたが……
「モーターサイクルチャリオットレース」はオーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、ヨーロッパの一部などで盛んに行われたといいます。世界中の国々で当時撮影された写真を見てみると、初期の頃にはバイクにもライダーが乗り、仲間が乗った台車を牽引するというスタイルだったものが、やがて複数台のバイクを台車に乗った操縦者が1人で操作するという競技スタイルに変わっていったことが分かります。
アメリカの通俗技術雑誌『ポピュラーメカニクス』の1922年9月号によると、現在確認できる範囲でもっとも古いモーターサイクルチャリオットレース用車両は 1922 年に作られたもので、台車の部分はワイン樽を切ったものの前方にクルマの車輪を取り付けて作られていました。この台車と市販のバイクをパイプやロープでつなぎ、競技用のチャリオットとしていたのです。
また、「チャリオティア」と呼ばれた運転者は、バイクに乗って操縦するライダーと、台車部分の樽に乗り、体重移動などによって走行を助けるパッセンジャーに分かれていました。ちなみに、どちらも競技における正装は、ローマ時代の鎧に着想を得た衣装だったそうです(全てのレースで着用していたというわけではないようですが……)。
1930年代以降は複数台のバイクを1人で操縦する高難易度競技に!!
ところが時代とともに競技スタイルが変化し、1930年代以降は複数のオートバイを台車部分に繋ぎ、台車に乗る「チャリオティア」1人が手綱だけを駆使して全ての車両を操縦するようになりました。
1938年にドイツのスポーツフェスティバルの中で行われた「モーターサイクルチャリオットレース」を紹介する新聞記事を参照してみると「操縦者の手の中にある“手綱”は、それぞれ4台のバイクのスロットルバーに繋がれている」と書かれています。操縦者がそれぞれ対応した“手綱”を引いたり緩めたりすることで、複数のバイクを適当な速度で制御していたのでしょう。またライダーが乗ってバランスを取らなくてもバイクが転倒しないよう「全てのバイクは水平のバーによって結合されていた」といいます。
現代にも「モーターサイクルチャリオットレース」の愛好家がいる
残念ながら「モーターサイクルチャリオットレース」は世界大戦による鉄不足、車両不足などの影響で徐々に廃れてしまい、現代ではあまり知られていません。しかし、ヨーロッパを中心に「モーターサイクルチャリオットレース用競技車両」を現代に再現しようとする愛好家や愛好団体が存在するそうで、動画配信サイトなどでは愛好家による実際の走行シーンを見ることもできます。
レポート●モーサイ編集部・中牟田歩実 写真●ポピュラーメカニック社/reddit/Michael Mokossura/Chariots and coaches.com
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