新宮紀宝道路、12月一部開通
和歌山県の新宮市――。紀伊半島の南端に位置するこの街は、訪れたことのない人でも名前を知っていることが多い。
【画像】「なんとぉぉぉぉ!」 これが自動車専用道路「新宮紀宝道路」です! 画像で見る(11枚)
新宮市の知名度を押し上げているのが、ファミコン時代から続く長い歴史を持つゲーム『桃太郎電鉄』だ。双六形式で日本中(時には海外も)を巡り、物件を購入して収益を競い合うこのゲームのなかで、新宮市は近畿地方の南部に位置し、多くの高収益物件を所有する都市として知られている。このゲームのおかげで、新宮市の名前や名物の「めはり寿司」は広く知られるようになった。また、読書好きには『枯木灘』『千年の愉楽』などで知られる小説家・中上健次(1946~1992年)の出身地としても有名だ。
しかし、全国的に知られた一方で、現実の新宮市はこれまで「辺境」として扱われてきた。この状況が今、大きく変わろうとしている。
紀伊半島を占める紀伊山地の南端に位置する新宮市を含む熊野地方(和歌山県西牟婁郡・東牟婁郡、三重県北牟婁郡・南牟婁郡の4郡)は、とにかく遠い。同じ近畿地方でも、大阪から新幹線で東京に行く方が早いほどだ。
そんな辺境でも、高速道路の建設は進んでいる。2024年12月7日には、新宮市と三重県紀宝町を結ぶ自動車専用道路・新宮紀宝道路の一部区間が開通し、「高速道路」によって初めて和歌山県と三重県が結ばれたと報じられた(本稿でも高速道路という用語を適宜用いるが、この道路は高速自動車国道ではなく自動車専用道路である。自動車専用道路は、設計速度時速80km、無料で利用可能という特徴を持つ)。
紀伊半島一周、高速道路整備進行中
この道路は、将来に向けた
「大きなパズルの一片」
といえる。現在、この道路は地域の渋滞緩和や災害時の代替路としての役割を担っているが、将来的には紀伊半島を一周する高速道路ネットワークの一部として機能する予定だ。その道のりは、まだまだ長い。
整備状況を見てみると、熊野道路(6.7km)では2024年2月にトンネル工事が着手された。和歌山県のすさみ串本道路(19.2km)は、完成が遅れているものの工事が進行中である。さらに、串本太地道路(18.4km)と新宮道路(4.8km)も用地取得や設計が進められている。
現在、紀伊半島の高速道路網は、西側が和歌山県西牟婁郡すさみ町のすさみ南インターチェンジ(IC)(紀勢自動車道)まで、東側は三重県熊野市の熊野大泊IC(熊野尾鷲道路、熊野道路)まで開通している。残る未開通区間は、両ICを繋ぐ串本周辺と和歌山・三重県境周辺の約70kmとなっており、全線開通時期は未定だが、工事は着実に進行中だ。
このように、新宮紀宝道路は紀伊半島一周の高速道路網を完成させるための重要な一歩であり、パズルの完成にはまだ時間がかかるが、完成すれば防災、医療、観光の新たな結節点としてこの地域が生まれ変わる可能性を秘めているのだ。
筆者の意見
このネットワークの完成は、新宮市を含む熊野地方の地位を根本から変えるだろう。それは単なる移動時間の短縮以上の意味を持つ。
まず物流面での革新が期待できる。物流コストの削減や輸送範囲の拡大により、地域の農水産物を大都市圏へより効率的に出荷できるようになる。特に鮮度が重要な水産物にとって、これは大きな強みとなる。多頻度輸送が実現することで、地域産業の競争力向上にもつながるだろう。
さらに、観光や経済全般への質的変化が予想される。例えば三重県熊野市では、高速道路網の整備により中京・関西圏双方から3時間以内でアクセスできる範囲が大幅に広がった。その結果、スポーツ合宿の名所として認知が進み、主要観光施設への入込客数も増加している。今後、高速道路によって観光産業の発展だけでなく、生産性向上や企業誘致が見込まれ、特に熊野地方の中心都市である新宮市では経済活動の活性化が進むと期待されている。商業機能の強化や住宅開発の促進も期待され、若い世代の人口定着にもつながるだろう。
高速道路の効果で特に重要なのは、地域住民の生活範囲の拡大である。東紀州地域では、53%の住民が高速道路開通後に生活に変化があったと答えている。例えば三重県尾鷲市では、運転が楽になり、松坂市や新宮市まで買い物に行く回数が増えている。救急医療に関しても、これまで急勾配やカーブが続く難路だった国道42号線を避けられるようになり、紀勢自動車道や熊野尾鷲道路は
「命の道」
とも呼ばれている。明確なデータはないが、高速道路網が整備されるに従って熊野地方ではコンビニエンスストアなどの店舗も増加している。このように、高速道路網の整備は、この地域を「陸の孤島」から脱却させ、関西・中京圏双方との経済的・社会的なつながりを生み出している。生活環境の向上という点でも、その効果はすでに明らかだといえるだろう。
筆者への反対意見
一方で、このような期待に対して慎重な見方もある。
特に、和歌山県の白浜~新宮間における高速道路の必要性については疑問が呈されている。この地域の移動の少なさは、JR紀勢本線の状況からも明らかだ。白浜駅を過ぎる紀勢本線は「本線」でありながら単線区間であり、運行本数も限られている。
日中には約2時間も列車が来ないことも珍しくなく、特急が1時間に1本という時間帯もある(筆者も周参見駅~太地駅の短距離で泣く泣く特急料金を支払った経験がある)。このような状況下で、多額の費用をかけた高速道路の建設が本当に必要だろうか。
さらに、費用対効果の低さに加えて、開通後には高額なメンテナンスコストが予測される。この地域は2018年の豪雨災害をはじめ、繰り返し自然災害に見舞われている。多雨地域であることに加え、リアス式海岸が続くため土砂災害のリスクも高く、被災時の復旧コストも膨大だ。高速道路による防災対策の迅速化が期待されるが、そのリスクも高いことを忘れてはならない。
また、観光面でも高速道路の開通に対する懸念がある。もともと熊野古道をはじめとする熊野地方は、スローでのんびりとした観光資源を持つ地域である。新宮市は、商店街に昭和の雰囲気が色濃く残り、そうした風情が評価されて観光客が訪れている。
熊野古道伊勢路への来訪者数が2023年中に30万4695人を超えたことを考えると、必ずしも経済活動の活発化による変化がすべて望ましいわけではないのだ。
高速道路の多機能化に期待
おそらく、建設費用に見合ったすぐの経済効果は期待できないだろう。それでも、熊野地方における高速道路の整備には重要な価値がある。この道路は単なる交通インフラを超え、多機能型の社会基盤として設計されている。
南海トラフ地震に対する津波対策として、IC周辺には避難場所が設置され、階段やスロープを通じて周辺住民が安全に避難できる構造となっている。また、周辺道路が津波で浸水した場合でも、緊急車両が走行できる設計により、災害時の救助・救援活動を支える「命の道」としての役割も果たす。日常でも、拠点医療機関への搬送時間が短縮され、救急医療サービスが向上する。
さらに、2024年の能登半島地震では、能登半島が三方を海に囲まれた地形ゆえに、交通網が脆弱で災害時のアクセスルート確保が課題となった。この経験から、半島特有の防災対策の必要性が浮き彫りとなり、
「半島防災」
という新たな視点が生まれた。この視点からすれば、災害に強く、いざという時に機能する高速道路の整備は、国土の強靱化の観点からも不可欠である。
このように、新宮紀宝道路は防災、医療、地域振興を統合的に捉えた社会基盤として設計されている。確かに環境保護の観点からの懸念や、費用対効果への疑問は真摯に受け止めるべきだ。しかし、災害リスク、医療過疎、人口減少などを総合的に考慮すれば、将来に向けた必要な投資と考えるべきだろう。
新宮紀宝道路の開通と、その先にある紀伊半島を一周する高速道路網の整備は、日本のインフラ整備が直面する新たな課題へのひとつの回答として捉えることができる。人口減少や財政難という制約のなかで、この事業は単なる交通インフラの整備を超え、新しい地域づくりの第一歩となるのだ。
「地域の首都」新宮市の役割
とりわけ重要なのは、人口減少時代における
「地域の首都」
としての新宮市の役割である。2023年頃から、インターネット上で「地域の首都」という視点が登場した。大都市圏から離れており、人口規模は少ないが、その地域の中心となる都市を指す。現状では過疎地域とされる新宮市も、古くから三重県を含む熊野地方の商圏の中心であり、地域最大のショッピングモール「スーパーセンターオークワ 南紀店」が存在する。
ここに入居する「無印良品」の店舗面積は和歌山県内最大であり、都市の実力は非常に高いことがわかる。したがって、高速道路網の整備とともに、新宮市を中心とした広域的な経済圏を形成することが極めて重要だ。この地域の拠点都市の形成は、一地方の問題にとどまらない。2082年には日本の人口が半減すると予測されるなか、地域の在り方を根本的に見直す必要がある。
大都市圏に人口を集中させることが効率的な方法に見えるが、それは非現実的だ。その代わり、新宮市のような中核都市を拠点に、コンパクトながらも高い利便性を持つ地域社会を築いていくことが最適解である。そのための基盤整備である新宮紀宝道路を含む紀伊半島の高速道路網の整備は、欠かせない要素だ。この事例は、一地方のローカルな話題として片付けてはいけない。
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