しっかり刷新された小さな「トゥアレグ」
実はフォルクスワーゲンのベストセラーは、ハッチバックのゴルフではなく、SUVのティグアン。モデルチェンジされた3世代目も、成功を掴むであろう仕上がりにある。技術面や洗練性のアップデートを受け、2代目同様の優等生だ。
【画像】まるで小さなトゥアレグ? 新型フォルクスワーゲン・ティグアン 競合クラスのSUVと比較 全115枚
このクラスのSUVは、競争が極めて激しい。同社には、壊れていないなら直すな、という風土があるようだが、ティグアンはしっかり刷新されている。先代から継承したものといえば、大枠のサイズとシルエット程度といっていい。
上級感を増した3代目を端的に表現するなら、「小さなトゥアレグ」だろう。フロントマスクには、最新の「IQ」LEDヘッドライトを獲得。アルミホイールやボディカラーの選択肢は幅広い。
トリムグレードは5段階。ベースグレードに、ライフ、マッチ、エレガンス、Rラインから選べる。
まず、一新されたインテリアから見ていこう。ここでの最大のトピックは、12.9インチか15.0インチという、大きなインフォテインメント用タッチモニター。ただし後者は大きすぎ、前方視界にかかってしまうが。
エアコン用のメニューは、モニター下部へ常時表示。温度調整用スライダーには、イルミネーションが内蔵された。暗闇の中、手探りで操作する必要はなくなった。
ステアリングホイールには、うれしいことに、実際に押せるハードスイッチが復活。従来のタッチセンサーは、もどかしいほど反応が鈍かった。センターコンソールにはロータリー・コントローラーがあり、ドライブモードやラジオの音量などを調整できる。
優秀な仕上がりのプラグイン・ハイブリッド
もう1つの注目機能が、インフォテインメント・システムに実装される、チャットGPTを利用した「アイーダ」。アップル・カープレイとアンドロイド・オートから、次のフェイズへ進化したといえる。
音声認識機能で、質問するとアイーダが答えてくれる。試しに、世界最古の自動車雑誌は何か聞いてみたら、AUTOCARだと返ってきた。望ましい回答だ。
ちょっと意地悪だが、フォルクスワーゲンとメルセデス・ベンツ、どちらが優れた自動車メーカーかも尋ねてみた。2社とも定評あるメーカーだと答えた。なるほど。
続いてパワートレイン。新しいティグアンには、合計8種類が用意される。ガソリンターボのマイルド・ハイブリッドが2種類に、プラグイン・ハイブリッドが2種類、ガソリンターボが2種類、ディーゼルターボが2種類だ。
ディーゼルターボは、トルクが太く安楽。高速道路では、静かで高効率に走れる。高回転域ではノイズが少し目立つが、印象は悪くない。
ロータリー交差点などの低速域では、燃費を優先して、7速デュアルクラッチATの変速が稀にもたつく。シフトパドルを引けば、ギアを任意に選べる。
プラグイン・ハイブリッドは、ディーゼルに代わる頼もしい選択肢。203psか271psの最高出力が設定され、電気だけで走れる距離は、共通して最長99kmと長い。
今回は271psの方へ試乗したが、ガソリンエンジンと電気モーターの協働はほぼ完璧。ドライブモードも賢く、エコ・モードでは可能な限り電気で走り、スポーツ・モードではエンジンの出番が増す。
プレミアムSUVと呼べそうな、上質な乗り心地
アクセルペダルを踏み込みエンジンを吹かすと、やや張り詰めたノイズが響いてくる。とはいえ、ロンドンなどの市街地で施行される、ゼロエミッション・ゾーンへ侵入する機会が多いなら、好適なパワートレインになりそうだ。
また重心位置が低く、姿勢制御は安定していた。燃料タンクの容量を削ることで、駆動用バッテリーを積んでも、荷室容量は犠牲になっていない。
3代目ティグアンは、シャシーにも大幅な改良を受けている。新しい2バルブダンパーを獲得し、ゴルフGTIにも採用される、ビークル・ダイナミクス・マネージャー・システムで制御。快適性と敏捷性の両立が図られた。
サスペンションは15段階に調整可能で、コンフォートとスポーツとの間では、驚くほど特性が変わる。特にコンフォート・モードは、石畳など、ホイールの垂直方向の動きをしなやかに吸収。プレミアムSUVと呼べそうな、上質な乗り心地を披露した。
フォルクスワーゲンの技術者は、魔法のじゅうたんのような乗り心地は狙わなかったと話す。路面との接地感を保ちつつ、走行時の快適性を向上させることへ注力したという。
それは、ステアリングホイールやシートベースへ伝わる、不快ではないフィードバックで達成されている。しなやかでありながら、不自然なグラつきはなし。カーブでのボディロールも、約1.7tあるSUVとしては、驚くほど抑制されている。
日常へ溶け込み、快適な移動を叶える
今回の試乗は南フランスの道が舞台だったが、筆者はコンフォート・モードへ強く惹かれた。カーブでは多少のボディロールを示すが、不安に感じるほどではない。
その巧妙な足さばきに、スポーツ・モードを選ぶ人がどの程度いるのか、疑問を覚えるほど。フォルクスワーゲンは、他に家族が乗っていない出張の帰り道など、長距離を飛ばしたい時に適すると主張するが。
確かに、身のこなしは引き締まるものの、重心位置の高いSUVという束縛からは逃れられない。カーブへ積極的に飛び込めば、高めの位置の上半身は、サイドボルスターの間で左右に振られてしまう。
ステアリングラックも新設計。反応は正確で、レシオは適度にクイックで、扱いやすい。活発に運転しても、操る自信は保たれる。
燃費は、試乗したディーゼルターボで18.8km/L。長距離移動が多いなら、やはり訴求力はまだ高い。プラグイン・ハイブリッドは、こまめに充電し、走行可能距離の範囲であれば、ガソリンを燃やさず移動も可能だろう。
わたしたちの日常へすんなり溶け込み、快適な移動を叶えてくれるティグアン。高さ方向で10mm増えた車内空間や、33L大きくなった荷室など、使い勝手は2代目から確実に引き上げられている。アップデートされたインテリアも好印象だ。
まさに、クロスオーバーのゴルフという謳い文句どおり。英国での試乗が待ち遠しい。
◯:比較的小さなサイズで大きな実用性 優秀なパワートレイン 知的なインフォテインメント・システム
△:プラグイン・ハイブリッドの価格 少し荒いディーゼルターボ 期待ほどではないチャットGPT
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