この記事をまとめると
■自動車メーカーのレース参戦には「実験室・広告塔・人材育成」の3つの理由がある
社長が自らドリフト! 万人ウケ主義だったトヨタがいまクルマ好きに寄り添う理由
■一方でレース参戦が高じて自動車メーカーを立ち上げてしまった例も少なくない
■レーサーとしての顔を持つ社長としてはトヨタ自動車の豊田章男社長が有名だ
レース参戦がきっけけで立ち上げられたメーカーは意外と多い
F1、WRC、インディカー、NASCAR、スーパーGT、そしてスーパー耐久などなど、世界中にはさまざまなモータースポーツがある。
自動車メーカーがモータースポーツに参戦する理由として、昔から3つの視点が注目されてきた。
ひとつは「走る実験室」。1900年代初頭から中盤にかけて、自動車が富裕層の乗り物や公共交通機関という領域から、一般家庭向けの乗用車として広まっていった。その際、エンジンの高出力化と耐久性、そしてクルマ全体の運動性能などを高めるため、モータースポーツは良き実験場となった。
ふたつ目の視点は「走る広告塔」。モータースポーツでの戦歴が、新車販売を大きく左右する時代があった。クルマの性能のみならず、レース仕様に憧れを持つユーザーに対するブランド戦略という意味合いも強かった。
3つ目の視点は「人を育てる場」。ラップタイム、順位、そして完走など、モータースポーツでは結果を出すことが最優先だ。それに向かって、量産車では体験できないような短期集中的な技術開発を実践することが、エンジニアの学習の場となってきた。
ここで、視点を自動車メーカーの経営者に向けると、いまも昔も、大きくふたつのタイプに分かれるように思う。ひとつは、そろばん勘定第一のマネージメント優先の銀行家。そしてもうひとつが、いわゆる「カーガイ(クルマ好き)」である。そのカーガイを象徴するのが、自らモータースポーツに参戦することだ。見方を変えると、モータースポーツに参戦することが基点で、そこから自動車メーカーを起こすというケースもある。
「カーガイ」としてレースに積極的に参加する豊田章男社長
具体例を見てみると、モータースポーツ基点で現存している主なメーカーは、フェラーリ、マクラーレン、ロータスである。レーシングドライバーとして実績と腕前では、ブルース・マクラーレンが群を抜いているが、若くして亡くなっているため、ブルース・マクラーレンは量産車メーカーとしてのマクラーレンに直接関与していない。
チューニング系では、シェルビーやサリーンなどがあるが、ともに創業者はレーシングドライバーだが、レースチーム監督としてのイメージが強い。
一方、生産台数が多い大手メーカーでのカーガイといえば、トヨタの豊田章男社長が筆頭だ。スーパー耐久やニュルブルクリンク24時間レースなどに参戦すると同時に、量産車開発でのマスタードライバーも務める。
「もっと良いクルマ作り」というトヨタグループ全体でのスローガンを、自らが現場で体感することで、グループ内社員はもとより、ディーラーやユーザーに対する”社長の本音”として伝わる。
過酷な日常業務の中で、レース参戦することは、肉体的にも精神的にも大きな負担であるはずだ。それでもモータースポーツに挑戦し続ける姿勢が、さまざまな意味での「トヨタの強味」に直結しているのだと思う。
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