GENROQ CAR OF THE YEAR 2018-2019:Super Sports & GT
ホンダ NSX × アルピーヌ A110 × ロータス エキシージ スポーツ410 × ジャガー XJR575
GENROQ カー・オブ・ザ・イヤー 2018-2019、スーパースポーツ&GT部門を徹底評価!:前編 【Playback GENROQ 2019】
極まるパフォーマンス
年に一度、GENROQ誌面を彩ったクルマたちを一堂に集めて改めて評価をするGENROQ CAR OF THE YEAR(GOTY)。スーパースポーツ&GTの代表として集めたクルマは7台。多彩な顔ぶれが揃ったGOTY 2018-2019 スーパースポーツ&GT編の第二部は、ホンダ NSX/アルピーヌ A110/ロータス エキシージ スポーツ410/ジャガー XJR575を取り上げる。
3モーターハイブリッドのホンダ NSXは先ごろマイナーチェンジを行い、走りの特性をリファインしてきた。今回はFSWというハードなステージで、その性能を思い切り解き放つ。日本代表スーパースポーツが、欧州勢を相手にどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、楽しみだ。(前編はこちら)
Honda NSX
ホンダ NSX
島下泰久「扱いやすさが格段に向上。現代版タイプSも悪くないかも」
ミッドマウントされたV型6気筒3.5リッターターボエンジンに、左右前輪をそれぞれ駆動する2基、そして後輪に1基の計3つの電気モーターを組み合わせた革新的なハイブリッドパワートレインをアルミスペースフレームボディに搭載して、2016年に登場した第2世代NSX。極めて高いパフォーマンスを発揮する一方で、その制御の複雑さ故にドライバーフレンドリーとは言えない面もあり、評価あるいは賛否は分かれた。
初の改良版となる“2019年モデル”の最大の狙いは、この評価を改めることにあった。タイヤを変更しアンチロールバーやブッシュ、ハブなどの剛性を高めたほか、複雑なハイブリッドシステムの制御を見直して、より自然、そして軽快なフットワークを目指している。
先にワインディングロードでは、良い意味で制御感が薄まり、従来に較べればずいぶん自然なドライビングで速さを引き出すことができるようになったのを確認している。ではサーキットではどうだろうか。
IDS(インテグレーテッド・ダイナミック・システム)を“TRACK”にセットしてコースへ入ると、まずは姿勢変化が抑えられ、乗り味がフラット感を増しているのを確認できた。今思えば、当初の17年モデルは前後左右への荷重移動の際に、極端に言えば“どっこいしょ”という感じがあった。それが新型では、実は1.8トンもある車重をさらに意識させない軽快感を手にしている。
その恩恵はブレーキングからターンインまでの微妙なコントロールに効いていて、コカコーラ・コーナーなどは抜群に攻めやすくなった。ステアした方向に巻き込むように曲がっていくような感覚が薄れて、舵角なりにインに向いていくからリズムも流れもコントロールしやすい。相変わらずリヤの限界を超えた時の動きは速めだが、こうしたカウンターステアを要する場面でも、動きの唐突感はだいぶ薄らいでいる。
ただし、クルマやタイヤの状態が饒舌に伝わってくるかという点についてはまだ満足とは言えない。路面温度があまりに低かったのでそのせいもありそうだが、17年モデルに較べて姿勢変化が抑えられたこともあって尚のこと限界が掴みにくい気がした。プロならこれでいいが、アマチュアドライバーは、もっとクルマと密に対話したいのだ。
動力性能数値に変更はないが、やはり制御に手が入れられたことで、ドライバビリティにはさらに磨きがかかった。コーナー立ち上がりでのトルクのツキの良さと、その先の爆発的な伸びは快感。7500rpmまでしっかり回るだけでなく、回したくなるスーパースポーツらしいパワーユニットに仕上がっている。9速DCTの鋭い切れ味も快感である。
世間では相変わらずタイプR待望論が渦巻いているが、私としてはNSXは、この独創的なハイブリッドシステムをとことん磨き上げていくべきだと思う。だが、今回サーキットで乗ってみて、走りの手応えがよりソリッドに伝わるトラックエディション的なものは欲しくなった。現代版NSX タイプS、悪くないと思うのだが、どうだろう?
渡辺敏史「さらなる昇華に期待したい」
初出時のNSXの運動性にはアンダーステアとオーバーステアの特性を行き交うような微妙な癖があった。主に前輪側の積極的なモーターベクタリングの影響だろうそれといかに巧く対話するかが新しいプレジャーになるのかもと思わなくもないが、第一印象としてはやっぱり気持ち悪い。そこにホンダも向き合いながらアップデートされた19MY仕様でははっきりとわかるほど特性が素直になった。
固める方向で再セットアップされた足まわりはサーキットでも十分な余力をみせた一方、一般道でも乗り心地に悪影響はない。ただしカチッとしたクルマの動きに対する操作系の軽さとの釣り合い感は今ひとつ。相変わらずな室内の収納力をどう高めるかなど、総合的な質感向上のためにさらなるすり合わせを施すべきところもある。ともあれ今後のスポーツカーのあり方をリードする可能性も高い、唯一無二のドライブトレインをホンダがどう昇華させていくかは大いなる見どころだと思う。
大谷達也「クルマとの対話に没頭できる」
たとえドライバーが荷重移動を怠っても、スポーツモードもしくはスポーツ+モードであれば、2基のモーターが左右の前輪を独立して制御するSH-AWDの効果により、ステアリングを切るだけで何ごともなかったかのようにターンインを始める2代目NSX。富士スピードウェイでの試乗ではサーキット専用のトラックモードを試したが、スポーツモードやスポーツ+モードとの差は思いのほか小さかった。
もっとも、これは話の順序が逆というべき。サーキットでは知らず知らずのうちにしっかりと荷重移動を行なっているので、SH-AWDの恩恵を受けにくいと説明すべきだろう。足まわりの設定が見直された新型は、限界域の挙動が掴みやすいうえ、スロットル操作に対する反応も穏やかなため、クルマとの対話に没頭できるのが美点であった。9速ATがもたらすシームレスで素早い加速により、ストレートエンドでその最高速は270km/hに到達したこともレポートする。
清水和夫「このクルマにライバルは存在しない」
10年以上ぶりに復活したNSXは3つのモーターを持つハイブリットスポーツカーだが、他に類がない独自のテクノロジーで価格も性能もスーパーカーの仲間入りをした。実はポルシェやアウディの技術者の中にはNSXが採用したモーターベクタリングの可能性を信じている人がいるのだが、当初は商品として熟成が少し足りず、シャシーの制御面で乗りにくさを感じるところもあった。
ホンダはすぐにマイナーチェンジでアップデートを行った。2019年型は初期モデルと違ってフロントアクスルのモーター制御が洗練され、ハイスピードで走っても限界が分かりやすくなった。今回の富士スピードウェイでは1分53秒台をマークし、筑波サーキットでも1分1秒台で走れるから911GT3やニッサン GT-Rと肩を並べられるだろう。価格は3000万円近いが、技術のオタク度を考えると安いかもしれない。NSXと同じドライブフィールとパフォーマンスを可能とするライバル車は存在しないからだ。
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)、三橋仁明(Noriaki MITSUHASHI)N-RAK PHOTO AGENCY、田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFICATIONS】
ホンダ NSX
ボディサイズ:全長4490 全幅1940 全高1215mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1800kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ
総排気量:3492cc
エンジン最高出力:373kW(507ps)/6500-7500rpm
エンジン最大トルク:550Nm(56.1kgm)/2000-6000rpm
モーター最高出力:前27kW(37ps)×2 後35kW(48ps)
モーター最大トルク:前73Nm(7.4kgm)×2 後148Nm(15.1kgm)
トランスミッション:9速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後ウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前245/35ZR19 後305/30ZR20
環境性能(JC08モード)
燃料消費率:12.4km/L
車両本体価格:2370万円
Alpine A110
アルピーヌ A110
高平高輝「現代では稀な軽量設計がもたらす身軽さと扱いやすさが素晴らしい」
前評判がこれほど高いとどうしても見る目が厳しくなるものだが、なるほど新しいA110はドンピシャのランニングシューズ感覚である、と感心した。軽快敏捷、自由自在のシャープな身のこなし、さらに後輪が滑り出しても十分にコントロールできるピーキー過ぎないバランス感覚が好ましい。エリーゼほど剥き出しのスパルタンさはなく、ケイマンほど“装甲”されているソリッドな感じもせず、身軽さと扱いやすさがちょうどいい塩梅であり、さらに各部の建て付けなども、アルファロメオ 4Cなどとは比べ物にならないぐらい“ちゃんとした”出来栄えだ。
もっとも、私のような世代のオジサンからすれば、新型を素直にA110と呼ぶことにはちょっと抵抗がある。WRC創設初年度(1973)のチャンピオンマシンであるA110は古いラリーファンにとっては伝説のアイドルのような存在なのである。かつて素晴らしいコンディションのA110(エリック・コマスのチームから借りた)で、コルシカ島を一周するクラシック・ラリーに出場したことがある。そのオリジナルA110と比べればサイズはずっと大きい。オリジナルA110は最後期型の1600Sでも全長は4m以下で全幅は1.6m以下、車重は800kgぐらいだったのだ。
もちろん、それでも現代では飛び抜けて軽量コンパクトなことに疑いなく、これほどスポーツカーの定理に忠実なミッドシップ2シーターはほとんどない。現実的なライバルと目されるポルシェ718ケイマン(1360kg)と比較しても1110kgの車重(ピュア/リネージュは20kg増)は際立っている。
一方で、弱点というほどではないが、ちょっと見劣りするのがエンジンだろう。ルノー メガーヌ R.S.などと同様の4気筒1.8リッター直噴ターボは185kW(252ps)/6000rpm、320Nm(32.6kgm)/2000rpmというもの。ギリギリまで最高出力を突き詰めたものではなく、当世風のターボエンジンらしくごく低い回転数で最大トルクを生み出す設定だから、リミットまで引っ張ってもパワーが迸るわけではない。0-100km/h加速は4.5秒、最高速度は250km/hというが、正直言って広いサーキットではちょっと物足りなくなるのは事実である。やはり、現実のワインディングロード、それもモンテやコルシカのようにタイトでツイスティな山道が打ってつけの舞台だろう。
「ピュア」ではシェル一体型のバケットシートが標準で前後スライドしかできないが、高めの着座位置は取り付け金具を変えることで工夫できるという。そのうちアフターマーケットパーツが出回るだろうから、それほど心配せずともいいはずだ。何より、あれこれとモディファイを夢想する気持ちにさせてくれること自体、近年では珍しいクルマである。実用性ではケイマンに一歩譲るだろうが、乗り心地もスパルタンではないから日常使用に不満はない。およそ800万円と、気軽に手を出せる金額ではないが、端から諦めるほど遠い存在でもない。思い悩むにはこれまたピッタリというか、実に憎らしい設定ではないだろうか。
佐藤久実「笑顔になれるスポーツカー」
タイミングが合わず、なかなか乗れなかったアルピーヌA110にやっと乗れた! 運転席に座ると、バケットシートでピタッとカラダが固定され、すごく収まりが良い。助手席の足もとにはアルミ製の立派なフットレストがあしらわれ、数々のラリーで輝かしい成績を収めたオリジナルのA110を思い起こさせる。その走りには、完成度の高いライトウェイトスポーツの魅力が満載されていた。とにかく軽快さが際立つ。
コーナリング性能も高く、ステアリングを切るとリニアに動いてくれるので、いつまでもブレーキを残していると容易にリヤがブレークする。でも、限界域も実にコントローラブル。クルマの動きがとてもわかりやすいのだ。それなりにロールはするが、その動きさえも穏やかで、不安感も皆無。軽さだけじゃなく、前後重量配分や重心も絶妙なバランスなんだな、と実感させる。久しぶりに、楽しくてついつい笑顔になるクルマと出会えたような気がする。
渡辺敏史「究極的に愉しい1台」
この取材のおかげで、初めて新しいアルピーヌ A110をクローズドコースで走らせることができた。その走りは公道での印象と大きく変わらない。言い換えればルノー・スポール謹製のフットワークは路面状況やタイヤの能力には依っていないということになるだろう。何より最大の魅力は速さよりも饒舌さにあって、掌の力加減ひとつ、足の指の動きひとつでさえじわりと挙動に反映される、その姿勢づくりの楽しさはマツダ ロードスターにも相通じるところがあるが、A110はそこにいつでも引き出せる力強さも加わることでドライビングをかえって気軽なものにしている印象さえある。
そしてブレーク状態に至ったところで、ミッドシップの気難しさが一気にのしかかってくることはない。富士スピードウェイでさえ身に余らせない運転の楽しさを望外の日常性と共に備えるA110は、長らく続くポルシェ ボクスター/ケイマンの独走に待ったをかける最右翼の1台だろう。
清水和夫「ロードカーとしては満足できる」
根がラリードライバーの私にとって、モンテカルロ・ラリーで走っていたアルピーヌは憧れだ。その時から、アルピーヌのブルーがマイカラーとなった。数十年ぶりのアルピーヌはミッドシップ+ターボエンジンで、パフォーマンスはまあまあという感じだが、ギヤボックスがDCTしかない点はバツだ。このカテゴリーのスポーツカーには絶対にMTが必要だ。
富士スピードウェイでは2分2秒前後で走れたので、ポルシェ ケイマン(先代の素のモデル)と同じくらいだろうか。2シーターのクーペのくせに荷物はほとんど載せられないので、実用性ではポルシェに敵わない。エンジンも最近の4気筒ターボとしてはパワーとトルクが少し元気がない。エンジンの加速フィールも平均的だろうか。サーキットでは好印象ではなかったが、ロードカーとしては満足できた。2ペダルを希望する人にはお勧めできるし、ポルシェと違ってエスプリの利いた楽しいハンドリングが味わえる。
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)、三橋仁明(Noriaki MITSUHASHI)N-RAK PHOTO AGENCY
【SPECIFICATIONS】
アルピーヌ A110ピュア
ボディサイズ:全長4205 全幅1800 全高1250mm
ホイールベース:2420mm
トレッド:前1555 後1550mm
車両重量:1110kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
ボア×ストローク:79.7×90.1mm
総排気量:1798cc
最高出力:185kW(252ps)/6000rpm
最大トルク:320Nm(32.6kgm)/2000rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前205/40R18(7.5J) 後235/40R18(8.5J)
最高速度:250km/h(リミッター作動)
0-100km/h加速:4.5秒
環境性能(JC08モード)
燃料消費率:14.1km/L
車両本体価格:790万-811万円
Lotus Exige Sport410
ロータス エキシージ スポーツ410
吉田拓生「クルマと人間の息がマッチしたとき410は最高の悦楽を与えてくれる」
V6搭載のエキシージSが2012年にデビューして以降、ロータス随一の急先鋒は容赦なく進化してきた。わかりやすいのは最高出力で、当初350psだったスーパーチャージドのV6は、スポーツ380で文字通り380psにスープアップ。昨年はついにスポーツ410で大台を超え、今年の東京オートサロンで発表されたカップ430は限定車ながら430psに達している。
パワーが増したということは、当然のようにシャシーの側にも進化が盛り込まれている。もともと1ケタ台だった体脂肪率をさらに削ぎ落とすような努力が続けられると同時に、サスペンションシステムやエアロダイナミクスにも時代相応のアップデートの跡が見てとれる。
今回ドライブしたエキシージ スポーツ410は、410psの大パワーを、フロント60kg、リヤ90kgのダウンフォースによって抑えつける。もちろん軽量化にも抜かりはなく、1110kgまで低められている。
昨今のスポーツカーは20世紀の終わり頃と比べて性能も信頼性もはるかに高まっており、ツルシの状態でサーキットを連続周回できるクルマも増えている。それでも「ただ周回できる」だけでなく、真剣にサーキット遊びに没頭できるのはロータスくらいのものだろう。中でもエキシージ スポーツ410は珠玉だ。
ピットロードの出口から全開加速していくと、シフトアップの度にパワーの炸裂を楽しめる。だが驚くべきはクラッチミートの際にほとんどフロントが持ち上がらない点で、しなやかさを残しながら沈み込みを抑えたリヤサスと、新型クラムシェルによるフロントのダウンフォースが絶大であることがわかる。
スポーツ380以降のエキシージの魅力は、シャシー性能を食いつぶさんばかりのエンジンパワーの危うさで、その緊張感はスポーツ410に至って限界まで高まっている。特にコーナリング中、まだ旋回Gが残っている状態でのスロットルオンは、例えパイロットスポーツカップ2が温まっている状態でも油断できない。エリーゼのようにコーナーで少しリヤを滑らせながら帳尻を合わせるような猶予は、スポーツ410には残されていないのである。
フルブレーキングからのターンイン、コーナーの頂点を捉えた瞬間のバランススロットル等々、一連の動きを完璧にこなすことで生まれるクルマとヒトの走行芸術。スポーツ410におけるサーキット走行の愉悦に浸れるのは、断崖絶壁の間に張られた1本の綱を素足で渡れるようなドライバーだけなのである。
スポーツ410の走りの中で特に印象的だったのは、FSWのヘアピンから300Rを通過していく高速区間で、今回集まったどのクルマよりもスタビリティが高く、走行ラインに自由度があり、フルスロットルをキープできる時間も長かった。
一方残念に思えたのはストッピングパワーが足りなかった点で、公道走行まで考慮しているであろうブレーキパッドの性能が、サーキットの全開走行には見合っていなかった。だが、難癖を付けるとしたらその程度のことしかない。スポーツ410の完成度は恐ろしく高いのだ。
山崎元裕「クルマの隅々に自分の血が通う」
サーキット走行にフォーカスしたエキシージCUPシリーズのノウハウを活かしたロードモデル。エキシージ スポーツ410は、ロータスからはこのように説明されているけれど、このモデルもそのスポーツ性はロードモデルとは思えないほど十分に高い。コンパクトなドアを開け、サイドシルを越えてシートに身を委ねるまでの作業は一苦労。けれどもシートに着席してしまえば、走りの中で見事なまでにクルマの隅々にまで自分の血が通うような人馬一体感を感じることができるのだから、さすがはロータスの作である。
ミッドに搭載されるエンジンは、最高出力が416psにも達する3.5リッターのV型6気筒スーパーチャージャー。それが負担する乾燥重量はわずか1054kgだから、加速時にはほとんど重量感を感じない。ストイックに軽さを追求するロータスの伝統は、現在でももちろん生き続けているのだ。軽快なコーナリングはこのモデルが持つ最大の特徴。とにかく楽しい、の一語に尽きる。
島下泰久「すべてがダイレクト、すべてがシビア」
自分が乗る番が来る前、ストレートを行くエキシージのレーシングカーのような豪放なサウンド、その時走らせていた佐藤久実さんの、奥まで思い切り突っ込んで行くブレーキングを見て、これは気合いを入れなければと気持ちを引き締めた。実際、その走りは市販車というより、ほとんどレーシングカーの領域にあったと言っていい。
掌にダイレクトに伝わるグリップ感、アクセルワークに忠実に反応するエンジン、室内で聞いても迫力たっぷりの排気音、ソリッドなブレーキ・・・。すべてがダイレクトだが、そのぶん走りはシビア。やったことがそのまま返ってきて失敗は許容されずアンダーステアにもオーバーステアにもすぐ振れるが、もちろんそれは楽しさでもあって、スウィートスポットに入った時の旋回感はサイコーだ。今回はドライビングポジションも合わせ切れず、味見程度に終わってしまったのが悔やまれる。もし次の機会があれば、準備をしっかり整えて臨みたい。
佐藤久実「気分はレーシングカーそのもの」
サーキット用の「CUP」から公道向けにチューニングされたというエキシージ スポーツ410。とはいえ、十分にサーキットで楽しめるポテンシャルだ。しかも、今回の試乗車の中で唯一の6速MT。貴重な存在だ。車両重量はわずか1110kgなので、当然アクセルを踏むと軽量化がもたらす速さの恩恵を感じられる。だが、ただ軽いだけでなく、意外なほどガッシリしたフィーリングに意表を突かれた。ダウンフォースで車体が路面に押さえつけられているからだろう。それに加え、ステアリングもずっしりと重い。油断すると手アンダーが出そうになる。
そしてコーナリングは、MRレイアウトとイギリス流チューニングにより、ターンイン時にクルマの向きを変える必要がある。つまり、長くブレーキを残していると、アンダーステアやオーバーステアとなる。ソリッドな走り味は、もはやレーシングカーに乗っている気分にさせてくれる。ストイックなライトウェイトスポーツカーだ。
PHOTO/田村 弥(Wataru TAMURA)、市 健治(Kenji ICHI)、三橋仁明(Noriaki MITSUHASHI)N-RAK PHOTO AGENCY
【SPECIFICATIONS】
ロータス エキシージ スポーツ410
ボディサイズ:全長4080 全幅1800 全高1130mm
ホイールベース:2370mm
車両重量:1110kg
エンジン:V型6気筒DOHC+スーパーチャージャー
ボア×ストローク:94×83mm
総排気量:3456cc
最高出力:306kW(416ps)/7000rpm
最大トルク:410Nm(41.8kgm)/2500-7000rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前215/45ZR17(7.5J) 後285/35ZR18(10J)
最高速度:180mph
0-60mph加速:3.3秒
車両本体価格:1398万6000円
Jaguar XJR575
ジャガー XJR575
大谷達也「FSWでも満足できるパワフルさ。極上の乗り心地も素晴らしい」
XJシリーズ最強の“R”が積む5.0リッターV8スーパーチャージドの最高出力を25ps上乗せし、新たに575psとしたのがジャガー最新のハイパフォーマンスセダン、XJR575である。私は一昨年に行われた国際試乗会に参加し、ポルトガルの一般道でスーパースポーツサルーンとは思えない極上の乗り心地を味わってきたが、果たして富士スピードウェイで走らせるとどうなるのか? 期待と不安が入り交じった心持ちでエンジンを始動させた。
6500rpmからレッドゾーンが始まるパワーユニットは高回転を好むタイプで、回せば回すほどに力強さが増す。ただし、パワーの出方がスムーズなため、575psというスペックから想像されるジャジャ馬感は薄く、むしろ至極従順だ。それでも700Nmの大トルクにとって冷え切ったピレリPゼロのグリップを失わせるのは容易らしく、インラップの2コーナーで早くもリヤタイヤがズルッと流れた。このときはまだノーマルモードを選択していてスタビリティコントロールがオンの状態だったが、それでも軽いスライドを容認するセッティングにジャガーらしい気骨を見た気がした。
公道で快適な乗り心地を示したシャシーは、サーキットに舞台を移しても洗練された感触を示す。それゆえに、ステアリングやボディから伝わってくるインフォメーションが豊富とはいえないが、手がかりは残されており、前述したとおりタイヤのグリップ状態を把握するのも難しくない。また、ロールやピッチングも本格的なスポーツカーに比べて大きめとはいえ、際限なく姿勢を崩していくわけではなく、またロールのスピードもよく制御されているので不安は覚えない。サーキットでタイヤの限界を引き出す走りを試すにも不自由することはなかった。
ウォームアップが済んだところでダイナミックモードに切り替えると、さらにロールは抑えられるようになった。それでも絶対的には小さくないが、乗り心地とのバランスを考えれば、むしろ絶妙のセッティングと積極的に評価したくなる。
それにしてもこのエンジンは恐ろしくパワフルだ。サーキットではXJR575よりはるかに速いエキシージ スポーツ410にストレートで進路を譲ったものの、その後も大きく離されることなく、300Rまでそのコンパクトな後ろ姿を視界に留めることができたのだから、立派と評して差し支えないだろう。ちなみにストレートエンドでは257km/hに達したが、このときもブレーキを労ってかなり早めに減速を始めていたことをお断りしておきたい。
敢えて弱点を指摘するとすればやはりブレーキだろう。もっとも、この種のスポーツセダンでサーキットを走ればブレーキが多少スポンジーになるのは当然のことだし、その状態でも踏力さえ増せば十分な制動力が得られたのだから、声を大にして指摘するまでもないだろう。
XJR575は確かにハイパフォーマンスモデルだが、「サーキット走行向き」というよりは「サーキット走行にも対応」と説明したほうが相応しい。これもまたジャガーらしいセンスといえる。
山崎元裕「だから大排気量・大出力のRWDは面白い」
これまでXJシリーズでは最強だったXJRを25ps超える、575psの最高出力を発揮するジャガー XJR575。その速さはやはり圧巻だった。アクセルペダルを一気に踏み込んでパフォーマンスをフルに楽しむためには、やはり長い直線を持つFSWのような舞台が必要だし、とはいえこのストレートもXJR575は驚くほどの安定感とともにスーパースポーツ並みの速さで駆け抜けてしまう。
そこから先のコーナリングでは、オーソドックスRWDの駆動方式が演出する、これもまたダイナミックな、そして近年忘れかけていたフィーリングを大胆に味わわせてもらうことにする。これだから大排気量・大出力のRWDは面白い。そしてふと気づけば、自分の周囲には贅を極めたともいえる見事なインテリアや、見た目にも快適な後席があることが分かる。究極の走りと快適性を実現した姿に、現行XJの進化は、もしかするとこれで終わりなのか。思わずそう思ってしまった1台だった。
吉田拓生「意のままに操れるドリフトマシン」
最高出力こそ575psもあるが、車重2トン弱、リヤシートで社長がふんぞり返っていることも珍しくないジャガー XJでサーキットを走って何が楽しいのか? そんな考えはXJR575を前にしたら忘れるべきだ。このクルマは正統なFRのシャシーに、低回転からモリモリと湧き上がる大パワーが融合している。だから富士スピードウェイで楽しいのは、ストレートではなく、むしろ中低速のコーナーだ。
右足でリヤタイヤのグリップを感じつつ、ステアリングよりもスロットルでハンドリング特性をコントロールできる。スタビリティコントロールを切ってもドライバーを裏切るような動きは一切しなかったので信用できる1台といえるだろう。ノーマルのハチロクあたりだったらテールを出すこともドリフトを続けることも難しいが、XJR575ならそれも意のままだ。もちろん走行モードの切り替えで安楽な走りも享受できるから、これ1台で2つのまったく異なる個性を楽しむことができる。
佐藤久実「濃いジャガーの血が流れている」
ドライブモードをダイナミックにしてコースイン、アクセルを開けていくと、獰猛な獣の咆哮のごとく低いサウンドを轟かせながら加速していく。XJといえば、ジャガーのフラッグシップサルーンだ。ノーマルモードで街中を走っている際には、こんなに吠えない。静かに穏やかに、そしてゆったりとした乗り味で走る。この豹変ぶりがジャガーの魅力でもある。
575ps/700Nmのハイパワー、この巨体にも関わらずFRとなれば、そのハンドリングもまた獰猛か、と用心するが、こちらは実に良く“躾けられたジャガー”だった。ダイナミックモードでさえ、サーキットの速度域では豊かなストローク感があり、ガッツリと路面を捉えている。クルマの性格上、安定志向は当然だし、大きく重いから、スポーツカーのような俊敏さこそないが、ステアリング初期のレスポンスは良く、曲がりにくいというストレスを感じることもない。ジャガーの濃い乗り味を感じられるサルーンカーだ。
PHOTO/三橋仁明(Noriaki MITSUHASHI)N-RAK PHOTO AGENCY、田村 弥(Wataru TAMURA)
【SPECIFICATIONS】
ジャガー XJR575
ボディサイズ:全長5135 全幅1905 全高1455mm
ホイールベース:3030mm
車両重量:1960kg
エンジン:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー
ボア×ストローク:92.5×93mm
総排気量:4999cc
最高出力:423kW(575ps)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/3500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前265/35ZR20(9J) 後295/30ZR20(10J)
最高速度:300km/h
0-100km/h加速:4.4秒
車両本体価格:1887万円
※GENROQ 2019年 3月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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