ロータリーエンジン搭載のPHEV
話題のロータリーエンジン搭載PHEVモデル、マツダ「MX-30 ロータリーEV」。11年ぶりに復活して搭載された、発電専用のロータリーエンジンの仕事ぶりは? その音は? いろいろと気になるところを、横浜市内で開催された試乗会で確かめてみた。MX-30 ロータリーEVのボディは全長4,395mm、全幅1,795mm、全高1,595mmという比較的コンパクトなSUVタイプで、すでにデビュー済みのBEV、MHV(マイルドハイブリッド)モデルと全く同じ。フロントフェンダーのおむすび型のロータリーマークや、リアハッチに取り付けられた「e-SKYACTIV REV」バッジ、専用デザインのホイールで識別できる。ボンネットを開けると、ロータリーエンジン、高出力ジェネレーター、モーターを同軸上に並べたコンパクトなパワートレーンを見ることができ、カバーには同じくe-SKYACTIV REVの文字が見て取れる。スペックは、発電専用として搭載された「8C」型と呼ばれるシングルローターの直噴ロータリーエンジンが最高出力53kW(71PS)/4,500rpm、最大トルク112Nm/4,500rpm、駆動用のモーターは最高出力125kW(170PS)/9,000rpm、最大トルク260Nmをそれぞれ発生する。リチウムイオンバッテリー容量はEVモデルの半分の17.8kWhで、EVのみの航続距離は107km。ロータリーエンジンで発電すれば、50Lの燃料タンク(無鉛ガソリン)とWLTCモード燃費の15.4km/Lから計算して700~800kmの航続距離が可能になるはずだ。システムとしてはEVを主体としたシリーズハイブリッド方式であり、充電もできるのでPHEVとなる。充電時間はバッテリー容量が小さいので、急速でも普通でも短時間で行うことができる。もちろんV2H、V2Lに対応している。
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走行モードは3つ
使い勝手についてはプラス、マイナスのいろいろなご意見がある(マツダ)とする前後観音開きの「フリースタイルドア」を開けて車内に乗り込むと、ファブリックのシートや、コルク素材を使用したフローティングデザインのセンターコンソール部などによってサステナブルな空間に仕上げられているのがわかり、ぴたりと決まるドライビングポジションが取れることもあいまってまことに心地よい。シフトレバー脇には走行モードを選択するレバーがあり、「EVモード」はできるだけ長くEV走行を続けたいときに使用する。「ノーマルモード」はバッテリー残量が十分なときはEVで走行し、加速時などより大きな出力が要求された時にはロータリーエンジンを始動して、バッテリーに電力を供給する設定だ。「チャージモード」はバッテリー残量を20~100%の範囲で10%刻みに設定できるモードだという。最高速度はいずれのモードでも共通の140km/hとなっている。
ロータリーエンジンは黒子?
横浜市内の一般道と首都高を周回するコースに、まずはノーマルモードで走り出す。スタート時にバッテリー残量をチェックするとほぼ100%だったので、そのままだと本当に静かなモーター走行がキープされ、まるでEVモデルそのものという感じだ。170PSのモーターに対して1780kgというちょっと重めのSUVボディなので、加速時にはハイパワーEVモデルのようなワープ感ではなく、必要十分な伸び加減でとても滑らかに走る。自然な操作感覚を実現した「エレクトリックGベクタリングコントロールプラス」や高精度なトルクコントロールを行う「モーターペダル」、制動力と回生力を上手に分配する「回生協調ブレーキ」などが黒子役に徹しつつ、ドライバーとクルマの一体感を高めている。黒子、といえばロータリーエンジンもそう。首都高の上り坂の合流地点などで強めにアクセルを踏んでも、遠くで「ブーン」と音がするだけで走行音にまぎれてしまい、聞き耳を立てていないとわからないないほどの音量なのだ。マツダの担当者によると、チャージモードで100%に設定しておくとすぐにエンジンがかかるとのことだったので、一般道に降りてその設定に。車速が低いと車内がより静かなので、ロータリーエンジンが始動するのがよく聞こえる。かかり方としては、「ビィィィン」という比較的大きな音で、かかっている時間自体は結構短い。数秒かかって止まり、しばらく走るとまたかかる、というのを繰り返す、という設定だ。エンジンオン、オフでの車体へのショックは全く感じられない。ここはさすがロータリーエンジン、というところか。当然、ガソリンを使うので燃費計の数字も下がっていき、最後は10km/L代半ばあたりを表示していた。
シングルローターの音
駐車場に戻って同じ設定を試してみると、停車状態でもエンジンが始動した。ボンネットを上げて聞いたその音は、言葉は悪いがちょっと屋台の発電機のような音色で、ボリューム自体も結構大きい。8Cロータリーの設計担当者に話を聞くと、シングルローターでかつ排気量が大きいので、こうした音になるのは当初からわかっていたらしい。これが、基本のロータリーエンジンの音で、ロータ数が増えて1ローターの排気量を小さくすると、周波数が打ち消しあったり密になったりということで音色が変わるとのこと。またロータリーエンジンは高回転域の方が出力と効率のバランスが取れるので、ノーマルモードでは2,300~4,500回転、チャージモードではもう少し高い2,800~4,500回転でエンジンが回るため、通常のアイドリングにくらべても音は大きくなるのだという。そしてこれに対するNVH(騒音や振動)対策や、走行状態に合わせたオン、オフができるようなチューニングを施すのに、結構な時間を費やしたのだそうだ。期待していた2ローターの13Bや、レーシングカーの787Bが搭載していた4ローターエンジンのような高周波の澄んだ音が聞こえないのは、こうした理由からなのだ。試乗会場には、そのRENESIS 13Bロータリーを搭載していた「RX-8」も待機していた。少し乗らせていただいたのだが、そのフリースタイルドアはMX-30にそのまんま引き継がれたようで、ドアノブやキャッチの形状がまるっきり変わっていなくて面白かった。ただ、生産終了から11年の時を経て復活したロータリーエンジンが、華々しい駆動用から黒子としての発電用へと姿を変えたのは、時代の変化と言わざるを得ない。
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