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乗るなら目立つブラックキャブ! 石油王が好んだ特注オースチン・タクシー(1) ベースは定番のFX4

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乗るなら目立つブラックキャブ! 石油王が好んだ特注オースチン・タクシー(1) ベースは定番のFX4

石油王が好んだ黒い特注オースチン

映画俳優のシド・ジェームズ氏や貴族のエディンバラ公は、匿名性が高いという理由で、ロンドンではブラックキャブ、通称ロンドンタクシーを運転していた。他方、石油王のヌバール・グルベンキアン氏も黒いオースチンを好んだが、これは良く目立った。

【画像】石油王が好んだ特注オースチン・タクシーとメルセデス・ベンツ600 同時期の英国車 も 全163枚

1896年に、大富豪の息子として生まれたヌバール。自身のランチ代の支払いを父に拒否され、1000万ドルの違約金で訴えた過去を持つという、破天荒な人物だった。

1955年に父がこの世を去ると、その遺産の殆どはポルトガルの慈善団体へ寄付された。しかし、親のビジネスセンスを受け継いだ若きヌバールもまた、豊かな財力を我がものとしていた。

上流階級の社交界では顔の広い人物で、グルメとしても知られ、多くの女性へ積極的にアプローチした。同時に、第二次大戦中はイギリス空軍兵を帰還させるために活動するなど、偉業は称えられた。

1959年には著名な実業家として、BBCのインタビュー番組に登場。機知に富んだ発言は、戦後の英国人の心を掴んだ。そんなヌバールは、クルマにも強い関心を寄せた。1972年に彼が亡くなると、残された特注のクルマたちには大きな注目が向けられた。

筆者もオークションへ出品されるコーチビルド・ボディが載ったオースチンを、1973年のテレビ番組で目にしたのをしっかり覚えている。その日は、学校が休みだったのだ。

馬車のように四角いキャビン ベースはFX4

このオースチンは、6500ポンドという驚くような高額で落札された。ヌバールの希望に応じて作られた専用のタクシーで、ボディを製造したのはロンドン南西部、バタシーに拠点を置いたFLMパネルクラフト社だ。

キャビンは四角く、ドアの上にはランプが吊り下がった。フラットな側面には、藤を編んだグラフィックの装飾が丁寧に施されていた。

タクシーでも、ボディの後ろ半分はリムジンのよう。19世紀後半、ビクトリア朝の馬車のように前席側にはルーフがなく、運転手は雨風にさらされた。これは、ヌバールが特注したクルマに共通した特徴だった。

「完全に濡れた人物を見ない限り、自分が完全に乾いているとは感じない」。と彼はこれに関して発言している。とはいえ、制服を着た運転手の身なりを守るため、格納式のルーフは備わったが。

ボンネットには女神のマスコットが載り、ドアハンドルは金メッキ。ブラックキャブでも、他に例がない特別なものであることは、誰の目にも明らかだった。

ヌバールからオーダーを受けたのは、ロールス・ロイスとベントレーのディーラー、ジャック・バークレー社。ベースになったのは、約1000ポンドで売られていた1960年式オースチンFX4で、約2000ポンドの費用でコンバージョンされたという。

FX4はモノコックボディではなく、シャシーが独立していた。特装のベース車両として、好適でもあった。特別なハイヤーだけでなく、霊柩車や配送用のバンなど、実際に多様なボディが載せられている。

プレイボーイのトレードマークに

ヌバールのタクシーはロンドンで注目を集め、都心部では最も知られたクルマの1台だった。プレイボーイの億万長者は、片眼鏡とシルクハット、蘭の花のコサージュがトレードマークだったが、専用ボディのオースチンも同様だった。

アルメニアの国籍も持ち、イラン大使館の武官でもあり、ロンドンの北西に位置するバッキンガムシャーや南フランスに邸宅を所有。特別なタクシーは悪評も生んだが、むしろそれを楽しんでいたという。

カスタムされたロールス・ロイスやメルセデス・ベンツ600も所有していた。それでも、ホテル・リッツ・ロンドンからの出発や、招かれたイベントへの移動手段として好んで使った。

「多くの人々が、オースチンのことを知っています。パーティやオープニング・セレモニーが終わると、どこに停まっているのか、教えてくれるんですよ」。とヌバールは後に話している。

とはいえ大富豪らしく、大きくて速い高級車が好きだった。メルセデス・ベンツSSで、英国のブルックランズ・サーキットを160km/h以上で走った経験があることもわかっている。65歳まで自ら運転しなかったという情報は、恐らく間違いだろう。

第二次大戦前には、速いスポーツカーを何台も所有していた。戦後にはロールス・ロイスへ好みは変化するが、ラグジュアリーなリアシートから運転手を急かしただけでなく、自らステアリングホイールを握ることも多かったらしい。

スピリット・オブ・エクスタシーのマスコット

1940年後半には、運転手が駆るビュイック・スーパーで、ジャガーSS100と速さを競ったという記録もある。ポルトガル西部のエストリルからシントラまで、ヌバールはリアシート側にも追加されたスピードメーターを見つめ、走りへ注文をつけたとか。

このスーパーは、ルーフがガラス張りに変更され、ダッシュボードはレザー張り。リアシートはベッドになるよう改造されていた。2枚目のスピードメーターは、彼のお気に入りだった。

特注ボディのオースチンは、3台が製造されたことは間違いないようだ。1957年11月のAUTOCARでは、ジャック・バークレー社を通じて、ヌバールが特別なタクシーを注文したニュースを報じている。

その数か月後に、前席側へルーフがないスクエアなブロアムボディがデザインされ、グリーンのクロスでインテリアが仕立てられることが判明。フロント側のルーフは折りたたみ式で、スピリット・オブ・エクスタシーのマスコットが載ることも決まっていた。

オースチンFX4は、1958年に発表されている。当初は、その前身のFX3がベースに選ばれていたはず。ロールス・ロイスのラジエーターを載せる希望は、却下されたという。

ヌバールのクルマには、イニシャルの「NG」で始まるナンバーが与えられることが多かった。タクシーの1台にも、1960年代半ばにNG 1が振られている。

今回ご登場願ったタクシーは、1960年に製造されたもので、2台目に当たると考えられている。ただし、納車されたのは1966年。3500ポンドのコストが掛かったようだ。

この続きは、石油王が好んだ特注オースチン・タクシー(2)にて。

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