Aston Martin Vantage AMR
アストンマーティン ヴァンテージ AMR
東京ナイトクルーズで煌めく「ロールス・ロイス カリナン」の世界 【Playback GENROQ 2020】
ピュアスポーツの真髄
ヴァンテージに高性能バージョンであるAMRが登場した。4.0リッターV8ツインターボの最高出力は510psで標準仕様と同じだが、7速MTとメカニカルLSDによる味わいが魅力の1台だ。
「アストンマーティンのハイパフォーマンスモデルに掲げられる“AMR”」
AMR、アストンマーティン・レーシングを意味するタイトルを背負った“ヴァンテージ AMR”の試乗に向かった先は、ニュルブルクリンク“AMRパフォーマンスセンター”。ここはニュル・テストセンターと呼ばれており、3年前にも先代ヴァンテージ GT8の試乗会で訪れている。新型モデルの開発テストから、カスタマーサービスを含むレース活動の前線基地でもある場所だ。
ハイパフォーマンスなエンジンとMT(マニュアルトランスミッション)と、それらを支える強化パーツを装備したモデルをAMRと呼ぶ、ハズだったが、最近は必ずしもMTに限った呼称ではなくなったようだ。
ヴァンテージ AMRは200台限定で先行発表され即完売したが、今回試乗するモデルは今後も継続するカタログモデルのオプションとして用意される7速MTである。
「操作分のタイムロスがありながら、0-100km/h加速はATから0.4秒遅れの4秒」
標準ヴァンテージとヴァンテージ AMRの違いをみてみよう。まずエンジンは4.0リッター V8ツインターボで共通だが、グラツィアーノ製軽量トランスミッションに対応して、最大トルクは8速ATの685Nmから7速MT用に625Nmに抑えられた。510psのパワーは同じで、MTの操作分のタイムロス(!!)がありながら、0-100km/h加速はATから0.4秒遅れの4秒と、MTとしてはかなり速い。最高速はどちらも314km/hという超絶ぶりだ。
さらにヴァンテージの特徴である電子制御デファレンシャル、通称Eデフが、AMRではシンプルな機械式LSDに置き換えられた。これで走行特性は大きく変わるだろう、と想像できる。さらにカーボンセラミックブレーキが標準装備となり、他のカーボンパーツ類も含め、実に95kgの軽量化に成功している。
「ATのセンターコンソールとは異なるシンプルな造形だが、これはこれで良い」
道路淵の縁石等を避けてやや上方に跳ね上がるスワンスイングドアを開けて、7速MTの太く短いシフトレバーを確認する。P/R/N/Dのスイッチに囲まれる8速ATのセンターコンソールとは異なるシンプルな造形だが、これはこれで良い。
シフトパターンは左下がドッグレッグの1速。クラッチはストロークとペダルそのものの剛性が確かで、適度な反力のクラッチをミートさせる感覚が足裏で感じ取りやすい。クラッチ操作の時代が長かったアストンマーティンらしいポイントの押さえ方である。
せっかくニュルまで来ているので、GPコースを走行できれば、より安全にAMRの性能を確かめられるのだが、それはかなわなかった。だがエンジンは7000rpmまでキッチリと回り切るのが気持ちいい。8速ATの方は上限を6500rpm(7000rpmまで回るが)に抑えるのに対して7速MTはレッドゾーンまで回せるのだ。
「LSDのロック率は加速側38%、減速側40%! メーカーの思想が感じられる」
シフトアップでクラッチを切っても、エンジン回転はストンと落とさず、次のギヤにエンゲージしやすいよう回転を保つ。聞いた話では全開シフトも可能だったようで、その際クラッチ操作による加速の中断は最小限に抑えるという。
もちろんシフトダウン時は自動ブリッピングを行う。郊外路を100km/hで走行中にミスして4速ではなく2速に入れてしまったが自動ブリッピングで回転をリミットギリギリまで引っ張り上げて、シフトロックを回避してくれた。
ヴァンテージの切れ味鋭いハンドリングと高いトラクション性能がメカニカルLSDに変わるとどうなるのか? アウトバーンへの流入のループを3速で旋回し、コーナーの頂点で深々とアクセルを踏み込むと、左右に回転差が生じたリヤはLSDが回転差を制御してリヤタイヤのスライドを誘発。そのままアクセルを踏み込めばパワースライドに持ち込める状況だが、公道故にスライドを感じた時点でアクセルは固定し、速やかな旋回姿勢に戻した。因みにLSDのロック率は加速側38%、減速側40%! メーカーの思想が感じられる数値である。
「すべてに神経を行き届かせて操縦する醍醐味、というものを改めて感じさせる」
アウトバーンをフル加速すると1速77km/h、2速120km/h、3速160km/h、4速200km/h、5速250km/hと平然と伸び、300km/hも普通に見えそうだ。だが追い越しレーンを後方から超高速で迫っているにも関わらず、ゆったりと左側に車線変更するクルマが多く、アクセルを戻すことになってしまう。
今更ながら、MTでクルマを操ると、ドライバーにあらゆる情報が伝わり、操縦感覚そのものが生ものになったかのように感じられる。シフト操作だけでも触覚、聴覚、視覚、嗅覚と、味覚こそないが、車両の動きも含めてすべてに神経を行き届かせて操縦する醍醐味、というものを改めて感じさせる1台。それがヴァンテージ AMRであった。
REPORT/桂 伸一(Shinich KATSURA)
PHOTO/ASOTN MARTIN LAGONDA
【SPECIFICATIONS】
アストンマーティン ヴァンテージ AMR
ボディサイズ:全長4465 全幅1942 全高1274mm
ホイールベース:2704mm
乾燥重量:1499kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
最高出力:375kW(510ps)/6000rpm
最大トルク:625Nm(63.7kgm)/2000-5000rpm
トランスミッション:7速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ:前255/40R20 後295/35R20
※GENROQ 2020年 1月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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