世界にはいろいろな名車があり、だからこそクルマ趣味は尽きない。
知っている車種も知らない車種も、その歴史とともに振り返る企画があったらな……、ということでかつてベストカー本誌で掲載していた、いのうえ・こーいち氏の「旧車倶楽部」。今回はベストカーWebにてホンダNSXを歴史とともに振り返ってもらおう。
初代生産終了から早17年!! 「R」と「T」で個性を極めたホンダNSXの栄華を知る【いのうえ・こーいちの名車探訪】
ホンダが世界に向けてスーパーカーを定義したホンダNSX。横置きミドシップやオールアルミボディなどその逸話は数知れず。ところで「NSX」はなんの頭文字が知っていますか!?
文/写真:いのうえ・こーいち(トップ写真=HONDA)
■「和製フェラーリ」の存在感とその意義
ホンダが世界に通用するスーパーカーとして開発したホンダ NSX。登場から30年以上も経つというのが嘘のようだ
はてさて、5年ほど前まで「ベストカー」誌で連載されていただいたときは、佳き時代の日本車をひとつひとつイラストとともに紹介した。その数全部で33モデル。とても興味あるのに紹介しそびれたモデルもあった。
その最右翼のひとつがホンダNSXである。世界レヴェルのスーパーカーとして誕生したのは1990年代のこと。考えてみたら、もう30年もむかしのことになる。いまや立派なヒストリックカー、趣味のクルマになっているようだ。
機会は減ったけれど、時おり出遇うNSXは、あーだいじにされているなあ、という印象が強く感じられるものばかりだ。
「NSX」、つまり新しい(N)未知(X)のスポーツカー(S)を組合わせて、まさしく夢を実現したもの、というネーミングなのであった。それだけにつくる側も大きな意欲で新機軸を盛り込んだ結果、初代ホンダNSXは唯一無二のスーパー・スポーツとして、いま以って存在感のある忘れられない憧れの一台になっているのだった。
1989年、シカゴで発表されたプロトタイプは、翌90年9月13日に発売された。
エンジンをキャビン直後に横置き搭載したミドシップだったことから、当時のフェラーリ328GTBなどと同じレイアウト。それで「和製フェラーリ」などと呼ばれたのだが、性能的にも、込められた意欲という点でも世界の頂点、日本車としてはこれまでにないクラスのスーパーカーといえるものであった。
プロトタイプ時には「NS-X」とされた名前は「NSX」に改められていた。ちょうどF1でホンダが第二期というべき活躍していたころでもあり、そのデビュウは世界的に大きな話題になった。
なにしろホンダNSXを生産するために、新たな工場をつくってしまった、と聞けばその意欲が伺えよう。それはNSXのボディが画期的なアルミ・モノコックを採用するために、溶接などの設備ともども建設されたもので、大容量の電氣が要ることから変電設備まで備えていた。
もちろんそれはNSXの性能にも大きなメリットをもたらしており、たとえばフェラーリ328GTBの北米仕様に較べて100kg近くの軽量化が果たされ、剛性も遥かに上だった、という。
デビュウ時のエンジンはホンダ・レジェンドに使われていたV6エンジンを高度にチューニングアップ。V6DOHC2977ccというスペック、もちろんホンダお得意のVTECで武装している。当初はSOHCで計画されていたといわれ、DOHCになったおかげでホイールべースも長くされたことが、議論になったりした。
■一台に込められた新機軸
ホンダのお家芸であるVTECエンジンを搭載
じっさいにデビュウ間なしのNSXを観察し走らせたことがあるが、スーパーな性能、スタイリングに大いに満足しつつも、もうひと回りコンパクトであったらいいのに、と思ったりしたのを憶えている。
それはスタイリングにも現われていて、2530mmというホイールべース、相応に長い前後のオーヴァハングから、スーパーカーやスポーツカーの特徴である緊張感があまり感じられないことで、ちょっとネガティヴな気持ちになったものだ。
だが、それは単純に目指すものがちがう、というだけで緊張感がない分、安楽に誰もがスーパーカー性能を得られ、それでいてその完成度の高さは、さすが専用工場をつくってまで、のことはあると感心させられた。
これは、たくさんのファンを生むにちがいない、という直感は、いまだに多くの熱心な愛好家がいるということで充分証明されている。
このとき、たとえばサスペンションのアームとして、アルミ鍛造の部品なども観察させてもらったが、まあ、このクルマのために専用部品としてつくられたものばかり。ひとつひとつにこんなに手を掛けていいのか? その集合体としてのホンダNSXなのだから、長く所有すればするほどその完成度の高さがじわじわと伝わってくるにちがいない。
リアのグラスハッチを開き、エンジンカヴァの下に「VTEC」の文字の浮き出されたエアチャンバを見付けた時も、実に違和感なく居心地のいいキャビンに収まった時も、よくできた上質な印象はあったものの、妙な胸騒ぎのないのにはかえって不思議な気持ちがした。
エンジンをスタートさせ、走り出してもこの不思議はつづいた。アルミ製のシャシー、ボディの剛性も文句なく、こんなに安楽にスーパーな性能を実現してしまっていいのだろうか、そんな気にさえなってしまう。
なるほどホンダNSXはこれまでに経験したことのない、新しい種類のスーパー・スポーツ、しばらく走るうちにようやく納得したのだった。
■一級性能のスーパーカー
軽量で剛性も高いアルミ製のボディを採用
書き忘れたが、ギアボックスは5段のマニュアルのほか4段オートマティックも用意されており、MTが280PSのパワーであるのに対して、265PSとされている。ATには電動アシストのパワーステアリングが備わる。
ボディサイズをひと回り大きくした効果というべきか、ラゲッジスペースは充分以上に備わっており、どこか我慢をするのがスポーツカーの美学、というような先輩の教えなど吹き飛ばされてしまうようだった。
いま改めて眺めてみても、どこにも欠点のないスタイリッシュなボディ、それに無理のないメカニズムなど、長きにわたって維持していくことも可能な、それこそ趣味的にみても高いポテンシャルの持ち主といえよう。
シティだったら10台も買えてしまうようなプライスも、ポルシェ911の30%レス、フェラーリの半分ちょっとという按配で、量産メーカーのつくる安定したでき栄えが加味されて、世界的な評価は大きなものがあった。
こうして生まれながらに「自動車史に残るクルマ」が約束されたようなホンダNSXはE-NA1型と呼ばれ、北米、日本を中心に順調に数を増やしていった。当初日本国内向けに2000台、北米向けに3300台、その他700台と計画された年間生産台数も、1991年には遥かに上回る数字を記録し、人気の高さを物語った。
ホンダNSXがデビュウして2年ほど経過した1992年11月、それまでの印象を吹き飛ばしてしまうモデルが加えられる。ホンダNSX「タイプR」のついか、である。上質の皮を剥いで本性を露わした、そんな「タイプR」と、ホンダNSXの変遷については次回に「つづく」としよう。
【著者について】
いのうえ・こーいち
岡山県生まれ、東京育ち。幼少の頃よりのりものに大きな興味を持ち、鉄道は趣味として楽しみつつ、クルマ雑誌、書籍の制作を中心に執筆活動、撮影活動をつづける。近年は鉄道関係の著作も多く、月刊「鉄道模型趣味」誌ほかに連載中。季刊「自動車趣味人」主宰。日本写真家協会会員(JPS)
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みんなのコメント
縁があって数年乗る事が出来ましたが、世界中のどのメーカーもこういう車を造る事は2度と無いと思います。