日本において「自転車をイメージしてみて」と言われたら、多くの人が前かごやグリップが手前側に伸びる形の「セミアップハンドル」を装着した「ママチャリ」を想像するかもしれません。今日では日常使いの自転車の総称として使われている「ママチャリ」という呼び方ですが、そうなるまでには様々な経緯があったと言われています。
まず前提として、「ママチャリ」の「チャリ」は自転車の俗称である「チャリンコ」の略です。そして「ママ」はもちろん母親を意味しています。
そもそも自転車自体が「チャリンコ」と呼ばれるようになった由来については諸説ありますが、自転車ベルの「チャリンチャリン♪」という音から誕生したとする説と、韓国語で自転車を意味する「チャジョンゴ」がなまって生まれたとする説が有力とされています。
「ママチャリ」という俗称が何故「シティサイクル」や「軽快車」と呼ばれる日常用の自転車の総称になったのかを紐解くには、まず第2次世界大戦終結後の1940年代後半ごろにさかのぼる必要があります。
当時、ある程度自転車は普及していましたが、その車体はゴツくて重く、重心が高い実用自転車であり、男性が乗るイメージが強かったそうです。
その後、エンジン付きバイクの普及などによる影響もあり、配達などで使われていた実用自転車のシェアが減り、自転車業界はこれまで自転車に乗ってこなかった女性に販路を見い出すことになります。
そこで、これまでのゴツイ実用自転車のイメージを払拭するために、フレームデザインの変更や車体の軽量化、前かごを装備するといった試行錯誤を繰り返し、1950年代後半に「女性用の軽快車」が登場します。
そして1960年代後半になると、当時ヨーロッパで流行っていたタイヤサイズが20インチ以下の、現代で言うところの「ミニベロ(小径車)」に前かごを標準装備した「女性用小径車」が登場します。これが大いに受け入れられ、女性の自転車普及率を一気に押し上げたと言われています。
こうして自転車に乗る女性が一般的になってきたことで、「母親(ママ)が乗る自転車(チャリンコ)」という意味で「ママチャリ」と呼ばれ、一般的に使われるようになったそうです。
つまり、もともと「ママチャリ」という呼称は「女性用小径車」を意味していたと言えます。
その後「女性用小径車」ブームがおさまると、26インチサイズの自転車も登場しはじめ、1970年代後半ごろには独自の進化と発展を遂げて様々なタイプが生まれ、日常で使いやすい自転車は女性に限定することなく普及するようになります。
戦後のゴツイ実用自転車をより日常生活にフィットするように発展させた自転車は、多くの人が日々の通勤や通学、買い物などで使うようになり、この頃になると「ママチャリ」という言葉だけが残り、日常使いする自転車はすべて「ママチャリ」という俗称で呼ばれるようになっていたそうです。
「自転車は男性の乗りもの」というイメージから脱却するために生まれ、「ママチャリ」と呼ばれるようになった自転車がさまざまな進化を経て、いまでは老若男女問わず誰もが自由に使う乗りものになったと考えると、なかなか感慨深いものがあります。
日々の生活のなかで当たり前のように使っている「ママチャリ」にも、そんな歴史があったのです。
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