クルマもさることながら、CM出演者が話題になった1980年代のコンパクトカーを小川フミオが5台セレクト。当時の思い出を振り返る!
クルマの世界では、大型化がいきつくところまでいった感がある。そしてSUVでも、いまは針が逆に触れ、日常的に使いやすいコンパクトサイズが見直されている。
もうひとつ、コンパクトカーのいいところは、買いやすい点にある。いまも若いひとが、軽自動車をはじめ、トヨタ「ヤリス」やマツダ「2」に乗っているように、クルマに興味あるひとたちは、まず、コンパクトカーから自分の自動車との生活をスタートさせる。これが一般的だ。1970年代から1980年代にかけては、そういう層がとりわけ厚かった。
自動車メーカーは、コンパクトカーを嗜好するユーザーの取り込みに必死だった。当時のテレビコマーシャルには、若者に人気の俳優や歌手が動員された。1970年代のコマーシャルは、紙芝居のような作りが多くて、いまの視点からすれば、稚拙だったかもしれない。しかし、メッセージ性は強い。楽曲を、たとえば、現代のBTS のようにBPM(テンポ)が速いものと差し替えるだけで、いまでも十分通用しそうな作品もある。出演者の服装とヘアスタイルこそ時代をかんじさせるけれど。
とはいえ、CMの主役であるクルマこそ、観るべきものだ。コンパクトカーといえば、当時の大きなマーケットのために、メーカーが一所懸命開発したものばかり。とりわけ1980年代は、技術的にもデザイン的にも大きな飛躍があっただけに、いまコマーシャルを観ても、情熱が伝わってくる。
(1)トヨタ・カローラII(3代目)×原田知世
カローラでは(価格でもサイズでも)ややトゥーマッチ。だけど、やっぱりカローラというブランドの神通力が通用するマーケットが、1980年代初頭には確実に存在した。
1978年にスターレットとカローラの中間を埋める車種として「ターセル/コルサ」が登場。1982年にモデルチェンジした際に、販売系列であるカローラ店むけに開発されたのが初代「カローラII」である。
ターセルは英語でハヤブサ、コルサはイタリア語でレースを意味していた。すごい名前を選んだものだ、と、当時感心した。それに対してカローラIIはひかえめだ。1986年にモデルチェンジしたときは、ハッチバックは格納式ヘッドランプを備えたスタイリングになり、ターボモデルも設定するなど、買いやすさというより、若々しいスポーティさを製品の核に据えるようになった。
原田知世をテレビコマーシャルのイメージキャラクターにしたのは、3代目だ。1983年に映画『時をかける少女』の主演で大きな人気を獲得し、当時、薬師丸ひろ子、渡辺典子とともに“角川三人娘”と称されてマスコミにもひんぱんに登場したのが原田知世である。
1988年にカローラIIのコマーシャルに登場したときは、すでに角川春樹事務所との契約を終えており、トヨタ・セリカGT-FOURが活躍する映画『私をスキーに連れてって』(1987年)に主演するなどして新境地を開拓しはじめた頃だ。
角川映画のころの原田知世は『愛情物語』や『天国にいちばん近い島』(ともに1984年)などで、ミドルティーンのかわいらしさが強調されていたので、イメージ的にクルマとは結びつけにくい。そのイメージを、ホイチョイ・プロダクションが手がけた”超”をつけたくなるトレンディな作品で脱ぎ捨て、”彼女”にしたい女の子へと成長していた。
それゆえ、原田知世が、クルマでのデートをおねだりするというのも、もはや違和感がなかった。ただ、コマーシャルのバージョンが変わるたびに、髪型をふくめ原田知世が演じるキャラクターのイメージが大きく変わったのが、ある意味印象的だ。制作側に、原田知世と消費者の適切な関係性について悩みがあったのかもしれない。たんなる演じ手としての彼女を、ではなく、内面を表現するように見せたほうがよかったように思えた。
カローラIIは先述したように、スターレットでは小さすぎるという層に向けて開発された。3代目になっても全長は3865mmに抑えられ、コンパクトさゆえの扱いやすさが身上だった。
このクルマのもっともいいところはどこか。それを考えると、クルマそのものというより、クルマで出かけるって楽しい、と若者層に思ってもらうのを使命としていたところではないだろうか。
(2)ニッサン・パルサー(2代目)✕桑田佳祐&森英恵
1978年の初代パルサーは、日産自動車がようやく、というかんじで発表したハッチバックスタイルを特徴としたコンパクトモデルだ。チェリーの後継にあたるため、初代の全長は3960mm、1982年にフルモデルチェンジを受けたときも、ハッチバックの全長は同じにとめおかれた。
とはいえ、2代目パルサーはいっきに拡張路線をとった。ボディバリエーションは、2ドアハッチバック、4ドアハッチバック、セダン、それに2ドアクーペ(名称はEXA)といったぐあいだ。
さらに産業振興および雇用促進のため工場を新設してクルマを作らなくてはならなくなったアルファロメオに、このハッチバックのボディを提供したこともある。
いいところは、デザインに凝っていて、たとえ同じようなハッチバックボディでも、2ドアと4ドアはかなり強く印象を変えていた。リアクオーターガラスの面積をおおきくとった2ドアはスポーティで、黄色などの塗色もよく映えた。
パルサーといえば、2ドアハッチバックのテレビコマーシャルは、俳優の中村雅俊を起用していたのが印象的だった。なかには、ふしぎなコマーシャルもある。桑田佳祐と、森英恵が登場するヴァージョンだ。
パルサーは、サニーや従来のチェリーではカバーしきれなくなった若者層に向けたコンパクトという意欲作であり、なかでもエクサは粗削りとはいえ、シャープなウェッジシェイプを強調したスポーティな雰囲気のモデルだった。
たとえば『24時間テレビ』(日本テレビ系列)のためのスポットCMとして製作された作品には、EXAと4ドアハッチバックが登場。たんにビデオを回しただけのようなお手軽さが、妙に印象ぶかい。ふたりの起用は番組がらみであることは、容易に想像できた。
当時26歳の桑田佳祐はターゲットと重なるため、登場するだけでも、なんとなく起用の目的を察することが出来た。しかし、森英恵は……。と、理解に苦しむ内容だった。
そういえば、パルサーEXAは、ひとつ歴史的なことをしたクルマでもあった。1983年にドアミラーが解禁(それまでは日本車には許されていなかった)されたのと同時に、まっさきにそれを採用したことだ。国内で売られる日本車として初のドアミラー車であることも自動車史に残るだろうか。
(3)ホンダ・トゥデイ(初代)×今井美樹
軽自動車は女性が大きなターゲット、というのが不思議でしょうがないが、それはともかく、初代のホンダ・トゥデイが発表された1985年頃は、まだ、キレイな女優をコマーシャルに登場させ、雰囲気で女性客に訴求をはかっていたものだ。
トゥデイは、大胆なデザインだった。ひとつは、丸形ヘッドランプに黒で塗っただけの合成樹脂バンパーという、イタリアのフィアット「パンダ」を思わせるユーモラスなフロントマスク。さらに、大きなウィンドシールド。さらに、2ドアのみの設定。さらに、1315mmに抑えた低い全高。デザイナーの主張(どんな主張かわからなかったけれど)が強く打ち出されていたのが印象的だ。
外観だけでなく、メカニズムもユニークである。エンジンは545cc直列2気筒。ボディ構造はサイドシルを低くしつつ、剛性を確保する設計。ギアボックスをクランク軸と同一線上に起きつつ、デフ(左右輪の差動ギア)はその下に、というスペース効率追求のレイアウト。常識にとらわれず、独自の設計を追求するこのようなプロダクトをして、当時は”ホンダらしい”と評価する向きが多かった。
ホンダでは、シティにスカロックのバンド、マッドネスを起用しつつ、上級車種では美男美女モデルを使うなど、プロダクトに応じてコマーシャルのコンセプトを変えていた。トゥデイは上記のように凝りに凝っていたものの、軽自動車だったので、女性へのアピールをはかるためか、モデルであり歌手でもあった今井美樹を起用した。
今井美樹には、ちかくにいたらいいなと思わせる存在感が、私にはあった。けれども、トゥデイの成り立ちをアピールするには、もちろん、ふんわりしたイメージ訴求では不十分なのだ。だからといって、えんえんとメカニズムやデザインの趣旨を説明するようなコマーシャルは成立しなかっただろう。
海外の新車のコマーシャルでは、メカニズムなりコンセプトなりスタイリングなりを、一点突破でアピールすることを狙うものがある。トゥデイを例に考えると、たとえば”低くしたことには意味がある”とか”モノフォルムこそ美しい”とか、特徴をしぼったうえで、それを前面に押し出したメッセージでも成立したのではないか。あくまで素人考えですが。コマーシャルって、そこがむずかしい。
(4)マツダ・ファミリア(6代目)×中井貴一
メーカーの大きな自信を感じさせるコマーシャルだ。オーケストレーションを使いながら、ビートも効かせたジョー・ジャクスンの楽曲と、前輪駆動化されてから2代目となるファミリアのスタイリングを丁寧に見せるのが中心。
ファミリアは1980年の前輪駆動モデルが大ヒット。1985年のこのモデルはキープコンセプトであるものの、かなり洗練されたデザインに変わった。前のモデルのような薄っぺらさがなくなり、欧州でも通用しそうなかたまり感がしっかり出たのである。
そのコマーシャルは、クルマの映像と楽曲だけで勝負して絶賛された、1983年の3代目「シビック」のコマーシャルと通じるものがある。でも、マツダはそれだけでは不安だったのだろう。当時のテレビドラマである『ふぞろいの林檎たち』(TBS系列・1983年にシリーズ1放映開始)などで人気のあった中井貴一の映像をインサートした。
ほとんど意味のない組み合わせに、いまでこそ思えてしまうものの、『サラメシ』(NHK)での軽快な喋りや、三谷幸喜の舞台や映画で見せるややユーモラスなキャラクターとは正反対だったのが当時の中井貴一である。目力で勝負というかんじの中井貴一の存在が妙に印象に残っている。
このファミリアは、1600cc直列4気筒ガソリンDOHCターボなど、けっこうパワフルなエンジンが主役で、かつ足まわりもしっかりしていた。走らせて印象的だった記憶がある。デザイナーもエンジニアも、出来に満足していたのではないだろうか。シンプルだけどインパクトのあるコマーシャルから強く感じらたのは、そこであった。
(5)スバル・レックス(3代目)×古手川祐子→松田聖子→山田邦子
スバル・レックスといえば、私にとって、吉田拓郎だ。1972年の初代発売時のコマーシャルで、『旅の宿』を大ヒットさせ人気絶頂のこのフォークシンガーを起用したからだ。
『僕らの旅』という書き下ろしのコマーシャルソングを使っていた。プレゼントに応募してもらったこの歌のソノシート、私はいまも大事に待っている。“ヤフオク”では2000円ぐらいなので、価値は、まあ、そこそこではあるけれど。
レックスは、なので、自分にはちょっと“とっぽい男”のクルマという刷り込みがある。しかし、富士重工業(当時)の営業はそうは位置付けていなかのだろう。1986年の3代目では、美人女優、古手川祐子を起用した。のんびり行こうよと、ザ・バンドを率いてのボブ・ディランを軽くしたような、吉田拓郎の楽曲が提供していた光景とは、まったく異なる世界観を見せたのだった。
とはいえ、コロコロとイメージが変わるのが、レックスだったようだ。古手川祐子の次にイメージキャラクターとして登場したのが、松田聖子である。
聖子ちゃんのコマーシャルは1989年だから、ちょうど全米進出に向けてイメージを変えていた頃だ。レックスのCMでは、彼女の華やかなイメージとともにレックスが強く訴求されていた。
そしてなんと、1990年には、山田邦子が起用された。『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系列)などをはじめとする“お笑い番組ブーム”に乗って人気がでて、そのあと、タレントとして存在感を発揮していた山田邦子。レックスのCMでは、緑一色の衣装と、体操のような振り付けで、レックスを表現しようとした試みがユニークだった。
キャラクターの変遷を観ていると、親しみやすさを演出したいという狙いがどんどん強くなっていったのが見てとれる。もちろん、メーカー内でコマーシャル内容に最終的な決定権を持つ宣伝部もメンバーは変わるはずだから、長期戦略があったとはかぎらない。レックスのコマーシャルは、時代の嗜好を反映する鏡のようなものなのだ。
ここに取り上げたコマーシャルの対象となったクルマは、すべて3代目。このときのレックスは、クルマとしても、印象が強い。スーパーチャージャー搭載で、低回転域からのダッシュ力を見せつけたスポーツモデルも設定されていた。
1992年にフルモデルチェンジして、「ヴィヴィオ」と車名も変わった。よくいえば、洗練性が上がったものの、ソフトな印象が強くなりすぎて、物足りなかった、というのが私の感想だ。
文・小川フミオ
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