ボクたちは将来に明るい展望を抱いていた!
厚生労働省がまとめた「労働経済の分析(平成23年版)」によると、1970年代から1980年代にかけての日本は「消費者物価の大幅な上昇がみられる一方、現金給与総額はそれ以上に上昇しており、実質賃金が上昇していた」という。そして「実質賃金の上昇は人々の購買力を高め、消費を刺激し経済成長に寄与するだけでなく、生活にゆたかさをもたらす」としている。
【CD取材ノート】「1980-1999」1989年に登場した名車の中でもセルシオは別格。ボクは最近手に入れた! by 山本シンヤ
1980年代に成人した私は、当時のことを「ああ、本当にそうだったよなあ」と感慨深く思う。特別なことをしなくても、会社で普通に働いていれば収入は着実に増えていった。銀行の定期預金金利は4%を超えて5%から6%に達し、当面使う必要のないボーナスを預けておけば、2年後には1割ほども増えていた。将来に明るい展望を持ち、今日よりも明日はもっと暮らしが豊かになると確信していたし、実際にそうだった。だから、クルマを買い換えるときは必ずより大きいクルマ、より高級なクルマを選んでいた。
そんな消費動向を、日本の自動車メーカーは正確に理解していた。そしてユーザーの期待に応える、より豪華で性能の高いクルマを次々と生み出したのである。
高級クーペとスポーツモデルが続々と誕生した1980年代
1980-1981年第1回日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)のノミネート車を見ると、マツダ・ファミリアやホンダ・クイントなどの本格派コンパクトカーが誕生したいっぽうで、トヨタ・マークII3兄弟、日産レパード、三菱ギャランΛ/エテルナΣといった高級車路線のモデルも続々と登場。人々の「上昇志向」を確実に捉えようとしていたことがわかる。
翌第2回のCOTYは高級クーペが目白押しで、トヨタ・ソアラ、いすゞピアッツァ、トヨタ・セリカ、マツダ・コスモなどがデビュー。より豪華で、よりスタイリッシュなクルマを欲しがる市場のニーズを捉えようとした。ヨーロッパ風の洗練されたデザインがしだいに一般化していったのも、この年の特徴といえる。
けれども、いまこうやって振り返ってみると、バブル景気に浮かれて誕生した「時代のあだ花」的なモデルが意外と少なかったことに気づく。実直で真面目な日本人気質が反映されたのかもしれないが、走りの質の高さや高性能といったものを真正面から受け止め、それを高い技術で満たした製品が数多く登場したように思う。
1980年代も後半を迎えると本格的なスポーツカーが次々とデビュー。マツダ・サバンナRX-7、トヨタ・セリカGT-FOUR、日産スカイライン、マツダ・ユーノス・ロードスター、トヨタMR2などが市場に投入され、若者の心を鷲づかみにしていった。
やはり、日本全体が元気だったのだろう。その気持ちに応えるようにして、自動車メーカーは自由な発想で新型車を開発し、世に送り出していった。そして、そうした「夢の新車」を手に入れるべく、サラリーマンたちは残業に精を出した……。ボクらが過ごした1980年代は、そんな時代だったように思う。
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