現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【時代の証言_日本車黄金時代】1990年ホンダNSX(NA1型)、アウトバーンとニュルでポテンシャルをフルに解放 by 岡崎宏司

ここから本文です

【時代の証言_日本車黄金時代】1990年ホンダNSX(NA1型)、アウトバーンとニュルでポテンシャルをフルに解放 by 岡崎宏司

掲載 8
【時代の証言_日本車黄金時代】1990年ホンダNSX(NA1型)、アウトバーンとニュルでポテンシャルをフルに解放 by 岡崎宏司

NSXは洗練のスーパースポーツ。フェラーリやポルシェに衝撃を与え、進化を促した

 ホンダのクルマには、どうしてもスポーツとか高性能といったイメージがつきまとう。それはそうだろう。オートバイの世界でもF1でも、頂点に君臨したメーカーといえばホンダをおいて他にはないのだから。ホンダはいつも、ボクたちに夢と憧れを持たせてくれた。

【エンジン車よ永遠なれ!】初代NSXのC30Aはエンジン屋HONDAの真骨頂。軽量アルミボディの旨みを活かす究極のV6である

 いま、ようやく日本でも市民権を得たモータースポーツに、多くのファンが集まり、企業もバックアップしている。うれしいことだ。これも元をただせばホンダの蒔いた種が芽を吹いたものだ。見果てぬ夢だった「F1のシート」を現実のものにして、将来に大きく門を開いてくれたのも、もちろんホンダである。

 日本のファンだけではない。世界のファンが、ホンダの高性能スポーツカーに期待し、希望を抱いている。そんな世界中のホンダ・ファンに向けて送り出した新車がNSXである。NSXはアメリカでは1990年8月にデビューし、9月には日本でも登場する。ボクはひと足先に欧州仕様を、西独でテストドライブした。さっそく報告しよう。

 NSXの試乗の舞台はアウトバーンとニュルブルクリンクである。高性能車で走るには最高の、そして最も厳しいステージ設定だ。そのハードな状況でNSXは素晴らしい走りを見せつけた。

 ミッドシップに積んだエンジンは2977ccのV6DOHC24Vである。VTECを使い、NAながら274ps/7300rpmの最高出力と、29kgm/5400rpmの最大トルクを引き出している(ともに欧州仕様データ)。このエンジンは8000rpmまで難なく回る。放っておけば9000rpmでも苦もなく回ってしまいそうだ。しかも下は1500rpmで実用域に入る。4速ギアなら45km/hを滑らかにこなす、クラッチもとくに重くはない。ギアも軽い(ただし、スポーツカーとしてシフトフィーリングの面では物足りないが)。混雑した街で乗り回しても、まるで苦痛を感じない。

 速さは素晴らしい。ひと鞭当てるとNSXは270km/hのトップスピードに達し、0→100km/h加速を5.9秒で走り抜ける。これは、3.4リッターのフェラーリ348、3.6リッターのポルシェ911カレラ2あたりとほとんど遜色ないデータだ。NSXは3リッターなのだから、誇らしい性能である。

 唯一、ボクがNSXのエンジンに物足りなさを感じたのは、洗練度の高さゆえに、熱さがあまり感じ取れなかったこと。ボクとしては、たとえば低速トルクはもう少し痩せたとしても、よりピークの立った、強いメリハリのあるパワー、キャラクターがほしかった。

 ATモデルも、実にいいチューニングだ。ATとのマッチングもいい。しかし、ホンダのスポーツカーとあれば、たとえATモデルでももっと何か「プラスα」を期待してしまう。ポルシェは911にティプトロニックという新しいコントロール方式を組み込んだATを与えた。できればホンダにはこれをしのぐ、明日のスポーツカーにふさわしい、新しくて、楽しくて、ホットなATを用意してもらいたかった。

 高度に洗練されたシャシーはスーパースポーツ新基準

 NSXは、動力性能はむろんいいが、それよりもシャシー性能の仕上がりに拍手を送りたい。とくに限界特性は、これまでのMR車のレベルを、はるかに超えた乗りやすさ、安全性を備えている。

 MR車というと、走りの絶対値は優れてはいても、その能力をフルに引き出すのは一部のドライバーの特権だった。MR車は限界領域の特性が厳しくナーバスである。それを我が物にできる腕のいいドライバーにとっては、最高の愉悦をもたらす、麻薬のような魅力がある。だが、この特性を制御しきれないドライバーにとっては、ひたすら恐怖の対象になる。ボクの敬愛する徳大寺有恒氏は、「スポーツカーとは血の匂いの感じられるクルマ」と表現している。けだし名言であると思う。
 そう、歴史に名を残したスポーツカーは、確かにみな血の匂いがした。そしてその危険な匂いに男たちは憧れ、魅かれ、征服することに大いなる快感を抱いたのである。

 しかし現代の、また未来のスポーツカーには、もはや血の匂いを求めるわけにはいかない。より安全で、より洗練された姿の中に、新しい刺激と、心の高鳴る香りを創出することが必要である。

 繰り返すが、NSXには徳大寺氏のいうような生臭い血の匂いはない。NSXは優雅な女性の腕にゆだねてもたちまちなじむ、洗練されたクルマである。それでいながら、黒沢元治氏のような凄腕のドライバーの手にかかれば、ニュルブルクリンクを8分19秒で走り切る能力を発揮する。まさに現代のスポーツカーに求められている理想を、NSXは具現化しているといっていい。

 だからといって、このNSXの走りがパーフェクトといえるかというと、さすがに完璧な域には到達していない。前述したように、いくつかの物足りなさ、いまひとつ……といったところがある。

 エンジンのフィーリングには、もうひとつ感性を刺激する熱さがほしい(できれば、ホンダF1と同じイメージの3.5リッター・V10くらいがほしかった)。また、シャシーにしても、より磨き上げてほしいところが残っている。たとえば、ヨー・ダンピングがそうだ。ジャンピングスポットなどでのスタビリティの問題や、前後の荷重配分(もう少し荷重を前寄りにしたい)もある。高速高Gコーナリングでの旋回姿勢では、リアが少々持ち上がりぎみになる。同じく、高速高G旋回で、やや切れ込むような挙動を示す点にも手を打ちたい。パワーステアリングのセッティングも少し見直したいと感じた。

グラッシーなキャビンの快適性は高いが、乗降にひと苦労

 ルックスはとてもスタイリッシュだ。MRスポーツの文法に忠実な仕上がりで、NSXにはモダンな香りもたっぷりとある。どこでも多くの視線の集中砲火を浴びる存在になることは、間違いない。ステアリングを握るオーナーとしては、大いにプライドを満足させることだろう。

 NSXはとても低いクルマだ。当然だが、乗降性はタイトである。とくに、サイドシル部は幅広いので乗り降りの場合、足の運びや腰の落ち着け方は、ポーズよくすんなり進むという具合にはいかない。かなり足の長い人でもそうなのである。この特徴は、つまりはスーパースポーツカーの勲章だといっていいこともかもしれない。

 だが、NSXは、これからのスーパースポーツカーを目指している。これまでのように、スーパースポーツカーは女性を寄せ付けないスパルタンなクルマ、というイメージとは路線を異にしている。NSXのコンセプトである「多くのドライバーに多くの喜びを与える、新時代のスポーツカー」というメッセージを考えると、この乗降性については、もうひとつ冴えたアイデアの工夫がほしい気がする。

 パワーステアリングとATを組み込んだモデルを選べば、NSXは女性オーナーにも扱える。きれいにマニキュアを施した細い指でも、華奢なハイヒールを履いた脚線美でも。NSXは決して拒絶はしない。が、彼女たちが優美にカッコよくNSXに乗り降りできるかというと、残念ながらこれはノーと答えざるを得ない。

 視界の作り方も、ボクには疑問だ。NSXの前方視界は非常にいい。まさにパノラミックだ。混雑する街や山岳路を走るとき。とても運転しやすい理由になる。ニュルブルクリンクを攻めたときも、車両感覚がよく掴めて走りやすかった。

 しかし、アウトバーンでのハイスピードクルージングになると、ガラリと印象が変わった。あまりに前が見えすぎスピード感がものすごく高くなるのだ。とくにメータークラスターのない助手席側のスピード感は、かつて経験したことがないほどだった。必要以上の緊張感、神経の疲労を強いてくる。なにしろNSXは、すぐに200km/hを超え、ちょっと長いストレートだと250km/hさえ簡単にオーバーしてしまう。これだけの超高性能車には、視界やスピード感のあり方はもっと違っていてほしかったと思う。視界の良さはそのままでも、ダッシュボード回りのデザインやボリューム感の演出しだいで答えが違ったのではないか。ついでに、コクピットのデザインはもっとセクシーで華麗であってほしかった。

 今後に残る課題はあるが、とにかくNSXは素晴らしくモダンで洗練されたスポーツカーだ。海外でも高い評価を受けるだろう。きっとフェラーリやポルシェにまでもインパクトを与え、進化発展を促す効果を生むに違いない。
※CD誌/1990年9月26日号掲載)

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

【クルマの通知表】スズキらしいアイデアを満載した世界戦略コンパクト、新型スイフトの軽量・高機能ポイント
【クルマの通知表】スズキらしいアイデアを満載した世界戦略コンパクト、新型スイフトの軽量・高機能ポイント
カー・アンド・ドライバー
【時代の証言_日本車黄金時代】祝デビュー35周年! 1989年マツダ・ユーノス・ロードスター(NA型)は往年のオープンスポーツの味を鮮やかに再現
【時代の証言_日本車黄金時代】祝デビュー35周年! 1989年マツダ・ユーノス・ロードスター(NA型)は往年のオープンスポーツの味を鮮やかに再現
カー・アンド・ドライバー
FFスポーツ実験は大成功! ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(1) タイプR誕生前夜
FFスポーツ実験は大成功! ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(1) タイプR誕生前夜
AUTOCAR JAPAN
【羨望のSUV】ランドローバーの原点「ディフェンダー」が躍進中。その原点といまを解説
【羨望のSUV】ランドローバーの原点「ディフェンダー」が躍進中。その原点といまを解説
カー・アンド・ドライバー
【羨望のSUV】メルセデスAMG・G63全方位試乗。「最新のG」は「最良のG」なのか?!
【羨望のSUV】メルセデスAMG・G63全方位試乗。「最新のG」は「最良のG」なのか?!
カー・アンド・ドライバー
えぇなんで!? [ホンダアクセス]の実効空力”感”を体現する[フィット ]がマジでヤバい件
えぇなんで!? [ホンダアクセス]の実効空力”感”を体現する[フィット ]がマジでヤバい件
ベストカーWeb
水素で走るSUV「ホンダ CR-V e:FCEV」を公道初試乗!優れたパッケージングに秘めた「元気」の力に驚いた
水素で走るSUV「ホンダ CR-V e:FCEV」を公道初試乗!優れたパッケージングに秘めた「元気」の力に驚いた
Webモーターマガジン
ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(2) 現代人へ理想的なデトックス 熱くなれる92ps!
ホンダCR-X シビック 2台の「Si」(2) 現代人へ理想的なデトックス 熱くなれる92ps!
AUTOCAR JAPAN
こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】誰も知らないブーンベースの3列7人乗りミニバン[ルミナス]がフリードになれなかった理由
こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】誰も知らないブーンベースの3列7人乗りミニバン[ルミナス]がフリードになれなかった理由
ベストカーWeb
【試乗】N-VAN e:の走りがスゴイ理由に納得! これは序章にすぎないホンダの「EVリ・スタート」だった!!
【試乗】N-VAN e:の走りがスゴイ理由に納得! これは序章にすぎないホンダの「EVリ・スタート」だった!!
WEB CARTOP
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
フランス人スター選手と一緒の気分? 歴代最強プジョー 508「PSE」 505 GTiと乗り比べ
AUTOCAR JAPAN
ロイヤルエンフィールド新型「ベア650」の乗り味は? カリフォルニアで歴史を刻んだネオ・スクランブラー
ロイヤルエンフィールド新型「ベア650」の乗り味は? カリフォルニアで歴史を刻んだネオ・スクランブラー
バイクのニュース
イチオシ機能の“実効空力”は本物なのか? ホンダアクセス「モデューロ」が30周年!
イチオシ機能の“実効空力”は本物なのか? ホンダアクセス「モデューロ」が30周年!
レスポンス
むしろ「モンデオ」の後継車? フォード・カプリ AWDへ試乗 目標はファミリースポーツカー
むしろ「モンデオ」の後継車? フォード・カプリ AWDへ試乗 目標はファミリースポーツカー
AUTOCAR JAPAN
海外で話題を集めた「クルマの流行」 おしゃれなアイテムから悪趣味なものまで 34選 前編
海外で話題を集めた「クルマの流行」 おしゃれなアイテムから悪趣味なものまで 34選 前編
AUTOCAR JAPAN
「ホンダはEVでもNo.1を目指します」初の電動スポーツ車を25年に市場投入!ホンダの最新二輪EV戦略を電動領域担当者に聞いた
「ホンダはEVでもNo.1を目指します」初の電動スポーツ車を25年に市場投入!ホンダの最新二輪EV戦略を電動領域担当者に聞いた
モーサイ
ロータスのハイパー電動SUV「エレトレR」が体現する近未来のクルマ造り
ロータスのハイパー電動SUV「エレトレR」が体現する近未来のクルマ造り
@DIME
【BMW R1300GSアドベンチャー 試乗】「ASA」でエンストの不安から解放!その完成度に大きく驚かされた…鈴木大五郎
【BMW R1300GSアドベンチャー 試乗】「ASA」でエンストの不安から解放!その完成度に大きく驚かされた…鈴木大五郎
レスポンス

みんなのコメント

8件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2420.02794.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

600.05900.0万円

中古車を検索
NSXの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

2420.02794.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

600.05900.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村