この記事をまとめると
■1970年代~80年代は日本でサーフィンがブームとなっていた
販売台数は100万台オーバーの怪物コンパクト! MAZDA3の先祖5代目ファミリアの衝撃
■バブル期にはサーフィンはしないが、雰囲気だけ楽しむ「陸サーファー」が存在
■「陸サーファー」たちに人気だったボードを飾るためのクルマを紹介
バブルの街を彩った陸サーファーが愛したクルマ
日本でサーフィンブームが盛り上がったのは1970年代とされている。西海岸のライフスタイルをテーマにした雑誌「ポパイ」の創刊も1976年であり、その後、アメリカでサーフィン映画「ビッグウエンズデー」も公開され、サーフィンブームは一気に加速したのである。
80年代にかけて日本でも本気でサーフィンを楽しむサーファーが増殖したのはもちろんだが、それと同時に話題になったのが、海でサーフィンはしないが、街やリゾート地でサーファーを気取る、通称「陸サーファー」の出現だった。サーファーを気取ればモテる……ということだったのだろう。
当然、実際のサーフィンとは無縁の「陸サーファー」の演出に欠かせなかったのが、サーファーを気取れるクルマにほかならない。いい換えれば、小道具(大道具!?)としてのクルマなしに「陸サーファー」にはなれないということだ。
その代表格は、じつは若かりし筆者も買ってしまった、栄えある第1回日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)を受賞した5代目BD型ファミリア(1980年~)である。どこかVWゴルフを意識したFF化されたハッチバックモデルの人気は絶大で、前席フルフラット化も可能。筆者もそうしたように、輸出仕様のMAZDA 323のエンブレムや、まだ認可されていなかったドアミラー装着などによるドレスアップのベース車としても大人気。いや、日本のドレスアップブームの火付け役ともなった1台なのだ(筆者は当時、自動車専門誌でドレスアップの担当をしていた)。
とくに赤いボディが人気で、「陸サーファー」はダッシュボードの上に芝生を敷き、小さなサーフボードや椰子の木を置くなどして、海、サーフィンを演出。もちろん、ルーフには絶対に使わない(!?)サーフボードを固定する、これぞ「陸サーファー」スタイルが大流行したのである。余談だが、筆者のファミリアはブラックボディのスポルトというグレードで、欧州仕様にドレスアップしたほか、タコ足、マフラーチューニングも行っていて、決して「陸サーファー」を目指したわけではない。
1990年代に入ると、その「陸サーファー」ブームはさらに熱を帯び、本物のサーファーとともに「陸サーファー」にも注目されたのが、2代目トヨタ・ハイラックスサーフ(1989年~)だった。その車名からしてサーファー御用達だが、波に乗らず、都会に渦巻く波に乗ってモテたい「陸サーファー」にはうってつけの1台。ルーフに、絶対に使わないサーフボードを乗せ、ちょっと日焼けし、アロハシャツでも着ていれば、誰がどうみてもクルマとの関係からサーファーに見えることは間違いなし。
六本木の早朝、ディスコ帰りで始発を待つイケイケ女子に「これから海に行かない……?」とナンパするにも好都合。「サーファーに悪い人はいない」という女子の勝手な思い込みにつけこんだ不届きな輩も少なくなかったのだ。とくに1990年に加わった3VZ-E型、3リッターV6エンジンを積むモデルはハイラックスサーフとして初の3ナンバーであり、3ナンバーに憧れる「陸サーファー」、そして女子の人気は爆上がり。その後ハイラックスサーフは続々と特別仕様車を発売し、夏仕様、冬仕様まであった、若者に絶大なる人気を誇ったSUV(当時はRVと呼んだ)となったのである。
プロ(!?)とも呼べる陸サーファーまで出現
もっとも、ハイラックスサーフはそれなりの値段。そこまでお金は出せない「陸サーファー」に注目されたのが、これまた本物のサーファーにも愛された日産サニー・カリフォルニア。アメリカンステーションワゴンをスケールダウンしたようなルックスで、初代は1979年に登場。
その車名のカリフォルニアの響き、中古車でも入手しやすいことから「陸サーファー」が黙って見ているわけもなく、中古の絶対に使わないサーフボードをルーフに積んで、サーファーを気取ることができたのである。
一方、小金持ちの若き「陸サーファー」の神器として人気だったのが、スウェーデンからのガイシャ、ボルボ240エステートである。そのセダン版は欧州ツーリングカーレースに参戦し、空飛ぶレンガと称され、80年代にレースを席捲。240シリーズはその絶大なる安全性を知るお医者さんにも愛用されていたが、そのワゴン版はアウトドア派から本物のサーファー、カメラマン、カタカナ商売のヤングエグゼクティブ、そして「陸サーファー」にまで絶賛大人気。日本におけるボルボ人気の火付け役ともなったのだった。
当時、知り合いにもボルボ240エステートに乗る、アパレル関係に勤める友人がいたのだが、彼もまた「陸サーファー」。都会の日焼けサロンに通い、ルーフに知り合いからもらったボロボロのサーフボードを、”外れない、盗まれないように固定”していたのは当然として、広大なラゲッジルームにウェットスーツを吊るすなどの芸の細かい演出まで怠らなかったのだから、ある意味、プロの「陸サーファー」と呼ぶべきだろうか。
では、今、「陸サーファー」を最大限に演出できるクルマは何か。最新のSUV、クロスオーバーモデルではしっくりこないのはさておき、さすがに当時のファミリア、ハイラックスサーフを探すのは難しい。もう30~40年前のクルマだからだ。しかし、当時の「陸サーファー」ブームから10~20年後に登場した、ある1台なら、今でもスタイリッシュかつ、今日のアウトドアブームにもめっぽう似合い、デザイン的に決して古臭くなく乗れたりする。
その1台とは、2003年から2005年に日本でも販売された、ホンダがアメリカから逆輸入していたホンダ・エレメントである。何しろ「西海岸のサーファー御用達」として企画された、まさにサーファーのためのRV(レジャービークル)なのだ。全長は10フィートのサーフボードを積むことを前提にしたもので、観音開きのドアも大きな特徴の、海に似合いすぎるデザインが特徴だった。
もちろん、今では中古車でしか手に入らず、ある意味短期間しか売らなかった絶版車だけに、カーセンサーで探しても全国で80台ぐらいしか見つけられない。程度がいいとプレミアムな値付けにはなっているものの、今、乗っても、繰り返しになるが、古臭さなど皆無のSUVデザインが光る。先日も六本木で見かけたが、今日のクロスオーバーブームの最中でも第一線に見える存在感、カッコよさを感じられたほどだ。その本場北米仕様の左ハンドルモデル(中古車の一例として10.2万キロ走行、支払総額200万円)に至っては、令和のプロ「陸サーファー」御用達車としても通用する希少性があったりする。
とはいえ、「陸サーファー」御用達車がモテ道具になり、「陸サーファー」がモテたのは遥か昔のハナシ。今はそもそもクルマでモテる時代ではなく、「陸サーファー」を気取ってモテようなんて考えてはいけない。「陸サーファー」伝説は、男女の関係が今では想像もできないほど開放的ではじけていたよき時代、バブル期を含む80~90年代の昔話なのだから。
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みんなのコメント
そんなの居たか?
丘サーファーの間違いだろ。
あとファミリアってTシャツをシートカバーにしてた人が多かった記憶がありますね