“羊の皮をかぶった狼”という喩えをご存知だろうか? 一見ふつうのセダンでもじつはスポーツカーなみに速い……そんなセダンの日本代表ともいうべきモデルはスバルの「WRX STI」だ。
4ドア・セダンのボディに、最高出力227kW(308ps)、最大トルク422Nmを発揮する2.0リッター水平対向ガソリンターボ・エンジンを搭載し、フルタイム4WDシステムを組み合わせたモデルである。
マツダの電動化の鍵を握るのはロータリー!? e-TPV試乗記
【主要諸元】全長×全幅×全高:4595mm×1795mm×1475mm、ホイールベース:2650mm、車両重量:1490kg、乗車定員:5名、エンジン:1994cc水平対向4気筒DOHCターボ(308ps/6400rpm、422Nm/4400rpm)、トランスミッション:6MT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:245/35R19、価格:413万6000円(OP含まず)。WRXシリーズには、「スポーツ走行に特化した」とメーカーがうたう「STI」にくわえ、快適志向の「S4」が選べる。
2019年5月、WRXはマイナーチェンジを受けた。内容は、オート・ハイビームが作動する車速を、従来の40km/hから30km/hへ引き下げたほか、前後席のドアがロックされていても、トランクリッドのみが解錠出来るシステムが搭載された。さらに、フロントグリルやアルミホイールのデザインも一部変わった。
4輪ベンチレーテッドディスクブレーキはブレンボ社製。今回試乗したモデルは、WRX STI type S。搭載するエンジンやトランスミッション(6段マニュアル)は、もとになる「STI」とおなじであるが、type Sには、くわえて19インチ径のアルミ・ホイールや、ビルシュタイン製ダンパー、トランク後端のリップスポイラーなどが追加で装着される。
試乗車が装着していた大型のリアスポイラーはオプション。このオプションを選ぶひとは多いというが、通常のリップスポイラーでも充分スポーティであると思う。
高度な4WD機構を搭載スポーティなエクステリアを裏切らないスポーティな走りも魅力だ。速く、そしてコーナリング性能が高いのにくわえて、マニュアル変速機&重いクラッチなど、2ペダルのスポーツセダンとは明らかに一線を画した運転感覚が特徴である。
同様の設定は、ホンダ「シビック タイプR」にも通じる。が、タイプRのほうがクラッチは軽いし、乗り心地も乗用車的で、万人ウケするはずだ。WRX STI type Sはどちらかというと、徹底的に走りを楽しもう! というひとのためのクルマである。
操縦安定性と乗り心地を高めるビルシュタイン製ダンパーは標準。H.Mochizuki搭載するエンジンは1994cc水平対向4気筒DOHCターボ(308ps/6400rpm、422Nm/4400rpm)。タイプRが前輪駆動であるのに対し、WRX STI type Sは4WDである。「マルチモードDCCD(ドライバーズ・コントロール・センター・デフ)」というシステムを搭載し、通常は、後輪に59%のトルクが配分される。後輪駆動的な操縦感を重視しているのも特徴だ。
「マルチモードDCCD」は4つのモードを持つ。基本は「オート」で十分。標準モードにくわえて、前後輪の差動制限トルクを高めにしてより安定方向に振った「オート+(プラス)」モードと、逆に、差動制限トルクを低めにして回頭性を高めた「オート−(マイナス)」モードが選べる。さらに「マニュアル」モードもあり、センターデフの差動制限力をロック~フリーまで、トータル6段階から選択も出来る。
ちなみに、前後異なるシステムのLSD(リミテッドスリップ・ディファレンシャルギア)が搭載されている。フロントはステアリングホイール操作をスムーズにするヘリカルLSD、リアはコントロール性能を重心したトルセンLSDだ。
STIロゴ入りステアリング・ホイールなどは標準。メーターパネルは専用デザイン。STIのロゴ入り。ダイヤル式ドライブモードセレクターのスウィッチはセンターコンソールにある。自分の意思どおり動く!ふだん2ペダルのクルマにしか乗っていないと、WRX STI type Sに乗りこんだとき、間違いなく驚くはずだ。
昔のスポーツカーなみに重いクラッチ、しっかりした操舵力を求めてくるステアリング・ホイール、それに前後のLSD(リミテッド・スリップ・ディファレンシャルギア)が作動したときの独特な操縦感覚は、ひとによっては未知の領域だろう。
JC08モード燃費は9.4km/L。H.Mochizukiトランスミッションは6MTのみ。ターボチャージャーは、高回転型である。2500rpmを超えると、ぐんぐんトルクが増していく。トルクが最大に達するのは4400rpmで、昨今、低回転域から大トルクを出すエンジンが多いなか正反対の特性である。
水平対向4気筒ガソリンターボ・エンジンは、独特のビート感でまわり、エンジンがレブリミット近くまできれいに吹け上がるよう、ていねいにチューニングされている。
インパネ上部のインフォメーションディスプレイには、各種車両情報を表示する。最小回転半径は5.6m。H.Mochizuki「SIドライブ」というドライブモードセレクターも搭載される。ドライブモードを変更することで、トルクカーブを任意で選べる。個人的には、アクセルへのレスポンスがもっとも鋭い「S#(スポーツシャープ)」モードが好みだった。
走り出しは、フライホイールの重さが意外にあって、ぎくしゃくするシーンは稀だろう。アクセルペダルを踏まずにクラッチをつないでも走りだすぐらいだ。
そこからの加速はおもしろいほど速い。クラッチは強くて、回転が高い領域でポンっとつないでも、強大なエンジントルクをしっかり受け止めてくれる。
ギアのシフトフィールは従来モデルよりスムーズになっていて、狙ったゲートにすっと吸い込まれるよう入っていく。シフターのノブは、見た目こそ平凡だけれど、手によくなじみ、てのひらを動かすように気持よいシフトを可能にする。
レカロ社製フロントシートはオプション。シート表皮は人工皮革(ウルトラスウェード)とレザーのコンビタイプ。ラゲッジルームの通常容量は460リッター。リアシートのバックレストは40:60の分割可倒式。とにかく、自分の意思どおり動いてくれるクルマだ。使い古された感のある表現を使うと、エンジンとドライバーがアクセルペダルを介してダイレクトにつながっている感覚がみごとであると思った。
WRX STI type S(413万6000円)のライバルを探すと、先述したようにシビック タイプR(458万3700円)、トヨタ「GRスープラSZ」(499万円)などが思いつく。
価格は倍以上するが、BMW「M2コンペティション」(893万円)に興味を持つひとにとっても試す価値があるだろう。ただ4ドアで、4輪駆動で、という条件をあてはめていくと、WRX STI type Sの対抗馬を見つけるのはむずかしい。丁寧に作られたスポーツセダンという独自の立ち位置は、とても魅力的である。
文・小川フミオ 写真・望月浩彦
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