冒頭から筆者の私見を述べるようで恐縮だが、ランチアHFストラトスという稀代の名作を「スーパーカー」のひとつとしてカテゴライズすることには抵抗を感じている。誤解を恐れず敢えて言ってしまえば「スポーツカー」ですらないと考えている。
ストラトスは、WRCをはじめとする国際ラリーでの勝利のためだけに作られた、史上初のパーパスビルト・カーであり、スポーツカーとしても最上のドライビングプレジャーを誇るとはいえども、それは結果として得られたものに過ぎないと思うのだ。
第8回:通の4WD、ランドローバー・ディフェンダーのはじまりの物語。
ラリー競技のためにゼロからクルマを企画・開発するというアイディアは、ラリードライバーのサンドロ・ムナーリ、ランチアHFスクアドラ・コルセ監督のチェーザレ・フィオリオ、そして名門カロッツェリアの総帥にして、常に新しい冒険を求めていたヌッチオ・ベルトーネの3人が交わした、余人には冗談とも受け取られかねない会話から始まったと言われている。カロッツェリア・ベルトーネのデザインスタディ「プロトティーポ・ストラトス」、のちに「ストラトス・ゼロ」と呼ばれることになるコンセプトカーを、ラリー専用モデルとして仕立て直すという話である。
1970年のトリノ・ショーにてデビューを果たしたストラトス・ゼロの最大の特徴は、当時はまだレーシングカーや一部のリアルスポーツカーの特権だったミドシップのエンジン搭載位置を採用していたことにあった。パワーユニットについては、フルヴィアHF用の挟角V型4気筒1.6リッターを流用するということで一応の合意には達していた。それはミドシップ・マウントという当初からの条件に合うものが、当時のランチア製カタログモデルではこのユニットのみだったからだろう。
結果として完成したストラトス・ゼロは、驚異的なほどに低いウェッジシェイプのボディと、狭小なコクピットにアクセスするためのドアを兼ねた巨大なウィンドスクリーンを特徴とずるものだった。
このような、極めて特異なスタイルとキャラクターを持つにも関わらず、ストラトス・ゼロはラリーカーとして充分に転用可能だし、しかも、理想的なマシンになり得ると見抜いた有能な人物がいた。結果、このクルマは時代の主役へと変貌と遂げることになる。その慧眼の持ち主とは、前述のチェーザレ・フィオリオと、ランチア本社の技術責任者であったウーゴ・ゴッバートである。
1970年のトリノ・ショーでのデビューののち、ストラトス・ゼロは翌71年にとあるCMフィルムに使用され、その存在を世間に知られることになった。そして、このエクスペリメンタル・カーに興味を覚えていたゴッバートは、フィオリオに仲介を依頼、トリノのヴィア・サン・マルコ通りにあった「スクアドラ・ランチア・コルセ」のオフィスにて面会したい旨の約束を、ベルトーネと交わすことになる。このミーティングの場に、インパクトを狙ったヌッチオ・ベルトーネは、ストラトス・ゼロのステアリングを自ら握って現れた。
この歴史的な会議にて、ゴッバートおよび彼の部下たる技術者たちは、ミドシップレイアウト自体にはまったく異存のないことを示している。しかし、ランチア側の求めるラリーカーはこれほどに未来的である必要はなく、もっと現実的なクルマであるべきとの主張も忘れていなかった。
こうして「ラリーに勝つための新規開発モデル」という前代未聞のプロジェクトとして、ランチア首脳陣のお墨付きを得たストラトスの設計・開発は、ウーゴ・ゴッバートが指揮をとる。実際の設計現場はスポーツ部門の技術責任者で、のちにフェラーリF40も手掛けるニコラ・マテラッツィが担当することになった。加えて、今なおレーシングカーの設計者として第一線で活躍しているジャンパオロ・ダラーラや、エンジニアでありながらフェラーリのワークスドライバーとしてスポーツカーレースで活躍したマイク・パークスなど、きら星のごとき技術者たちもコンサルタントとして召集された。
そんなレジェンドたちが開発したHFストラトスは、モノコックのセンターセクションにプレス鋼板製のボックス型サブフレームを組み合わせるという特異なシャシー構造を採用する。フルモノコックにせず、わざわざサブフレームと組み合わせたのは、ラリー現場でのサービス性を向上させるためとされている。
またFRPのボディ製作は、もちろんカロッツェリア・ベルトーネが担当した。同じマルチェッロ・ガンディーニの手によるストラトス・ゼロに比べると遥かに現実的ながら、よりラリーの闘いの現場を見越した戦闘的なスタイルへと、抜本的な見直しが図られることになったのである。
1972年を迎えて、ストラトスの開発は本格的に始動する。ここでクロースアップされたのがパワーユニットの問題だった。ストラトス・ゼロに搭載されていたフルヴィア用挟角V4エンジンは、排気量の小ささのためにアンダーパワーが危惧され、よりパワフルな心臓部が求められたからである。
この問題の解決策について、当時の関係者は2つの派に分かれることになった。一方はランチアないしはフィアットの量産エンジンを積もうとする一派。こちらは主に、旧アバルト関係者が占めていた。彼らは「フィアット132」用の直4DOHC2リッターか「ランチア2000」用の水平対向4気筒をターボ過給などで再チューンするか、あるいは「フィアット130」用のV型6気筒3.2リッターを搭載するか、と考えていたとされている。
そしてもう一方の陣営は、フェラーリからディーノV6エンジンの使用を主張する一派。こちらはベルトーネたちが中心である。しかも、フィアット-シトロエンの提携によって、当時シトロエン傘下にあったマセラティ製V6エンジンという選択肢まで生まれ、事態はますます混迷の色を深めていく。
このまま空転が続けば、ストラトス・プロジェクトそのものが存亡の危機に立たされると考えたヌッチオ・ベルトーネは、フィアット・グループの会議にて「われわれが考えているエンジンで続けさせてもらえるなら、これまでなかったようなクルマに仕立ててみせます!」と、強い語気で言い放ったという。
最終的に選ばれたのはフェラーリがディーノ246GT用に設計し、ランチアとフェラーリ共通の親会社であるフィアットが生産していた65度V6・2418ccのディーノ・エンジンだった。当初エンツォ・フェラーリは渋っていたが、ヌッチオ・ベルトーネが自らマラネッロに出向いてエンツォを説得し、ようやく供給の約束を取り付けたと言われている。
かくして完成にこぎつけたストラトスは、「HFストラトス」の名で1973年にデビューする。生産台数は当時のFIAグループ4のホモロゲーションに必要な400台+αのみに限られ、FIAへの申請とほぼ同時の1973年末頃から、カロッツェリア・ベルトーネがトリノ近郊で操業していたグルリアスコ工場にて短期集中体制で生産を開始、総計502台(ベルトーネ公式記録)が組み立てられたという。
そして目的どおりFIAグループ4のホモロゲーションを獲得すると、チェーザレ・フィオリオ率いるスクアドラ・ランチア・コルセに託されて、世界ラリー選手権(WRC)に参戦、ストラトスは1970年代中盤のWRCで大活躍を見せることになる。開発にも加わった名手サンドロ・ムナーリらがドライブするワークス・ストラトスは、ランチアに1974年から’76年まで、実に3年連続のコンストラクターズタイトルをもたらした。
しかし、順風満帆に見えたHFストラトスであったにもかかわらず、フィアット・グループの販売戦略に合わせて、その翌年からはWRC用の主戦兵器が量産モデルのPRのために「フィアット131アバルト・ラリー」に転換されたのである。ワークス・ストラトスは事実上の退役を余儀なくされてしまう。
それでも、プライベート・チームのエントリーにより、1979年の「モンテカルロ・ラリー」および「サンレモ・ラリー」でも総合優勝を果たすなど、ストラトスの実力はグループ4時代が終焉を迎えるまで、色褪せることなどなかったのである。
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