2020年6月27日、レクサスのフラッグシップクーペ、LCに追加されたのが、4シーターカブリオレのLCコンバーチブル。価格は日本車とは思えない、驚きの1500万円。
その価格の高さもさることながら、国産のオープンカーでは屈指のハイパフォーマンスモデルになるだけでなく、現代では稀有となった大排気量の5L、V8エンジン搭載モデルとしても魅力的な1台だ。
カッコよくて強くて美しい!! レクサス中堅SUV RXとNXの違いと狙い目
このLCコンバーチブル、並みいる欧州のラグジュアリーブランドを敵に回した形だが、はたしてセレブたちに受け入れられるのだろうか? モータージャーナリストの岡本幸一郎氏が解説する。
文/岡本幸一郎
写真/トヨタ ポルシェ メルセデスベンツ BMW
【画像ギャラリー】日本製オープン最高価格1500万円のレクサスLCコンバーチブルを写真でチェック!
世界に誇れるラグジュアリーブランドに成長したレクサス
2020年6月18日、限定60台で販売された特別仕様車「LC500 コンバーチブル“Structural Blue”」。価格は1650万円。限定60台のうち40台はオーナー向けの先行商談、20台を一般向けの抽選発売分としたがすでに完売
和製プレミアムブランド(最近ではラグジュアリーブランドと言われることが多い)として誕生し、北米での大成功をはじめ欧州や中国など海外で実績を挙げたレクサスは、2005年8月、日本国内において始動した。
当初はGS、IS、SCの3車種のみという主役を欠いたラインアップながらそこそこの販売実績を挙げ、翌10月にフラッグシップであるLSを加えてからは販売が急増した。
その後、ラインアップの拡大と整理を図り、2020年7月の時点では、まもなく終焉を迎える見込みのGSとCTを除いても、LS、ES、IS、LC、RC、UX、LX、RX、NXと、メルセデスやBMWほどではないにせよ、ラインナップは13車種とそれなりに充実した布陣となっている。
北米ではメルセデスベンツやBMWとしのぎを削り、彼らを凌駕するほどに成長し、JDパワーの自動車初期品質調査においても何年も連続してトップとなったほか、セグメント別でも上位の常連となったり、コンシューマーレポートによるブランド別の信頼度順位でも1位を獲得したほどだ。
欧州では、数としてはご当地のドイツ御三家には遠くおよばないものの、ラグジュアリーブランドとして認識され一定の支持を獲得することができたという。
舶来信仰のいまだ高い日本でも、レクサスは日本のブランドでありながら、海外のラグジュアリーブランドに順じるイメージで受けとめられている。
当初は敷居の高い店舗のイメージが毛嫌いされたり、地味なデザインが揶揄されたりしたものだが、それらを払拭すべく努力し、デザインについてもスピンドルグリルを大々的に採用するなどしたことが功を奏し、レクサスは着実にその地位を固めつつあるように見受けられる。
レクサスLCコンバーチブルのボディサイズは全長4770×全幅1920×全高1350mm。搭載されているエンジンは477ps/55.1kgmを発生するNAの5L、V8
そして2020年6月27日に、LCのコンバーチブルが発売された。LCはレクサス自身がよりエモーショナルなブランドになるためには、それを象徴するクルマが不可欠という思いから企画されたクルマだ。
思えばレクサスは、「LFA」のような弩級のスーパーカーを作った過去がある。「86」やGRスープラのようにトヨタブランドでスポーツカーを作る時は採算性にものすごく慎重なのに、かたやレクサスでは驚くほど大胆な側面を持っている。
そんなレクサスがLCにコンバーチブルを加えたのはズバリ、世界の名だたるラグジュアリーブランドの先達と本当の意味で同じ土俵にのりたいという強い思いがあったからに違いない。
電動ソフトトップを採用したのは、軽量で軽いこと、コンパクトに収納できること、明らかにこのクルマがコンバーチブルであることがわかる、という理由から採用されたという。電動ソフトトップで開閉時間は、開 : 15秒、閉 : 16秒と公表されている
ソフトトップの材質や質感を吟味し、骨格と素材の張り具合を徹底的に検証することで、ルーフクローズ時にクーペのような美しいルーフラインとなるようにしたという
ルーフの開閉は、書の三折法にヒントを得て開閉動作を「動き出し」「途中」「動き終わり」の3ステップに分解し、動き出しと動き終わりには適度な「タメ」を持たせながらも、極端な速度変化がないようリズムよく繋ぐことで優雅で自然な動きを実現
価格はなんと1500万円(限定60台の特別仕様車1650万円)。世界を見渡しても、1500万円級の4座オープンというのはそう多くはない。
メルセデスベンツSクラスクーペやSL、BMW8シリーズカブリオレ、ポルシェ911カブリオレなどの直接的なライバルのほか、ロールスロイス、ベントレー、アストンマーティンなど、さらに高価な超高級ブランドしかなく、アメリカ車には存在しない。
メルセデスベンツS560カブリオレ。469psの4L、V8ツインターボを搭載。価格は2260万円
BMW8シリーズカブリオレ。価格は1292万~1882万円。840iカブリオレは340psの3L、直6ターボを搭載
4シーターオープンとなる992型ポルシェ911カブリオレ。3Lフラット6ツインターボを搭載。カレラ、カレラ4は385ps、カレラS、カレラ4Sは450ps。価格は1623万~2260万円
2シーターも含めると、フェラーリ、ランボルギーニ、マクラーレン、アウディ、コルベットなども入ってくるが、いずれにしても錚々たる顔ぶれ。LCコンバーチブルは、そこに名乗りを挙げた“初”の日本車となる。
このクラスのオープンカーをラインアップするというのは、大衆が買える価格帯のオープンカーを作るのとはワケが違うことは、説明せずともご理解いただけよう。
ただし、上に挙げたのとおり世界の一流どころの多くがオープンカーをラインアップしている。
レクサスとしてはLCのクーペだけでなくコンバーチブルを世に送り出すことも必須と考えたことと思う。オープンがあることが大事なのだ。
そのただでさえ小さなマーケット、すでに地位を確立している強敵が居並ぶなかで、少しでも多くのセレブを振り向かせるためには、それなりの惹きつける何かを持っていなければ無理だ。
レクサスとしてもそれなりの勝算(=数で上回るというよりビジネスとして成立するという意味)がなければ、最初から勝負を挑むことなどないというものだ。
LCはあのグラマラスなリアフェンダーに象徴されるなまめかしいフォルムや独特の雰囲気を見せるインテリアを実現するために、専用のラインを元町工場内に用意して少数のみを日々生産している。
筆者もその工場を見学する機会があり、白く明るい清潔な工房は、これまでいろいろ見てきた工場とはまったく異質な空間において、作業員ひとりあたりが多くの領域を受け持ちLCが丁寧に組み立てられていく様子を目の当たりにし、驚きを覚えたことを思い出す。
これまでのレクサスとは違う次元にあることはもちろん、欧州勢でもこれほどのことをやっているブランドはなかなかないはずだ。
エンジンについては、ハイブリッドも選べればレクサスの独自性をより発揮できたこととは思うが、このクラスの、ましてやオープンカーを欲する人が何を求めているかは想像にかたくなく、クーペでも圧倒的に販売比率の高い5L、V8のみとされたのは納得の思いだ。
昨今このカテゴリーもターボ付きばかりになったなかで、最高出力477ps、最大トル55.1kgmを誇る大排気量の自然吸気V8エンジンらしい伸びやかな吹け上がりと轟く快音がもたらす刺激的なドライブフィールは、流麗なスタイリングとともにLCを選ぶ大きな理由になるに違いない。コンバーチブルであれば、それをより直接的に味わうことができるのもうれしい。
高額なオープンカーの市場が限られる日本では、欧州勢もそうであるようにLCもあまり数は期待できないだろうが、すでにレクサスが成功を収めている北米市場では、もともとオープンカーが好まれる市場でもあり、まずは北米でそれなりの存在感を発揮できれば、それなりに売れ行きは期待できる。
一方で、興味津々なのが欧州での反応だ。まずまずの実績を収めているとはいえ、レクサス全般の「走り」の評価はけっして高いとはいえない。走りの本場である欧州のライバルは、いずれも走りを鍛え上げた強敵ばかり。
そこで評価されてこそ、LCコンバーチブルは本当に彼らと肩を並べることができるといえる。
先般、LCのクーペの一部改良について開発関係者と話した際には、LCの走りをより洗練すべく努力している旨を強調して伝えられ、実際にもその成果が大いに感じられる仕上がりだった。
LCコンバーチブルにもそのエッセンスが盛り込まれていることはいうまでもない。ドライブできる日を心待ちにしている。
ルーフの開閉スイッチはルーフ開閉とスイッチを傾ける方向を合わせることで直感的に操作が可能。ルーフは約50km/h以下の走行時でも開閉することが可能
レクサスクライメイトコンシェルジュを採用し、四季折々のオープンドライブにおいても快適に乗員が過ごせるようエアコン、シートヒーター、ネックヒーター、ステアリングヒーターを自動制御し、乗員にとって最適な室内空間を提供するという
量産メーカーには作ることができない優雅さを手に入れた
今後、LCコンバーチブルはどのような立ち位置になっていくのだろうか?
では、LCコンバーチブルは、セレブたちが買いたくなる存在になっているか?
世界のラグジュアリーブランドは、量産メーカーが絶対作らない台数が見込めないクーペやオープンモデルを生産することで、ブランドイメージを高めてきた歴史がある。
優雅さ、ゆとりが富裕層に好まれ、それがブランドイメージの向上につながっていった。ラグジュアリーとは必要なものしかないという状態の逆で、不要なものがふんだんにある状態のことだ。実際、文化は無駄から生まれてきた。
こうした領域に踏み込んできたのが、LCコンバーチブルだ。LFAでスポーツカーを作れる技術力をみせ、LC、RCなどのラグジュアリークーペ、フルサイズセダンのLS、そして今流行のSUVをほぼフルラインナップで揃えてのLCコンバーチブルのデビューである。
「機は熟した」。レクサス幹部はそう感じているに違いない。レクサスのブランドイメージは申し分ない。おそらくセレブたちにもLC500コンバーチブルは受け入れられるだろう。
2005年8月のレクサス日本始動から早15年、ここにきて、ようやくレクサスはメルセデスベンツやBMWと肩を並べるプレミアムなラグジュアリーブランドになったとつくづく実感する。
もちろん微に入り細に入り、まだまだ文句の付けどころはたくさんあるけれど、日本車唯一のラグジュアリーブランドとしてさらなる飛躍を遂げてほしい。
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