新型ジムニーが登場して大人気なのはお伝えしているとおり。しかし、ジムニーの本領発揮はオフロードだ。
舗装路での試乗記はもう飽きた!! と思っている人にオフロード試乗記をお送りします。乗り手は「ミスタージムニー」と呼んでも過言ではない二階堂裕さん。
慧眼だった!? 愚策だった!? もし軽自動車の64馬力自主規制がなかったら
オフロード走行の感想、そして初代からジムニーを知り尽くす二階堂さんに新型のいい点、そして「もうちょっと」なポイントも聞きました。
文:二階堂裕/写真:池之平昌信
■先代とはここが変わった!! 外観でわかる新型のよさ
新型ジムニーが登場した。軽自動車の660ccがJB64、普通車の1500ccがJB74である。両者は、基本的には、共通のフレーム、ボディ、サスペンション、を持ち、その差はエンジンである。
実際には、シエラJB74のトレッドはJB64よりも130mmも広い。共通のボディを使用しているため、シエラの車幅は1645mmとJB64よりも170mmも広いのだ。
シエラの黒色に塗られたオーバーフェンダーは、圧倒的な存在感で、シエラは一昔前の三菱ジープの大きさとなっている。
先代にあたるジムニー(JB23)と新型ジムニー(JB64)では、ボディのカタログ上の寸法はまったく同じだ。
ところが、以前の丸みを帯びたボディとは違い、多くの直線部分で構成された新型ジムニーJB64では、室内空間の広さが違う。
運転席に座ると、腰から上の空間が広くなった。寸法で行くとわずかな違いだが、スクエアーな形状により、そのメリットははかりしれない。
事実、外観でもボディは、大きく見えるし、体積も大きくなっている。特にエンジンルームは、とても広くなり大きな空間ができた。JB23とは比較にならない。
これは、すべてスクエアーボディがもたらす効果である。旧型のバンパーは、カタログ上のアプローチアングルやディパーチャーアングルは、優れている。
しかしバンパーが横に広がった形状であるため、クロカン走行では、地面とバンパーが接触しやすい構造であった。それを知らずに、オフロードへ行くと、バンパーがもげたり、リヤのナンバープレートが曲がってしますことがあった。
それが、新型ジムニーでは、前後とも左右が上に切れ上がったデザインとなり、クロカンでも接地しにくい優れたバンパーデザインとなったのである。
また、牽引フックは、以前のものは、薄い鉄板を曲げただけの弱い構造で、下にひくためのタイダウンフック(船舶などでの輸送時の固定用フック)専用というべきもの。
先代ジムニーでオフロードでスタックした時に、ここを牽引ロープで前後に引くと、フックが曲がりフレームも潰れてしまう構造だった。このためジムニーのアフターパーツメーカーからは、多種多様な牽引フックが発売されていた。
それが、今度の新型ジムニーでは、鉄の棒を曲げたものにかわり、強度が格段に向上している。簡単なスタックなら、充分これで対応できるだろう。
左ドアにあるドアミラーには、アンダーミラーが追加され、左フロントフェンダーにあったアンダーミラーは省略され、すっきり。
ジムニーの伝統的デザインを踏襲した丸型ヘッドランプには、ジムニーシリーズ初めてのヘッドランプウォッシャーがついたのも新しい。
インタークーラーは、フロントのラジエーター横に移設され、冷却空気が入りやすくなり、ボンエット上のエアースクープがなくなり視界も良好になるなど進化は多い。
■電子制御でオフロードがもっと身近になった
ジムニーシリーズ初めての、キーレスエントリーである新型ジムニーのエンジンをかける。ボディマウントの改良やボディの改善により、静粛性が向上、今までのジムニーとは異次元の感覚。
基本レイアウトや見た目は同じでも、20年の進化には驚かされる。オンロードでの乗り心地は素晴らしい。
旧型JB23は、ノーマルのサスペンションは、4人乗れば安定するのだが、一人乗車だとピッチングやローリングが大きく、大変乗り心地が悪く、コイルスプリングのフワフワ感が鼻につくものだった。
それが、新型ジムニーでは全くない。すばらしい、セッティングである。しかし、重量に関しては、JB23が980kgに対して、JB64は1040kgと60kgも重くなり、軽快さはスポイルされた。
また、アクセルワイヤーがなくなり電子での操作になり、アクセルぺダルを踏み込んだ時のレスポンスが低下したのは残念なところである。
さっそくオフロードに乗り入れてみる。不整地で一輪が浮くような状態になると、まずタイヤが空転する。
その後2秒くらいしてブレーキLSDが作動して、タイヤのスリップがなくなり、車は前進する。
トラクションコントロールの素晴らしさに驚く。不整地での新型ジムニーの走破性はとても高くなり、以前のモデルとは比較にならない走破性を持った。
ヒルクライムの途中で、ブレーキからアクセルに踏みかえると、約2秒ブレーキが働き、車体が後退しない機能がついている。これは、ヒルホールドコントロールと言われるもので、スムースな発進が可能となる。
またヒルディセントコントロールは、急なくだり坂でブレーキを自動制御することで車両の速度をおさえて、定速走行を可能にする。
このため、ドライバーはハンドリングに集中すればよく、各段に運転が容易になっている。
前述したヒルホールドコントロールとヒルディセントコントロールは、それぞれにスイッチがついていて、これをオンオフすることで、自分の好みのドライビンができるという高度な次元の運転操作ができることになった。
実際、オフロード走行で、これらのスイッチを最適に使いこなすにはどうしたらいいのか? と疑問がわくところもなくない。
しかし、これらの電子でデバイスの進化により、オフロード走行の経験のない人でも、容易にオフロードを走れてしまうようになったのは事実である。
新型ジムニー、恐るべしである。
■ジムニーとシエラのメリット、デメリット
今度のシエラJB74は、ジムニーシリーズで最高の排気量である1500ccのK15Bエンジンを手に入れた。
旧型のシエラJB43は1300ccのM13Aエンジンであったが、このエンジンはパンチに欠け、おとなしい性格のエンジンであり、低速トルクも少なくて慣れないと乗りにくいエンジンであった。
ところが、新開発のシエラのK15Bエンジンは、トルク感にあふれていて、低速から中速までが実によく、乗りやすい。
特にATとのマッチングは最高で、オンもオフもジムニーシリーズ最強のジムニーになったと思う。
またコーナリングでの安定性は、ジムニーシリーズ最良で、過去に例を見ないほどに安定している。
本当は、重心が高いはずなのに、1500ccクラスの乗用車と互角に走れるだろう。また、この安定性と、優れた動力性能はトレーラーの牽引にも、非常に向いている。
ただし、日本の林道などでは、シエラの車体の幅が、ジムニーよりも130mmも広いのは考え物。
軽自動車サイズのジムニーは通過できるが、シエラJB74は木にボディがあたり、行けないというシチュエーションは確かに存在する。
日本の林道はどこでも、軽トラックが通過できる幅に整備されていて、タイヤ1本分広いと危ないという道路は多々見受けられるからである。
山岳地帯で、小さく軽いことのメリットは、はかり知れないのである。
ジムニーとシエラ、これまでは少しの差であったが、外観こそ似ているが、違う車になったと断言していいと思う。新型ジムニーは、どちらも魅力に満ちている。
【著者について】
二階堂 裕(にかいどう・ゆたか)
1954年、北海道旭川市生まれ。海上自衛隊パイロットを経て、1982年にスズキに入社。スズキではエスクード開発にも従事。また日本ジムニークラブ設立にも貢献。
スズキ退社後の1994年、神奈川県厚木市に4WDショップである「アールブイフォーワイルドグース」を設立。
現在も同社代表取締役社長を務めるとともに、ジムニー専門誌『Jimny SUPER SUZY(SSC出版)』の発行人も務める。
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