MERCEDES-AMG GT C Roadster
メルセデスAMG GT C ロードスター
異次元の扉を開いたゲームチェンジャー! ブガッティ シロンの1500psを味わう 【Playback GENROQ 2017】
刺激的な開放感
近年の新たなるAMGブランドのイメージを牽引するAMG GTだが、実際、その中身は明らかにさらなる進化を遂げている。昨年のパリ・サロンでデビューしたAMG GT C ロードスターはノーマルよりもグラマーなボディに高出力エンジンが載せられた。その実力を島下泰久が国際試乗会で確かめた。
「高い注目度と歯切れ良いサウンドがドライバーの気分を昂揚させる!」
試乗を前に手渡されたロードブックを見て面食らった。起点となったフェニックス近郊のホテルからパワースポットとして知られるセドナに至る、この日の試乗ルートは走行距離500kmに及ぶと記されていたのだ。速度制限の厳しいアメリカで、しかも行程の大半が一般道。おまけにクルマはロードスターだから、つまりルーフは開けていけという話である。確かに試乗の舞台となったアリゾナは、3月でもすでに初夏の陽気ではあったけれど・・・。
難儀だな、などと思いながら試乗車がずらりと並ぶホテルの前へ。そこでクルマと対面すると、目がぱっと見開くのが自分でも解った。一撃で虜にする魅力、間違いなくある。
メルセデスAMG GTのラインナップに、新たにAMG GT ロードスターとAMG GT C ロードスターの2台の仲間が加わった。前者はその名の通り、AMG GTのオープン版。そして後者は従来のトップレンジであるAMG GT Sと、サーキット向けに特化したAMG GT Rの間に位置するモデルであり、ロードスターが先行して昨年9月のパリ・サロンでデビュー。今年1月のデトロイト・ショーでクーペ版の追加も明らかにされた。今回ステアリングを握ったのは、このAMG GT C ロードスターである。
「問題は手荷物を置くスペースが絶望的に少ないこと」
まず魅了されるのが、迫力のエクステリアだ。ルーフをソフトトップに置き換えたボディは、よりピュアな印象が高まりストレートなカッコ良さが出ている。ルーフを閉めていても尚、である。今や全モデルに採用されるAMGパナメリカーナ・グリルも、存在感アップに貢献している。必要のない時にはグリルのルーバーを閉じて空気抵抗を減らし、車体下面へと気流を導くアクティブエアマネジメントシステムも標準装備だ。
しかもAMG GT C ロードスターには、AMG GT Rと同様に57mmワイドなボディが与えられ、そのフォルムをひときわロー&ワイドに見せている。アメリカではこのぐらいで、やっとちょうどいいという感じ。しかし日本ではさすがに持て余す場面に多く遭遇しそうである。
インテリアは基本的に変わっていないが、なぜか天井に付いていたハザードランプのスイッチは常識的なセンターコンソールへと移された。問題は手荷物を置くスペースが絶望的に少ないことで、シート背後にはブリーフケースを滑り込ませる隙間すら残っていないし、シートポケットもセンターアームレスト内の小物入れも、とても小さい。2人で乗る時には、まず手荷物をラゲッジスペースに積んでからということになりそう。ちょっとスマートじゃない。
「AMG GT S比で35ps、10Nm増のV8ツインターボが注目ポイント」
注目はメカニズムだ。4.0リッターV型8気筒ツインターボエンジンは、最高出力557ps、最大トルク680Nmを発生する。この数値はAMG GT S比でそれぞれ35ps、10Nm増。実はこのエンジンのハードウェアは大型ターボチャージャーを用いて最高出力585ps、最大トルク700Nmを発生するAMG GT R用そのもので、実用域のドライバビリティを優先してチューニングだけが変更されている。変速スピードを速める軽量デュアルマスフライホイールも同様に採用された。
ボディはオープン化による剛性低下を補うためサイドシルは肉厚アップ、チャンバーの追加を実施。他にもダッシュボード支持部のステム、シート背後のクロスメンバー、リヤのストラットタワーバーなども追加された。また、トランクリッドは初採用のSMC(シートモールディングコンパウンド)製とされている。
その上でシャシーはトレッドを拡大。そして、これもAMG GT R譲りのアクティブリヤアクスルステアリングを搭載する。
見た目で、そしてスペックでゾクゾクさせたAMG GT C ロードスター。街中での目立ち度は相当なものだ。AMGパフォーマンスエキゾーストシステムの歯切れ良いサウンドも相まって、気分を昂揚させる。風の巻き込みは最近のオープンカーにしては大きめだが、それも悪くないという気分になってくる。
「剛性感の高い基本骨格のおかげで不安感も安っぽさも感じない」
郊外に抜け、路面が荒れてくると、ボディの剛性感の高さに感心させられた。サスペンションは硬く、路面の荒れもうねりもそのまま伝えてくるが、この基本骨格のおかげで不快感も安っぽさも感じなくて済む。
当然、それはコーナリングの切れ味の良さにも繋がっている。操舵に対して一瞬の遅れもなく旋回態勢に入っていく俊敏さは、この頑強なボディと後輪操舵、そして電子制御式LSDの相乗効果だろう。一般道で多少飛ばすくらいならトラクションも十分。途中、何度か現れたワインディングロードでは貪るように操縦に没頭してしまった。
一方、エンジンについては語れることは多くはない。何しろ冒頭に記した通り、試乗の舞台はアメリカの一般道。全開にできるチャンスはほとんどなく、レッドゾーンまで回せたのも、たった一度きりだったからだ。それでも吹け上がりの勢いの凄まじさ、まるでターボラグを感じさせないトルクのツキ、そして7速DCTの電光石火の変速は十分に堪能した。要するに、回さなくたって十分に快感、得られたわけである。
「AMG GT C ロードスターの乗り味は、言うなればハーレーにでも跨っている感じ」
こんな風に夢中になって走らせていたら、500kmの旅程も事前に想像していたよりはるかに早く、楽しみながら走破してしまった。正直なところ、観光地化著しいセドナでは期待したようなパワーを感じることができなかったが、それでも気分が清々しかったのは、まさにAMG GT C ロードスターというクルマそれ自身から、パワーをもらっていたからということだろう。
実は走らせる前には、同じような価格帯にメルセデス・ベンツSLと2台の2シーター・オープンを用意する必要があるのか? という疑問もあったのだが、試乗後にはそんな思いはきれいに消え去った。SLは当たり前だがメルセデス・ベンツ。スポーティだが、快適さやラグジュアリーさも併せ持った存在だ。
それに比べればAMG GT C ロードスターの乗り味は、言うなればハーレーにでも跨っている感じ。音も振動もより直接的だけれど、むしろそれを楽しむためにこそ乗るものだと言えるだろう。逆に言えば、普段使いやデートならばSLを選んだ方がいいということ。購入を検討されている向きにはその辺り、留意していただければと思う。
REPORT/島下泰久(Yasuhisa SHIMASHITA)
PHOTO/Daimler AG
【SPECIFICATIONS】
メルセデスAMG GT C ロードスター〈GT ロードスター〉
ボディサイズ:全長4551〈4544〉 全幅2007〈1939〉 全高1260〈1259〉mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1660〈1595〉kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:83×92mm
圧縮比:9.5〈10.5〉
総排気量:3982cc
最高出力:410kW(557ps)/5750-6750rpm〈350kW(476ps)/6000rpm〉
最大トルク:680Nm(69.4kgm)/1900-5750rpm〈630Nm(64.3kgm)/1700-5000rpm〉
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前390 後360mm〈前後360mm〉
タイヤサイズ(リム幅):前265/35R19(9J) 後305/30R20(12J)〈前255/35R19(9J) 後295/35R19(11J)〉
最高速度:316〈302〉km/h
0-100km/h加速:3.7〈4.0〉秒
CO2排出量:259〈224-219〉g/km(EU複合)
燃料消費量:11.4〈9.6-9.4〉L/100km(EU複合)
※GENROQ 2017年 6月号の記事を再構成。記事内容及びデータはすべて発行当時のものです。
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