3月15日、『ルパン三世』シリーズや『未来少年コナン』などを手がけたアニメーターの大塚康生氏が心筋梗塞のため89歳で亡くなった。親交のあった自動車評論家の小川フミオが、気高い大塚氏のエピソードを語る。
フィアットやジープを愛する
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日本のアニメーションの興隆に貢献した大塚康生氏(1931年生)が2021年3月15日に、心筋梗塞でなくなった。大塚氏といえば、思い出ぶかい作品を数多く残してくれたアニメーター。これを書いている私(61歳)は、幼稚園のころから、大塚さんが手がけた劇場用アニメーションに、深く感動してきたクチである。
大塚氏は、私が編集に携わっていた自動車誌『NAVI』(現在休刊中)で連載を受け持ってくれただけでなく、みずから編集者のように動いて、米国のすぐれた自動車カートニスト(イラストレーター)に作品を依頼してくださったりした。
大塚氏といえば、スバル「360」が30万円台だった時代に62万円で新車を購入したフィアット「ヌオーバ500」に乗っていたことが知られている。このクルマでの武勇伝については宮崎駿氏がいろいろ書いていらっしゃるので、ここでは触れないでおきます。クルマいがいにも、動くメカニズムが大好きだったこともあって、ジープ愛も強かった。そのときの大塚氏の愛車は、航空機で運ぶことを前提に設計された小型軽量の「M422」、通称「マイティマイト」である。
私は、先日、目黒を歩いていて偶然、マイティマイトを車庫に入れている家を見つけた。「いまでも好き者はいるんだなぁ」と、嬉しくなった。同時に大塚さんの、「アルミホイールなんて、ジャングルを走りまわっていると振動と衝撃でボルト孔が削れて大きくなって、ハブから車輪が外れちゃうんで、米陸軍内で、『こりゃダメだ』ってことになったんですよね」という話と、そのときの笑い顔を思い出したのである。
正確に描くことの重要性
そもそも旧ソ連製の質の高い作品を観て、アニメーションの世界に入ることを決心したという大塚氏。のちに東映動画に吸収される日本動画映画株式会社への入社を振り出しにキャリアをスタートさせ、『白蛇伝』(1958年)、『西遊記』(1960年)、『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』(1962年)、『長靴をはいた猫』(1969年)などの原画を担当する。私これらのDVD、持っています。
大塚氏の名が男子にいっきに知られるようになったのは、テレビシリーズ『ルパン三世』(1971年)ゆえだろう。第1シリーズは、大塚氏が作画監督とキャラクターデザインを手がけた。とにかく洒落ていて、それでいてコミカルで、かつアクションとお色気があって、そしてクルマがたくさん登場した。
「車というものはない。それはベンツであり、コロナであり、ブルーバードという名前と固有の形をもった商品であり、機械である。シフト・レバーもブレーキも知っている人にとって、それをわかる位置に正確に描かなければならない」
これは大塚氏が、読売テレビに提出した企画書のなかに書いたこと、と、著書『作画汗まみれ』で触れている。こういうことを当時考えているアニメーターは、ごく限られていたはずだ。拳銃も同様。峰不二子が持つのはブローニング・ハースタル22と、決められている。
じつはこれには理由がある。大塚氏が前出・日動の門を叩く前に働いていたのが、「厚生省関東甲信越地区麻薬取締官事務所」。いわゆる麻薬Gメン(もう死語)の事務所だったことに関係する。そこで被疑者の指紋を採取したりするのが大塚氏の仕事。ハースタル22は、そのころ大塚氏が、仕事の一環として、分解・組立のメインテナンスをしていたものだ。メカニズムを熟知しているため、アニメーションにしたとき、リアリティが出るからと、そのときの提案になったのだった。
沖縄での忘れられない思い出
私が大塚氏を尊敬した出来事がある。いっしょに、沖縄本島・金武湾の北岸に近い米軍のキャンプハンセンに、大塚氏が「いちど実物を観たい」と言っていた「HMMWV(High Mobility Multipurpose Wheeled Vehicle)」の取材に出かけたときだ。 その車両は、ジャングルの戦争(ベトナム)の時代から砂漠の戦争(湾岸戦争など)の時代になる、と考えた米国のために開発されたもので、民生用では「ハマー」として1992年から販売されることになる汎用4輪駆動車である。
米軍からは広報担当の女性軍人がやってきて、「ミスター・オーツカをはじめとするみなさん、ここにある車両は好きなものを観ていってくださいね」とにこやかに案内してくれた。お目あてのHMMWVのコマンドカー仕様(AT仕様)に同乗試乗させてもくれた。
私はこのとき、リバースとドライブのゲートのあいだに、通常のクルマでは絶対に設けられているはずのストッパーがないのを知ったのである。「ストッパーを解除しているわずかな時間にミサイルが当たるかもしれませんからね」と、操縦していた米国軍人が解説した。
大塚氏はずっと熱心にスケッチしていらした。そして取材が終わったとき、広報担当者が、「みなさん、これから飛行機に乗るなら、那覇の空港までハンビーでお送りしましょう」と、提案してくれた。そのとき同行していたもうひとりの取材者は「えー、いいですかぁ!」と目を輝かせたものの、大塚氏はぴしゃりと、「けっこうです。その必要はありません。タクシーを呼んでいただけますか」と言ったのだった。
前の晩、私たちと食事をしていたときも、さかんに沖縄のひとたちの苦労に心を寄せる発言をしていた大塚氏。なんともかっこいい啖呵(たんか)ではないか。宮崎駿氏も言っていた。「僕たちのポリシーは、好きだけど認めない。それに対して、わかんないけど認める、っていうのはまずいよね」。私はそれを思い出した。
軍用車両の特殊性は、メカニズム好きを魅了する。そこに惹かれてしまうのはしようがないけれど、“本当はこういうものが存在してはいけない”という考えかたを、私たちは、絶対に忘れてはならない、ということなのだ。
大塚氏の書いているものを読んでも、つねにそこには、底辺に位置するひとへの思いが吐露されている。ルパン三世が『カリオストロの城』(1979年)でフィアット・ヌオーバ500に乗るのも、「どんなに稼いでいても、自分は貧乏人の小せがれだったって出自を忘れないためなんですよ」とは宮崎氏の解説である。
ルパン三世では、アルピーヌ「A110」、トライアンフ「TR4」、アルファロメオ「6C1750」、メルセデス・ベンツ「SSK」、さらにはフェラーリやティレルのフォーミュラマシンなど、“カーキチ”と自らを定義する大塚氏の趣味が炸裂するものの、私もやっぱり、ヌオーバ500に乗るルパンが好きなのだ。
「チンクエチェントによってあらためてイタリアという国が好きになった」と、自費出版した『大塚康生のおもちゃ箱』に書くほど、よく走るヌオーバ500を楽しんだ大塚氏。そのときの思いが、映画のなかのカーチェイスにふんだんに活かされているように思える。大塚氏が作画監督とキャラクターデザインを手がけた劇場用作品『カリオストロの城』をまた観て、強きをくじき弱きを助けるルパンと、イタリアの生んだキュートな大衆車の活躍ぶりを楽しませてもらいたくなった。
あらためて、ここで氏のご冥福を深くお祈りします。
文・小川フミオ
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みんなのコメント
食いしん坊のワタシとしてはw、ルパンと次元が争うように食べていた
あの「ミートボールパスタ」のシーンがどうしても忘れらません…w
大塚さんもグルメだったのでしょうか…?
クルマの話じゃなくてすいませんNAVIのオガワさんw