ボルボXC40の高評価が止まらない。たしかにいいクルマなのだが、いかんせんこうも大絶賛が続くと読者としてはちょっと疑いたくなるはず。いくらいいクルマだからって2Lターボ搭載のミドルクラスSUVで(中間グレードが)400万円オーバーって、それくらい出せばそりゃあいいクルマなのは当たり前じゃない??
まあそれはさておきこれだけ褒められると現に「接待してあげたんだろう」とか、「お金をもらって記事にしているんだろう」とかなにかと陰謀論が出てきてしまうのも、メディアの人間としてもわからなくはないです。そこで過去を振り返りつつ、あの頃「ちょっと褒められすぎたよね」という名車にも迫ります。
三択で選ぶミドルSUV ベストはC-HRか、XVか、三菱の新生か!?
文:清水草一/写真:ベストカー編集部
■XC40は褒められすぎなのか!? 真相はいかに
ボルボXC40の評判がすこぶるいい。あまりにも評価が高すぎて、読者からは「本当にそんなにいいのかよ?」という疑問の声が編集部に届いているという。
あまりにも評判がいいと、「ウラに何かあるんじゃ」「接待でホメさせてるんじゃないかぁ?」といった疑念が生まれるようだ。が、正直をモットーにしている私が乗っても、XC40は本当にいいクルマだった。
まだ20インチタイヤを履いた「T5 AWD Rデザイン ファーストエディション」しか試乗できていないが、むしろもうちょっと安価なグレードの方が、もっと足回りがしなやかに感じてGOODなのでは? と予感させる。
やはりいいクルマなXC40。試乗だけでもしてみることをおすすめしたい
XC40には、とにかく弱点がない。デザインは凝縮感が高くバランスがいい。逆スラント的なグリルに個性もあり、ヘッドライト内のトールハンマー(北欧神話の雷神が持つハンマー)のモチーフもイカしてる。
サイズは全長4425ミリと、日本で乗るにも手頃。ただ全幅は1875ミリもあり、さすがに狭い駐車場での乗り降りは若干キツい。ただ車幅の問題は、ほぼすべてのグローバルモデルに共通する課題。「幅が広すぎる!」と言ったら、今や幅が狭いグローバルモデルなど存在しないので、そこに難クセをつけるのは酷だろう。
XC40が好印象なのは、インテリアの質感だけでなく、実用性も高い点がある。日本の軽自動車を参考にしたとしか思えないティッシュボックス収納場所や、さりげないゴミ箱、そしてレジ袋フック(収納可能)まであるのだ! オシャレな北欧家具なのに、メチャメチャ生活に密着したこのフレンドリーさ! それでいて生活臭はまったくないのだから、日本の軽自動車にも、ついに新たな「後を追うべき目標」が生まれた気がする。
XC40には、もうひとつだけ弱点がある。リヤシートは座面の奥行きがなく、背もたれもかなり立っているのだ。もちろんリクライニングもない。スペース的には十分だが、日本的にくつろいで座るには向いていない。まだちょっと座ってみただけだが、XC40の後席で何時間もドライブするのはご免こうむりたい予感がしている。ここはマイナスです。
リアシートの背もたれがたち過ぎているXC40。運転しているドライバーはいいが長距離後部座席にのる家族はつらいか?
さらなるマイナスは価格か? ファーストエディションは557万円。決して安くはない。しかし最廉価版のT4(FF)なら389万円から。装備が充実したT4モメンタムでも439万円。「AWDはいらない」と割り切れば、十分お買い得な価格設定だ。実際乗ってみれば、皆様それが実感できるでしょう!
というわけで、小さな弱点はあるものの、XC40は本当によくできたクルマだ。決して接待攻勢があったわけでもない。この乗り味の質感は、完全にひとクラスかふたクラス上。逆に「なんでこんないいクルマ作れたわけ?」と聞きたくなるほどだ。
■過去にはあったぞ!! いまおもえば「褒められすぎ」な名車たち
このように、XC40は決して誉められすぎではないと正直者の私も断言いたしますが、過去、「あれは誉められすぎだったなぁ」というクルマはいろいろ存在した。
たとえば96年に登場した三菱ギャラン/レグナム。というよりGDIエンジンだ。確かにGDIエンジンのメカニズムは超画期的で、我々も説明を聞けば聞くほど感心し、「これはスゴイ! 三菱の技術はハンパじゃない!」と感服した。
なにしろ事実上の世界初である直噴ガソリン&リーンバーンを実現していたのだから! 登場当初は、各誌燃費テストを実施し、その低燃費を絶賛した。実際のところは、高速巡航ではそれなりに低燃費だったが、トータルでは大して燃費は良くなかった。
しかしあまりにも革新的な技術だったので、「これをホメなきゃしょーがないだろ!」みたいな空気になってしまった。デザインも、特に悪いところのないオーソドックスなセダン/ステーションワゴンで、王道を往くタイプだった。
ギャランなどに搭載されたGDIエンジン。超画期的な直噴エンジンだったのだが、まだ世に出すには早かったのかもしれない。ちなみに燃費は従来比35%減とうたっていたが……
96年登場のギャラン/レグナムは絶賛の嵐を受け、日本カー・オブ・ザ・イヤーも受賞したが、その後GDIエンジンそのものに不具合が多発。カーボンが蓄積してパワーも燃費も経年ごとに悪化し、最後には死んでしまうのでした!
そんなこと、長い期間乗らないとわかんないです~! いや~、参りました。なにせ三菱は、その後GDIエンジンそのものを廃止してしまいましたからねぇ。まさに絶賛倒れの極致でした。
98年に登場したトヨタ・アルテッツァも、絶賛されすぎたクルマだった。
比較的コンパクトなボディにFRレイアウト。実は自動車メディア関係者は、それだけで「これはイイ!」と思ってしまう。なにせカーマニアは保守的ですので、古典的なクルマを手放しで絶賛してしまいがちなのですよ。カーマニアの秘孔とでも申しましょうか。
私も、「このクルマは石原裕次郎だ!」と思いました。つまり誰からも愛される昭和のスターですね。石原裕次郎にケチつける気にならんでしょ? 裕ちゃんがいてくれるだけでありがたい、はぁ~裕ちゃん最高! そんな感じだったのです。
試乗会をサーキットでやるなどやる気満々だった。「第二のAE86」なんてはやし立てたメディアも多かったが……
これまた日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しております。しかし実際のアルテッツァは、そんなにいいクルマでもありませんでした。フツーに流してれば特に問題はなかったですが、ボディもエンジンもサスも特にいいところはなく、サーキットではアンダー/オーバーで操縦性が悪い。
アンダ/オーバーなんて言葉、最近まったく聞きませんが、まずアンダーステアが出て曲がらず、その後急激にオーバーステアになってケツが滑るという操縦特性です。初めてサーキットで乗った時は、「うわ、このクルマ、ダメじゃん!」と思いました……。
トヨタも、当初絶賛されまくったにもかかわらず、その後あまり愛をかけずに放置し、7年後、寂しくその生涯を終えました。登場当初の絶賛ぶりからすると、寂しすぎる死でございました。南無~。
■あの超高回転FRもいま思えば褒めすぎた?
もう一台あげますと、99年に登場したホンダS2000でしょうか。これまたFRの古典的オープンスポーツです。もうそれだけでカーマニアは誉めてしまうのですよ! なんか法則がわかってきたっしょ? ホメずにいられないのですよ!
エンジンは9000rpmまで回るしさぁ。当時、日本中がS2000に熱狂したと言っても過言ではありますまい。ただ私はこのクルマ、登場当初からイマイチだなと思っておりました。
オープンスポーツってのはこんなにギチギチに体育会的なもんじゃない、これでどこ走れば楽しいんだ、サーキットでしか楽しめないじゃないか! と。実際にはサーキットでも操縦性がピーキーであんまり楽しくないとか言われていたけど、私はサーキットでは乗ってないのでよくわかりません。
最後に、近年のモデルで一例を。2012年に登場したマツダの先代CX-5です。これは、スカイアクティブDエンジンのインパクトがあまりにもデカく、あまりにも画期的で、あまりにもトルクフルで、もうそれだけで恋は盲目状態。絶賛されまくりました。
クリーンディーゼルで走りもいい、という新たなコンセプトを掲げたCX-5。プロトタイプへの試乗などまでさせていたが乗り味はまだまだだった
しかし実はこのクルマ、初期モデルは乗り心地にとても問題があった。やたらピッチングがデカく、ハネて落ち着きがなかったのです。これを買った某カメラマン氏は、縦揺れが激しくて撮影できないということで、すぐ買い替えてしまいました。
その後足回りは改良されて、いいクルマになりましたが、こういう大きな技術的革新があった場合、誉められすぎる傾向がありますね。
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