アウディA6が3代目にフルモデルチェンジしたのに伴い、S6もその2年後の2006年に満を持して3代目が登場している。エンジンは2代目の4.2L V8から5.2L V10にスイッチ、ライバルたちの先を行っていた。日本にも2006年6月に上陸しているが、その日本発表前、欧州で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年5月号より)
控えめだが凝った差別化の演出が行われている
アウディのアッパーミドルクラスを受け持つA6は、2年前の2004年のジュネーブ・オートサロンで発表され、その端正なデザインと高い品質が評価されて世界的なヒットとなっている。ドイツでは特に社用車族から圧倒的とも言える支持を得て、昨年は13万台以上を生産し、A3、A4と並んでアウディの3本柱の一角を担っている。そして、今年のデトロイトで開催された北米モーターショーにおいて、この人気をうまく煽るようなタイミングで、スポーティなバリエーションが登場した。S6である。
【くるま問答】トヨタ2000GTのサイドにある四角い部分には、いったい何が入っているのか?
1985年のスポーツクワトロS1に端を発したSシリーズは、いまやアウディのスポーティでハイテクなイメージのシンボルとなっている。また、そればかりか、2万7000台あまりを販売した4.2L V8エンジンを搭載した先代のS6のように、ビジネスの立派な担い手ともなっているのである。
さて、今回のニューS6のもっとも大きな特徴は、昨年発表されたS8と同様、同じグループのランボルギーニから送られてきたV10エンジンを搭載していることである。
S8と同じFSI仕様(ガソリン直噴)で、5204ccの排気量と12.5という高圧縮比を持つ新世代のV10エンジンは、S6では最高出力がS8の450ps/7000rpmから435ps/6800rpmへとわずかにディチューンされている。
おそらくS8より45mm以上狭いエンジンルームにおける、制約された排気系の取り回しによる結果だと思われるが、その代わりに2ステージ(675mmと307mm)にレイアウトされたマグネシウム製のインテークマニホールドによって、最大トルク540Nmは3000rpmから4000rpmの間で発揮し、さらにこの90%以上のトルクは2300rpmという低回転域から得られる。
シュツットガルト空港で我々を待っていたS6のエンジンルームには、確かにこのV10が納まっていたのだが、外から見る限りでは以前のV8と較べてもそう窮屈そうな感じではない。
事実、このV10は補器類を含め、長さ685mm、幅801mm、そして高さが713mm、重量は220kgとほぼV8に匹敵するほど非常にコンパクトで軽量である。そして、アイドリングからのブリッピングでも7000rpmのレッドゾーンまで一気に吹け上がる。
この日はあいにく、みぞれ混じりの雨がチラつく悪天候だったので、出発する前に駐車場でディテールの撮影を済ませることにする。
そこで観察されたエクステリアデザインは、たとえばAMGメルセデスやBMWのMモデルと較べると、同じように控えめではありながら、ちょっと凝った差別化の演出が行われている。
たとえば縦のラインが強調されたシングルフレームグリル、ボディカラーと関係なく装備されるシルバーのドアミラー、専用アルミホイール、リアエンド左右から覗く4本のマフラーカッターなどがあるが、これらに加えてニューS6から新たに加わったのが、フロント左右のエアインテーク上部にレイアウトされたダイオードライトである。左右5個の発光体は合計10個、つまりこのS6のシリンダー数を象徴しているのである。
これはなかなか迫力があって、14mm張り出したオーバーフェンダーを持つS6の視覚的効果が少ない夕闇の迫ったアウトバーンでも、前方車両が弾けるように右車線へ飛びのいてくれた。
さらに注意深く観察すると、グリルのバッジからシート地、ブレーキキャリパーなどボディ全体に散らばった合計13個の「S6のロゴ」が発見されたが、これはちょっとやりすぎのような気がしないでもない。
ダイナミックな走りを重視したセッティング
さて、ようやくカメラマンのOKが出て、指定コースに沿ってこのS6が組み立てられているアウディのネッカースウルム工場へ向かう。まずは工事中のシュツットガルト空港周辺のアウトバーンが乗り心地とハーシュネスのテストセッション(?)として待ち受けている。
前後に265/35R19サイズのタイヤが標準装備されるシャシは、確かにサスペンション全体が引き締まった感じで、工事中の悪路を越えるときには結構突き上げを感じる。しかし、そのショックはダイレクトで不快なものではない。おそらくアルミを多用したサスペンション構造によるバネ下重量の軽さ、しっかりとしたダンパー、強固なボディなどの相乗効果と思われる。
長い工事区間とそれに続く渋滞を抜け、ようやくスロットルを思う存分開くときがきた。右足を踏み込むと一瞬のためらいもなく10本のシリンダーと4本のカム、そして40本のバルブが管弦楽を奏で始める。そのサウンドは10気筒独特の低いビートの効いたものだ。
435psのパワーは6速オートマチックトランスミッションを介し、さらにトルセンデフを通して、前後のアクスルに分配される。ここまでは従来のクワトロシステムであるが、最新のアウディではこれまでのように50対50の均等トルク配分をやめて、40対60と後輪に大きなトルクが流れるようになっている。これはトラクションやスタビリティ重視の4WD思想から、ダイナミックな走りを重視した方向へ向かっていることの表れであろう。
もちろん、だからと言って高速でのスタビリティがおろそかになったわけではない。相変わらず岩のような安定性を見せながらクルーズを継続する性能は、先にテストしたトップモデルのS8にも決して劣らない。
さて、アウトバーンのセッションを終え、今度はアップダウンとコーナーに富んだ一般道路に入る。ロック・トゥ・ロック2回転半の速度感応式サーボ付ステアリングは、スタンダードA6に較べると非常にダイレクトで、慣れないと最初のコーナーでは切り込み過ぎるほどだった。
しかし、そのシャープで確かなゲインはスポーツサルーンにはピッタリのキャラクターである。ただし、巨大なパワーによるトルクステアを抑えるためと思われるが、後輪駆動のライバルと較べると、ほんのわずかながら、路面からのインフォメーションにフィルターがかかっているような印象を受ける。
しかし、新しいS6の驚きは全体的なドライバビリティが数段スポーティな方向へチューンされていたことである。従来のSモデルであれば、ミューの低いコーナーやオーバースピードではクルマが全体的に外へ押し出される、パワフルな4WD特有のプッシングアンダーが起こっていたが、ニューS6ではこうした現象は起こらず、クルマはひたすらドライバーの目指したラインを正確にトレースしていく。
これはこのテストデイの終わりにセットされたハンドリングコースでも確認された。ESPオンの状態でもその介入は遅めで、さらにトラクションが残っているので、ここでもかなり振り回すことができるが、ESPオフの状態でも前述のプッシングアンダーステアは起こらなかった。
ところで今回のS6ではESPスイッチを2段階にわたってオフすることが可能だ。まずタッチするとASR(アンチスリップ制御)がカットオフされる。続いてこのスイッチを3秒以上押し続けるとESPを含むすべてがキャンセルになり、ミューの圧倒的に低い路面、あるいはサーキットでのスポーツ走行を楽しむことができる。
このあたりにはアウディがBMWを始めとするスポーツキャラクターを持つブランドへ近づこうとする意図が感じられる。
今回のテストではこのS6の各方面のポテンシャルの高さに圧倒された。ここまでの性能が単なる「S」モデルで手に入るのだから、果たしてRS6はどうなるのだろうか。
このアウディS6、セダンは7万9800ユーロ、アバントは8万1000ユーロの価格で、2006年6月からドイツを中心としたヨーロッパで発売が開始される。(文:木村好宏/Motor Magazine 2006年5月号より)
アウディS6 主要諸元
●全長×全幅×全高:4916×1864×1449mm
●ホイールベース:2847mm
●車両重量:1910kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:435ps/6800rpm
●最大トルク:540Nm/3000-4000pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:5.2秒
●最高速:250km/h(リミッター作動)
(欧州仕様)
アウディS6 アバント 主要諸元
●全長×全幅×全高:4933×1864×1449mm
●ホイールベース:2847mm
●車両重量:1970kg
●エンジン:V10DOHC
●排気量:5204cc
●最高出力:435ps/6800rpm
●最大トルク:540Nm/3000-4000pm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:4WD
●0→100km/h加速:5.3秒
●最高速:250km/h(リミッター作動)
(欧州仕様)
[ アルバム : アウディS6/ S6 アバント はオリジナルサイトでご覧ください ]
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