2008年2月に日本に上陸したBMW135iクーぺ Mスポーツは、1シリーズクーぺの第1弾であると同時に、コンパクトなボディに高性能エンジンを詰め込んだスペシャルモデルでもあった。Motor Magazine誌はその高性能ぶりに着目、ライバルとなるであろうポルシェ ケイマンS、アウディTTクーペ 3.2クワトロ、ゴルフR32と比較しながら試乗を行っている。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)
小さなボディに大きなエンジンを押し込んだ135iクーペ
135iクーペがデビューすると聞いたとき「これは元祖BMWの再来だ」と思わず叫んだBMWファンは少なくないと思う。
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それは「小さなボディに大きなエンジンを載せて、スポーティに走る」という、とてもシンプルなコンセプトだ。1970年代当時のBMWはこれで走りを強調することに成功し、多くのユーザーに理解された。新しい135iクーペは、その当時のままの手法で登場した印象を受けたのだ。
ボクが初めて運転したBMWは、2002tiだ。そもそも1600-2と呼んだ1.6Lエンジンが標準のボディに、2Lエンジンを載せたクルマだ。走らせてみるとすべてにゆとりがあり、無理しなくても速いクルマだった。走り出すまでは緊張したが、10mも走ってしまえばそのクラッチ、アクセル、ハンドルの扱いやすさにすぐにリラックスできた。さらにエクステリア、インテリア、走りのすべてが上質であったことも忘れられない。
現在、116iという4気筒1.6Lの4ドアハッチバックの1シリーズモデルがある。これはBMWブランドの中で一番小さなモデルだ。それを2ドアクーペに仕立て、直列6気筒3Lツインターボエンジンをボンネットの中に押し込んだと理解することもできるのが、新しい135iクーペである。
その最大の特徴は、直列6気筒の3Lエンジンながら、400Nmという並みの4L V型8気筒エンジン以上のトルクを出すことだ。それも、1300~5000rpmまでという幅の広い範囲で発生させるのだ。小さなタービンを2個備えたパラレルツインターボで、そこにターボラグがほとんどないことは335iでも実証されている。車重は標準状態で1530kgと335iより90kgも軽いので、その走りが刺激的なことは容易に想像できる。
ちなみに、V型8気筒4Lエンジンを搭載するM3の最大トルクも同じ400Nmである。ただその発生回転数は3900rpmだから、135iクーペの方が400Nmを発揮する範囲が広い分だけ有利だ。さらに車両重量もM3クーペの1630kgより軽いので、トルクウエイトレシオで見ると135iが勝っている。
高性能をどう使いこなすか、それぞれに独自の戦略が見える
今回の取材では、135iクーペのライバルと目されるポルシェケイマンSとアウディTTクーペ3.2クワトロS-line、さらにフォルクスワーゲン ゴルフR32 4ドアにも同行してもらった。エンジンはいずれも6気筒だが、135iクーペは直列6気筒、ケイマンSは水平対向6気筒、TTクーぺとゴルフR32は15度狭角V型6気筒である。
135iクーペに乗り込んで最初に走り始めたときに、あっけないほど楽なので拍子抜けしてしまった。実は乗る前はかなりスパルタンなクルマかと勝手に想像していたから、その乗りやすさが意外だったのだ。
でも35年前に乗った2002tiもそうだった。BMWは速いクルマだからといっても乗りにくくはならないのだ。逆に速いクルマだからこそ乗りやすくしている気配も感じられる。
ブレーキペダルとクラッチペダルを踏み込み、左手でエンジンのスタートストップスイッチを押すと簡単にアイドリングを始める。そしてギアを1速に入れてクラッチペダルを戻していくとクルマが動きそうになる。そのままクラッチを戻しても走り出しそうだが、このタイミングでアクセルペダルを少し踏み込んでいく。
これならAT限定免許以外のドライバーなら誰でも運転できそうだ。クラッチがスムーズにつながり、ギアチェンジもシフトストロークは短くはないが、ゲートがはっきりしていてシフトミスがなさそうだ。アクセルペダルが必要以上に過敏な反応をしないからドライバーがコントロールしやすく、結局は運転しやすいという評価になる。
走り始めても、1300rpmから400Nmという最大トルクを発生するエンジンは粘り強く、MT車とは思えないほど高いギアのまま低いスピードで走ることができる。そしてそのままスムーズに加速させることも可能だ。
かなり、ずぼらな運転も許容してくれる。しかしアクセルペダルをグイッと踏み込んでいくと、ターボパワーが炸裂して目が追いつかないほどの加速を味わえる。このときはシフト操作が忙しい。6800rpmからゼブラゾーン、7000rpmからレッドゾーンだが、そのままアクセルペダルを踏み続けていてもレブリミッターが穏やかに作動して回転が頭打ちになるので、エンジンが壊れる心配はない。
ジャジャ馬ではないことがわかったところでワインディングロードを走らせてみると、今度はそのしなやかなサスペンションに驚いた。舗装が悪く荒れているような場所でも、うまく振動を吸収して、非常に良い乗り心地を提供してくれる。335iクーペよりも確実に乗り心地がいい。ランフラットタイヤだからといって、乗り心地が悪くなると判断するのはもう過去のことだ。
カーブが多いワインディングロードでは、アクセルペダルのオンとオフの回数が増える。だがここでもターボのタイムラグはまったく感じられない。NAエンジンよりレスポンスがいいくらいだ。
もう1台のMT車であるケイマンSに乗り換える。ドライビングポジションからして135iクーペとはまったく異なり、アイポイントはかなり低い。そしてシートがかなり硬く、肩までサポートがあるから、まるでレーシングタイプのバケットシートという感じだ。シートのフレームがしっかりしていて、それに貼られているウレタンが薄いから、より硬く感じるのだ。
サスペンション自体も、かなり硬く締め上げられている。路面の不整もそのまま伝えてくるし、コーナリング時のロール角もごく小さく抑えられている。だから、いつでもダイレクトな操舵フィーリングなのだ。それでも硬いシートで身体が動かないから、全体のバランスが取れている。
ケイマンSはシフトレバーの操作感もちょっと重めで、横方向には剛性が高い感じだ。135iクーペよりストロークは短く、明確なゲートが刻まれている。この感触は911と共通する。
135iクーペとケイマンSをイメージで比較すると、乗用車とスポーツカーという違いがありそうだ。ケイマンSのエンジンは3387ccという排気量から最大トルク340Nm/4400~6000rpmを発揮する。ケイマンSのメリットは重心点が低いことと、総重量が軽いことだ。これは2人乗りから来ているが、車両重量は1380kgしかない。135iクーペより170kgも軽いのは、走りにとって大いにアドバンテージを持つ。しかも軽いといってもミッドシップなので、リアの駆動輪には大きな荷重が掛かっているという大きな利点を備える。
満足感をもたらす特別さをどう演出するか
アウディTTクーペも、S-lineスポーツサスペンションを装備しているために足は硬かった。高速道路を走っているときやワインディングロードを走っているときには気にならないのだが、一般道で流れに乗って走行しているという状況では、乗員が揺すられる感じの乗り心地になるのだ。またコーナリングではロール角が凄く小さい。
このTTクーペも車両重量は1470kgしかない。ボディの軽量化技術が功を奏したのだろう。この重量で320Nm/2500~3000rpmだから十分な速さを発揮できる。組み合わされるトランスミッションは、Sトロニックだ。これは、DSGから名前を変えたアウディ流の呼び方だ。
6速まであるが、シフトする時間を待つ必要がないから、ATモードでもMTモードでもスムーズで素早いシフトが可能である。PRNDSという5ポジションがあり、Dレンジから左に倒すとシフトアップ/シフトダウンができるマニュアルモードになる。
マニュアルモードにしなくてもパドルシフトが使えるのが嬉しい。通常運転ではDレンジのまま操作しているケースの方が多いのではないかと思うが、Sレンジはワインディングロードで有効に使えた。Dレンジでもマニュアルモードでも、タイトターンをしている最中はエンジン回転数が下がってしまうが、Sレンジにしてワインディングロードを走らせると、アクセルペダルから足を離してしばらく経っていても3000rpm以上の回転数をキープしていてくれる。だから加速を開始するときにアクセルペダルを踏み込めばすぐにパワーを引き出すことができるのだ。
ワインディングロードを走りながら、ドライバーがエンジン音を楽しめるのはTTクーペである。割りと大きな音がキャビンに聞こえてくるからだ。ただし車室内では大きな音でも、外では静からしい。
その反対に車室内の音は大したことはないのに、通過していくときのエキゾーストパイプからの排気音がよく聞こえるのがゴルフR32だ。これは同じエンジンなのだが、エキゾースト系は違うチューニングを施しているのだろう。ちなみに、135iクーペもターボエンジンなのにちゃんと聞かせる音を持っている。
ゴルフR32も、他の2台と同じように135iに比べるとハードなサスペンションである。ただ中低速域での乗り心地は、TTクーペのように揺すられることはなく、ある程度のしなやかさが確保されている。ワインディングロードのコーナリングではロール角は小さく、車高が高いことによるデメリットを感じさせず、ほとんどオンザレール感覚で走行できるのは楽しい。
いつもそうだが、ゴルフはシートがいい。バックレストが高めで背中を付けたときに広い面積で受け止めてくれる。サイドサポートも上まであるから、ハードなコーナリングでも肩の部分が受け止めてくれる。何しろ腰が伸びるように自然と姿勢が決まるのが嬉しい。車高の高さとアップライトに座ることをマッチングさせてパッケージングを成立させている。
ゴルフR32の車両重量はTTクーペより120kg重く1590kgある。それでもTTクーペと同じ3.2Lエンジンだから、とても元気よく走ってくれる。
135iクーペは2ドアセダンのようなパッケージ
さて、135iクーペのブレーキシステムには、BMW久々の対向ピストン型キャリパーが備えられている。ちなみに、その前に採用されたのはE38型の735iMスポーツである。
フロント用キャリパーは対向6ピストン型だが、そのフィーリングは対向ピストン型のデメリットを克服していた。デメリットとは、踏み込んでいったときのストロークの長さだ。ピストンの数が多いと、それだけブレーキ液をたくさん使わないと押すことができない。そのため、踏み始めの反応が弱いとか、さらに踏み増したときにストロークが必要だったりするケースが多い。
しかし135iクーペのブレーキペダルの感触は、まったく問題ない。通常のフローティング型キャリパーよりもブレーキが利き始めるペダル位置が上になるくらいだ。
やはり対向ピストン型キャリパーを採用するケイマンSのブレーキペダルは、少し深く入ったところでブレーキ力をコントロールする感じだ。そして135iクーペに再び乗り換えると、ブレーキペダルを踏んだ瞬間からジワッと利いてきて、ローターとパッドの摩擦している感じがわかる。あくまでも軽く、しっかりと利いてくれる安心感あるブレーキだと感じる。
今回のライバル3車と比べて135iクーペの大きな優位点は、ごく普通に実用車として使えるクルマでありながら、速く走ろうと思えばいくらでも速くなる凄いポテンシャルを持っていることだ。乗り心地がよく、長距離ドライブでも疲れが出にくそうだという点や、後席に2人が楽に座ることができるのも大きなメリットだろう。胴が長いボクが後席に座っても数cmのヘッドクリアランスが取れる。そしてトランク容量も確保されている。
やはりこれは、2002tiのDNAを受け継ぐクルマであり、2ドアクーペと謳いながらも、むしろ2ドアセダンのようなパッケージングになっているからだろう。2002tiのエクステリアにあったフラットデッキのような形状も、リアウインドウの立ち具合も、この135iクーペから読み取ることもできる。やはりここでも「元祖BMW」に戻っているのである。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2008年5月号より)
BMW 135iクーペ Mスポーツ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4370×1750×1410mm
●ホイールベース:2660mm
●車両重量:1530kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:306ps/5800rpm
●最大トルク:400Nm/1300-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:538万円(2008年)
ポルシェ ケイマンS 主要諸元
●全長×全幅×全高:4340×1800×1305mm
●ホイールベース:2415mm
●車両重量:1380kg
●エンジン:水平対向6DOHC
●排気量:3387cc
●最高出力:217ps/6250rpm
●最大トルク:340Nm/4400-6000rpm
●駆動方式:MR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:786万円(2008年)
アウディTTクーペ 3.2クワトロ S-line 主要諸元
●全長×全幅×全高:4190×1840×1380mm
●ホイールベース:2465mm
●車両重量:1470kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3188cc
●最高出力:250ps/6300rpm
●最大トルク:320Nm/2500-3000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速DCT(Sトロニック)
●車両価格:609万円(2008年)
フォルクスワーゲン ゴルフR32 4ドア 主要諸元
●全長×全幅×全高:4250×1760×1505mm
●ホイールベース:2575mm
●車両重量:1590kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3188cc
●最高出力:250ps/6300rpm
●最大トルク:320Nm/2500-3000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速DCT(DSG)
●車両価格:439万円(2008年)
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