2リッター直列6気筒DOHCエンジンであるS20型を搭載したPGC10スカイラインGT-Rは当初、セダンからスタートしている。ミケロッティがデザインしたスカイラインスポーツを除けば、スカイラインは代々セダンだけのラインナップだった。だから古いスカイライン好きにはセダンこそがスカイライン、という思いが強いようだ。
だが、このハコスカと呼ばれる3代目スカイラインはツーリングカーレースで勝つために生まれたような存在。速さへの追求からセダンであることの限界を迎える。軽くてパワフルなファミリアやカペラなどのロータリー勢が台頭してきたため、スカイラインGT-Rはさらなるポテンシャルアップを図らなければならなくなる。そこで1970年に2ドアハードトップボディを追加することになるのだった。
33年間乗り続け4年前にレストアされたハコスカGT-Rには生き物のような魅力がある! 【100人でS20を語ろう!】
二桁ナンバーに注目。ハードトップGT-Rはセダンに比べてホイールベースが短縮され、コーナリング性能の向上が図られていた。このせいもありツーリングカーレースでの優位性を保つことができた。ハードトップ発売後のレース車両はセダンからハードトップに切り替えられ、ファンからも熱い期待が寄せられた。
また、このタイミングでセダンGT-Rは生産を終了していて、GT-Rはハードトップのみになる。その後はご存知のように破竹の勢いで勝ち続けることになり、GT-Rといえばハードトップという図式ができあがる。以後、オーテックバージョンを除き、日産から発売されたGT-Rはすべて2ドアボディが基本になった。
黒いワイパーは日産レースオプションパーツの一つ。それだけに残存数が多くマニアの人気も高いハードトップGT-Rだが、それでも「セダンがいい」というマニアは存在する。赤い純正色を纏ったGT-Rオーナーの笹野学さんもそんな一人。それというのも、このセダンGT-Rの前にはハードトップGT-Rを所有していたのにセダンへ乗り換えたくらいなのだ。
笹野さんはGT-Rのほかにもスズキ・L40キャリイや初代セドリックバンなどのを所有する根っからの旧車好き。ハードトップGT-Rは所有する旧車のなかでもメインのクルマだったから、長い時間をかけて貴重な当時のレースオプションパーツを集めて組み込んできた。それなのになぜ、セダンに乗り換えたのだろう。
長いルームミラーはレプリカが多く出回るレースオプションの本物。ハコスカGT-Rマニアの世界は広いようで狭い。10月16日に開催された「100人でS20を語ろう!」というイベントの模様は過去の記事でお伝えしたが、広い会場には古くからの友人知人という人たちが大勢見受けられた。笹野さんも長くハコスカGT-Rに乗られてきたので、会場にも知り合いがいたようだ。
というのも今回取材をしていると、横から知り合いが訪れてきて会話が弾んでいたほど。笹野さんが住んでいる近所にも同じように長くハコスカGT-Rを所有している人がいて、マニアらしいお付き合いを続けてきた。だからその人のGT-Rのことならよく知っている。ところがある時、そのGT-Rを手放すことにしたと聞く。それがこの赤いセダンGT-Rだったのだ。
ワイド加工した純正スチールホイール。当時を知る人には懐かしいスプリント・マフラー。ボディカラーは新車時からのもので全塗装していない!笹野さんが所有していたハードトップも決して悪いクルマではなかった。ただ、この赤いセダンには勝てない。というのも塗装が新車の時のままなら、ボディに大きなダメージを受けたことがない個体だったから。それにセダンのリヤスタイルに憧れてきた笹野さんなので、過去の履歴がはっきりしているこのクルマを見送ったら絶対に後悔すると思ったそうだ。そこでハードトップを手放して、赤いセダンを手に入れることとされたのだ。
グランドオートの等長エキゾーストを装着したS20型エンジン。プラグホールに切り欠きがあるのはレース由来の加工。単に買い換えたわけではないのがマニアの面目躍如。手放すハードトップには貴重なレースオプションや当時の社外部品が多数組み付けられていた。これらを今から手に入れようとすると大変な金額になる。そこで貴重な部品は車体から外して純正に戻した状態でハードトップを手放した。
さらに赤いセダンがやってくると、今度はハードトップについていた部品を移植することから始まる。レースオプションパーツを使ってチューニングしたエンジンやミッションなどもそうで、現在は「鈴鹿仕様」で組み直されている。もちろん「富士仕様」に変更するだけのパーツもストックされているとか。
マッハ・ステアリングを装備したインテリア。新車時はラジオとヒーターがオプションだった。ダットサンコンペシートは当時の本物。どうやらこの日は笹野さんにとり、赤いセダンのお披露目でもあったようだ。友人に囲まれて談笑する姿からは、マニア同士の連帯感がヒシヒシと伝わってきた。こうした同好の士がいるからこそ、貴重なパーツを集めることも可能だったのだろう。
お話ししていた一人は筆者も以前に取材したことがある有名なクラブの会長なのだが、その人は当日S20開発時に試作型として作られた貴重なシリンダーヘッドなどを会場に持ち込んで見学者の視線を集めていたほど。もちろん人付き合いが苦手で一人で旧車を楽しむ人もいるだろう。ただ、マニア同士が繋がることで得られる情報網は、貴重なパーツ集めをしたいなら欠かせない要素なのだろう。
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