かつてグリルのないクルマは売れないというジンクスが存在した。現代においては、ハニカム形状や横桟のフロントグリルがあり、グリルから入った空気を使ってエンジンやラジエターを冷やす役割を担っていた。ところがEV時代になると、エンジンがないから冷やす必要もないため、グリルレス車が登場。今後、グリルレス車は増えていくのだろうか?
文/ベストカーWeb編集部、写真/ベストカーWeb編集部
オラオラ顔が急激に減っている! エンジンを冷やす必要のないEVは「グリルレス車」ばかりになるのか?
■エンジンがないから冷やす必要のないEVはグリルレス車ばかりになる?
現行フィット。厳密にいうとホンダエンブレムの下に小さいグリルはあるのだが……
1980年代の頃からだろうか。フロントマスクにグリルのない、いわゆるグリルレス車=売れないというジンクスが生まれたのは。
グリルレス車=100%売れないということはないのだが、売れなかったらグリルレスのせいにされた。そんな時代が令和の今になってもジンクスはまだ残っていた。
そう、現行フィットが売れていない理由として、「グリルレス」が矢面に立っている。もちろん、売れていない理由はそれがすべてじゃない。
さてこれからEV全盛の時代がまもなくやってくる。ガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、熱くなったエンジンを冷やすフロントグリルやフロントバンパー開口部から風(空気)を入れてラジエターや油脂類、エンジンを冷やす必要があった。
それがEVになると、内燃機関ほど冷やす必要がなくなったので、フロントグリルを設けて、そこから空気をフロントボンネットに入れる不要になったのだ。
そうなると、これまで普通にあった横桟グリルや格子グリル、縦スロットグリルなどが通気口のあるグリルはなくなってしまい、これからの時代、フロントグリルそのものがなくなっていくこともありうる。
レクサスはスピンドルグリルからスピンドルボディへ転換。写真はグリルのないRZ
レクサスのスピンドルボディがいい例だろう。レクサスはEVモデルを中心にスピンドルグリルからスピンドルボディへ転換。
2012年に登場したGSから始まったスピンドルグリルはアウディのシングルフレームグリルと並び、躍進のきっかけを作った。
ボルボが2023年8月に発表したボルボEX30にしてもXC40と差別化するためにBEV=グリルレスということを主張している。
BEVのボルボEX30はグリルレス
EVといえばテスラ。モデル3やモデルYはグリルレスだがモデルSとモデルXは薄いグリル風の装飾を持つ。
EVなどの新エネルギー車の販売比率がこの3年で5%から26%に急拡大した中国では、ほぼすべてのBEVがグリルレスになっているのかというと、そうでもない。
例えばEVナンバー1メーカーとなったBYDのなかで、グリルがあるのはATTO3、ドルフィン、TANG、SEAL。いっぽうグリルレス車はHAN、シーガルとグリルレスのほうが少ないのだ。
BYDのコンパクトBEV、シーガル
しかし、グリル風の装飾を残すクルマは非常に多い。日産アリアやトヨタbz4X、メルセデスEQシリーズ、なかでもBMW iXの巨大なキドニーグリルには驚かされる。
他方、ソニーホンダモビリティが開発したアフィーラは新しい時代が来たことを示してくれた。グリルがモニターになってさまざま映像を映し出しているのだ。こうしてみていくと、BEV全盛の時代は、グリルレス車が増えていくのではないかと予想される。
グリルにあるスクリーンで映像を映し出すSONYホンダモビリティのアフィーラ
とはいえ、ヘッドライトが人間の眼ならばグリルは鼻。グリルレス車ばかりでは個性に乏しいので、大小にかかわらず、グリルは残っていくだろう。むしろ制約がなくなったことでデザインの自由度が高くなるので、いままで考えられないデザインのグリルが出てくるかもしれない。
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■グリルレス=売れないというジンクスは本当?
1989年にデビューした日産インフィニティQ45は日本では1代で販売終了。日産の高級車の位置付けで販売されたが振るわずに1997年5月に生産終了した
グリルレス=売れない、というのはすべてのグリルレス車に当てはまるのだろうか? いや売れたクルマもあったはず! ということで過去のグルレス車を振り返ってみた。
まずはインフィニティQ45。グリル出まくりのセルシオに対して七宝焼きをフロントグリルに埋め込んで和を強調したが大敗。佇まいは英国車風でカッコよかったのに……。
なんともいえない表情をみせる日産NXクーペ
お次は日産NXクーペ。クーペはグリルがなくても売れるものだがさっぱり売れず、ウナギ犬と揶揄されるほど。う~ん、今見てもカッコ悪い。
サニーをベースにして高級路線を狙った日産プレセア。グリルレス車のジンクス通り、売れなかった
初代日産プレセア(実は2代目もある)はサニーベースで当時大ヒットしたカリーナEDの二匹目のどじょうを狙ったものの惨敗。
ここでおじさん世代には懐かしいシビック。3~5代目までグリルレス車だったが、なかでも3代目のワンダーシビックは名車だったから、ジンクスは通用していない。
1983年に登場した3代目ワンダーシビック。ホンダのグリルレスデザインは多く、CR-Xやプレリュードの4、5代目などもほぼグリルレスデザインを採用。気のせいか現行フィットのグリルに似ている
30型3代目ソアラは初代、2代目とはまったく違う路線登場したが日本ではウケなかった。
ここでジンクスがまったく通用しないのがR32型スカイライン。グリルのあるGT-Rともども大ヒットした。
こうしてみていくと、1980年代から1990年代にかけてグリルレス車が多かったものの、100%グリルレス=売れないということはないのがお分かりいただけるだろうか。グリルレスであっても売れたクルマはあるのだ。
R32型スカイラインはグリルレスだが大ヒット!
■グリルといえばオラオラ顔、メーカーはもうオラオラ顔にしませんと公言
新型アルファード&ヴェルファイア。たしかにメッキ加飾が大幅に減っている。ヴェルファイアはグリルはあるものの、ガンメタになっていてオラオラ顔にしないようとしている
もうオラオラ顔にはしません。……最近出た新車の開発陣から、そんな声を聞くことが多くなってきた。
記憶しているだけでも、マイナーチェンジしたムーヴ、新型ステップワゴン、新型セレナ……、いずれの新車デビュー時に開発者に聞いてみたがいずれも「脱オラオラ顔、上質で品のいいグリルにしました」とコメント。
そして「え、ほんとに本心で言っているのか?」と耳を疑ったのは新型アルファード&ヴェルファイア。
開発者曰く「メッキの部分を抑えて、いわゆる強面にならないようにしました」とのこと。たしかにメッキが少なくガンメタっぽい加飾になっているが、オラオラ顔濃度は下がっているようには思えないのだが……。
新型N-BOXのフロントグリル。横一文字グリルでメッキ加飾が先代よりも少なくなっている
最新のN-BOXカスタムも左右のヘッドライトにつながるポジションランプの一文字グリルで、こちらも開発者は「オラオラ顔は時代じゃないんです」という声を聞いた。
極めつけは新型スペーシアカスタム。横のメッキ加飾の太いバーがグリルには装着されているが、開発者は「強面顔ではない方向にしています。メッキ加飾部分を少なくし、控えめな上質さが感じられる顔にしました」。
え、先代よりもたしかにメッキ加飾の部分が減っているけど、この顔でも充分オラオラ顔ですけど……。そう思うのは担当だけなのか。
新型スペーシアカスタム。2本のメッキバーがあるが先代に比べメッキ加飾を減らして上品に見せているそうだ
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