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シルバーアローの幕開け メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー 復刻版1932年式を体験 後編

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シルバーアローの幕開け メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー 復刻版1932年式を体験 後編

シルバーアローと呼んだラジオキャスター

ストリームライナー・ボディのメルセデス・ベンツSSKLは、技術者のラインハルト・フォン・ケーニッヒ・ファクセンフェルト氏が計算したとおり、最高速度230km/hを達成。オリジナルのボディより、20km/hも速かった。

【画像】シルバーアローの幕開け メルセデス・ベンツSSKL ストリームライナー 同時代のクラシックも 全139枚

かつて存在したベルリン・アヴス・サーキットは、約9.5kmのストレート2本をバンクコーナーで繋いだ高速コース。そこを20周して競うレース、アヴスレネンでは最高速度の高さが有利に働いた。

当時のクルマにとっては過酷なテスト環境ともいえ、連続での高速走行は信頼性を浮き彫りにした。コンチネンタルは1931年に新しいレース用タイヤを導入していたが、上昇する速度域に性能が追いついていなかった。

本番前のプラクティスで、プライベーターのマンフレート・フォン・ブラウヒッチュ氏は流線型ボディの能力を確信。リアアクスルのギア比をロングに変更し、低い回転数で高速域へ届くように改め、7.1L直列6気筒エンジンの負担を減らした。

1932年のアヴス・サーキットには20万人以上の観衆が押し寄せ、欧州各地のモータースポーツ・ファンがラジオに耳を傾けた。会場では、流線型のSSKLは1番の話題を集めた。愛情を込めて、「ザ・ガーキン(小きゅうり)」というあだ名が付けられるほど。

他方、ラジオ中継でキャスターを担当した、南西ドイツ放送協会のポール・レーベン氏は別の表現を選んだ。長いストレートを疾走する銀色のSSKLを目にし、「シルバーアロー」と呼んだのだ。

フィニッシュまでの15周で激しいトップ争い

記録の限り、このラジオ放送がメルセデス・ベンツのレーシングカーをシルバーアローと呼んだ、最初だったといわれている。それ以前のドイツ勢は、当時のナショナルカラーといえたホワイトに塗られることが多かった。

実際、メルセデス・ベンツのモデルSやSS、SSK、SSKLといったレーシングカーはホワイトに塗られ、ホワイト・エレファントと呼ばれていた。高速で走るクルマには適さない表現だったが。

レース序盤は、アルバート・ディーヴォ氏がドライブするブガッティ・タイプ54がリードしたものの、6周目にオイルパイプが破損。アルファ・ロメオのルドルフ・カラッチョラ氏が先頭へ入れ替わり、マンフレートのストリームライナーが猛追を続けた。

SSKLはストレートで観衆を沸かせたが、高速コーナーでは操縦が難しかった。スピードが高いぶん、コーナー手前ではブレーキに大きな負担を与えた。

他方、アルファ・ロメオ8C モンツァはボディが軽く、ブレーキは高性能でエンジンも軽快に吹け上がった。コーナリングが速く、脱出加速も鋭かった。

1932年のアヴスレネン・レースでは、この2台が最後までトップ争いを繰り広げた。フィニッシュまでの15周に、8C モンツァとSSKL ストリームライナーは何度も首位を交代している。

メルセデス・ベンツのレーシング部門を率いていた、アルフレッド・ノイバウアー氏の助言を受け、マンフレートはエンジンのパワーを温存。最高速の強みを活かすべく、長時間の負荷を抑えながら、終盤にハードプッシュする作戦を選んだ。

実戦で結果を残した初めての流線型ボディ

ファイナルラップで、マンフレートは作戦通りアタック。バックストレートでルドルフを一気に追い越すと、最終コーナーでもリードを死守し、メインストレートをフル加速。3.6秒という僅差で優勝を掴んだ。

アルファ・ロメオは2位で、ブガッティ・タイプ51が3分半遅れの3位へ入賞。ノーマルボディのメルセデス・ベンツSSKLは、4位でフィニッシュした。16台中11台がリタイアしており、レースの過酷さを物語っている。

SSKL ストリームライナーは、294.4kmを約1時間半で完走。平均スピードは194km/hに達した。4位で完走したノーマルボディのSSKLより平均速度は約10km/h高く、空気力学の重要性を証明したといえる。

この戦いを経て、プライベートレーサーのマンフレートの知名度は一気に上昇。シルバーアローという呼称も、一般的なものになった。

このSSKL ストリームライナーは、空気力学へ真剣に取り組んだ、初めてのレーシングカーではない。メルセデス・ベンツも、1909年のブリッツェン・ベンツなどに取り組んでいる。それでも、実戦で結果を残した初めての例といえる。

ひるがえって、2019年に復元された貴重なクルマを運転させてもらう。マンフレートが、筆者の倍近い速さでアヴス・サーキットを周回したという事実が、にわかには信じがたい。

ロッド操作のドラムブレーキは、確かにブレーキシューと繋がっている。ところが目一杯力を込めても、車重の軽くないSSKLが明確に減速する様子はない。

ブレーキが効かない事実を忘れる咆哮

ステアリングは驚くほどダイレクト。ドライバーの視界のなかで、上下に動くフロントタイヤが向きを変え、物理の法則と反するような勢いで素早く向きを変えていく。

トランスミッションには、ギアの回転数を調整してくれるシンクロが備わらず、ギアを傷めないようにダブルクラッチが不可欠。ただし低回転域から粘り強く、今回のテストコースではシフトダウンに迫られることはなかった。

7.1L直列6気筒エンジンは3600rpm付近まで引っ張れるものの、最大トルクが生み出されるのは1900rpm前後で、気張らなくても不満なく加速する。ボディサイズは小さくないが、運転自体はさほど難しくない。

ペダル・レイアウトは現在と異なり、中央がアクセル。力を込めると、ルーツ式スーパーチャージャーが回転数を高め、自然吸気ユニットの60ps増しとなる、300psの最高出力を放とうとする。

加速の最中、中毒性のある咆哮が一帯を支配する。ブレーキがまともに効かない、という事実を忘れそうになる。マンフレートは、どうやってスピードを操ったのだろう。6ポッド・キャリパー級の力を生み出す、凄まじい筋力の持ち主だったのだろうか。

その後、自動車と空気力学が密接な関係になったことはご存知の通り。ラインハルトとマンフレートが生み出した、SSKL ストリームライナーの重要性は間違いないだろう。

斬新なアルミボディの形状だけではない。現在まで続くシルバーアローという呼び名も、生み出したのだ。

執筆:Kyle Fortune(カイル・フォーチュン)
画像・協力:メルセデス・ベンツ・クラシック

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