キャッチフレーズは「Supra is back」。2002年8月にいったん姿を消したスープラが17年の時を経て帰ってきた。その復活の背景には、今は亡きトヨタのマスタードライバー・成瀬弘さんと、その愛弟子であったモリゾウこと豊田章男社長との間に交わされた約束があった。スープラ復活のキーマンのひとりが明かした真実とは…。(文:ホリデーオート編集部/写真:伊藤嘉啓ほか)
「社長になったら必ずスープラを復活させる」
2019年5月17日13時、東京・お台場のメガウェブで新型スープラの発表会がメディア限定で開催。イベント終了後、本誌はスープラ復活のキーマンのひとり、GAZOO Racing Companyの友山茂樹プレジデントにお話を伺う機会を得た。友山氏が明かしたスープラ復活の舞台裏を紹介しよう。
まるでニュル! トヨタが3000億円投入する新テストコースをスープラで走った
時は2000年代前半に遡る。「エンジニアもクルマの運転が出来て、評価ドライバーが言っていることが理解出来なければならない」。かねてより、そう持論を展開していたトヨタ・テストドライバーのトップガン・成瀬弘氏。ニュルブルクリンクのオールドコースを先代スープラで走りながら、助手席のモリゾウこと豊田章男専務取締役(当時)に語りかけた。周囲には数年先に発売されるはずの海外メーカーのテスト車が走り回っている。
「(海外メーカーは)開発中の新型車でここ(ニュルブルクリンク)を走っている。それに比べて、トヨタがここで勝負できるクルマは、中古のスープラしかない…」
悔しさを滲ませる成瀬氏の言葉は、モリゾウにとって忘れられないひと言になった。そして心に誓う。「社長になったら必ずスープラを復活させる!」
2009年6月、モリゾウこと豊田章男氏はトヨタ自動車の取締役社長に就任。だが就任早々、数々の難局に直面してその対応に追われる。だが、翌年6月24日、成瀬氏はテスト中の事故で帰らぬ人となった。
それから3年後の2013年、トヨタはBMWと「スポーツカー」の共同開発を調印した。GRプレジデントの友山氏は語る。
「GRスープラの開発はボトムアップでは無理でした。豊田社長の強い意志があったからから可能になった。それは成瀬さんとの約束を果たすということでもある」。さらに「スープラという名前を復活させるにあたって、最終的に決まったのは比較的最近のこと。と言うのも、豊田社長がなかなかOKを出さなかったから。スープラを名乗るのに相応しいクルマに仕上がるまで、何度も乗ってもらいようやくOKが出たのは昨年の10月くらいだった」と明かす。
「コンセプトカーのFT−1(2014年1月デトロイトショー出展車)を見たときに、豊田社長は決断したのでしょう、これをスープラにしようと。CALTYのデザイナーもスープラをイメージしてデザインしたと説明しましたし。想定していたのは直6エンジン。アメリカではスープラは特別な存在ですから」
とは言え、スポーツカー・ビジネスは厳しい局面を迎えている。それを承知でチャレンジした真意は?
「スポーツカー・ビジネスが厳しいのは、それ以前にメーカーが興味を失っていたのではないか? 儲からないなら、儲かるように努力をするまでです」と友山氏は力強く語った。モリゾウの決意とともに、その統括を一任されたGRのプレジデントもまた、並々ならぬ覚悟をもって新型スープラを送り出したのだ。
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