2023年1月早々に行われた自動車5団体の新春賀詞交歓会。賀詞交歓会に参加した経済ジャーナリストの松崎隆司氏は取材を通して何を感じ、何を思ったのか、徹底レポート!
文&写真/松崎隆司、自工会
異例づくめの「自動車5団体」賀詞交歓会!! 変革の時代にメーカートップはなにを語ったのか
■異例ずくめの新春賀詞交歓会
ホテルオークラに自動車5団体の関係者およびメディアが1200人集まった
お屠蘇気分も冷めやらぬ2023年1月5日16時からホテルオークラ東京で自動車5団体(日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会、日本自動車販売協会連合会)の新春賀詞交歓会が開催されました。会場に集まったのは1200人の自動車関係者とメディアです。
毎年オープンな形で取材にも応じていたフレンドリーな賀詞交歓会だったのですが、今年は異例ずくめの賀詞交歓会となりました。
取材への規制も厳しく、取材ができるのは、会場の後ろの方にロープが張られた取材エリアのみ。ロープの前には数人の私服警官のような警備担当者が目を光らせ、会場内での自由な取材は禁止とされました。
開演前の説明の際、記者から「なぜパーティ会場内での取材ができないのか」といった質問が出ましたが、日本自動車工業会の広報担当者からは「円滑な進行を進めていくためだ」という説明がありました。
実は自動車5団体の新春賀詞交歓会の前に経済三団体の新年会があったのですが、こちらも最近ではパーティ会場に入ることができず、会場後方にロープが張られ、そのエリア内とテレビ局の各ブース内での取材に限定されています。ブースではテレビ局が代表取材する形で新聞社や通信社も囲みでコメントをとっていましたが、こうしたやり方を参考にしたのかもしれません。
左から自工会片山正則会長、部工会有馬浩二会長、車工会増井敬二会長、自機工山田勝己理事長、自販連金子直幹会長
ただ自動車5団体の賀詞交歓会はパーティが中盤に差し掛かると、ロープが撤去され、会場内に入ることができるようになりましたが、主要な自動車メーカーの社長は名刺交換を待つ長蛇の列となり、囲み取材をしている様子はほとんど見受けられませんでした。
2023年の自動車業界はコロナ禍の中での混乱から立ち直り、大手6社の売上高は100兆円を超え、2024年3月期決算でも多くの自動車会社で大幅な伸びを記録するとみられています。
しかしその一方でダイハツ不正認証問題が大きな傷跡を残したこともまた事実です。
それだけではありません。自動車の市場が今、大きく変わろうとしています。世界中でカーボンニュートラル対応への動きが始まり、クルマの主流やガソリン車から電気自動車へと置き換わろうとしています。
すでに米国のテスラや中国のBYDが電気自動車の覇権をめぐって熾烈なシェア争奪戦を繰り広げています。日本でもトヨタは30年までに電気自動車を350万台生産することを宣言し、ホンダも40年までにガソリン車から撤退することを明らかにしています。
これまで日本の基幹産業として日本経済をけん引してきた自動車産業も10年後、20年後はそのかじ取り次第でどうなっているのかわからない状況なのです。
左から自工会副会長三部敏宏氏(本田技研工業代表執行役社長)、日髙祥博氏(ヤマハ発動機代表取締役社長)、内田誠氏(日産自動車代表取締役社長兼最高経営責任者)、鈴木俊宏氏(スズキ自動車代表取締役社長)(出典:自工会)
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■「100年に一度の大変革の重責に身の引き締まる思い」と語る片山自工会会長
自工会会長片山正則氏(いすゞ自動車 代表取締役会長)(出典:自工会)
賀詞交歓会の冒頭、能登半島地震や羽田空港の衝突炎上事故を受け黙とうが捧げられ、続いて5団体を代表して1月1日に日本自動車工業会の会長に就任した片山正則氏の所信表明が行われました。
これまで自工会の会長は1967年の発足以来、トヨタ、ホンダ、日産のトップの持ち回りで担当してきました。ところが片山氏はいすゞ自動車の会長。3社以外で会長に就任するのは初めてのことです。商用車を主力とする企業が会長に就くことで、100年に1度とされる自動車産業の構造変化などに業界をあげて柔軟に対応できる体制を整備する狙いがあるといわれています。
片山氏もまた「100年に一度の大変革の真っただ中で会長職を担うことについて、改めて、その重責にみの引き締まる思いでございます。名実ともに本日から自工会体制がスタートするわけですから、豊田前会長の築き上げていただいた課題解決に対して、チームで取り組む形を進化させ、副会長や理事の皆さまと一致協力しながら、全力でこの難局を乗り越えていく決意であります」とその決意を示しました。
そしてこれまでの取り組みとして7つの課題を取りまとめたことを改めて発表しました。
7つの課題とは、以下の通り。
1:物流・商用・移動の高付加価値化/効率化
2:電動車普及のための社会基盤整備
3:国産電池・半導体の国際競争力確保
4:重要資源の安定調達、強靭な供給網の構築
5:国内投資が不利にならない通商政策
6:競争力のあるクリーンエネルギー
7:業界を跨いだデータ連携や部品トレサビの基盤構築
なかでも物流の停滞が懸念される2024年問題への対応は、「喫緊の課題であり、自動車産業の枠を超えて、他の産業との連携を図り、自動運転技術の積極的採用や運行システムの更なる効率化など、各種取り組みを推進する」と語っています。
このほかカーボンニュートラルや国産電池・半導体の国際競争力の確保、競争力のあるクリーンエネルギーなどについても全力で解決に向けて邁進していくと語りました。
さらに昨年秋に開催されたジャパンモビリティショーについて触れ、500社の企業・団体と協力し、111万人の来場者を集めることができたことで、「モビリティ産業への期待、その可能性を掴むことができた」ことを高く評価しました。
自工会前会長 豊田章男氏(出典:自工会)
そして所信表明演説の途中で「私からのたってのお願い」と前置きし、そしてこのモビリティショーをけん引してきた自工会の前会長である豊田章男氏に登壇を促し、マイクを渡します。これまでの自工会の新春賀詞交歓会では見られなかったシーンではないでしょうか。
豊田氏は2012~2014年、2018~2023年の2度にわたって自工会の会長を務めました。自身の経験を踏まえて「CASE革命により、自動車業界が『100年に一度の大変革期』に突入するなか、私は、二度目の会長に就任することになりました。
コロナ危機、カーボンニュートラルなど、自動車産業の構造改革に取り組む中で『自動車はみんなでやる産業』『未来はみんなでつくるもの』いつしか、それが合言葉となり、『クルマを走らせる550万人』のチームができた」と新会長へエールを送りました。
再び登壇した片山氏は「豊田前会長から確かに『タスキ』を受け取りました」と禅譲を演出する一方、経団連で引き続きモビリティ委員会の委員長を務める豊田氏との連携をアピール。
「今後私たちは自動車産業以外の様々な産業の皆さまとも手を携えて、官民のオールジャパンで様々な加課題を解決し、持続可能なモビリティの未来を築いく」と自動車業界以外の産業にも協力を呼びかけました。
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