アメリカで人気のバブルカー、BMW イセッタがオークションに登場
全世界を代表するチョコレートメーカー「ハーシーズ」が、米国ペンシルヴェニア州ハーシーで所有・運営するテーマパーク「ハーシーズ・チョコレートワールド」では、毎年10月に大規模なクラシックカーミーティングが開催されます。今回は2024年版「Hershey」オークションの出品車両のなかから、1台のBMW「イセッタ300」をピックアップ。そのモデル概要とオークション結果についてお伝えします。
カワイイ昭和のバブルカーが1000万円弱!! BMW「イセッタ」に施したMカラーは「チーム・ブレヒト」のマスコットカーのイメージでした
イタリアの小型車が旧西ドイツの庶民のアシに
もともと「イセッタ」は、イタリアで冷蔵庫や暖房機器などの製造を行っていた「イゾ(ISO)」社が、第二次大戦後に2輪スクーターを開発・生産するべく興した「イゾ・アウトヴェイコリ株式会社(ISO Autoveicoli SpA)」の作品。同社会長のレンツォ・リヴォルタは、対候性の高い4輪車が必要になると考え、航空機出身のエンジニアを招聘して画期的なマイクロカーを開発した。
1953年11月にトリノ・ショーでデビューした「イゾ・イゼッタ」(イタリア語発音)は、その質素ながら可愛らしい外観と燃費の良さで一定の評価が得られながらも、販売には結びつかなかった。
そこでイゾは1954年にBMWにライセンスを売却したが、この方策は結果として両社に利益をもたらした。第二次世界大戦の終結後に経営難に陥っていたBMWを救ったいっぽう、ヨーロッパ西側諸国のベーシックな移動手段の確保に大きな貢献を果たしたとも言われているのだ。
生産権を獲得したBMWは「イセッタ」(ドイツ語発音)化にあたり、イゾの対向ピストン式2ストローク200cc単気筒エンジンに代えて、「R25/3」モーターサイクル用の4ストローク247cc単気筒エンジンを搭載した。
フロントから見ると3輪車のように見えながらも、リアのディファレンシャルを廃するために後輪のトレッドを極端に狭めた4輪車である。ただし、3輪車だと税金が安くなる英国マーケットでは、3輪モデルも生産・販売された。
BMW イセッタは1955年4月に登場し、1962年5月まで生産された。当初はイゾ時代のスタイリングを踏襲していたが、ほどなくサイド/リアのウインドウグラフィックを一新。お馴染みのスタイルとなった。またデビュー翌年の1956年には、旧西ドイツの交通法規改正に伴って298ccに拡大された「イセッタ300」も設定される。
そしてBMWの指揮のもとで、イセッタは単気筒車のベストセラーとなったのだ。
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陽気な青白ツートーンカラーに赤い内装の個体
2024年10月初旬、「Hershey 2024」オークションに出品されたBMW イセッタは、1957年に生産された4輪モデルの300cc版。この種の大衆車にはありがちなことだが、新車時代からの来歴については途絶えており、今回のオークション出品者でもある現オーナーが、2017年にフロリダから譲り受けるまでの歴史は不明のままである。
ただし現状のコンディションは非常に良好であるうえに、現オーナーのもとでブレーキのリビルド、キャブレターのリビルド、燃料タンクの交換など、約6000ドルを投じたメカニズム系の整備も施されているとのことである。
くわえて「ブルーとホワイトのツートーンカラーの外装にレッドの内装という陽気なカラーコンビネーションは、イセッタの魅力的なプロポーションに完璧にマッチしている」と公式オークションカタログ内ではアピールされていた。
一部の突出した個体を除けば、おおむねリーズナブルな価格で売買されている
このBMW イセッタについて、RMサザビーズ北米本社は「よく手入れされたこの素敵なイセッタ300は、次のオーナーに限りない笑顔と喜びをもたらす準備ができている」というPRフレーズを添えるとともに、1万5000ドル~2万5000ドル(当時のレートで約220万円~約370万円)という、ひところの「カビネンローラー・ブーム」時代を思えばリーズナブルにも感じられるエスティメート(推定落札価格)を設定。また、この出品ロットについては「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」で行うこととした。
この「リザーヴなし」という出品スタイルは、たとえ出品者の意にそぐわない安値であっても落札を回避できないいっぽうで、確実に落札されることから会場の購買意欲が盛り上がり、エスティメートを超える勢いでビッド(入札)が進むこともあるのがメリット。
そして迎えたオークション当日の競売では、出品者側の希望どおりビッドが順調に伸び、終わってみればエスティメート上限突破を達成した2万7500ドル。つまり、日本円に換算すれば約420万円で無事落札されることになったのだ。
ドイツで発達したことから「カビネンローラー」(キャビン付きスクーター)や、英語の「キャビンスクーター」あるいはボディ形状から「バブルカー」などとも呼ばれる小さなクルマたちは、2010年代以降にアメリカを中心に巻き起こり欧州や日本にも波及した「バブルカー・バブル」により、オークションでも軒並み高評価を受けてきたのだが、ここ数年でマーケットは落ち着きの傾向を見せ、一部の突出した個体を除けば、おおむねリーズナブルな価格で売買されているようだ。
今回のハンマープライスも、そんなマーケットの現況を反映したものといえるだろう。
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