高級FRセダンの伝統を守り続けてきたクラウンに変革の時が迫っている。今、そこにある「トヨタの決断」とは?
※本稿は2021年5月のものです
文・写真・予想CG/ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2021年6月26日号
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■昨秋大きな衝撃を与えた「次期クラウンSUV化」報道
日本を代表する高級セダン、クラウンが重大な岐路に立たされている。
昨年秋に、中日新聞が「次期クラウンはSUVに生まれ変わる」と報道。
トヨタのお膝元である愛知県の有力紙だけに信憑性も高く、ベストカーのスクープ班も独自のルートを使って情報を収集した結果、開発部門に近い関係者から「その可能性は高い」との証言を得ていた。
クラウンは、トヨタの一体開発構造、TNGA(トヨタニューグローバルアーキテクチャー)の大型FR用GA-Lプラットフォームの幅を狭くしたナロー版を採用している。
ほぼ国内専用車のため、営業部門より全幅を1800mm以内に抑えてほしいとの要望を受けているためで、それゆえ、このプラットフォームは実質的に「クラウン専用アイテム」となっている。
そのナロー版プラットフォームの新たな開発が凍結されたというのがスクープ班に入ってきた情報で、言うまでもなく効率化のための施策。
今後数年かけて車種の削減を進めていくトヨタにとって、専用プラットフォームの継続は難しいということなのだろう。
もちろん、継続させるだけのメリットがあれば話は別だが、国産セダンの人気低迷に歯止めが効かない状況で、クラウンも予定どおりの販売台数を維持できていない。
であるならば「クラウンを変える」という判断もやむを得ない。
それが次期モデルの「SUV化説」であり、RAV4の北米版ハイランダーをベースに開発されるというのが昨年秋に中日新聞が報じた内容だった。
ベストカーが作成した「クラウンSUV」の予想CG。ハリアーの上級版というイメージ
■上海モータショーでのクラウンクルーガーの出現
だが、なんと4月の上海ショーでSUVタイプのクラウンクルーガーが登場というサプライズが発生。
これこそがSUV版クラウンなのか? と色めきたったが、実際は中国でもブランド力のある「クラウン」の名称を使っただけの既存車で、同時にヴェルファイアにクラウンの王冠マークを付けたクラウンヴェルファイアも出展しており、今回の騒動とは別の次元の話だったことがわかった。
4月の上海ショーで公開されたクラウンクルーガーと→
→クラウンヴェルファイア。これが噂のクラウンSUVの正体か? と思われたが、既存車にクラウンの名称を付けただけのモデルであった
では、次期クラウンの動向はどうなのか、だが、やはりFRからFFへの転換は決定事項になっているもようだ。
これも中日新聞の報道で、先日「クラウン前輪駆動に」という見出しの記事が掲載された。
内容自体はここまで述べてきたとおりで、現在のFR用プラットフォームの使用をやめてRAV4、ハリアー、カムリなどに使われているFF用GA-Kプラットフォームに切り替えるというもの。
カムリ、レクサスESのセダンからRAV4、ハリアーなどのSUVまで広く使われているFF用GA-Kプラットフォームはトヨタの主力アイテム→
→採用モデルの走りの質感には定評があり、ポテンシャルの高さは証明されている
記事中では「SUVに似た新しい車形に変える方針」との記述もある。
ベストカーが独自に入手している情報では、クラウンがFF化されることは確実だが、ボディがSUVタイプになるかどうかは流動的。
SUVタイプといってもRAV4のような本格的なものからレガシィアウトバックのようなクロスオーバータイプまでさまざまで、一概には言えない状況もある。
■新技術の投入こそクラウンの伝統
さて、FF化の決断を下す次期クラウンだが、ではどんなパワーユニットが搭載されるのか。これはGA-Kプラットフォームを採用するカムリとレクサスESに準じると考えるのが自然だろう。
すなわち横置き直4、2.5Lのハイブリッドで、現行型にラインナップされる直4、2LガソリンターボとV6、3.5Lハイブリッドは消滅となる可能性が高い。
FF用GA-Kプラットフォームを採用し、ボディ形状をセダンとした場合の予想CG。もっと思いきってSUVタイプに変身するという噂は今もあり、関係者もその可能性を示唆している
FF化される次期クラウンには、このGA-Kプラットフォームが採用されること確実。気になるのはカムリ、レクサスESとの差別化だが、セダンボディを選択しても新技術の投入や内外装の上質さで「クラウンらしさ」を強調
ただし、これではクラウンとカムリの差別化が難しく、また、トヨタの金看板であるクラウンがカムリの兄弟車のようなポジションになるのは許されないという社内の空気もあるだろうし、もちろんユーザーの思いもある。
ここから先は確定的な情報ではなくベストカーの推測となるが、だからこそ、SUVタイプへの大変身が計画されているのではないだろうか。
FF化される次期クラウンには、このGA-Kプラットフォームが採用されることが確実。気になるのはカムリ、レクサスESとの差別化だが、セダンボディを選択しても新技術の投入や内外装の上質さで「クラウンらしさ」を強調する
つまり、クラウンを時代に合わせてアップデートさせるということ。RAV4のような本格的なSUVではなく、ハリアーのような都会派SUVか、もしくはアウディのオールロードクワトロやベンツのオールテレインのようなワゴンタイプのクロスオーバーも考えられる。
このあたりはまだ推測の域を出ないが、トヨタが「新時代のクラウン」を本気で模索しているのは確か。
クラウンといえば、古くは7代目のスーパーチャージャーエンジンや8代目のトラクションコントロールシステム、13代目のギア可変ステアリングやナイトビューなど、新しい技術を積極的に投入してきたクルマでもあり、それはトヨタの意地と誇りでもある。
こちらはFR用の縦置きV6ハイブリッドエンジン、→
そしてこちらはFF用の横置き直4ハイブリッドのエンジン。ともに熱効率の高い新開発のダイナミックフォースエンジンで、FF用の直4は燃費性能により優れたミラーサイクルを採用している
次期モデルもFF化して、どんなボディタイプを採用するにしても必ずや新たな技術を採用してくるだろう。
自動運転系の新システムか、あるいはパワーユニットや駆動系の新技術か。そうした新時代の新しい技術なら、セダンのままでも「新しいクラウン」をアピールできる。
■一気にFCV化の可能性もある?
いずれにせよ、次期クラウンはこれまでの長い歴史を一変させる衝撃的なモデルチェンジになることは確実だが、さらにもうひとつ、スクープ班には重要な情報が入っているのだ。
「MIRAIのプラットフォームを使った次期クラウンも計画されています」というのがその重要情報。すなわち燃料電池(FCV)に生まれ変わるということだ。
実は、これはそう難しい話ではない。
MIRAIは「このままクラウンとして出したほうがいい」と言うジャーナリストが続出するほど高級感たっぷりの乗り味を実現しており、しかも後輪駆動とあって、新しいクラウンに最適なベースモデルなのだ。
後輪駆動のMIRAIの走りは高級感抜群。このままクラウンを名乗れるほど
MIRAIのユニットを使ってクラウンを開発するのはそれほど難しくない。問題はFCVがまだ一般的ではないことだ
中身はこのままで、デザインに「クラウンらしさ」を加えるだけで成立すると言っても過言ではない。
1955年以来続くFRの歴史を捨ててFF化するより、ユーザーも納得しやすい変身かもしれない。
問題はやはり水素ステーションの少なさとまだ量産が難しいということで、数が減ったとはいえ、今も国産セダンのセールスリーダーであるクラウンをFCVにするのが正しいか否かは意見が分かれるところだろう。
とはいえ、その選択肢があり、社内で議論もされているのだから可能性は高い。
もし実現した場合、「SUVタイプのハイブリッドはFF、セダンタイプのFCVはFR」という新しいクラウンが誕生するのかもしれない。
まだ謎の多い次期クラウンの動向だが、トヨタがどう決断するにせよ、今年で66年目という、これまでの歴史の流れが一度止められることは確かだ。
勿論その決断には賛否両論噴出するだろうし、いくら時代が変わったと言っても、過去と決別することが100%の正解ともかぎらない。
だが、トヨタが「伝統のクラウンのこれから」に強い問題意識を持っていて、「継続するために必要な改革」を考えているのは明白。
次期モデルがどういうクルマになるにしても、トヨタはクラウンをとても大切にしていることは間違いない。
デビューは2023年が有力だ。
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みんなのコメント
すでにどっちも存在している。
クラウンの入る余地があるとは思えない