■ベンテイガだけが到達できた境地
ラグジュアリーSUVの先駆け的存在であるベントレー「ベンテイガ」。2021年の注目SUVの筆頭である新型ベンテイガだが、特にスーパーカーオーナーにオススメしたいのには、相応の理由がある。
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車高、そして最低地上高の低いスーパーカーを所有しているオーナーにとって、普段遣いのクルマに求める要件は、大きくふたつあるだろう(ただし、日常的にスーパーカーを足グルマとして使っているという筋金入りの御仁は除く)。
ひとつは、フロントリップを擦ることを気にせず、乗降しやすく、見晴らしが良く、後部座席に人を乗せることができ、荷物がたっぷり積載できること。これに乗り心地がソフトで、しかもどんな速度域からでもアクセルペダルを踏めば、一気に後続車を引き離すほどの加速力が備われば文句はない。
つまりこれらの要件を満たすのは、相応の動力性能を備えたビッグサイズのSUVがもっとも相応しい。そしてこの条件を満たすラグジュアリーもしくはプレミアムSUVは数多く存在する。
●控えめであるという美徳
そしてもうひとつは──実はこれが難しいのだが、ひとことで表現するならば「ステルス・ウェルス」が備わっていることが、非常に重要である。たとえば、ロールス・ロイス「ゴースト」のコンセプトである「Post Opulence(ポスト・オピュレンス:豪華絢爛のその先→贅沢からの脱却)」というのも、遅ればせながらそうした価値観をブランドに取り入れようとする試みの一端と見てもいいだろう(どこから見ても「ロールス・ロイス」という姿をしている限り、そのコンセプトとは矛盾しているという議論はさておき)。
要約するとステルス・ウェルスとは、素人目には理解しづらい部分に大金が掛けられている裕福さのことだ。ヴェブレンの『有閑階級の理論』で指摘した「衒示的(げんじてき)消費」のまさに逆だと思って頂ければよい。
スーパーカーに憧れ、それを手に入れたとしても、その存在自体が衒示的消費の象徴たるスーパーカーを所有しドライブするということは、自らの思いとは違った視線に晒されることを受け止めなければならない。
だからこそ、普段遣いのビッグサイズのSUVには、威圧感よりはむしろ洗練された上品さが求められるのである。押し出しが強いSUVは、下品に見えてしまうこともある。日常の足クルマとしてのSUVには、「頑張っている感」のない、さり気ない抜け感も必要。しかし、ドライブする本人だけに享受できる「贅」がふんだんに注ぎ込まれていることは、当然のことである。
前置きが長くなってしまったが、ふたつめの要件も満たすクルマは、ベントレー「ベンテイガ」のみと断言してもいい。そして、カスタマーにとってのベンテイガのレゾンデートルとは、このふたつの要件そのものにほかならないだろう。
それは、ベントレーからアナウンスされたデータでも裏づけられている。データによるとベンテイガオーナーの82%が毎日運転し、74%のベンテイガはほぼ毎日街中で運転されており、買い物・通勤・旅行がもっとも多い使用用途であるという。まさしく、普段遣いできる心強い執事のような存在なのだ。
では、2021年現在、新車で購入できるベンテイガのプロフィールを簡単に解説しよう。
初代ベンテイガは、2016年に日本市場に導入。当初はW12モデルだけだったが、2018年からV8モデルを投入、さらに2019年にはハイパフォーマンスモデルの「ベンテイガ・スピード」がラインナップされている。
新型は2020年6月にV8モデルから発表され、同年8月にはW12を搭載したベンテイガ・スピードが早くもラインナップに加わっている。しかし、今回VAGUEでオススメするのは、V8モデルの新型ベンテイガだ。
■290km/hまではシームレスに加速する
新型ベンテイガの外観上の変化がもっともよく分かるのは、リアまわりのデザインである。テールライトのデザインが現行「フライングスパー」や「コンチネンタルGT」と同じ楕円形のデザインに統一された。さらにこのテールライトは、クラムシェル型に変更されたテールゲートパネルに一体化されている。
●スッキリと洗練されたインテリア
コックピットを見てみよう。ベントレー ウイングの形状を模したダッシュボードのデザインはそのまま踏襲されているが、先代の重厚感ある印象がスッキリと軽やかな雰囲気に様変わりしている。その理由は、センターフェイシア部分を大きく変更したためだ。
新設計の10.9インチ インフォテイメントスクリーンは、タッチ式となったため、余計なスイッチやダイヤルが廃されている。さらにダッシュボートを水平方向に伸びやかに見せているのは、アナログクロックと一体となったエアコン吹き出し口である。従来のふたつの円筒形吹き出し口(ブルズアイ型センターベント)ではなく、吹き出し口自体がベントレー ウイングのような左右へ伸びるデザインのシングルベントに一新されたのである。
ステアリングホイールの奥にあるメーターパネルは、フラットなデジタルドライバー インフォメーションパネルになり、フルデジタル表示となった。ベントレーを長年乗り継いでいる人なら、「クラシックビュー」を選んで、従来のスピートメーターとタコメーターを大きく映した方が落ち着くだろう。表示もアナログのデザインそのままでしっくりと馴染む。
このインフォメーションパネルは、地図画面などを呼び出せる「エクスパンデットビュー」も選択できるので、ランボルギーニ「ウラカン」などに乗り慣れている人ならば、こちらの画面でも扱いやすいだろう。
●ベンテイガは、どこまでも加速する
試乗車のベンテイガは、ブラックライン スペシフィケーション装備車両であった。ウイングベントやヘッドライトベゼルなどのブライトウェアがブラックペイントに変更されているため、見るからにスポーティな雰囲気だ。インテリアもフェイシアにウッドパネルではなく、新登場のダークティントダイヤモンド ブラッシュド アルミニウムが採用されている上に、シートやドアパネルなどにレッドでステッチが施されているため、スポーティな雰囲気に仕上がっている。
この、スポーティなベンテイガに用意された試乗コースは、1周5.6kmの周回路である。一般公道とは違うため、日常での使い勝手などはリアルに体験することはできないが、クローズドコースであるため思う存分ベンテイガのポテンシャルを堪能することができる。さっそくコースインして新型ベンテイガとのファーストコンタクトを取ってみる。
アクセルペダルを控えめに踏んでいるつもりなのに、2.4トンにもなるベンテイガのスピードメーターの針が、ストレスなど一切無関係に200km/hを指し、さらにその上の数字をも指さんとする余裕すら感じられる。試乗した周回路は一般道を模擬して設計されており、路面はフラット。開通したばかりの高速道路の路面をイメージすると近いかもしれない。タイヤから伝わる路面のノイズが一般道より少ない分、いつも遠くに感じていたV8エンジンの存在が少しだけ近くなったような気がする。
エンジンはモデルチェンジ前のベンテイガと基本は同じ。先代ベンテイガでは、片道500kmオーバーのロングツーリングを幾度か経験しているが、これほど荒々しく自己主張するエンジンだと初めて気づかされた。速度無制限のステージでその気になれば、上品な外観からは想像もできないポテンシャルを垣間見せてくれるのだ。
ドイツとイタリアのラグジュアリースポーツSUVが、自らの性能の高さをこれでもかと常に主張するのとは違い、ベンテイガはドライバーが要求したときにキッチリと、しかも余裕を残して応えてくれているのが分かる。日常域でのドライブでこれ見よがしに性能の高さをアピールしないだけに、ベンテイガの実力は底が知れない。200km/hを超えてさらに加速していくベンテイガに、畏怖すら感じてしまったほどだ。
このまま道が真っ直ぐならば、カタログに掲げてある最高速度290km/hまでためらいなくアクセルペダルを踏み続けていられるだろう。しかし、現実には目の前にコーナーが迫ってきたため、アクセルペダルを緩め、パドルでシフトダウンして減速する。
新型ベンテイガでは、先代からリアトレッドが20mm広げられた。理論的には、先代よりも安定した姿勢でコーナーをクリアできるはずだが、どれほどの違いがあったのかは分からない。ただし、想定以上にフラットな姿勢で高速コーナーを、それも東名高速大井松田のコーナーを走るときの、プラスαの速度で駆け抜けたという事実だけは理解できた。
ステルス・ウェルスという価値を持ち出すまでもなく、この1点だけでも、新型ベンテイガはスーパーカーオーナーの足グルマとして、自信を持って薦めることができる。
●BENTLEY BENTAYGA
ベントレー・ベンテイガ
・車両価格(消費税込):2185万7000万円
・全長:5125mm
・全幅:1995mm
・全高:1755mm
・ホイールベース:2995mm
・車両重量:2440-2530kg
・エンジン形式:V型8気筒ツインターボ
・排気量:3996cc
・エンジン配置:フロント縦置き
・駆動方式:4輪駆動
・変速機:8速AT
・最高出力:550ps/5750-6000rpm
・最大トルク:770Nm/2000-4500rpm
・0-100km/h:4.5秒
・最高速度:290km/h
・公称燃費(WLTP):7.5km/L
・ラゲッジ容量:484リッター(5シーター)
・燃料タンク容量:85リッター
・タイヤ:(前)285/45ZR21、(後)285/45ZR21
・ホイール:(前)10.0Jx21、(後)10.0Jx21
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