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【ヒットの法則458】ジャガーXFとBMW5シリーズを乗り比べてわかった、英独のプレミアムカーの本質

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【ヒットの法則458】ジャガーXFとBMW5シリーズを乗り比べてわかった、英独のプレミアムカーの本質

2008年に登場したジャガーXFは、「新しいジャガー」を象徴するモデルとして注目を集めた。保守的なそれまでの英国高級車的イメージからどう変化したのか。Motor Magazine誌ではジャガーXF 3.0ラグジュアリーと同クラスのライバルであるBMW 530iとの比較を行いつつ、両者が狙う高級サルーンのスポーツ性、プレミアム性について検証している。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年8月号より)

継続的な発展のための「攻め」のクルマづくり
「スポーツカーのスタイルと性能、ラグジュアリーサルーンの洗練性を融合させた、ジャガー新時代の幕開けを告げるモデル」。XFのリリースにあたって、ジャガーはまず自らこう述べた。「クーペのラインを持つ革新的なデザインを採用したミディアムサイズのスポーツサルーン」。これもまた、XFを紹介するのに用いられている一文だ。

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ジャガーというブランドを、上品で高級なサルーンのメーカーと捉える人にとっては、こうしたスポーツという言葉の羅列は戸惑いを抱かせる要因かも知れない。が、「そもそもジャガーとはスポーツカーのブランドだった」と、その歴史をこう認識する人にとっては、ジャガーがXFというニューモデルのリリースとともに打ち出したこうしたメッセージは、まさに「わが意を得たり」というところであるだろう。

歴史と伝統に裏打ちされたイギリスが誇る自動車ブランド、ジャガー。なるほどそうした、他メーカーでは得られない時の流れが構築してきた事柄は、もちろんこのブランドならではの無形の財産だ。

しかし、XFはそうした物事の上にあぐらをかいたクルマ作りからは敢えて身を引き、既存の概念を打ち崩してさえも将来への継続的な発展を可能とするための「新時代のジャガー」を造り出そうという意欲に満ちた1台。

そんなモデルに込められた革新への意気込みは、まずはスタイリングで表現されている。XFはジャガーのモデルとしては初めて、「フロント/ロー、リア/ハイ」というドイツ車的なスタンスで、プロポーションが構築されているのだ。

中央部で上向きの凸の弧を描くかのように、前後に低く長いプロポーション、おおよそこれが、これまでのジャガーサルーンに当てはまる常識だった。端的に言えば「尻下がり」のプロポーションが、ジャガーらしさの一端を表してもいたのだ。ところが、XFは長年続いてきたジャガーサルーンへの既成概念を打ち崩している。ヘッドライト上部から始まるベルトラインは、後方に進むにつれて高さを増すウェッジシェイプのラインを描き、ルーフからなだらかに下ってきたラインと交錯する高い位置で、フェードアウトするように終焉を迎えるのだ。

空力抵抗低減に有利な上、大きなトランク容量を確保しやすいために、原則速度無制限を誇るアウトバーンの国で生まれたドイツ車を中心に、世界のクルマがこぞって採り入れた「フロント/ロー、リア/ハイ」のプロポーション。しかし、そうした機能性の高さゆえに、世界の多くのモデルに次々採用されることにむしろ反旗を翻すかのごとく、それを避けてきたのがこれまでのジャガーのサルーンでもあった。

ところが、そうした判断を改めたのがXFのプロポーション。一歩間違えばそれは当然「ドイツ車のよう」とも受け取られかねないだけに、これは相当な覚悟が必要となった決断であったに違いない。

一方で、そうした大英断を採り入れたXFのデザインは、これまでのジャガーとは一線を画す、並々ならぬ新型車開発へのエネルギーが感じられるものでもある。何よりも、こうした手法を採り入れつつ、XFのエクステリアデザインはドイツ車に似るどころか、どこから見てもジャガー以外の何者にも見えないオリジナル性の確立に成功している点が賞賛に値する。XFは、ドイツ車がいち早く採り入れた機能性の高さを、固有のブリティッシュネスと巧みに融合させたプロポーションなのだ。

そんなXFのドアを開き、ドライバーズシートへと身を委ねる。すると、今度はそのモダンな空間の演出ぶりに、再び驚き、感心させられる。

高く切り立った造形のダッシュボードに、レザーやウッドをふんだんに用いたクラシカルな各部の仕上がり。それもまた少し誇張気味に表現すれば、これまでのジャガーのサルーンの、基本的かつ典型的なインテリアの雰囲気だった。

ところが、XFのインテリアにはもはやそうした保守的な英国高級車的イメージは微塵も漂わない。むろん、レザーやウッドといった伝統素材はXFにも惜しげなく多用され、例えば「ウッドパネルの面積は、1960年代のマーク2以降のモデルでは最大」といったコメントも聞かれる一方、ダッシュボードのフェイシアには全モデルでアルミニウム素材を標準採用する。

極め付けはエンジン始動時の演出。スマートキーの携帯者が乗り込んだことを感知して心臓の鼓動のごとくリズミカルに明暗を繰り返すコンソール前方のスタートボタンにタッチすると、エンジン始動とともにそれまでコンソール表面と面一だったATのセレクターダイヤルが上昇。さらに、それまでは閉じられていた空調ベントがゆっくりと回転しながらオープン、出発の準備が整ったことを視覚的にもアピールする。

こうしたギミックは、これまでのジャガー車にはもちろん見られなかったもの。そしてまた、エクステリアと同様、場合によっては保守的なジャガーファンに対しては反感すら買いそうなデザインを大胆にも採用したその英断に、ジャガー開発陣と経営陣の並々ならぬ決意のほどが感じられもする。

同時に、こうした大胆なインテリアのデザインが、しかし「イギリス車であるからこそ実現できたもの」と納得できるのも、また評価に値するポイント。確かに、これまで築かれてきた「ジャガーらしさ」とは異なるが、だからと言って「機能的ではあるが、どこかビジネスライクな雰囲気が漂う」ドイツ車とも異なり、そしてもちろん「ソツなく仕上がっているもののどれも同じように見える」日本車とも大いに異なるテイストが実現されている。

かくして、各部で「新しいブリティッシュネス」をアピールするXFのルックスは、どこをとっても何とも巧みな仕上がりであると、ぼくは改めて絶賛したい。

定評ある5シリーズにも劣らないXFの走り
日本に導入されるXFのバリエーションは、4.2Lの8気筒エンジンを搭載する4.2プレミアムラグジュアリーとSV8、そして3Lの6気筒エンジンを搭載する3.0ラグジュアリー、3.0プレミアムラグジュアリーの4グレード。ここでは、その中の3Lモデルにスポットライトを当て、「走りのブランド」であるBMWの同じく3Lモデルである530iとの比較を行いつつ、両者が狙う高級サルーンのスポーツ観を検証してみたい。

まず走り出しの時点で「おっ、これはなかなか凄いな」と感心させてくれるのは、圧倒的に530iの動力性能だ。

単独で乗る限り、XFにも何ら不満を感じない。しかし、乗り換えながら試してみると、その差は歴然。スタートの瞬間から530iの加速感が明確に力強く、そしてエンジン回転の伸び感も圧倒的にスムーズだ。それはまるで、530iのエンジンが「実は3.5L」と言われても、そのまま信じてしまいそうなほど。もちろん、実際はフロントセクションをアルミ骨格としたハイブリッドボディの採用などにより、XFより100kgほども軽い車両重量を実現したという効果も大きいはずだが、いずれにしても「さすがは、エンジンのBMW」と、初めて走り出した際には誰もがそのように感じるに違いない。

ところが、タイヤが転がり始めると、今度はわずかな路面凹凸もコツコツと律儀に拾い続ける530iの乗り味に、「これが高級サルーンのテイストなのか」と、疑問の声を投げかける人が現れそう。

正確に観察すると、その印象はサスペンションのセットアップによるものではなく、どうやらタイヤのエンベロープ性能の低さに起因するところが大きそうだ。サスペンションが動き出す以前の、本来ならばタイヤがたわんでショックを吸収すべき微小な振動を、530iはコツコツとした乗り味としてそのままキャビンに伝えてしまう。

そこで大きな要因と考えられるのは、昨今のBMW車が好んで装着するサイドウォール補強型のランフラットタイヤ。初期に比べればその性能は大きく改善が進んでいるとはいえ、いまだにこうした領域でのハンディキャップが拭えないランフラットタイヤに関しては、実は今、その標準装着に対する論議がBMW社内で再燃しているとも耳にする。

こうして、快適性に関してはとくに微低速領域で530iに対する大きなアドバンテージを示すXFが同時に、定評ある530iに勝るとも劣らないスポーティで自在なハンドリングの感覚を見事に味わわせてくれることも特筆に価する。

低速時の取り回し性を中心にその効果を発揮する530iに標準のアクティブステアリングが、一方で時に過大なゲイン(入力=ステアリング操作、に対する出力=発生する横力の現れ方)を感じさせるのに対し、XFのハンドリング感覚は常にリニアで、それがこうしたサイズのサルーンとは思えない「人とクルマの一体感の強さ」を味わわせてもくれるのだ。

そうした挙動のチューニングはあくまでも「ヒトの感覚が優先」という狙いが感じられるもので、このあたりが時に平然とハードウエアの存在が前面に姿を現すドイツ車の作り込み方とは、大きく異なっているようにも思える。

生まれ育った道が走りを鍛える
例えばのハナシ、英国の片田舎に今でも数多く存在する、道幅が狭くアップダウンと細かなコーナーが連続し、その上で両サイドに石垣や垣根が迫って見通しの利かないB級ロードを、いわば一種の可変ゲインステアリングを採用した530iで駆け抜けるというのは、あまり楽しい作業とは言えないはずだ。その点、より自然体で「望んだ以上の動きはしない」XFのハンドリングの感覚は、そうしたシーンではよりリラックスした走りを味わわせてくれるに違いない。

結局のところ、やはり「走り」はそのクルマが生まれ育った道が鍛えるのだ。となると、そんなイギリスのB級ロードに条件が近い日本の走りの環境には、前述のようなXFの持つブリティッシュネスなダイナミズムの性能が大いに似合っているのではないかと、そうも思えてくる。

「アウトバーンがクルマを鍛える」。こうしたよく耳にするフレーズが、多くのドイツ車の際立つ高速性能を象徴的に表しているのは確かな事柄。一方でアウトバーンとはかけ離れた環境の道を進もうという時、それが足かせとなって実現できないこともあったのかも知れない。

実際のところ、より日本的な速度域で気分の良いハンドリング感覚を味わうことができたのは、今回は530iではなくXF。ジャガーが提唱する新時代のスポーツサルーンとは、要はそんな乗り味の持ち主なのであろう。(文:河村康彦/Motor Magazine 2008年8月号より)



ジャガー XF 3.0ラグジュアリー 主要諸元
●全長×全幅×全高:4970×1875×1460mm
●ホイールベース:2910mm
●車両重量:1750kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:2967cc
●最高出力:243ps/6800rpm
●最大トルク:300Nm/4100rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:650万円(2008年)

BMW 530i 主要諸元
●全長×全幅×全高:4855×1845×1470mm
●ホイールベース:2890mm
●車両重量:1650kg
●エンジン:直6DOHC
●排気量:2996cc
●最高出力:272ps/6650rpm
●最大トルク:315Nm/2750rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:764万円(2008年)

[ アルバム : ジャガー XF 3.0ラグジュアリーとBMW 530i はオリジナルサイトでご覧ください ]

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