デモカーではなく愛車だから知り得た奥深さ
毎日の通勤の足として街中を駆け回る『HKSテクニカルファクトリー』菊池良雅代表の相棒はR34スカイラインGT-R。かつてはサーキットに度々通っていたが、今ではその実力を確認するのは静岡県富士宮市にあるチューニングメーカー『HKS』本社に用事があるときだ。埼玉県のお店からの道中で一人R34との対話を楽しんでいる。何も必死になって限界まで速度を上げるわけでない。エンジンを気持ちよく高回転まで回し切れば、愛車の機嫌の良さはわかる。一時期サーキットを本気になって駆け抜けた同志には、今も得体の知れない感情が沸き起こる。
「R32GT-Rの皮を被ったR35」生みの親! 破天荒すぎる「伝説のチューナー」が語る「R」の魅力とその半生
(初出:GT-R Magazine156号)
一気にではなくジワジワと魅力が伝わって夢中になる
「あらためて思い起こしてみると、このR34GT-Rに乗る以前の最近では、フーガ、Z33のAT、スカイラインクーペ、そして再びZ33の今度はMTと、V6ばかりを乗り継いでいました。しかもすべて後からスーパーチャージャーを付けています。とてもV6好きに見えますが、そんなことはありません。偶然なんです」と愛車遍歴を話す『HKSテクニカルファクトリー』の菊池代表。それ以前に遡るとどうしても欲しくて手に入れたクルマがあったという。トヨタの初代アリストだ。
「ジウジアーロの流れるようなデザインに惹かれたんです。パワフルな2Jエンジンにも興味があって本当に好きでした。忘れもしない24年前、まだ32歳でした。それほど夢中だったアリストも長くは所有していませんでしたね。今の愛車に比べると……」
そう語る菊池代表の現在の相棒はBNR34だ。正直に言ってしまえばアリストほど思い入れがあって購入したわけではない。
「乗らなくなったお客さまから譲り受けました。条件がよかったのでその気になったというのが本音です。もちろん嫌いではありませんでしたが、それまでGT-Rはどうしても欲しいという気にはなりませんでした。HKS本社のデモカーなどを散々乗っていたからかもしれません」
それでも購入してから15年、今でもR34に飽きずに乗り続けている。あれほど思いを募らせていたアリストよりも断然長い期間所有しているのだ。
「ひと目惚れで突き進んだアリストと違って、R34はジワジワと魅力が伝わってきた感覚です。サイズ感もよかったですね。R32ほど小さくないし、R33よりも引き締まっている。そこそこ広くて意外と便利なリヤシートの使い勝手のよさは、飽きのこない要因の一つです」
デモカーではないから自分のペースで工夫する
そして何よりもオーラに気付いたことが大きい。RB26DETTならではの素性のよさから得られる速さや、V6とは違う淀みないサウンドは魅力的ではあるが、それよりも立ち姿に魅せられた。独特な雰囲気を携えたスタイリングが付き合っていくほど好きになっていったのだ。とくにイカついツリ目のフェイスは最初は気にも止めていなかったが、今ではとても気に入っている。単独ではそれほど感じないものの、多くのクルマの中にいるとR34のオーラは俄然際立つと言う。
「手に入れたときは走行10万km。ブーストアップ仕様で400ps前後だったと思います。エンジンはもちろん、ブレーキもホイールもノーマルでした」
そこからがっつりと手を入れてデモカーっぽく仕立てることを検討したが、タイミングが合わずに取りやめた。むしろそれがよかったのかもしれない。デモカーにすればハイペースでクルマを仕立てる必要があり、その過程はゆっくりと楽しめない。それに対して菊池代表は自分のペースでR34をモデファイすることができたのである。
パーツを少しずつ導入することで、その効果をじっくりと味わえる。デモカーと違って自分の愛車となると欲しいパーツをすべて装着できるわけではない。妥協しなければいけない部分も多い。そうなると使い方を自分なりに工夫して、最良の方法を見つけるように努力をする。間違いなくデモカーよりも愛着が育まれるのだ。
愛車でサーキットを走る至福の時間を知る
菊池代表と相棒との関係が大きく動いたのが13年前。富士スピードウェイを走ったときだ。気心知れた数名と気分転換のつもりで走りに行った。菊池代表は今までにHKSの走行会などで何度も富士スピードウェイは経験している。しかしそれらは仕事での参加だ。自分の愛車で本気で走ったのは生まれて初めての経験だった。
「想像以上に速度域が高く、ストリートとは別世界でした。ライン取りやブレーキのタイミングなど、頭の中でシミュレーションしていましたが、付け焼き刃は役に立ちません。わかっていても身体が思うように反応しないんです」
菊池代表はその日、家路を急ぐ車内で、どうすればもっとまともに走れるか、すでに次回の対策に考えを巡らせていた。久しぶりに仕事以外で本気になった。その日を境にクルマへの取り組みが明らかに変わった。
「当時は木曜日の定休日になると富士スピードウェイに行っていました。多いときでは月に3回。こんなに夢中になったことは今まであったかなと思うほどです。富士に走りに行ったメンバーでは自分だけが、こんなにハマってしまいました」
頻繁にサーキットに繰り出していた菊池代表は、同じようにスポーツ走行にやってくる常連組と自然と顔見知りになる。そんなときは「HKSテクニカルファクトリーの代表・菊池」ではなく「R34乗りの菊池」として接する。これがまた心地いい。仕事を離れて純粋なプライベートの時間をクルマ好きと、それも完全に利害関係なしで楽しめる至福のひととき。もちろん相棒のお陰だ。
パワーアップよりも大切な3項目に気付かせてくれた
「HKSに属していてこんなことを言うのも何ですが、サーキットを楽しむためにはパワーよりも、足とブレーキのフットワーク、それに4点式のベルトを含むシート、さらにラジエータやオイルクーラーといったクーリング系、まずはこの3カ所のグレードアップが必須です」
どれが優先かということはない。全部が必要な項目だ。サーキットを本気で走って切実に実感した。とくにGT-Rの場合はこれらを強化しないとまともに走れないと言ってもいいほどだ。
菊池代表は富士スピードウェイで2分を切るまではパワーアップしないことを自分自身に課した。しかもラジアルで。努力の末、足掛け2年で目標を達成して、ついにターボをGT-SSに変更したと言う。それに伴いインタークーラーやF-CON Vプロなど周辺パーツも充実させて530ps前後のパワーをマークした。
パワーアップを施したこのR34GT-Rに谷口信輝選手に乗ってもらえるチャンスがあった。何のセットアップもせずにいきなり走り出して呆気なく1分55秒8をマーク。それを基準に菊池代表はプロでない自分に対して1秒2のハンディキャップを与えて、今度は1分57秒を目標タイムに設定することにした。
「ハンディは不本意ですが、何とか10 年前にタイムを出しました。そこでサーキットに一区切りつけたんです。約3年間、相棒と充実した時間が過ごせました。その後、サージング対策でGTIII‒SSに換えて現在の仕様に至っています」
共に苦労した相棒はサーキットを離れても特別な存在に変わりない。3年間の貴重な体験は、今でも菊池代表の大切な財産になっている。
HKSテクニカルファクトリー 菊池良雅代表のGT-R PROFILE
■所有車両:BNR34
■年式:1999年式
■乗り始め時期:2005年5月
■現在の総走行距離:21万934km
■現在の車両スペック
エンジン:HKS SSカム264度×2/550ccフューエルインジェクター/大容量フューエルポンプ/GTIII-SSスポーツタービンキット/ステンレスフロントパイプ/スーパーターボマフラー/メタルキャタライザー/スペシャルパイピングキット
冷却系:KOYOラジエータ、HKS Rタイプインタークーラキット/オイルクーラーキット
電子パーツ:HKS F-CON V Pro Ver3.3/EVC7、Do-Luckアテーサコントローラー
足まわり:HKSハイパーマックス マックスIV GT 20スペック、SUNLINEフロントアッパーアーム、NISMOリヤアッパーリンク/リヤロアアーム
駆動系:HKS LAクラッチツイン、R32純正LSD改
ブレーキ:Bremboブレーキシステム
エクステリア:ワンオフカーボンリップ、リヤアンダーカバー、カーボントランク、Kansai SERVICEエアロボンネット、Plus1Aokiウイングエクステンション
インテリア:momoステアリング、RECAROシート
ホイール:YH ADOVAN Racing TC-4(11J×18+15)
タイヤ:YH ADVAN NEOVA AD08R(265/35R18)
■パワー&トルク:530ps/6,608rpm 60kgm/5,460rpm
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みんなのコメント
自動車会社が、採用したのは、フジツボのマフラー、これは、丁寧で丈夫なマフラーで定評があった。また、造船技術の中からターボを製作しているIHIも、ポルシェ社との提携を結んだ。
どんなに車を語ろうと、そのもとは、日産やトヨタの社員が優秀かどうかであって、研究所で開発を続けている、メーカー社員こそ、本物のエンジニアだ。エンジニアにとって、改造すればどうなるか、それは生産前に改造ではなく、研究、実験済みの事だ。日産社員からすれば、HKSも菊池氏?も、大切なお客様です。メーカーが、個々のディーラーに売る際の広告の後援会のようなものです。ディーラーは、メーカーの客であって、個人はディーラーの客ですから。