かつて流行ったクルマの装備のひとつである「カンガルーバー」。太い棒状のものがフロントグリルをガードするように囲っていたことから、「グリルガード」ともよばれていた装備だ。90年代には多くのクルマに取り付けられていたが、いまではすっかり見かけなくなった、おじさん世代にとっては懐かしい装備。カンガルーバーが流行した理由と衰退した理由について、振り返りたい。
文:立花義人、エムスリープロダクション
写真:TOYOTA、NISSAN、MITSUBISHI、SUBARU、MAZDA、DAIHATSU、ベストカー編集部
カンガルー皆無の日本で「カンガルーバー」が一世風靡した理由と廃れた事情
日本ではアクセサリーとして人気に
「カンガルーバー」は、カンガルーなどの野生動物との接触事故が多発するオーストラリアで開発された機能部品だ。頑丈につくられているクルマでも、体重100kg以上もある大型の動物と走行中に接触してしまうと、走行不能に陥る可能性がある。大平原のなかで、動物と接触してしまった場合でも、クルマが走行不能になることなく、乗員が生きて帰ってこられるよう、クルマを保護するために装備されている。
日本では、その危険性は低い(もちろん山間部では野生の鹿や猿などが道路へ飛び出してくることは稀にある)が、見た目のゴツさやかっこよさから、アクセサリー的な後付け部品として80年代後に登場、90年代のRVブームを後押しした。90年代のRVブームは、外観をRV化するだけで売れた時代。クロカンモデルはもちろんのこと、ダイハツ「ミラRV-4」、スバル「インプレッサ グラベルEX」、三菱「ギャラン GTRV」、日産「セレナ キタキツネ」といった具合に、軽自動車や乗用ステーションワゴン、ミニバンにもメーカーオプションやRV系の1グレードとして設定され、一世を風靡していた。
1993年登場の2代目日産テラノ。巨大なカンガルーバンパー装着が装着されていた
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海外での事故事例をきっかけに、安全性が問題視されるように
そんなカンガルーバーだが、海外で起きたある人身事故をきっかけに、対人事故の際に被害者に大きな損傷を与えてしまうことが、取り沙汰されるようになった。これをうけ、各自動車メーカーは、カンガルーバーのサイズを徐々に小さくし、金属製から樹脂製への切り替えなどを実施したり、メーカーオプションやグレード設定をやめ、ディーラーオプションに変更するなど、採用のトーンを下げていき、2000年代を迎える頃には設定自体も減少した。
この頃にはオンロード重視のクロスオーバーSUVの人気が上昇していたため、そもそもカンガルーバーが似合うデザインのクルマが少なくなったというのも関係しているだろう。
1994年登場のセレナ キタキツネ。当時はファミリーカーにもRVの要素が取り入れられた。グリルガードは非装着車も選ぶことができた
保安基準に適合したパーツであれば車検を通すことも可能だが、クルマを保護する機能は期待できない
現在の新型車では、純正オプションとしてカンガルーバーを用意している例はなく、社外品やカーショップで販売されているものを購入することでしか装着できないが、社外品であっても保安基準に適合したパーツであれば装着し、車検を通すことも可能。
ただし、装着方法やサイズによっては、構造変更などが必要になる場合もあるので注意が必要だ。また、保安基準に適合したパーツであっても、安全性の観点から鋭利な形状などはなく衝撃などにも弱いため、実際に野生動物とぶつかった時には、「クルマを保護する」性能はさほど期待できない。あくまでもドレスアップ目的ということになる。
ただ、現在でもオーストラリアをはじめとして、カンガルーバーの機能を本当に必要とする地域はある。たとえばオーストラリアトヨタで販売されているランドクルーザー70にはオプションでカンガルーバー(ブルバーと呼ばれる)やサイドのフェンダー周りを保護する「サイドレール」も用意されている。
2023年の東京オートサロンに出品された日産キャラバンのコンセプトカー「JAOS ver.」。4WD&SUV用総合パーツメーカーならではのカスタマイズでは、控えめな形状ながらバーの装着がみられる
◆ ◆ ◆
かつて一世を風靡したカンガルーバー。安全性の観点からすっかり見かけなくなってしまったが、いまでも本格クロカンモデルに装着されているのをみると、機能美としてのかっこよさを感じる装備だ。
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