ボルボ初のBEV専用モデルとして登場したC40リチャージはどんなモデルなのか。ここではライバルと目される3台、レクサス UX300e、メルセデスEQ EQA250、テスラ モデル3 ロングレンジとともに、さまざまなじシチュエーションで乗り比べてみた。(Motor Magazine 2022年6月号より)
電池容量と充電能力が高いボルボC40とテスラ モデル3
「日本のBEVは遅れている」という指摘は、日本車メーカーが保有する電動化の技術力に関していえば完全な濡れ衣だけれど、日本市場におけるBEVの普及についてはグウの音も出ないくらいの正論である。たとえば乗用車の全販売台数に占めるBEV比率を挙げると、ヨーロッパ9.1%、中国11%、アメリカ3.2%に対して日本は0.9%に過ぎない(2020年。筆者の独自集計による)。まったくもって、日本ではBEVが売れていないのだ。
最新電気自動車「C40」詳解。ボルボの未来を感じる「リチャージ」の本領とは【特集:ボルボのBEVとPHEV(1)】
この「売れない理由」を探るうえでヒントとなりそうなのが、国内BEV市場における輸入BEVの比率で、2021年はこれが実に40.7%に達した。日本市場における輸入車のシェアは10%程度なので、BEVは実にその4倍以上に相当するわけだ。
さらに2021年のBEV販売台数は2020年に比べて6535台も増えたが、このうち5793台が輸入BEVだった。つまり、販売増分の9割近くは輸入車が担っていたのである。
ここから読み取れるのは「(輸入車のように)個性的なモデルが増えれば、日本のBEV市場はまだまだ伸びるポテンシャルを秘めている」というもの。今回、4ブランドのCセグメントBEVを揃え、その個性を吟味したのは、ここに最大の理由がある。
ボルボ C40リチャージ ツイン、メルセデスEQ EQA250、テスラ モデル3 ロングレンジ、レクサス UX300eの4台は、どれも全長が4m台半ば。車両価格も580万円(UX)から719万円(C40)だから、いずれもライバル関係にあると捉えられる。ただし、スペックを詳しく見ていくと、4台はふたつのグループに分けられることに気づくはずだ。
第1のグループはC40とモデル3。いずれもバッテリー容量はおよそ80kWhで、前後車軸に搭載された2基のモーターが生み出す最高出力は400psを越える(モデル3のバッテリー容量は非公表だが、多くの報道が75kWh前後で一致している)。バッテリー容量が大きいので航続距離は長く、C40で485km、「ロングレンジ」を謳うモデル3に至っては689kmに達する(いずれもWLTC)。
この大容量バッテリーに対応するため、許容できる充電能力が高いのもC40とモデル3の特徴で、前車はCHAdeMOで150kW、後者はテスラ独自規格のスーパーチャージャーで最高250kWを受容する。充電出力が100kWを越えると、30分の充電でざっと200kmは走れるため、実用性はぐんと向上する。残念ながらCHAdeMO規格の150kW急速充電は今後の普及が待たれるところだが、クルマ側が大出力急速充電に対応しているに越したことはない。BEV購入後は急速充電を多用すると考えている皆さんには、この点には注目することをお勧めしておく。
パワフルな2台は0→100km/h加速タイムでも抜きん出ていて、C40は4.7秒、モデル3は実に4.4秒でクリアする。その韋駄天振りには目を見張るばかりだ。こうした、BEVのポテンシャルをフルに引き出そうとした2台に比べると、EQAとUXのスペックはやや控えめだ。バッテリー容量はそれぞれ66.5kWhと54.4kWhで、航続距離は422kmと367kmに留まる。
充電能力にしても、EQAの100kWはまだしも、UXは旧態然とした50kW。公共のCHAdeMO充電施設で適用される「30分ルール」を守るなら、2回は充電しないとバッテリーは「腹八分目」にならないだろう。EQAとUXに搭載されるモーターはいずれも一基で、最高出力は190~203ps。このため0→100km/h加速にはEQAで8.9秒、UXで7.5秒を要する。
この説明では、EQAとUXのスペックがまるで不十分であるかのように聞こえたかもしれないが、そうではない。実用車として不足しているかといえば、決してそんなことはなく、とりわけEQAは動力性能を除けばC40に迫る項目が多く、最新のBEVに相応しい性能と特徴を備えているといえる。
乗り比べることで見えたそれぞれの違いと共通項
ふたつのグループの違いは、実際に試乗しても明確に感じ取ることができた。たとえばモデル3は発進の際に強めにアクセルペダルを踏み込むと、まるで強打者のバットで打ち返されたボールのように、ドンッと過剰なほど加速し始める。その、瞬間的に加速度が立ち上がるダッシュ力は、電気モーターでなければ味わえない種類のもの。テスラはそのことを意識して、わざと軽いショックを生み出す発進マナーに仕立てているのだろう。
C40はこれに比べれば明らかにおとなしい。いや、モデル3並みのスタートダッシュにしようとすればできなくもなかったのだろうが、扱いやすさや安全性を考慮して、ボルボはあえてそこまで踏み込まなかったような気がする。
ただし、高速域でモーターのパワーを解放すれば、それこそ空気抵抗などなかったかのように車速を伸ばしていくことは、ヨーロッパで行われた国際試乗会で体験済み。この辺の、BEVらしさと既存の自動車の価値観を絶妙のバランス感覚でまとめあげたところが、いかにもボルボらしいと思う。
一方、EQAとUXはそこまで爆発的な加速感は感じられないものの、BEVらしいリニアリティの高さと良好なレスポンスが味わえる。また、パフォーマンスを敢えて抑えた関係で、足まわりを比較的ソフトに設定できたというメリットも存在する。そのため、2台ともゴツゴツ感が軽く、そして豊かなストローク感を味わえる乗り心地に仕上がっている。ほぼ同じ理由から、ロードノイズが全般的に小さいこともEQAとUXに共通する美点である。
これとは対照的にC40とモデル3の足まわりはややソリッド。ロードノイズもEQAとUXに比べれば大きめだが、いずれも十分に許容できる範囲にある。しかも、それと引き替えに、C40とモデル3はワインディングロードでの軽快なハンドリングを手に入れている。なかでも、モデル3よりも15cmほど全高の高いC40が、そのことを感じさせない安定したコーナリングフォームを示す点には驚嘆せざるを得なかった。
BEVならではの操作感がC40とモデル3の特徴
BEVに相応しい新しい操作系を採り入れたという意味でもC40とモデル3には共通点がある。とりわけ、運転席に腰掛けたとき、目の前にステアリングホイールとステアリングコラムから生えた2本のレバーしか見当たらないモデル3のコクピットには、テスラ初体験のドライバーであれば驚くとともに軽い戸惑いを覚えるはず。
率直にいって、ドアミラーを調整するにしても、まずセンターディスプレイで調整モードを呼び出したうえで、ステアリングホイール上のロータリースイッチでミラーの角度を調整するという操作方法はやり過ぎといえなくもない。ただし、運転中に咄嗟に必要となる機能については、センターディスプレイを触らずとも直接、操作できるように工夫されている。
C40はこれに比べるとややマイルドな思想で、基本的な運転操作はXC40と変わらない。それでも、システムを立ち上げるメインスイッチを廃止したり(ドアを開けて運転席に腰掛ければ、自動的にシステムが立ち上がる)、パドルシフトを省略したり、ドライビングモード切り替えをセンターディ
ス プレイのなかに仕舞い込むなど、目に見える範囲のオペレーションをなるべく簡略化しようとする姿勢は感じ取れる。
グーグルベースのインフォテインメントシステムを搭載する点は他の最新ボルボと同じだが、強力な音声認識機能を備えたこのシステムを採用したのも、来るべきEV時代に備えるためと説明されれば、スッと腑に落ちるような気がする。
操作系でC40とモデル3が共通しているもうひとつのポイントが、ワンペダルドライブを可能にした点にある。ワンペダルドライブとは、ブレーキペダルを踏まずとも、アクセルペダルだけでほとんどの加減速調整ができる操作系のこと。それゆえ、雑なペダル操作をするとボディがガクガクと前後に揺れてしまうが、うまく使えば、ブレーキペダルで完全停止させるよりもスムーズに止まれるというメリットがある。
ちなみに「ワンペダルは苦手」と仰る方にひとつだけコツを伝授すると、走行中は基本的にアクセルペダルの上に足を乗せ続けるだけで、ずっとスムーズなドライブができるようになるはず。アクセルペダルから足を離すのは急減速や完全停止のときだけ、と覚えていただいてもいいだろう。
BEVらしさと安心感を兼ね備えたボルボC40
4台に対する結論はすでに出たようなもので、BEVの利便性や特徴を前面に押し出したC40とモデル3、そしてBEVらしさと従来からの自動車の価値を融合させたのがEQAとUXとなる。EQAとUXは、BEVらしい利便性やパフォーマンスの点で他の2台に一歩遅れをとっているが、それだけにこれまでと同じ感覚でドライブできるともいえる。
一方のC40とモデル3はBEVらしさを満喫できるモデルだ。この価値観でいえば、モデル3の魅力が高いと安易に思ってしまいそうだが、テスラで心配なのが「既存の自動車メーカーと同等のサービスや信頼性を期待してもいいのか?」という点にある。
これはあくまでも個人的な見解だが、テスラは自動運転について誤解を招きかねない表現を使い続けてきたことや、ディーラーネットワークを持たない点も、いざというときのことを考えると心配だ。もちろん、これらは単なる杞憂かもしれないが、既存の自動車メーカーが長い歴史を通じて顧客の信頼を得てきたのは事実。その意味でいえば、テスラもいまは「顧客との信頼関係を構築中」と捉えるべきなのかもしれない。
その点、ボルボには確固たる安心感がある。「自分の命を託してもいい」と思わせる力を備えている。そんなボルボだからこそ、C40ではBEVらしさを採り入れつつも、そこに慎重な姿勢を折り込んだのかもしれない。したがって、BEVらしい新規性と所有欲を満たしてくれる性能、実際に所有した場合の安心感など総合力で考えると、C40に軍配が上がると言っていいだろう。(文:大谷達也/写真:村西一海)
ボルボ C40リチャージ ツイン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4440×1875×1595mm
●ホイールベース:2700mm
●車両重量:2160kg
●モーター:交流同期電動機(前後)
●モーター最高出力:300kW(408ps)/4350-13900rpm
●モーター最大トルク:660Nm/0-4350rpm
●バッテリー総電力量:78.0kWh
●WLTCモード航続距離:485km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:前235/45R20、後255/40R20
●車両価格(税込):719万円
メルセデスEQ EQA250 主要諸元
●全長×全幅×全高:4465×1850×1625mm
●ホイールベース:2730mm
●車両重量:2030kg
●モーター:交流誘導電動機(前)
●モーター最高出力:140kW(190ps)/3600-10300rpm
●モーター最大トルク:370Nm/1020rpm
●バッテリー総電力量:66.5kWh
●WLTCモード航続距離:422km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:235/45R20
●車両価格(税込):640万円
レクサス UX300e バージョンC 主要諸元
●全長×全幅×全高:4495×1840×1540mm
●ホイールベース:2640mm
●車両重量:1800kg
●モーター:交流同期電動機(前)
●モーター最高出力:150kW(203ps)
●モーター最大トルク:300Nm
●バッテリー総電力量:54.4kWh
●WLTCモード航続距離:367km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:215/60R17
●車両価格(税込):580万円
テスラ モデル3 ロングレンジ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4694×1849×1443mm
●ホイールベース:2875mm
●車両重量:1850kg
●モーター:交流誘導電動機(前後)
●モーター最高出力:324kW(440ps)
●モーター最大トルク:493Nm
●バッテリー総電力量:未公表
●WLTCモード航続距離:689km
●駆動方式:FWD
●タイヤサイズ:235/40R19
●車両価格(税込):639万円
[ アルバム : ボルボ C40 リチャージ ツイン×レクサスUX300e バージョンC ×メルセデスEQ EQA250×テスラ モデル3 ロングレンジ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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