現代によみがえった伝説のシルエットフォーミュラ
2024年7月末、ドイツ・バイエルンアルプスの山麓、テーゲルン湖畔の壮大なリゾートホテル「グート・カルテンブルン」を舞台として、じつに200台の新旧車両を集めた「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」が初めて開催されることになりました。そこでRMサザビーズ欧州本社はオフィシャル企画として「The Tegernsee」オークションを開催。31点の出品ロットの中には、2019年から77台のみが製作された復活版ポルシェ「935」の姿も見られました。
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935ターボのレガシーを現代に昇華したサーキット走行専用車とは?
1963年に自然吸気2L/130psという小さな始祖「901」として発表されたポルシェ「911」が、そののち60年以上にわたってコンペティションで輝かしいキャリアを積むことになるとは、おそらくは誰も予想できなかったと思われる。
この歴史的名作は、わずか6年の間に過酷な「モンテカルロ・ラリー」でハットトリックを達成し、ル・マン24時間レースではGTクラスで5連勝を飾った。しかし1970年代に入り、911はコンペティションに特化したニューモデル、「カレラRSR」の登場によって、さらなる高みに上ることになる。
しかし、カレラRSRがデイトナ24時間レースとセブリング12時間レースの両方で3度の総合優勝を飾ったことは間違いなく印象的なできごとだったが、それは事実上の後継モデルである「935」の功績の序章に過ぎなかったのかもしれない。
1976年シーズンから実戦投入された、FIA「グループ5」に準拠するポルシェの新型ターボチャージャー搭載モデルは、当時のライバルたちを驚愕させるに相応しい怪物だった。1979年にル・マン24時間レースで約30年ぶりにGTベースのマシンが優勝したこと、そしてリアエンドにエンジンを搭載した初の優勝車となったことは、とくに重要なトピックとして記憶されている。
「911 GT2 RSクラブスポーツ」をベースに2018年に蘇った
そして、一連の935ターボがポルシェのコンペティション・レガシーに、そして自動車レース全体のレガシー全般に貢献していることを強調するかのように、このマシンを現代に再現した限定バージョンが2018年に発表された。
当代最新の「911 GT2 RSクラブスポーツ」の主要メカニカルコンポーネントをベースに開発された新型935は、またの名を「935/19」と呼ばれる。往年の「935/77」および「935/78モビーディック」からインスパイアされたというカーボンファイバー製ボディワークや、911RSR譲りのサイドミラー、908スタイルの「マシンガン」エキゾーストなど、精緻なスタイリングディテールを特徴とする。
公式レース参戦や公道での走行は想定に入れず、純粋にサーキットでのスポーツ走行を目的としたこのニューマシンは、電子制御式スタビリティコントロールにトラクションコントロール、ABSなどのドライバー補助装置や、パドルシフト操作の7速PDKギアボックスなど、公道向けスーパーカーに匹敵する。
700psの3.8Lフラット6ツインターボエンジンがもたらすパフォーマンスは、当然のことながら驚くべきもの。発進からわずか2.7秒で時速100km/hに到達し、最高速度は約340km/hをマークすると推定されているのだ。
クラブレースで闘ったヒストリーもある個体は、1億8000万円オーバー!
このほどRMサザビーズ「The Tegernsee」オークションに出品されたのは、わずか77台しか製造されなかった21世紀のポルシェ935、935/19のうちの1台である。
当初は「アゲートグレー」メタリックで仕上げられ、電子制御ロッキングディファレンシャル、セラミックコンポジット製ブレーキ、アップグレードされた冷却システム、スポーツクロノパッケージ、デュアルゾーンのオートマチックエアコンなどの豪華なオプションも完備。独バイエルン州の正規代理店「ポルシェ・ツェントルム・ミュンヘン・スッド」を介して最初の、そして今のところ唯一となるオーナーに供給された。
この個体、シャシーナンバー「199110」のヒストリーでなにより注目すべきは、2019年7月にベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで開催された「ポルシェ・モータースポーツGT2スーパースポーツカー・ウィークエンド」にエントリーされた3台の935/19のうちの1台であること。つまり、競技に使用されたことのある数少ない935/19のうちの1台ということである。
レーシングガレージ「ヘルベルト・モータースポーツ」によってセットアップされ、この時スポンサーとなった「カレラ・トイズ」と「レヴェル」のカラーリバリーに仕立て直されたシャシーナンバー199110はオーナー自らの操縦により、1ヒート30分の2ヒート制レースで総合8位、935クラス2位を獲得した。
この日の対戦相手には、ル・マン24時間レースのウィナーであるエジディオ・ペルフェッティ選手や、オリンピックで何度もメダルを獲得し、「ディスカバリーチャンネル」のモータースポーツ番組にも出演したクリス・ホイ卿などがいた。くわえて、レースナンバー 「96/69」を冠したこのポルシェ935を記念して、カレラ・トイズ社はのちにスケールモデルを限定生産することになった。
走行距離はわずか1709キロ
オークションカタログ作成時の走行距離は1709kmと、まだほとんど走行していないこの935/19には、オリジナルの販売明細書と多数のワークショップ請求書などをまとめたファイルが添付されている。
今回のオークション出品に際して、RMサザビーズは「このクルマは、トップクラスのレースで育ったポルシェを所有するという希少な世界への、エキサイティングで非常に魅力的なエントリー」という武闘派ポルシェ愛好家の心をくすぐりそうな謳い文句とともに、110万ユーロ~150万ユーロというエスティメート(推定落札価格)を設定。また、「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」における展示を実質的なプレビュー(入札前の検分)として、入札は2024年7月27日(現地時間)に締め切られることになっていた。
そして実際にオークションの火ぶたが切られると、この935/19には順当にビッド(入札)が集まったようで、終わってみればエスティメートの想定に収まる113万ユーロ。すなわち日本円に換算すれば、約1億8100万円で競売人のハンマーが鳴らされることになったのである。
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