10年ほど前の絶滅寸前状態よりは好転しているものの、ここ1年ほどで一時的にせよ、あのスバル車からMT車が消滅するなど、現在もMT車が風前の灯火となっているのは否めない。今後はクルマの電動化がさらに進むこともあり、MT車は現在以上に存続が難しくなるのが確実だ。
日本車のMT比率は1985年には51.2%だったのに1990年には27.5%、2000年には8.8%と減り続け、直近の2017年のデータでは2.6%まで下がっている。
革命的燃費を叩き出す新型ヤリス「EV超え」の環境性能はなぜ実現できたのか
風前の灯ながら、明るいニュースもある。カローラスポーツにiMTが設定され、C-HRにもiMTを追加、さらにノーマルの1.5LヤリスにもMTを設定するなど、積極的にMT車を設定してきたトヨタ。
もちろん、マツダは相変わらずMT車にこだわりを持っていて好感が持てる。そのいっぽうで、スバルはインプレッサやフォレスターのMTを廃止したのが気になる。そのほか、スズキやホンダが商用車にMTも設定している。
本企画では、そんな今だからこそ味わっておきたいMT車の魅力を、現在新車で買えるMT車のラインナップを紹介していきたい。
著者であるモータージャーナリストの永田恵一氏は、MT車が大好きで、10台以上のMT車に乗り継ぎ、現在の愛車は、MTしかないGRヤリスの1.6Lターボ+4WDである。
そんな熱狂的なMT車好きの永田氏が身をもってMTの素晴らしさ、お薦めのMT車を徹底解説していく。
文/永田恵一
写真/ベストカー編集部 ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 ホンダ マツダ スバル 三菱
【画像ギャラリー】スポーツカーじゃないのにMTを設定しているモデル
MT車に見えた光明とは
2021年末のデビューが予定されている新型フェアレディZ
新型フェアレディZプロトタイプの発表会では「6速MTを設定します」と予告した
ターボ+6速MTという新型N-ONE RS。価格はCVTと同じ199万9800円。N-ONE全体の発売1ヵ月後の受注台数は約8000台と、月販目標台数2000台の約4倍だった
新型N-ONE RSに設定された6速MT。RSグレードは発売1ヵ月後の受注台数のうち、全体の29%
MTは消滅していく運命にあるのかと悲観的になっていたが、最近では日産が「新型フェアレディZにMTを設定します」という予告をしたり、新型N-ONEにターボ+6速MT車というRSグレードが登場したり、新型BRZにも6速MTが引き続き設定されるなど、光明の兆しも見えるMT車。
しかし、MT車は特に渋滞時にはウンザリしてしまうクラッチ操作、2ペダル車なら基本的にメンテナンスフリーとなるクラッチ交換が必要になる。
また、加速性能やサーキットのラップタイムといった速さでも2ペダル車に勝てないケースが多々あるなど(一例としてBMW M2コンペティションの0~100km/h加速は6速MT/4.4秒、7速DCT/4.2秒)、2ペダル車に対し、決定的な優位性はほとんどなくなっているのは否めない。
こういった状況はあるが、ここからはMT車ならではのメリット、MT車の必要性を挙げていこう。
MTのメリットとは?
シフトチェンジを自分で行う楽しさもさながら、ヒール&トゥーが成功した瞬間の気持ち良さは何にも代えがたい
1/シフト操作を自分で行うという歓び
これは「失敗もある」というリスクも伴うが、シフトアップに加え、シフトダウン時のブリッピング(クラッチを切った際にアクセルを空吹かしして回転を合せる操作)、ヒール&トゥー(ブレーキ操作をしながらのブリッピング)、そこにクラッチを2回切って、よりMTのギアボックスに負担を掛けずシフト操作するダブルクラッチを組み合わせた一連の操作。
この操作が成功した時の気持ちよさは何にも代えがたい。また、失敗した場合にも操作が結果に反映されるというのもスキル向上に役立つ。
MT車は両手足を使ってペダルとシフトレバー、ステアリングを操作するなど運転操作が複雑なぶん、ドライバーの腕の良し悪しがクルマの動き方にダイレクトに現われる。
運転が上手くなりたいドライバーにとっては、自分の上達ぶりがクルマの動きによって判断できるのは、やりがいを感じるものだ。
自分で操る感覚こそがMTの真骨頂。ATやCVTではどこかクルマに乗せられている感がするのだ。
カローラスポーツの6速MT車の価格は、G"X"が216万9000円、Gが234万円、G”Z”が252万円1000円。それぞれCVTに対し、4万5000円、4万5000円、3万3000円安い
カローラスポーツのiMT。カローラスポーツに搭載されているエンジンは116ps/18.9kgmを発生する1.2L、直4ターボ
最近では、MTの煩わしさを解消するアシスト機能が進化しているので紹介しておきたい。まずは、シフトダウン時に回転を合わせてくれるシンクロレブコントロール付き6速MTを搭載のフェアレディZに続いて登場したトヨタのiMT(インテリジェント・マニュアル・トランスミッション)。
カローラスポーツやC-HR、GRヤリスに設定されているこのiMTが賢いのは、ブリッピング機能を備えていること。
またMTの乗り始めでドライバーを悩ませる発進時のエンスト。これを防ぐ機能も搭載されている。発進時のクラッチ操作を検出すると、エンジン出力が最適となるよう制御するためエンストしにくいのだ。
さらに、ワインディングなど素早く変速する必要がある状況下、ノーマル/エコ/スポーツとある走行モードのなかからスポーツを選択すれば、変速後にエンジン回転数を合わせるよう制御されるため、スムーズにシフトチェンジを行うこともできる。
またマツダのアイドリングストップ付きのMT車には、アイドリングストップ状態からクラッチを踏むとエンジンが再始動するのを利用して、クラッチミートでエンスト後3秒以内にクラッチを踏み直すとエンジンが再始動するというもの。クラッチを踏みながら再度スタートボタンを押す手間がなくなり、なかなか便利だ。
さらにマツダ3、CX-30などに設定されているMT変速アシスト制御も凄い。シフトアップ時にアクセルを戻してエンジン回転が適切なところまで落ちる前にクラッチをつなぐと起きるショックを防止。こうしたMT車に対するアシスト機能も進化していておもしろい。
2/上手く扱えれば特にスポーツ走行時のワザが広がる
ギアの選択ではリスクも伴うにせよオーバーレブぎりぎりの2ペダル車以上に攻めたシフトダウン、クラッチにはよくないが、クラッチをポンと蹴ることによりエンジン回転を上げる、リア駆動車ならそのショックをテールスライドのきっかけにするなど、スキルがあればワザを使いやすいのはMT車だ。
3/燃費を稼げることもある
これが特に当てはまるのはディーゼル車なのだが、ドライバーによる早めのタイミングでのシフトアップにより2ペダル車よりいい燃費を出せることもある。
4/車両価格、処分時に有利なこともある
近年はMT車と2ペダル車の価格が同じというクルマも増えているが、MTのシンプルな構造を反映してMT車のほうが安いクルマも少なくない。
ただ、この点はクラッチ交換の費用で帳消しになってしまう場合も多いが、MT車は希少なだけに処分する際の査定が2ペダル車より高いこともよくあるので、収支決算すると得というケースもある。
MTの必要性とは
MT車はクラッチを操作しないと発進しないため、踏み間違い事故を予防する効果があるもあるのではないだろうか
1/違和感ある2ペダル車ならMT車のほうがいい
一例としてはMTのクラッチとシフト操作を自動化したAMTはシフトのスピードやタイミングなどに違和感があることもあり、そういったクルマでMTを選べるならMTのほうがストレスは少ないだろう。
2/例は少ないけど、動力性能や燃費が2ペダルを大きく上回る
その数少ない例が軽商用車だ。2ペダルが4速ATや5速AMTというなら大きな問題はないが、軽トラックのスズキキャリイやホンダアクティの2ペダル車は3速ATのため、5速となるMTの動力性能や燃費のアドバンテージは大きい。
3/ペダル踏み違い事故防止に絶大な貢献
クラッチ操作をしないと発進できないMT車でペダルの踏み違いが起きることはほぼないので、MT車は原始的ながらこの種の暴走事故防止の大きな武器である。
さらにMT車で高性能な自動ブレーキが付いたクルマなら、予防安全性能は非常に高いといえる。
現行車のなかでお薦めのMT車とは?
300馬力級のモデルはミスのリスクがないことなどから2ペダル車のメリットが大きいのもあり、200馬力以下級かつ比較的現実的な価格帯からお薦めのMT車を挙げていこう。
■お薦めのMT車/ヤリス1.5Lガソリン
ヤリスに設定されている6速MTは1.5Lガソリン車(120ps/14.8kgm)。価格は1.5Xが154万3000円、Gが170万1000円、Zが187万1000円。同じグレードのCVTに比べ5万5000円安い
1.5Lガソリンというローパワーなエンジンだけに、効率のいい回転を使えるCVTとのマッチングもいいが、ここまで書いたMT車のメリットも大きい。
さらにヤリスはモータースポーツのベース車となることも多いだけに、豊富なアフターパーツで自分好みのクルマが作りやすい点も評価できる。
■お薦めのMT車/マツダ3ファストバック1.5Lガソリン
マツダ3ファストバックの1.5LのMTに搭載されるエンジンは111ps/14.9kgmを発生する1.5L、直4。価格は15Sが222万1389円、15Sツーリングが231万5989円。CVTと価格は同一
ミドルクラスカーに1.5LガソリンなのでMT、ATともにアンダーパワー気味なのは否めないが、それだけに常識的な乗り方でもパワーを使い切れるという楽しさがあり、その楽しさがより際立つのはMTだ。
■お薦めのMT車/スイフトスポーツ 1.4Lターボ
搭載エンジンは140ps/23.4kgmを発生する1371cc、直4ターボ。価格は2WDが201万7400円。そのほか全方位モニター用カメラパッケージ装着車は207万200円。スズキセフティサポート非装着車(受注生産)が187万4400円。全車種、6速MTの価格は6速ATより7万1500円安い
小気味よい走りが心地いいスイフトスポーツ。1.4Lターボ(140ps/23.4kgm)の分厚いトルクと970kg(6MT)の軽量ボディにより痛快な走りを実現している。
しっかりと動くアシ、しなやかな身のこなしにより快適な乗り心地に加えて、走行中の静粛性も高い。これで201万7400円とはコスパ抜群ではないだろうか。
■お薦めのMT車/マツダの2.2Lディーゼルターボ搭載車
200ps/45.9kgmの2.2L、直4ディーゼルターボを搭載するCX-5の2.2Lディーゼルターボモデル。6速MT車の価格はXDプロアクティブの2WDが322万8500円、4WDが345万9500円。XD Lパッケージの2WDが352万円、4WDが375万1000円。CVT車と価格は同一
マツダの2.2Lディーゼルターボ搭載車、マツダ6とCX-5はMTだと図太い低回転域と中回転域のトルク感、高回転域の伸びという表情豊かなエンジンをより濃厚に楽しめる。さらに前述したMTだとATより燃費が稼げる可能性があるというメリットも大きい。
■お薦めのMT車/ロードスター、S660、アルトワークス
マツダロードスターに搭載されるエンジンは132ps/15.5kgmを発生する1.5L、直4。価格はSが260万1500円、Sスペシャルパッケージが281万8200円、RSが333万4100円。ちなみにCVTはSスペシャルパッケージに設定されているが価格は293万3700円
S660は6速MTを設定。エンジンは64ps/10.6kgmを発生する658ccの直3DOHC。価格はβ(ベータ)が203万1700円、α(アルファ)が232万1000円。価格はCVT搭載車と同一
アルトワークスは5速MTを採用。658ccの直3インタークーラー付きターボは64ps/10.2kgmを発生。価格は2WDが153万7800円、4WDが164万7800円。2ペダルMTの5AGSは4WDのみで168万6300円
この3台はMTで乗るべきスペシャルティカー。もはや多くを語らなくてもいいだろう。操る楽しさは格別だ。ぜひ新車があるうちに買ってほしい。
まとめ:今後MTは生き残っていくのか?
次期スバルBRZは引き続き6速MTが設定される予定
電動化や純エンジン車に対する向かい風により、MT車を新車で買える残り時間は純エンジン車以上に少ないだろう。
それでも幸いにもこの先数年であれば次期フェアレディZや次期BRZ(次期86も含まれるだろう)にはMTも設定されることもあり、MT車に興味のある方、欲しいMT車がある方は新車、中古車ともに早めに自分のものにしておくべきだ。
そうしないと純ガソリン車の新車販売が禁止される10年後~15年後には新車のMT車は本当に絶滅し、中古車も高騰し「買えない」ということになっているかもしれない。
まだまだMT車捨てたもんじゃない! クルマ好きがいる限り、少量生産であっても作り続けてほしいと思う。
現在新車で買えるMT車
●トヨタ
・ヤリス1.5Lガソリン(全グレード)
・カローラスポーツ1.2Lターボ(全グレード)
・カローラアクシオ1.5Lガソリン
・カローラフィールダー1.5Lガソリン
・カローラW×B(1.2Lターボ)
・カローツーリングW×B(1.2Lターボ)
・C-HR 1.2Lターボ(全グレード)
・86(全グレード)
・GRヤリス1.6Lターボ4WD系
・タウンエーストラック&バン
・ハイエースバン2Lガソリン
●日産
・マーチニスモS
・フェアレディZ(全グレード)
・NV200バネット(商用車系)
・NV350キャラバン(バン標準ボディのプレミアムGXを除く2Lガソリンと2.5Lディーゼルターボ)
●ホンダ
・N-ONE RS
・シビックハッチバック
・S660
・シビックタイプR
・N-VAN(NA車)
・アクティ
●マツダ
・マツダ2(ほとんどのグレード)
・マツダ3ファストバック(1.5Lガソリン、2Lガソリン、スカイアクティブX)
・マツダ3セダン(スカイアクティブX)
・マツダ6セダン&ワゴン(2.2Lディーゼルターボ)
・CX-3(1.8Lディーゼルターボ)
・CX-30(2Lガソリン、スカイアクティブX)
・CX-5(2.2Lディーゼルターボ)
・ロードスター(全グレード)
・ロードスターRF(全グレード)
●スズキ
・アルト(Fグレード)
・ワゴンR(FA)
・ジムニー(全グレード)
・スイフト(1.2Lガソリン)
・ジムニーシエラ(全グレード)
・アルトワークス
・スイフトスポーツ
・アルトバン
・キャリイ(全グレード)
・エブリイ(全グレード)
●ダイハツ
・コペン(全グレード)
・ハイゼットトラック(全グレード)
・ハイゼットカーゴ(スペシャルクリーンを除く全グレード)
※レクサス、スバル、三菱自動車は現在自社製のMT車はなし
●BMW
・M2(CS、コンペティション)
・M4(クーペ、コンペティション)
●ポルシェ
・718ケイマン(S、GTS、GT4)
・718ボクスター(S、GTS)
・718スパイダー
●ルノー
・トゥインゴ(S)
・カングー
・メガーヌRSトロフィー
●フィアット
・パンダクロス4×4
・500&500Cマヌアーレピュチェロ
※どちらも限定車
●アバルト
・595
・595コンペティオーネ
・124スパイダー
●ロータス
・エリーゼ(全グレード)
・エクシージ(全グレード)
・エヴォーラ(全グレード)
●ケーターハム
・セブン(全車)
【画像ギャラリー】スポーツカーじゃないのにMTを設定しているモデル
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言葉尻を捉えているようで恐縮だが、
ベストカーの言葉はいつも無責任で軽すぎる!