12月14日、私たちの編集部では「歴代いすゞセダン&クーペのすべて」を発売した。私にとってはこの「歴代いすゞ」が年内最終の刊行作業のはずであり、それ以降は椅子に寄りかかってなーんにもせずに大晦日を迎える予定でいたのである。その本の締め切り間際でてんてこ舞いの12月6日、このモーターファンjpのサイトチームから、記事掲載要請、いや、命令の一斉メールが飛んできた。TEXT& PHOTO●山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)
■プロローグ
連載第9回『よろしく! スズキ・ジムニーシエラ』 「新型/歴代ジムニーのすべて」、本日2018年11月14日発売です。 ~新刊告知と新旧比較試乗~
まったく、メール時代の暴力とでもいいたくなるそのミッション内容とは、
「人気機種9台のクルマについての記事を、1台あたり2~3名で書きなさい。」
というものである。
「歴代いすゞ」の締め切り前ということもあり、こちらには無関係、他人事だと思ってナメて流し読みしたのがまずかった。
よくよく見たら、「スバルフォレスター」の3名の中にしっかりと私の名が挙がっているではないか。
加藤茶みたいに2度見した。
私たち「モーターファン・アーカイブ」は、古いクルマを採り上げるという性格上、やれトヨタ博物館や日産座間記念庫など、必然的に屋内での撮影が多くなる。
このあたりが他の新型車ばかりを扱う編集部連とは違うところで、いつも撮影を依頼しているカメラマンの中野さんなど、毎度光の取りまわしに苦労している。
今回の「歴代いすゞ」用撮影は、神奈川・藤沢にある「いすゞプラザ」だった。
と、さりげない新刊告知(どこがだ)から話を戻してフォレスター。
実車を見もせず触れもせず、舐めもしないで記事を書くなんていうのは本意ではない。
書くなら書くで、それなりに実車に触れてその素性を見た上で取り掛からなければいけない。
めずらしく新車に触れるチャンスでもあるからしてとっとと自分のページ作業を片付け、SUBARU(富士重工ではなく、半角の「SUBARU」でもなく、全角の「SUBARU」と書くことをSUBARU広報は要請しているので覚えておこう。)より実車を借りて乗ってみようじゃないのと相成った。
ましてや今回、素人なんだからよせばいいのに、自前の小型カメラの 動画機能で動く画までも撮ったものだから、ちょいと時間がかかってしまった。
この「モーターファンjp」サイト内で、私は別に旧型ジムニーシエラをテーマにした記事掲載を続けているが、本ページでは旧シエラページの派生版のつもりでお届けする。
「シエラ」記事の第1回でも書いているが、「三栄書房での勤務態度と同じくらい言葉づかいも悪いときている私のことだから、お読みの方にはときに不快の念を抱かしめるかもしれないが、それでもよろしければ、みなさま、どうかよろしくおつきあいください。
そしてここから先に書くことは、あくまでも私の主観によるものですから、「なんだい、つまらないや」という方は、どうぞ他の方の記事をごらんくださいませ。
■新型フォレスター車種構成
急な試乗車をSUBARUに申込み、日程の都合が良さそうなフォレスターの中から選んだのはこれだ。
2018年6月20日発表、7月19日に発売された新型フォレスターは、1997年2月の初代から5代目を数えるから、月日が経つのは早い。
新型フォレスターには全部で4つのバリエーションがある。
カタログ装備表の順にいうなら「Touring」「Premium」「X-BREAK」・・・ここまでが2.5L直噴DOHC。
残るひとつは、2.0L直噴DOHCにモーターを備え、システムに「e-BOXER」と名づけられた、ハイブリッド版の「Advance」。
装備リストから判断するに、新型フォレスターの機種構成は、いっけん4機種に見えるものの、実質的には2機種ということができそうだ。
「Touring」はフォレスターのエントリーモデル。
エントリーといってもそこいらの1000~1500cc級のクルマと違い、「Premium」が買えないひとのためのガマン車ではないし、当然、営業車ユース臭は皆無。
次に述べる「Premium」が隣に並んできても劣等感を抱くことのない内外装になっている。
「Premium」に対してアルミペダルやガラス周囲のメッキが省かれ、本革シートはオプションでも選べないが、運転席&助手席のパワー&メモリー機能などは選択できる。
ドアミラーの後退時下向き機能やシフトをR以外に戻したときの復帰&自動格納、キーレスによるプッシュ式エンジンスタート、売りのアイサイトの中の一部機能が工場オプション扱い・・・こう考えると「Touring」は、「Premium」から、使用頻度が低かったり、「何もそこまでは」と思うような装備を引き算して買いやすくしたモデルと解釈できる。
一般的にはこの「Touring」で充分満足できそうだ。
本ページの主役「Premium」は、「Touring」に用意されているおおかたの工場オプション品を標準装備にしたモデル。
「X-BREAK」は「Touring」や「Premium」の延長上にあるのではなく、内外装の見映えや装備品をアウトドアユース仕立てにした、「Touring」「Premium」のラインからややオフセットしたクルマだ。
「Touring」と同じデザインのアルミホイールをガンメタ塗装して専用化、クルマの内外にレッドオレンジのパーツやステッチを与えた他、サーフィンやスキーなど、夏冬のアクティブなスポーツユースに耐えられるよう、荷室を撥水仕立てにしてある。
クルマ全体もそうだが、特に「X-BREAK」の荷室の使用性は、日産エクストレイルを多分に意識しているようだ。
これ以外の装備は「Touring」に準じており、だからだろう、車両価格も「Touring」と「Premium」の間に位置している。
「Advance」は「Premium」のハイブリッド版の位置づけで、シリーズの中でいちばん値段が高い。
SUBARUによると、新型フォレスターの受注の中で過半数を占めているのがこの「Advance」だという。
装備の違いは、パワートレーンのハイブリッド化で必須となる車両接近通報が加えたこと、ハイブリッドゆえの制御「ECOクルーズコントロール」をアイサイト内に一部プラスしたくらいで、他の装備は、工場オプションの選択肢も含めて「Premium」と同等だ。
よってパワートレーンのハイブリッド化によるシステム価格差がそのまま車両本体価格の差に表れると考えていい。
私が新フォレスターを買うなら、本革シートとキーレスアクセス&プッシュスタートのつかない「Touring」にサンルーフとアイサイトの視界拡張、運転支援をつけたいが、そうすると不要のキーレスとパワーリヤゲートがついてくるから困る。
もうちょいオプションの組み合わせを考えてほしい。
個々装備品の単独オプションを可能にすると順列組合せや生産指示コードの数が膨大になり、管理コストや工数が増えるいうデメリットが出てくるが、不要なものに安くないお金を払うのも嫌だ。
SUBARU車に限らないが、メーカーないし販売店からすれば、そのあたりの柔軟性のなさに納得できない顧客を他メーカーに流れることになりかねない。
顧客側にしてみれば、個々の要望への対応のために納車時期が延びるという欠点も出てくるわけだが、妥協のない買いものをしたければ、納期をはっきりさせることを前提に、客も「待つ」ことに対してもっと寛容になる必要があるだろう。
■代わり映えに乏しい外形デザイン
6月の発表時点で新型フォレスターを見たときに思ったのは、外から見たときの形が、先代フォレスターと同じじゃないかということだった。
リヤはそうでもないのだが、特にフロントとサイド。
旧型4代目に対する5代目だから、まぎれもなくフルモデルチェンジのはずなのだが、どうも4代目のマイナーチェンジではないかと思うほど代わり映えがしない。
フロントランプや前後サイドドアを損傷させたとき、旧型のものを持ってきても何とかとか取り付けられそうなほどだ。
これならマイナーチェンジなのにボディ前後の大幅変更で仕切り直しを図ったこのたびのマイナーチェンジ版プリウスのほうが変更の幅はずっと大きい。
20年前のクルマなら、マイナーチェンジといえど、もうちょい新鮮さを出していたもの。
私は何も、旧型を否定するかのようなモデルチェンジがいいといっているのではない。
従来型のエッセンスを残しながら新しさもにじみ出るような姿かたちにするというのがうまいモデルチェンジだと思うのだが、そのあたり、新型フォレスターはどうもうまくいっていない。
他社でいえば、話は古いが、初代ワゴンRに対する新軽自動車規格(=現行)に移行したときの2代目ワゴンR。
当のSUBARUだって前例がないわけではなく、細部が変わってもベンツがベンツであり続け、BMWがきちんとBMWに見えていたように、レガシィだって初代から4代目に限れば、モデルチェンジしても一貫してレガシィに、インプレッサの初代~2代目だってインプレッサに見えるデザインにしていたじゃないか。
いやいや、当のフォレスターの初代~2代目だって・・・
という観点からすれば、今回のフォレスターは「新型」と呼ぶにはちょいと躊躇するし、そうでなくとも、もともとインプレッサやXVと同じ系列にあるのだから、その中にあってフォレスターならではの新鮮さとか新しさが、スタイリングのどこかにあってほしかった。
損得だけでいえば、この新型フォレスターは損をしていると思う。
ボディサイズは全長×全幅×全高がそれぞれ4625×1815×1715mmで、ルーフレール付きの全高は1730mmとなる。
旧型の後期モデルとボディ寸法を比べると、長さで15~30mm、幅で20~35mmサイズが大きくなり、ルーフレールなし車ならは新旧1715mmのまま。
ルーフレール付車なら新型は5mm低くなり、旧型1735mmから1730mmになった。
フォレスターはもともと1997年の初代から車幅1735mmの3ナンバー車で、インプレッサをベースにしたクルマであることは初代もいまも変わらない。
だが今回はとうとう車幅が1800mmを超え、渋滞や左脇の路上駐車が多い都内の幹線路、住宅街ではますます気を遣わなければならなくなった。
いっけん数十mmの拡大拡幅は「たかだかこれくらい」と思うだろうが、この数十mmのサイズアップを伴うモデルチェンジを数世代続けると、どこかでいよいよ使いにくさに深刻さを増してくる。
深刻なのは何も道路上だけではない。
出先でのクルマの置き場所確保だって気がかりだ。
近年だいぶ解消されてはいるが、都内の有料駐車場などは隣のクルマに気を遣うほどミニマムな駐車スペースの場所が多いし、ゴンドラ式などは旧時代サイズのものを使っているところがまだまだあり、断られるケースが少なくない。
全高、全幅、タイヤトレッド幅・・・お断りの理由は場所によってそれぞれだが、断られる前から判断できるよう、車両の全長、全幅、全高、そしてホイールベースとトレッド幅を、車両3面図とともにサンバイザー裏あたりに記しておいてくれるとありがたい。
バニティーミラーふたの裏でもいいよ。
もっともサイズの話なら、フォレスターが真っ向勝負をかける日産エクストレイルも負けてはおらず、4690×1820×1730~1740mmと、敵もサイズは似たようなものだ。
そのエクストレイル。
あちらのイメージカラーは赤である。
今回拝借したフォレスターは「クリムゾンレッド・パール」と呼ばれる赤だったのだが、撮影時にリヤボディあたりに近づいたとき、自分が借りたクルマなのにだんだんエクストレイルと錯覚するようになってきて困った。
写真で比べれば違う姿をしているのだが実物を見れば全体の形も雰囲気も似ており、近づけば、サイドのクオーターウインドウが小さく、下端がせり上がることで増すリヤボディの量感がそう錯覚させるらしい。
初代フォレスターも初代エクストレイルも、それぞれにバッティングしないほどの個性の持ち主だったと思うのだが、モデルチェンジを重ねるにおよび、少なくともスタイリングないし雰囲気などは両車だんだん歩み寄り、独自性が薄れてきているような気がする。
■うまいぞ! 拍手! ピラーを細く見えるテクニック
中に乗り込んでまず最初、フロントピラーが細いことに気づく。
細いというのは正確ではなく、細く見せる小技が効いているというべきで、ピラー向こう半分をフロントガラス側に曲げ、見えるのは残るこちら半分だけになるようにしているから、ドライバーの目の位置からは実質細く見えるようにしているのだ。
といっても、これは運転席から見る右ピラーの話で、左のピラーに目をやれば全面見えてしまうから、他のクルマと比較すれば別に細くはないのだが、これとて助手席側から見ればやはり細く見えるはずだ。
柱が太いクルマがはびこる昨今、視界の悪さに辟易している私のようなひとは誰でも気づく美点だろう。
車体のピラー部設計に於いて重視されるのは、断面積もさることながら断面係数なのだが、これらを維持したまませめて断面形状だけでもと形を変え、柱を細く見えるようにする工夫は大歓迎だ。
次期フォレスターでは本当に細くしてもらいたい。
対衝突要件であらゆるピラーを太くしたくなるのはわかるが、ことに右左折時やカーブでの斜め前方視界、バック時の斜め後方視界の悪さときたら、昨今どこのクルマも度を越して悪くなっている。
腹が立つのはトヨタC-HRで、後ろが見にくい状態でバックしてきたC-HRだけには自分のクルマをぶつけられたくない。
リヤカメラがあればいいっていうもんじゃないでしょう。
視界ついでにドアミラー位置についても言及したい。
ドアミラー本体がウエストライン前端位置にあるのではピラーとの間が塞がれて斜め前方が見えないということで、設置場所を少し手前寄りにするクルマが増えてきたが、トレードオフでミラーを見るときの目の移動量が大きくなるというデメリットがある。
特に左のドアミラーを見るときなんぞ、ただでさえ顔を大きく左に向けなければならなかったのに、手前に寄ったおかげで、より大きく顔を振らなければならなくなった。
首振り中の扇風機じゃないんだから。
斜め前方を遮りたくなければ、ミラーによる後方確認がフロントガラス内で完結するフェンダーミラーを復活させればいいのにと思うが、どこのメーカーもなおのことドアミラーだけに固執するのはなぜだろう。
むろんフェンダーミラーは設置位置がドライバー席から遠くなるぶん、像が小さくなるという欠点があるが、
(1)車両のおおよその幅と前端位置が把握しやすい
(2)ワイパーの払拭範囲内にあるから、ドアミラーと違って雨天時の水滴の層をひとつ減らして見ることができる。
という美点もあるのだから、以前のように、好みに応じて選ぶことができるようにしてもらいたいものだ。
クルマの売れない時代なら、売り方にも工夫を加え、客を引き寄せるべく、ユーザー任意で選択の幅を広げるくらいのことをしないといけないと思う。
■インストルメントの新旧
内装、とりわけ計器盤(インストルメントパネル)は、現行のインプレッサ、XVと共通のもの。
先代のT字型インパネ(これは現行のレヴォーグにまだ使われているものでもある)をさらに推し進めた造形になっている。
新型では、先代でコンソール上端に横並びにしていた空調吹出口の位置にまでナビ位置を高め、吹出口はナビ両脇に置いた。
ナビの視認性向上が目的なのは一目瞭然。
ナビ画面にしろ各種スイッチにしろ、より高い位置にあればいいというものではなく、要は程度問題で、私はおおかたハンドル下端からグリップ10時10分の位置の範囲内にあるのがちょうどいいと思っている。
実際フォレスターもその圏内にあり、先代も悪いとは思わなかったが、今回もちょうどいい高さに収められている。
計器盤上面センターの液晶(マルチインフォメーションディスプレイ)もスバル、いや、SUBARU車共通のもので、現在の車両状態を示すほかに、専用にチューンされたパナソニック製ナビと連携して、ナビ案内の一部をこちらにも表示してくれるのも、他のSUBARU車で起用されている機能の横展開だ。
ナビの下にはハザードスイッチを挟んで空調コントロールパネルがある。
写真で見るとどちらも低い位置にあるから使いにくいように見えるのだが、ハザードも含めてシフトレバーに置いた手を軸に、指先で確実に操作できる。
と、ここまではいいのだが、スイッチそのものは決して操作しやすい配列とはいえなかった。
ファン風量のボタン式スイッチが使いにくいのである。
温度の高低やファン風量の強弱は、運転中でも凝視することなく、かつ、見るときはチラッと目をやるだけですぐにわかるレイアウトにして、連続的に行えることが理想だ。
ところが回転ツマミ型の温度調整はいいとして、ファン調整だけはボタンのチョンチョン押しを強いられ、感覚的に操作しにくい。
それと、似たようなボタンが羅列しているばかりで、利用頻度に応じて配置やサイズの大小まで考慮されていないというのもある。
おととし試乗した現行インプレッサには、風量も回転で調整するタイプがついていて実に使いやすかったが、このタイプは安い「Touring」と「X-BREAK」にも搭載されており、使いやすさという点ではこちらのほうが上だ。
■まずは都内走りから
走行はシチュエーション別に行ってみた。
距離の内訳や走行ルートは最後に述べるつもりだが、一般道・高速道・山間道の3シーン、つまり誰もが使うシチュエーションである。
本ページでは、テーマを数回に分けて載せていくつもり。
また、こともあろうに素人技で、いま流行り? の動画ってぇやつを初めて撮ってみたので、気が向くかた、がまん強い方はごらんください。
見るに堪えないというかたはすっ飛ばすか、他の方のページをごらんください。
都内の走りでは、自宅付近の新青梅街道を起点に、環状8号線そして首都高3号線・用賀ICから都心に向けて走ってみた。
ひとつおことわりしておくが、今回はスタッドレスタイヤ(ブリヂストンBLIZZAK VRX2)を履いたクルマで、素性に関しては標準装着品(グランドタイヤ)とは異なることをご了承いただきたい。
走り出して感じるのは、その動きがスムースだということだ。
という程度の表現なら、いまどきのどのクルマにもあてはまる。
アクセルを踏んだ瞬間から低速、そして流れに乗るという間まで、タイヤの回転にしぶさがない。
普段使っているクルマだってしぶさを感じているわけではないが、フォレスターに乗ったあとだと、普段使いしているクルマはしぶさとともに走っていることを認識させられる。
アクセルペダルは遊びを省略して、初めからペダル面を押すことを前提に設計したかような感触で(実際にはストロークします。あくまでも表現として)、これも慣れればいいものだった。
試乗車は工場オプション品がフルにつけられたクルマなので1560kgという車両重量だが、その重さを感じさせない。
本当はもっと軽いのではないかと思うような、軽やかな発進加速なり巡航なりを見せる。
このあたり、エンジンのトルク・出力の出し方とCVT(無段変速機)の協調コントロールがうまくいっているのだろう。
このFB25エンジンの最大トルクは24.4kgm/4400rpmだが、アクセルを踏んだ瞬間から、おそらくは最大トルクの7割方は発生しているのではと想像させられるほどの力強さがある。
ましてや、フルタイムといいながらも前輪が滑ったときだけ後輪に駆動力が伝わる「いつでも4WDの準備OKなだけで、実はほとんどFFで走ります4WD」ではない、発進前から4輪で待機中というべき常時4WD(基本の駆動力配分、前60:後40)である。
パワートレーン内の機械抵抗は、発進時から2WDよりもずっと大きいはずなのに、重量ばかりかその抵抗感さえ抱かせないスムースな走りというのは称えてしかるべきで、大げさにいえば、流れに乗った後は、タイヤが地面から離れて宙に浮いて滑走しているかのように軽やかだった。
裏を返せば、これは重厚感やタイヤ接地感に欠けるともいえるのだが、このへんは好みの問題にもなってくるので良し悪しを決めつけることはできない。
平日の夕方、休日ならいつでも、環状8号線は断続的な渋滞があるが、ことに道の左サイドに路上駐車する一般車、商品搬入のために駐車しているトラックなどが前方に見えようものなら、そしてそれが3車線4車線の道だったとしても、全車線が混雑していようものなら、1820mmの車幅がうらめしくなってくる。
自分が左車線を走っているときなら右によけなければならないし、自分が中央レーンを走っているときだって、駐車車両をよけようとする左車線のクルマがこちらに寄ってくることを予期して、やはりこちらもさらに右に逸れなければならない。
右にも左にも幅広いクルマで走るということは、よけるための「しろ」が右にも左にも少ないことになるわけで、フォレスターに限らないが、そろそろボディの拡幅もいいかげん歯止めをかけるべきだ。
ただ、矛盾したことをいうが、拡幅に伴うワイドなタイヤトレッド幅で得られる、カーブなどでの左右方向の安定感だって捨てがたい。
いつも思うのだが、いわゆる1700mm以下の5ナンバーサイズの中でも、サスペンション型式やチューニングに技を利かせてこの安定感をというのはできない相談だろうか。
■走行音と乗り心地
試乗車がスタッドレスタイヤ付でもあることもあり、走行音についてあれこれ語るのはフェアではない。
ただし、スタッドレスならではの、「ミャ――――――」という音がやかましいかと思ったが、そのミャー音そのものは耳をすませてやっと聞こえるという程度でしかなかったから、スタッドレスタイヤも進化していたもの。
アスファルト路面の変化で聞こえ方が変わることが多々あり、環状8号線の舗装が新しいところでは静かだが、古くなりかけた荒れ気味の場所になると騒音になるのは、車体側の遮音性にもうひとひねり必要か。
標準装着のグランドタイヤでどうなのか、季節を変えて乗ってみたいところだ。
路面の突起や継ぎ目を越える際の振動や突き上げ感は少ない。
タイヤの指定圧を見ると前輪2.3kg/cm2にして後輪2.2kg/cm2。
走行抵抗を減らして低燃費を過敏なまでに意識するコンパクトカー並みのタイヤ圧で、乗り心地が固いのではないかと、見ただけで嫌になる数字である。
本来クルマの乗り心地というのは、タイヤとサスペンション両者の合わせ技で決められるべきものだが、そうはいっても、まずはサスペンションのばねやショックアブソーバーの出来ありきだ。
さきの音の話にも通じるが、タイヤを取り替えたり、あるいは空気圧をちょい上げ下げしたくらいで乗り心地が劇的に変わったり、振動が増えたりするようなクルマは、そもそもサスペンションの出来が悪いのである。
ところがフォレスターは、もちろん高級車並みの際立ってよい乗り心地ではないものの、タイヤ圧を見たときの警戒心からすると乗り味はいいのだ。
このサスペンションは、履くタイヤに、おんぶに抱っこに肩ぐるましていない。
強いてひとつよけいなことをいうなら、これほどの値段だもの、これくらいの乗り心地であたり前だよということだろうか。
前述のとおり、試乗車はスタッドレスタイヤを履いていたから、その違いを間引く必要はあるが、このタイヤ圧でこの乗り味となると、他のクルマ、特に過熱した低燃費競争に参戦中にして消耗戦の渦中にあるコンパクト勢は、
「いったい何をやっとるか、おまえらは。」
といってやりたくなってくる。
カテゴリーや価格帯、サス型式の違いを考慮するにしても、乗り味向上に対する研究の余地は、彼らにはまだまだ残っている。
エンジン音は、レオーネや3代目あたりまでのレガシィでスバル(あえてこう書く)の象徴になっていた、「ダダダダダ・・・」という水平対向ならではの排気音はとっくになくなっており、直列4気筒と同じ音になっている。
その音質たるや、かつてのスバルサウンドを知る耳には隔世の感を抱かせるほど、全体的には静かなのだが、加速時などでエンジン回転が3000~3500rpmを越えたあたりからとたんにゴロついた音質になるのは感心しなかった。
初めからゴロついていたのならここまで思わないのだが、それまでが静かなだけに、3000~3500rpmを境に変貌して現れる、対極的なまでの音質に興ざめするのだ。
この静かさは、せめて常用域プラスαの4500rpmあたりまで維持されればグッと印象は変わると思う。
■いいねえ、電動パワステのフィーリング
もうひとつ、電動パワーステアリングの感触についてほめたい。
私はもともと電動パワーステアリングが嫌いで、操舵時の人工的な(もともとクルマ自体が人工物だが)不自然な感触、右左折後のハンドル戻りも不自然なこと、そして駐車場などで余儀なく据え切りで一気にハンドルを回す際の、途中、瞬間的に重くなる現象が断続する引っかかり感が嫌いだったのである。
だから、エンジン回転を一部取り出して常時稼働の必要がある油圧ポンプ式をやめて電動式に置き換わるのは、私自身は「ヤだな」と思っていたのだが、近年どのクルマの電動パワステも油圧式と遜色ない、いや、まったく変わらない感触のものが増えた。
このフォレスターも優れていて、何がいいかというと、軽い、引っかかり感なく初めから終わりまできれいにまわせる、軽いながらも適度な反力があるという点だ。
フォレスターのそれは、フィーリングも油圧式と同等だ。
自慢じゃないが、油圧式から電動モーター式への過渡期の頃、電動式か油圧式か、知らずに乗っても輪っかを握った瞬間に判断できた私である。
電動式がかなり広まってからも油圧式に固執したダイハツエッセ、日産ムラーノなどは乗ってすぐに見抜いて安堵したもの。
それほど電動式嫌いの私でさえ、知らされずにフォレスターに乗ったら、油圧式とまちがえたかも知れないほどの出来なのである。
「あれっ」と思って、いちおうカタログの諸元表を確認したのは内緒だ。
ゲームセンターにあるカーレースゲームのハンドルのように、手応えのない、空回りみたいなスカスカパワステがある傍ら、パワステ付きなのに「これ、パワステ?」といいたくなる、設計意図不明の重いパワステもあるが、ハンドルなど、適度な反力があることを前提に、軽ければ軽いほどいいに決まっている。
フォレスターのパワステの感触は私好みの上々な出来であった。
中には「もうちょい重くてもいい」というひとが出てくるかもしれないが、大勢のひとには不満のないセッティングになっていると思う。
ステアリングのギヤ比はクイックなほうだ。
私はクルマが好きな割にはぼんやりとしたハンドリングのクルマのほうが性に合っていると思っているのだが、どうやら、あまりシャープなクルマに乗る機会がなかったからそう思ってきたようだ。
「食わず嫌い」ならぬ「乗らず知らない」である。
ハンドルの遊びだって少なめだ。
まわし始めた途端にタイヤは向きを変え、ボディを右に左に敏感に方向を変える。
普通のクルマならもうちょい遅れて進む方向を変えるところだ。
これが危なっかしいという感覚にはならず、むしろ、「おっ、こういうのもいいねえ」と思わせられた。
クルマの楽しさなんか、何もハイパワーや固い乗り味、マフラーからのけたたましい排気音に限ったものではないことをフォレスターが教えてくれる。
念のために申し添えておくと、ハンドル回転数は、左に1回転と1/4強、右も1回転と1/4強で同じ。
同じに決まっているものをなぜわざわざ書くかというと、右と左とで回転数が異なるクルマがたまにあるからだ。
と、唐突だが今回はひとまずここまで。
次回は街乗りシチュエーションでのアイサイトについてお届けしよう。
ではまた次回!
(第2回につづく)
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