2022年11月16日にワールドプレミアが行われ、ここ最近の自動車業界はその話題でもちきりといってもいい新型トヨタ プリウス。
ワールドプレミアの会場に赴いた伊藤 梓氏が、デザイン担当者に突撃取材を敢行。劇的に生まれ変わったプリウスのデザインから読み取った「愛される」プリウスのこれからとは!?
「トヨタ式」脱却で世界が絶賛!? 新型プリウスの斬新デザイン誕生に秘話があり!!
文/伊藤 梓、写真/TOYOTA
■「愛の力」で生まれ変わったプリウス
2022年11月16日にワールドプレミアが行われた5代目となる新型トヨタ プリウス(2.0L HEV プロトタイプ)
新型プリウスのワールドプレミアで、プレゼンの画面に大きく出たのは「コモディティ」と「ラブ」の文字。
これが何かというと、プリウスは、完全な道具としての移動手段にすべきか、それとも、人々に大切にされるような愛車にすべきか……それをトヨタ社内で改めて議論したのだという。
そして、最後に映し出されたのは「We Chose Love」の文字。つまり新型プリウスは、単なる移動手段ではなく、より愛されるクルマとしての道を選んだということだ。今回は、それを実現するために、特にこだわって作られたデザインについて、深掘りしていこうと思う。
正直、先代のプリウスまでは、お世辞にもかっこいいデザインとは言えなかった。ユーザーも「かっこいいから欲しい」「プリウスじゃなきゃだめ」というよりは、「燃費が良い」「売れているし間違いなさそうだから」など、効率やコスパ重視の選び方が多かったのではないだろうか。
なので、「今さら『ラブを選びました』と言われても、そういうモデルじゃないのでは……」と疑念を抱いてしまった。しかし、新型プリウスが舞台袖から登場した時、その大袈裟な前振りは嘘ではなかったのだと驚いた。
低く構えた流れるようなプロポーション。Aピラーはスポーツカーかと見紛うほど寝かせてあり、タイヤも19インチに拡大されただけでなく、タイヤハウスとのクリアランスも極端に狭い。
鋭いコの字型のヘッドライトを筆頭に、洗練されたフロントフェイスはこれまでとは“別人”。思わず「かっこいい」と呟いてしまった。
ここまでデザインに振ったプリウスを作るには、相当な苦労があったに違いない。その秘訣をデザイン担当者に伺った。
興奮気味に「デザイン、だいぶ変わりましたね!」と聞く筆者に、担当者は「実は大胆に変えたつもりはないんです」と笑顔だった。
新型プリウスの流麗なデザインは、その原点であるワンフォルムの滑らかなシルエットを洗練させた結果だという。新型プリウスは、走りの面でも進化しているので、低重心でスタンスが良く、スポーティな走りを想起させるようなプロポーションを作り込んだそうだ。
実は、このデザインを実現することができたのは、これまでの“トヨタ式のものづくり”を崩したところにある。
「これまでは、『各部署がそれぞれのタスクをきちんと達成する』ということを堅実に守ってきました。良いクルマを作るためには、もちろんそれは重要なことです。
しかし、目標の数値をきっちり決めたり、それらの達成を必須にしてしまうと、クルマの形はがんじがらめになり、デザインは魅力的なものになりにくいということを、社内で理解してもらいました。
最初のデザインスケッチを描いた時、エンジニアや生産部門の人たちに見せたところ、誰も否定する人がおらず、『これを作りたい!』と言ってくれたんです。そこから、目標設定が、数値ではなく『このデザインを作り上げる』に変わった。
そのおかげで、プラットフォームやパッケージからクルマを作り込めたことが大きいと思います」
■各部署が目指した「大きな目標」
全高が低くシャープなデザインとなったが、後席の空間は若干狭くなった。意外なことにCd値も先代より悪化しているという
新型プリウスは、そのおかげもあって、骨格からクルマづくりがスタートした。担当者は「骨格がかっこよければ、デザイナーは苦労しない」と言っていたが、前述したように、まるでスポーツカーのような綺麗な出立ちとなっている。
しかし、各部署のタスクを抑えてまでプロポーションを作り込んだこともあって、以前よりスポイルされている部分は見受けられた。
全高が低められピラーが極端に寝ているため、後席の空間はやや狭くなった。そして、実はCd値も先代より悪くなっているという。
先代は複雑なキャラクターラインこそ入っているものの、面自体はフラットだった。先代のように、ルーフラインのピークを前方に持ってきて、そこから後方に空気を流した方がCd値は良くなるそうだ。
しかし、クルマを作る上で大切なのは、Cd値を向上することではなく、燃費を良くすること。トヨタの技術をもってすれば、Cd値で失った燃費は、他の方法で補うことができる。まだ詳しい燃費は発表されていないが、その言葉からは自信が感じられた。
「以前は、それぞれ担当のタスクを達成することが目標になってしまい、それを守ろう守ろうとして、部門同士で譲ることができない言い合いも起きていました。それを、新型プリウスでは、全員で目指すものを明確にすることで、デザイン含めて達成できたものがたくさんあったと思います。
各部署の目標ではなく、全体の目標を達成するという意識をしっかり持てクルマづくりをできたことが、今回の愛されるプリウスの誕生に繋がったと思います」
全体の目標を見据えてモノづくりをするのは、当たり前のことのようにも感じるが、トヨタという大会社となれば、部署も大きく、各部門同士のコミュニケーションも複雑なのだろうと推察する。自分の部署での仕事に必死になり、クルマの全体像を捉えきれないまま開発をしていた部分もあるのではないだろうか。
新型プリウスは、「愛されるクルマを作る」ということを念頭において、一丸となって開発に取り組んだ。それが、これまでとは一線を画したデザインを生んだのだ。新型プリウスは、トヨタが自らの殻を破ったからこそ、完成したモデルと言っても過言ではない。
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あとは値段でしょうね。