様々な分野で人材不足と言われるモータースポーツ業界。その理由のひとつとして考えられるのが、「業界で働く姿をイメージしにくい」ということ。レースが好きでレースに関わる仕事に就きたいと思っていても、情報が豊富ではないことから、職業選択のための業界研究がしにくい傾向にある。
したがって、モータースポーツ業界に関する“解像度”が高まればとの思いで、業界内の様々な業種の人たちにフォーカスを当ててインタビューを行なってきたが、今回話を聞いたのはトムスでエンジニアを務める海宝教史氏だ。
■チーム運営の原動力は、“競争”の美しさとファン目線での“ワクワク”。TGM Grand Prix池田代表の思いを探る|モタスポ就職白書
海宝エンジニアは2023年に新卒でトムスに入ったばかりの新米エンジニア。インタビューの前後にも、取材される姿をチームの面々にイジられるなど、愛されキャラの雰囲気が漂っているが、その一方で早くもチーム内の重責を担っている。
そんな海宝エンジニアに、どうやって業界に入ったのか? そして実際に業界で仕事を始めてどんなことを感じているのか……語ってもらった。
■“最後のひと押し”がレース業界への扉開く
レースエンジニアは、レースの肝であるマシンセットアップや戦略面を司るため、非常に重要な仕事である。ただ花形であるドライバーとは違い、スポットの当たりにくい職種とも言える。
国内外様々なレースが好きだったことから、モータースポーツ関係の仕事をしたいという思いは以前からあったという海宝エンジニアだが、なぜエンジニアを志し、どのような経緯でトムスに入社したのだろうか?
「最初は漠然とレースに関係する仕事をしたいと思っていましたが、F1のなど映像を見た時に、エンジニアの人たちがかっこいいなと思っていました。もっと小さい頃はレーサーになりたいなんて思っていたんですけどね」
「大学では物理学、工学系の勉強をしていたということもあったので、レースに関係する仕事をするなら、メカニックというよりはエンジニアの方をやりたいなと思いました」
「最初にトムスの求人を見に行った時は何も載っていなくて。正直、(募集が)ないなら諦めるしかないかなと思っていたのですが、大学の就職支援をしているところに、最後のひと押しとして、『自分はこういうことがしたいのですが何か情報ありますか』と相談したんです」
「そうすると、『実は大々的には募集していなかったけど、希望する人がいれば』ということでトムスから連絡があったと聞かされました。それですぐ電話をかけて……という流れです」
■“準備”と“冷静さ”が大事
諦めかけた瞬間の“最後のひと押し”が夢に繋がった海宝エンジニアだが、なんと入社2年目の2024年シーズンはスーパーGT・GT500クラスのTGR TEAM au TOM'Sでデータエンジニアを務めた。チームにはチーフエンジニアの吉武聡エンジニアがおり、その下で2名のエンジニアが支えているが、海宝エンジニアはその内のひとり。その役職名の通りデータとにらめっこしながら、吉武エンジニアにセットアップに関する有用なデータの提示をしたり、決勝中の燃費計算などを行なっているという。
「今は色々やらせてもらえていて、そこからどんどん吸収していくように、という形を作ってもらっています。自分なりに調べたり、準備をして、不安なことがあれば先輩たちに聞いてという感じで、実戦の中で少しずつ勉強しています」
「チームにはすごくやりやすい環境を作ってもらえています。メカニックさんや他のエンジニアの方と話をしている中で、 僕のことを信頼してくれていると思うところもあり、お互いそういった信頼関係があることでより一層頑張れていますし、逆に僕が足らないところは積極的に教えてくださるので、そこは絶対次に活かすという気持ちでやっています」
そう語った海宝エンジニア。au TOM'Sの36号車は2023年、2024年とGT500を連覇……そんな当代最強のチームで、彼は入社2年目ながら吉武エンジニアの右腕として働いているのだ。
実際の業務を通して若手を育てるOJTが重要とはいっても、国内トップカテゴリーのチャンピオンチームで働くのは責任重大だろう。そんな大役が務まっているのも、海宝エンジニアの真面目な人柄があってこそか。
「やはりそれなりにプレッシャーもありますが、不安な要素を取り除くためにも、自分なりに色々準備をして臨んでいるつもりです」
「クルマ(のセットアップ)を作っていく上では車両運動学が大事な要素だと思うので、本を読んだり調べたり、学問的な部分から勉強しています。そして、その学んだことが実際に教科書通りなのかを照らし合わせたりと、リアルでの経験と重ねていっています」
データエンジニアとしては、車高設定など吉武エンジニアが重要視している分野のデータを正確に伝えることを大切にしていると語る海宝エンジニア。その他、エンジニアとして必要な資質について問うと、こう答えた。
「やはり現場だと時間に制約がありますし、すごくシビアなところでやっているので、正確さが求められます。ちゃんと準備をして、冷静にその場で対応できることが大事だと思います」
「あとは色んな角度から物事を考えられるところです。ひとつのことに縛られてしまうと、違うところを見落としてしまうこともあると思うので、幅広く物事を考えるのは大事だと思います」
海宝エンジニアとしても、マイペースすぎることなく、良い意味で落ち着いてやれるところは自分の中でも少し強みになっている」と自己分析しているとのこと。一瞬の判断が求められる業種で、若手ながらアタフタすることなく仕事を進められることには頭が下がるが、それもやはり積み重ねてきた準備がものを言っているのだろう。
「(セットアップ変更など)自分から何かを提示することに関してはまだ経験が浅いので、緊張というか『合っているのかな』と思う気持ちも当然あるのですが、自分が一生懸命考えた結果なので、それをちゃんと伝えることは自信を持ってやっています」
■レースエンジニアは友人・知人に「説明しづらい」
最後にエンジニアとしての将来的なビジョンを尋ねると、「今やっていることをどんどん積み重ねて、スキルをつけて、もっと一人前のエンジニアになれるように頑張りたい」と述べた海宝エンジニアだが、さらにこう続けた。
「僕も就職して、色んな人に『どんな仕事してるの』と聞かれるのですが、どうしても説明が……(難しい)。要はレースが知られてなさすぎて、レースがどんなものなのかを説明しないといけませんし、ましてはエンジニアがどういうことをしているかの説明も難しいです。やはり(ドライバー以外のチームスタッフだと)メカニックさんのタイヤ交換の印象の方が強かったりしますし」
「ですから、業界として一般の人の認知が広まっていけば僕自身もっとレースを楽しめるかなと思っているので、そういう風になればいいなと思っています」
業界で働く人間のひとりとして、これは大いに頷けた。モータースポーツに関して友人や知人に聞かれた時、確かに説明が難しい。“F1”という単語自体はなんとか通じるが、今自分が関わっているスーパーGTやスーパーフォーミュラがF1とどう違っているのか、そもそもどこまで説明すべきか言葉に窮する時もある。
ただ、最近は地上波TVやABEMAといった無料のプラットフォームで国内のモータースポーツが取り上げられる機会もまた増えつつある。海宝エンジニアも、こういった新たなファン層に働きかける流れがより一層顕著になることを願っている。
「今フジテレビで夜にやっている国内モータースポーツの特集(MONDAY MOTOR SPORT)や、以前夜中にやっていたスーパーGTの番組(SUPER GT+)みたいなものでレース自体をもっと知ってもらえれば、業界に入りたい人も増えると思います」
「またこれは僕の勝手な印象ですが、ここ1、2年くらいでSNSでの求人案内も多く見るようになった気がしていて、知ってもらえるきっかけは増えている方向かなと思っています。そうやって多くの人の目に留まる機会が増えればいいですね」
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